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二百四十六話 幻獣の国・四匹目の幹部

 ──"ラルジュ・ルヴトー"。


 支配者の街から東に進む事で辿り着く街"ラルジュ・ルヴトー"。

 ライ、リヤン、ニュンフェ、沙悟浄と支配者の部下兵士二、三〇匹は"ラルジュ・ルヴトー"の門を抜け、ひらけた場所に出た。入った瞬間目に映ったモノは噴水のような物であり、そこから溢れるように水が噴出していた。


「噴水? 此処って幻獣の国だよな……何で人間・魔族が造った噴水が……? 人間・魔族の誰かが来た事でもあるのか?」


 その噴水を見たライはその噴水が気に掛かる。

 そう、噴水という物は幻獣の国に置いて珍しい人工物なのだ。何故人工的な噴水があるのか定かでは無いが、鳥類の幻獣やあらゆる幻獣がその水を飲みに来ており、そこは幻獣たちにとっていこいの場所のようだった。


「まあ、幹部の街なら支配者やその側近……人間・魔族の幹部は来てもおかしくないな……」


 ライの予想は支配者か誰かがこの街へやって来、この噴水を建てたという事。一般人が立ち寄る事も出来そうだが、一般人が言葉を掛けたくらいで噴水は建たないだろう。なのでそれらの国から人間・魔族の上層部の者が来て噴水を建てたと推測したのだ。


『ん? ああ、その噴水か……確かに違和感があるな……私が幻獣の国(この国)に来たのは最近だから分からないが……自然体の者が多い幻獣の国(この国)では少しおかしい……』


 ライの言葉を聞き、噴水の方に視線を向けた沙悟浄は頷くように返した。

 沙悟浄自身、幻獣の国にて支配者の側近を勤め始めたのは最近。つまり幻獣の国についてはまだまだ知らない事ばかりなのである。なので"ラルジュ・ルヴトー"にて何故噴水があるのかも分からなかった。


「ああ、この噴水は昔この街に来た人が簡単に水を補給出来るのと風景を良くする事を兼ねて建てたんだ。今ではもうすっかり馴染んじゃってね。噴水の無い"ラルジュ・ルヴトー"なんか考えられないさ」


「「……?」」

「『……?』」


 その時、何時の間にか現れた何者かがライたちの後ろにおり、この噴水について話した。ライ、リヤン、ニュンフェ、沙悟浄の四人は振り向き、その者へ視線を向ける。


「アンタは……? 突然話し掛けて来たけど……誰だ?」


「おっと、悪いな。確かに外から来た人に突然話し掛けるのは失礼だった。謝罪を申そう」


 ライは訝しげな表情でその者に尋ね、その者は飄々とした態度で返す。しかしその態度は変わり、急に引き締めて話す者。

 その態度の違い、態度の寒暖差に気圧けおされそうだが、ライは特に何も言わない。態度を改めたその者はライに向けて笑いながら口を開く。


「俺の名前は『リルフェン』。通りすがりの住民さ」


 その者、リルフェン。リルフェンはライたちに向けてこの街"ラルジュ・ルヴトー"に住んでいる住民と答えた。

 それにしては人間・魔族と姿や形が似ているが、人化出来る者も居たり容姿その物が人間・魔族に近い者も居るので特に気にする事でも無いだろう。

 事実、ライたちと共にこの街へ来たニュンフェはエルフ族であり耳の大きさ以外人間・魔族との違いは無い。幻獣と一括りにされているが、その容姿は様々なのだ。


「へえ……リルフェンねぇ……。じゃ、何でそのリルフェンさんは俺たちに話し掛けて来たんだ? 別に良いけど……何か違和感があるんだよなぁ……」


 自己紹介を終えたリルフェン。

 しかしライはそんなリルフェンに何かしらの違和感を覚え、依然として警戒を高める。見た感じ理性があり、悪い者では無さそうだが、敵の組織であるヴァイスやハリーフも一見は害の無さそうな見た目をしている。

 そして戦いの時以外での言動は普通。だが、それにしても敵側に居る者という事は変わり無い。

 何を述べたいのかと言うと、見た目や言動が普通でも何かを企んでいる者は大勢居るという事。敵か味方か分からないリルフェンに対して警戒するのは、それが理由なのである。


「ハハ、違和感? 違和感なら支配者の側近様であらせられる沙悟浄様と幻獣の国(この国)の幹部を連れている貴方の方が気になるな。俺はただの気紛れで貴方達に話した。次は俺の番。貴方達、一体何の用で"ラルジュ・ルヴトー"に来たんだ?」


 リルフェンを警戒するライに対し、支配者の側近と幹部を連れているライの方が怪しいと告げるリルフェン。

 それもその筈。支配者の側近に幻獣の国の幹部。これらはいずれにしても幻獣の国に置いて最高戦力の一角。そのような戦力が見た事の無い若者に協力しているのだ。疑問に思うのも頷ける。


「ああそれは、この街の幹部に用事があるんだ。多分アンタも知っていると思うけど、今この国は侵略者に攻め込められて戦争中。相手の兵士の性質から幻獣の国側の戦力も足りない状態……だから幹部に用があるんだ。……まあ、アンタは兵士でも無さそうだから幻獣の国の住民が知っている事しか言わないで置くよ。繰り返すけど要するに、用事があるのはこの街の幹部だ」


 その疑問に返すライ。

 しかし皆まで言わず、住民にも伝わっているであろう戦況のみを伝えた。側近と幹部を連れているのもこの街の幹部に用事があるからであり、ライは自分とリヤンの事は何も言わなかった。そして勿論、住民も含め支配者の大樹に移り棲む事になる事は伝えない。それを伝えてしまった場合、この街はパニックに陥り幹部の元に行くよりも前に面倒な事になるからだ。


「ふうん? ……じゃ、俺が案内してやろうか? 幹部さんの居る大樹に。この街の事は熟知している。案内するだけなら問題無いだろ? エルフさんや沙悟浄さんと話してみたいし」


「え? うーん……まあ、良いか……?」


 ライが返し終えると同時に、リルフェンは一つの事を提案した。それは自分がライたちを案内してやろうと言う事。

 ライは一瞬戸惑ったが、リルフェンは悪い者では無いと分かったので承諾する。そしてリヤン、ニュンフェ、沙悟浄の方を一瞥し、視線で三人に尋ねた。


「え……? うん……良いと思うよ……」

「ふふ、そうですね。良いと思います」

「ハッハッハ、ああ、コイツは悪い奴じゃ無い……いや、無さそうだからな」


「……? じゃあ、頼んだリルフェン」


 三人もライの意見に同意し、それで良いと言う。

 そんな中、ニュンフェと沙悟浄の反応に違和感を覚えるライ。しかし一々反応していてもキリが無いので、特に言わずリルフェンへ向けて手を差し出した。


「……ん? ああ、人間・魔族は互いの手を握って協力するのか


「……?」


「ああいや、此方こちらこそ喜んで」


 リルフェンは差し出された手の意図を一瞬理解出来なかったが、即座に理解してライの手を握った。

 そしてライ、リヤン、ニュンフェ、沙悟浄、リルフェンと支配者の部下兵士たち二、三〇匹は幹部の居るという大樹に向かうのだった。



*****



 ──"ラルジュ・ルヴトー"。


 ライたち四人、一人増えて五人と部下兵士たち二、三〇匹は"ラルジュ・ルヴトー"の街中を歩いていた。そこには噴水のみならず、他にも人工的な建物や物が多くあった。

 ライの住んでいた街や魔族の国でよく見た煉瓦レンガ造りの建物や、夜になったら明かりが点くであろう街灯。街中には川が流れており、石造りの橋が架かっていた。それどころか、道中その物が石畳の道である。建物や道、街の景観その物。それら全てが人間・魔族の国での造りと全く一緒なのだ。

 それはさながら人間・魔族の国を幻獣たちが闊歩しているかのような、そんな雰囲気をかもし出していた。


「この街……とは言ってもニュンフェの街ドラゴンの街に続く幻獣の国に置いて三つ目の街だけど……何でこんなに人工物が多いんだ? エルフやドワーフ、半人半獣の幻獣のように人間・魔族に近い生物って訳でも無さそうだけど……」


 そんな景色を見ていたライは、リルフェンに向けて首を傾げながら尋ねる。

 この街は幻獣の国で通った三つ目の街だが、数多くある人工物のような建物が気に掛かったのだ。確かに幻獣は知能の高い者が多いのだが、文明を築ける程の者はそうそういない。

 それこそエルフなどのような、一つの種族で全体的に能力が高かったりしない限り不可能のようなモノ。

 この街の幻獣たちは四足歩行の獣だったり、翼のある鳥だったりと幻獣の中ではよく居る種類。それでも普通の動物より能力は高いだろうが、それだけだ。

 つまり例え建物を造ったとしても慣れない場所には警戒し、最悪全てを壊してしまう幻獣が現れるかもしれないという事。

 そのような場所にある、慣れ親しんだような人工物に疑問を覚えたのだ。


「ああ、それは昔俺の前に……いや、聞いた話では十数年前に人間か魔族か覚束おぼつかない者がやって来てな。噴水や人間・魔族の国のような建物の造り方を伝えてこの街にも取り入れた方が良いって提案したんだ。それでまあ、その事に興味を持った幹部がこの街"ラルジュ・ルヴトー"にその提案を取り入れて今の街が十数年で出来上がったって事だな」


 それは昔、リルフェンの前、では無く、この街"ラルジュ・ルヴトー"に寄った者がおり、この街の幹部に様々な情報を提案したと言う。

 どうやらこの街の幹部は謎の者が提案した事が気に入り、幻獣の国では珍しい噴水や建物などを制作したとの事。

 支配者や幹部、その側近達の助言では無く人間・魔族のどちらとも言えない者が伝えたらしい。


「アンタの前……じゃなくて幹部の前にねぇ……成る程な。それでこの街は景観が人間・魔族の街と似ているのか……物好きなんだな。幹部って」


「人間でも魔族でも無い……人? ……へえ……」


 リルフェンの言葉を聞いたライは納得したように頷いており、リヤンはリルフェンの言った"人間・魔族のどちらとも覚束おぼつかない者"と言う言葉が気に掛かる。

 つまり人間であって人間では無く、魔族であって魔族では無い者という事。それか、人間のような性格と魔族のような性格が混合していたと考えるべきだろう。

 何はともあれ、その者が普通の者では無いという事は話から読み取れた。


「ハハ、まあ、詳しくは後々話すとするさ。さてと……話しているうちに着いたな。此処が幹部の住む建物だ。此処の天辺に幹部が居る筈だ」


「此処か……」


 そのような事を話しており、街の風景を眺めているうちにライたちとリルフェンは一つの大樹。それを元に造られたであろう建物の前に到着する。

 天を突く程の巨大な大樹は煉瓦レンガに囲まれており、街の建物と同じような雰囲気となっていた。

 街の方にあった建物は支配者の街でも見た大樹と煉瓦造りの物の二種類であり、人間・魔族の国と幻獣の国が融合したかのような雰囲気だった。それはこの大樹にも言えている事だ。

 煉瓦レンガの隙間から見える物はまさしく大樹の一部であり、幹部の住んでいる大樹に煉瓦レンガを張り付けて外壁を頑丈にしたという事が窺える。

 二つの建物が合わさったかのような建物、そこが幹部の住んでいる場所らしい。


「……さあ、入ってくれ。幹部は割りと温厚だから勝手に入っても大丈夫だ」


「ん? ああそうだな」

「……うん」


 ライ、リヤンの二人は興味深そうにその大樹の建物を眺めており、そんな二人に向けてリルフェンが入る事を促した。

 暫く見ていたライとリヤンはハッとし、リルフェンに着いて行く。勝手に入っても大丈夫らしいが、リルフェンは随分と慣れている様子だ。

 そしてライたち五人と部下兵士二、三〇匹はその大樹へと入って行く。



*****



 ──"ラルジュ・ルヴトー"、幹部の大樹。


 大樹の内部は木の上を歩いているかのようで、全体的に橙色であった。しかしそこにも幻獣の国らしからぬ物が多々ある。

 それは人を型どった銅像然別(しかり)、人間・魔族のいずれかが描いたであろう絵画があったりと、初見で大樹と気付くには中々時間が掛かるかもしれない程だった。

 それから流れ行く景色を眺め、歩を進めるライたち五人と部下兵士二、三〇匹。絵画などを除けば特に違和感のあるものなどは無く、軽い談笑をしつつ一つの扉に辿り着く。


「へえ……これが……扉……?」

「わぁ……大きい……」

「ふふ、遠近感覚が狂うわね、相変わらず」

『ハッハ、此処の幹部は巨躯だからな。その分出入口の大きさも比例するんだろう』


 その扉を見上げ、ライとリヤンは言葉を発した。それに続くよう、ニュンフェと沙悟浄は軽く笑う。

 そう、ライたちの前に現れた扉は、常軌を逸する程の大きさを秘めていたのだ。数十メートルはあるその扉に気圧けおされるライ、リヤン。

 巨大な物はレヴィアタンやベヒモス、八岐大蛇ヤマタノオロチで見慣れていたと思っていたが、いざ前にするとやはり気になる物なのだ。


「じゃあ、入ってくれ。この大樹の部屋にな……」


 リルフェンはライたちの反応を見た後に扉を開け、幹部の居るという部屋へと入った。


「……?」

「ふふ……」

『ハッハ……』

「……」


 そしてそこに、幹部の姿は無かった。

 "?"を浮かべて小首を傾げるリヤンと、やはりかと呆れたように笑うニュンフェに沙悟浄。ライは幹部が居るであろう正面では無く、別の方向──リルフェンの居る方を向いていた。


「やっぱりアンタがこの街の幹部か……リルフェン? ……いや、リルフェンは恐らく仮の名……本当の名前は知らないけど……間違っちゃいないだろ?」


「……ほう?」


 そしてリルフェンに向け、軽く笑って言い放つライ。

 それを聞いたリルフェンは相槌を打つように言い、薄ら笑いを浮かべる。


「『……』」


 そんなリルフェンに視線で何かを訴えるニュンフェと沙悟浄。

 リルフェンはやれやれと呟き、その身体が変化して行く。


「フフ、その通りだ少年。何処で気付いたのかと尋ねたいが、何度かボロが出そうになったから言うまでも無いだろう。いやはや、中々頭のキレるようだ……』


「いや、別に頭がキレる訳じゃ無いけど……殆ど推測だしな。まあ良いか……で、アンタは?」


 徐々に人間の姿から変わるリルフェン。

 身体中には深く暗い色の毛が生え、鼻や口が高くなり牙が生える。そして耳が頭の上に移動し、四足歩行へと変わり行く。


『幹部の街……"ラルジュ・ルヴトー"の幹部……フェンリルだ……!』


「……!?」

「……フェンリル……成る程。少しもじってリルフェンね……」


 リルフェンもとい──フェンリル。

 幻獣の国"ラルジュ・ルヴトー"にて幹部を勤める者はフェンリルだった。

 リヤンは目を見開いて凝らし、フェンリルを見る。そしてライはリルフェンと言う名の意味を考えていた。

 幻獣の国に置いて、エルフ族であるナトゥーラ・ニュンフェ以外の幹部、フェンリル。

 巨躯の肉体を持つフェンリルを前に、ライ、リヤン、ニュンフェ、沙悟浄の四人と部下兵士たち二、三〇匹は改めて向き直った。

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