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二百五十四話 幻獣の国・五匹目の幹部

 ──"トランシャン・コルヌ"、幹部の住む草原。


 この街の幹部──ユニコーンと出会ったライ、リヤンと案内を兼ねて着いて来たニュンフェ。この森は中央がひらけており、そこに一本の樹がある。

 そしてそこをやしろとしているのがこの街の幹部であるユニコーンだ。

 ユニコーンはライたちの前に来ており、凛とした面持ちでライ、リヤン、ニュンフェを見つめる。その鼻息がライの髪に掛かり、ライの髪の毛がフワリと揺れた。


「幻獣の国、幹部のユニコーンか……成る程な。リヤンが平気ってのは純粋だから……ユニコーンは純粋な女性が好きらしいからな……」


 そんなユニコーンを見上げ、軽く笑って話すライ。

 そう、ユニコーンは古来よりけがれなき純潔な女性が好きと謂われている。

 なのでニュンフェはリヤンを誘ったのだろう。リヤンは十数年、リヤン一人と幻獣・魔物たちと共に森へ住んでいたから純粋と言う事に変わりはないだろう。


『ニュンフェさん、また貴女は余計な事を……しかしまあ、あながち間違っていませんからね。私が純潔の乙女を好いているという事はその通りなのですから。……生き物は大人になるにつれて大抵が醜く、穢らわしくなってしまいます。そんな穢れを知らぬ純粋な生き物こそ、私の唯一心を許せる存在なのです』


 どうやらユニコーンは人間・魔族の大人という者を心底嫌っているようだった。しかし、それも仕方無い事なのかもしれない。

 何故ならユニコーンはかつて万病に効くとされた種族の角を求められ、数多くの仲間が命を『落された』からだ。

 時には罠に掛けられ、時には遠方から弓矢や銃で撃ち抜かれ、時には唯一心を許せる存在である純潔の乙女を利用されて捕らえられた。

 今は支配者制度が行われ、国が四つに別れたのでそのような事も少なくなったが、そらでも尚、他国から狩人ハンターなどが莫大な資金を得る為にユニコーンの命を奪う行為は未だに行われている。ユニコーンが純潔の者以外を嫌う理由は、その命が奪われる可能性を秘めているからだ。


「「……」」


「あーあ……」


 ユニコーンの言葉を聞き、ライとリヤンにの間には重苦しい空気が流れる。それを見て苦笑を浮かべて何も言葉が出ないニュンフェ。

 多くの仲間を自分たちが持っていた角の為に殺されたユニコーンの苦悩は計り知れないモノがあった。世間では万能薬になり、ありとあらゆる怪我や病気を治療する事の出来る角。一時期の大量乱獲に比べれば徐々に増えつつある仲間だが、それでも万能薬を求められて命を失う仲間も多い現在。人間・魔族を警戒するのも頷ける理由だ。


『しかし、どうやらアナタ方は純粋にして純潔。穢れなき、美しい心の少年少女と言う事がうかがえますね。ですから私は話し合いに応じたのです』


「ハハ、そいつは有難い限りだね……ユニコーンさん?」


 続け様にライ、リヤンへ向けて二人の心と身体に穢れは無く、美しいモノを持っているので話し合いに応じて上げたと告げるユニコーン。

 事実ライたちの目標を除けばライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンは純粋である。ヴァンパイアのエマは長生きが故に世界の闇を知ってしまっているが、肉体的に純潔という意味ならばそうなのだろう。何はともあれ、ライとリヤンがこの街に来た事でそれなりに話し合いが進めると言う事である。


『では、早速話してください。恐らく現在行われている戦争の事についてでしょう……今の時刻は夜。後数時間もすれば就寝の時刻となります故……』


 そしてユニコーンは、ライたちに話を促した。時刻はまだ日が沈んでから数時間しか経過しておらず、寝るには少々早いかもしれない。しかし、自然と共に暮らすユニコーンは日が沈むと同時に就寝し、日が昇ると同時に起床する生活である。なのでユニコーンは、そろそろ就寝時刻と言う事なのだ。


「じゃあ、単刀直入に言うぞ? 俺たちと協力して敵を打ち破ってくれ」


『随分とまあ、軽いお話ですね……しかし、その内容は重い……やはり戦争についてでしたか……単刀直入では無くて結構、詳しく話してください』


 単刀直入にライが告げ、それを聞いたユニコーンが眉を顰めて返す。

 ユニコーンも戦争の事は勿論分かっている事だ。自分の国が攻められている現在、戦争中と知らない者の方が多いだろう。

 そんなユニコーンの様子を見、ライは頷いて言葉を続ける。


「アナタの言うように今、この国は戦争を行っている。そして俺たちは支配者であるドラゴンのめいにより、幻獣の国に棲む全ての幹部を招集しているんだ。俺たちは幻獣の国とあまり関わりが無いけど、今回この国へ攻めて来ている敵と関わりがあるから協力している。……で、敵組織に対抗すべく、此方も最高戦力を整えている途中って事だ。現在……って言っても、もう夜だしほとんど完了したかもしれないけど、俺の仲間たちも幻獣の国(この国)の支配者の側近と共に幹部の街に向かっている。……恐らくだけど、交渉が終わっていない場所は此処を含めて一つ、二つ程度だとは思うな。俺の仲間たちは交渉が上手いと思うし」


 ライが言った言葉、それは今ライたちが行っている事についてだ。

 ライたちは今、四つのチームに分けて行動している。そのチームに支配者の側近を含め、ライの仲間たちが幹部の街へ向かっていると言う事を告げたのだ。


『成る程。貴方は仲間を信頼している様子ですね……それは良い事です。そしてやはり、私もその戦いへ参加するようにと……』


 ライの言葉を聞いたユニコーンは復唱するように呟き、ライたちが此処の街へ来た理由を理解する。幹部たちを招集している事に薄々気付いてはいたのだが、疑惑が確信に変わったと言う意味では今気付いたと言う事になるのだ。


「ああ、その通りさ。是非とも力を貸して欲しいんだ……。まあ、都合とかもあるだろうから無理()いはしないけどな。その時は都合が悪かったって支配者に言っておくよ」


 そんなユニコーンに向け、勧誘するかのように話すライ。勧誘と言う表現にはあながち間違ってはいないが、ユニコーンは元々幻獣の国側の存在。

 それを踏まえた結果、厳密に言えば勧誘とは違うのかもしれない。


『協力ですか……私は別に問題ありません……けれど、心配事も幾つかございます。……例えばこの街の住民の安否。そして己の街を一時的とは言え離れる事……。まあ、一時的にこの街を離れるとして、私が帰って来た時、この街が無くなってなければ良いのですけど……一番の問題点は戦争ならば、私の肉体を持ってして多くの命を奪わなければならない事が気に掛かりますね……敵にも家族は居る筈……。親しい者を失う辛さは私が一番分かっています。それが例え敵だとしても……敵にとっての敵は私たちですし……』


 そんな勧誘に近い誘いに対し、ユニコーンは住民についての事と、この街を離れる事、そして戦いによって多くの命を奪う事が気に掛かっている様子だった。

 ユニコーン自身、仲間の命が多く奪われた事を気にしている。当然だろう。一時期はユニコーンが絶滅するとも言われていたのだから。だからこそ、その命の重さを理解しているのだ。

 ユニコーンは限りのある生を奪うという行為に対して気が引けているのだ。


「いや、多分敵兵士を仕留める事の出来る者は限られているよ。ユニコーン、多分アナタでは敵の兵士を殺す事は無い……出来ないと思う」


『……?』


 そんなユニコーンに向けて話すライは、ユニコーンでは敵の兵士を殺す事は出来ないと告げた。

 それを聞いたユニコーンは首を傾げ、ライに向けて言葉を続ける。


『出来ない……。つまりどういう事ですか? その言葉が意味する事は大きく分けて二つ、敵が強過ぎるのか死なない身体を持っているのかですよね……?』


「ああ、前者も何人か居るけど……大まかな点は後者だな。敵の兵士は不死身なんだ」


 ユニコーンが尋ね、ライがそれに返す。殺せないという事はつまりそういう事なのだ。敵が自分の力を遥かに凌駕していた場合、その力にも寄るが正面対決で勝てる事は無いだろう。

 そして後者は、物理的に殺す事が不可能のなっている。このように、一概に"殺す"という事。それが不可能な者が居るとしても種類は様々なのだ。


『不死身……!? ……そんな軍隊が……いえ、もしやそれは……世界的に禁止とされている……!?』


「ああ、生物を元として作られた凶器……生物兵器だ」


『……っ! まさか……本当に生物兵器なんて実験を行っている者がこの世界に……!』


 不死身という言葉から連想し、生物兵器へと辿り着くユニコーン。普通の人間・魔族と不死身の人間・魔族は総称こそ人間・魔族だが身体の構造は通常種と大きく異なる。

 その再生力は当然として、再生が速いという事は成長も早いと言う事。生き物の身体というモノには、これまでに受けたダメージに対して長い期間掛け耐性を上げてゆくモノもある。

 それが不死身の生物兵器の場合、一度殺されれば即座に再生し、通常よりも圧倒的な速度で耐性を上げるのだ。しかし、元の素材が一般人や一般兵という生物兵器は、完成すれば強力な軍隊となるが相応の欠点デメリットも存在する。



 ──それは成功率の低さである。



 ヴァイス達の連れる生物兵器は数万人を超す。つまり、軽くその十倍以上は実験に失敗しているという事だ。

 多くの命を引き換えに生み出される生物兵器。その兵士を生み出すため命を軽く扱う実験が行われる。だから、だからこそ、生物兵器の実験は世界的に禁止されているのだ。


『侵略者にとって……命とはそれ程までに軽いモノなのですか……!!』


 生物兵器という事が確信に変わり、ユニコーンはその怒りをあらわにする。命の重さを知っているユニコーンだからこそ、それを軽く扱う侵略者が許せないのだろう。


「その兵士達は……既に感情を失っている……多分だけど、感情を持った生物兵器を作るには数百万人の命を引き換えにする必要があるんだろう……だからソイツらは、その都合の良さからも感情を奪い命令に従って戦い続ける兵士を生み出したんだと思う。国を制圧するには大量の兵士で攻め行くのが一番手っ取り早いだろうからな」


 最後に苦々しく言い、小さく拳を握るライ。ライもユニコーンと同様、命を軽く扱うヴァイス達が許せないのだ。


「それと、住民の件なら問題ないよ。支配者の街に幹部の街を含め、幻獣の国全域の住民を避難させるみたいだから……」


 そして残りの疑問にも返すライ。ユニコーンの疑問は住民の安否と敵の命を奪いたくないとの事。街を離れると言う事も先程は言っていたが、その事については街が無事ならば良いと言っていた。

 敵兵士は殺す事が出来ない存在と知り、街の方もあまり深く関係していないのならば、残るは住民の安否問題だけだろう。

 なのでライはその問題ならば問題ないと告げたのだ。


『成る程。確か支配者……ドラゴン様のやしろは世界樹の欠片から造られている……今では国程の大きさもあるようですし……"トランシャン・コルヌ"の住民も全員が収まるでしょう……』


 その言葉を聞き、安堵するように話すユニコーン。命を軽視する事へ対して向けられた先程の怒りが収まったという訳では無いようだが、一先ず住民が無事と言う事を聞いて多少の感情は収まったようだ。


「さて、ユニコーン。答えを聞かせてくれないか? 支配者たちに協力してこの戦争を終わらせるか、戦争には参加せず、己の街を護るか……。どちらも大事な事……幹部という立ち位置なら街を護るって事の方が大事かもな……。……まあそれはさておき、どうするのか答えてくれ」


『……』


 そして言葉を続けるように話すライは、ユニコーンへ最終確認を促した。どちらも幻獣の国に置いて重要な事。悪魔で戦争は幻獣の国を護る手段に過ぎない。

 その手段によって命運は別れているが、幹部たちの意思を尊重とするつもりでいる。

 そんな幹部であるユニコーンが導きだした答えは──


『……分かりました、協力致しましょう』


 ──協力してくれると言った。


『けれど、悪魔でそれは住民たち全員が支配者様の街へ行ってくれると言った場合のみです。突然このような話をされ、恐らく住民たちは混乱するでしょう。なので明日あす、住民を此処のやしろへ集めて本当の答えをお待ち下さい』


 しかし、それは悪魔で住民が納得した場合にのみ適応される事だと告げる。

 野生に近い形で生きているからこそ、受け入れにくい事も多々ある幻獣たち。本当の答えは明日にこの場で教えてくれるらしい。


「ああ、分かった。……じゃあ、俺たちはこの辺で……えーと……この街って宿とかある?」


 そんなユニコーンに対して頷くライ。

 だが、今日はもう日が暮れている。なのでユニコーンに宿か何か無いかを尋ねた。明日に答えを言われるのならこの街に居た方が良い。この街に居ると言う事は風雨を凌げる建物が必要という事だ。


『ふふ、宿なら私のやしろを御使いください。一本の木ですが、中は大樹の建物と似たような雰囲気です。ライさんにリヤンさん。ニュンフェと……人化した私の四人ならば広く過ごせるでしょう」


「……え、良いのか? ありがとう、ユニコーン」


 そんなライに笑って返すユニコーン。

 ライとリヤンは純粋な子供。ニュンフェは子供では無いが、幹部仲間という事で親しい中にある。

 ユニコーンも人化出来るらしく、話ながらその姿を変えてゆく。それは腰まで届く白紫の長髪と、黒く大きい瞳。一本角をイメージしているのか、額の真ん中付近にある髪は一本癖毛として生えていた。清潔そうな白の衣服を纏い、大人の女性へと変化するユニコーン。

 こうして"トランシャン・コルヌ"での話し合いは一時保留という形で終わりを告げた。

 そしてライ、リヤン、ニュンフェと人化して美しい女性となったユニコーンはやしろの中へ入り、一晩を共に過ごす事となった。

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