二十四話 エマとフォンセの海底探索・目覚め
ライとレイがビル──もとい巨大建造物を探索する中、こちらのエマとフォンセは住宅街らしき場所を調べていた。
そこにある家のような建物を見てエマが言う。
「ふむ。建物の構造や材料は地上のと似たようなの方法と物を使っているようだ。しかし、地上の形とは少々異なる……」
「そのようだな。しかしまあ、長い月日が経過しているにも拘わらず、そんなに風化していない」
壁を触りながらその固さを確かめ、エマの言葉に返すフォンセ。
その壁は数百年以上は経過している筈だが形がしっかりと残っており、このまま地上へ引き揚げればそのまま使えそうだ。
フォンセが触った所はポロポロと小さな欠片が落ちた。
「まあ、家具などが殆ど無くなっているから情報などは見つかりそうにないな」
落ちた欠片を眺めながら言うフォンセ。
その欠片をしゃがんで拾い、色んな方向から確認するように見るエマ。
「ふふ……しかし、残っている物を調べればその時の生活風景などが思い浮かぶだろう。どのように生活し、どのように朽ちたのか……そうすれば何処に何があるのかも自然と分かるさ」
「ふうん?」
エマの言葉にフォンセは相槌を打つ。
フォンセには生活風景など全く浮かばなかったが、エマには何か見えているのだろうか。
「それは長生きしているヴァンパイアだからこそだろ。私はまだ魔族の中でも赤子に等しい。そんな風景は思い浮かばぬな……」
「フッ、そうか……」
よく分からないフォンセのの言葉に対し、エマは軽く笑い立ち上がる。
そして目を光らせ、
「しかし、──『客が来た』という事は分かるだろ?」
「……ああ。勿論だ」
建物の入り口を見てフォンセへ言った。
そこに物音は無く、気配も殆ど無いが、確かに何かが居るという事が窺えた。
「戦闘は任せた。私は十分に戦えん。最低限のサポートはするが、無駄に動けばフォンセの邪魔になり兼ねんからな」
「分かった。……まあ問題ない。それほど危険な幻獣・魔物という感じではないからな」
それだけ言い、フォンセは入り口の方へ手を向け──
「"風"!!」
──刹那、掌から風を放出し、海水を巻き込みながら渦を作り出して風が入り口へ向かう。
海水を巻き込む風は、さながら横方向に伸びる巨大な竜巻を彷彿とさせる。
その竜巻はそのまま真っ直ぐ突き進み、入り口を破壊して正面の建物にぶつかりその衝撃で海底の水に振動が奔った。
「……さて、取り敢えず吹き飛ばしたが……敵? ……はどうだろうか?」
「さあな。……しかし、敵? は逃げたという訳でも無く、倒したという訳でも無い……まあ要するに、まだ仕留めていないという事だ。警戒するに越したことはあるまい」
エマとフォンセは再び警戒を高める。
もし入り口の所に生き物が居たのならば先程の竜巻を受け、無事では済まない筈だろう。
しかし当たった感覚が無かった。なのでフォンセも外したと分かっているのだ。
「……どうする、外に出るか? 私はこの建物に残って建物を少し観察をするつもりだ。今の私ではフォンセの足手まといにしかならないからな」
エマがフォンセの方を見て言い、フォンセはその言葉に真剣な眼差しで返す。
「……私が外に出たとして、この建物に敵? が入ってきたらどうするつもりだ? 今のお前は身体能力が人間並みなんだぞ? 私と共に外に出た方が安全な気もするが……」
フォンセはエマを心配していたのだ。
もし先程のが本当に敵だとしたらエマとフォンセがターゲットだろう。
しかしエマの身体能力は通常よりも遥かに落ちている。
エマが敵と一vs一、もしくは一vs数名になってしまった場合、ちょっとした幻獣・魔物すら倒せない。だからフォンセが心配しているのである。
エマはフォンセの心情を読み解き、笑って返す。
「ふふふ、案ずるでない。フォンセ。力こそは無いが、この場所には私を殺す弱点も無い。つまり不老不死性能は残るという事だ。そして敵が生き物ならば血を吸える。それなら力も少しは出るだろう」
つまり、ヴァンパイアとしての力。その中でも最も有名で、相手からすれば最も厄介な能力──"不老不死"と"吸血能力"は使えるという事だ。
なので、エマ自身の身体能力が低下しようと、十字架や日光、そしてその他の弱点が無ければ、当たり前だが、エマが死ぬということは"絶対"に無いのだ。
エマの言葉を聞き、そうか。と小さく頷いてフォンセはエマの分の球体を創り出し、外に飛び出した。
「……『外の奴は』任せたぞ」
ボソリと、フォンセには聞こえない声で呟くように言うエマ。
そしてエマ振り向き、"それ"に話し掛けるのだった。
*****
「……これは?」
ライとレイは建物の探索を続けており、ライが建物にある最後の部屋で風化し、ボロボロになっている紙のような物を見つけた。
「おーい、レイ。何かあったぞー」
取り敢えずレイを呼び、それについて話そうと考える。
レイはというと、この部屋にある別の場所を探索している最中だ。
この部屋は他の部屋より広い為、二手に別れて探索をしていたのだ。
「ん? ……何、コレ?」
その声を聞いて駆け寄るレイに向け、ライは手に持つ紙のような物を見せる。
「ほら、大分ボロボロでちょっとした衝撃でバラバラになりそうだけど、……恐らく紙みたいだ。……けど、これを見る限りとてつもなく長い年月が経過しているだろうな。何で形が残っているのか不思議なくらいだ」
「へえ……? そんな物が此処にあったんだ……」
レイはライから紙のような物を受け取り、それを色んな角度からそれを眺める。何かは分からないが、初めて発見したものなので興味深いのである。そして様子を見、ライが言う。
「ほら、見てみろよ。ここにうっすらと字みたいなのが書かれているだろ?」
ライは紙を指差し、レイに見るよう促した。レイはライの指につられてそこを見る。
「……本当だ。でも、何が書いているのか分からない……」
レイは紙を見つつ自分の意見を言う。その紙には何かが書かれていた。しかし、それは風化しているので読めないのだ。
ライは頷きながらレイに返す。
「問題はそこなんだよなあ。これが何を記したのか分かれば良いんだけど……それが出来ない……重要な情報なのか、ただの悪戯書きなのか……」
うーむ。と、悩んでいるライ。
確かに何かしらの情報がある可能性は高いが、それを読めない事へのもどかしさが表れているのだ。そんなライはふと思い付いたように魔王(元)へ尋ねる。
(……なあ魔王? 物を再生させる魔法・魔術とかないか?)
そう、かつて全能と謳われた魔王ならば、この紙のような物を再生させる事が出来るかも知れないとライは考えたのだ。
その質問に魔王(元)は応える。
【あー。俺は出来るが、お前が出来るかは分からねえぞ? 四大エレメントの中で火と水しか使えねえし……他の属性が操れるかはどうだろうな?】
魔王(元)は使えるらしいが、その魔王(元)を宿しているライが使えない可能性が高いという。
確かにライは、魔法・魔術の中で最も一般的に使われる四大エレメントの二つを使える。それだけでも十分にスゴい事だろう。
しかし、物を再生させる魔法・魔術。即ち"傷を治す・直すモノ"というのは──"魔法使い"・"魔術師"・"魔導師"・"賢者"etc.。ですら使える者が限られている技なのだ。
魔法・魔術に最近出会ったばかりのライがそれを使うには膨大な魔力を消費するだろう。
下手したら死に至る事もあり、そもそも使う事は出来ないと考えた方が現実的だ。
フォンセならば使える可能性が高いが、生憎ここには居合わせていない。
「うーん。そうかあ……」
ライは自身の能力の低さに落胆する。
魔王の力を使えるというのに、それを完全に使えないのならば世界征服など夢のまた夢だ。
その様子を見たレイが訝しげな表情でライに尋ねる。
「……? どうしたの?」
「……あ」
ライは思わず口に出してしまっていた。
レイからすれば黙っていたライが急に、"そうかあ……"と呟いたのだからそりゃ驚くだろう。
「魔王に力を借りるの?」
しかしレイも魔王(元)の事を知っているので、特に疑うこともなく魔王(元)の事だろうと理解していた。
ライは頭を掻きながら言葉を発する。
「まあ、そんなところだけど……」
しかし、先程の事をレイが聞いたら心配するだろう。と言葉を濁す。レイは優しい少女。命の危険がありそうな事など賛成しないだろう。
それを見て魔王(元)はやれやれと言う。
【ま、"完全復元"じゃなく、"部分復元"ならそれ程力を必要としねえぞ。……どうする?】
「……!?」
魔王(元)の言葉に身体を揺らすライ。魔王(元)曰く、全体を復元させるのでは無く一部だけを復元させるとの事。
確かに一部ならライも余裕で耐えられるだろう。
それを聞いたライは即答で返す。
(勿論だ! それなら願ったり叶ったりだからな! 頼む魔王!!)
【へいへい。わーったよ】
刹那、ライの身体に漆黒の渦が巻く。
レイは一瞬驚いたが、"何か解決策が見つかったから魔王を纏うのだろう"。と考えているような表情だ。
ライが持っているボロボロな紙のような物は、魔王(元)の力に共鳴するように光始めた。
「お、おお……!」
「スゴい……! みるみる内に修復されていく……!」
その"紙"は白くなっていき、文字が浮かび上がる。
そしてそこで光が止み、ライの手には少しボロボロの紙が置いてあった。
「確かに"完全復元"じゃないな……けど、十分に読むことが出来る」
「うん! ……完全復元?」
所々穴が空いていたりするが、文字の部分は読めるレベルになっていた。
古い文字を使われているが、僅か数百年~千年程度なのでライとレイが読める文字だ。
そしてライは文体を読み上げる。
*****
「さて……姿や形は見えないが……」
建物から出たフォンセは、建物内へ入れぬように入り口の前に立ち当りを見渡す。
敵? らしき姿はなく、他の生き物すら見当たらない様子だ。
「この様子を見れば先程まで何かが居たということは分かるが……」
フォンセは呟くように考えて言う。
さっきまでは小魚などが泳いでおり、鑑賞するのにも丁度良い感じだったがその小魚すらいない現在。
恐らくだが、何かに恐怖し巣である建物に隠れたのだろうと推測できる。
「つまり……建物の影に潜んでいるだろう。なあ? 敵がどうか分からぬが……」
そんなフォンセは近くの建物を睨み付け、話し掛ける。
射抜くような視線で睨み続けるフォンセ。その視線に耐えられなくなったのか、元々気付かれたあと攻めるつもりだったのか、それは姿を現した。
『…………』
ガシャガシャと、ゆっくり歩みを進めるそれ。その存在に出会うのは──フォンセ"は"初対面だ。
「……スケルトンか……」
そう。その影の正体はスケルトン。先程ライやレイが倒した魔物である。そのスケルトンが目の前に現れたのだがしかし、フォンセはそんなスケルトンに違和感を覚える。
「…………(何故私は『気配を感じた』んだ……?)」
それは死体である筈のスケルトンに、気配があったことだ。
フォンセは知らないが、ライとレイもスケルトンと一戦交えている。
しかしスケルトンは死体なので意志が無く、気配を感じる事も少ない。
たまたま拾ったのか、それとも『スケルトンを操る何かが居た』のか。
スケルトンは死んだことに気付かない死体や、魔術師によって無理矢理目覚めさせられた説がある。
もし後者だとすればその主である魔術師が居るという事になる。
(しかしこんな海底に……? 私たちのような魔法・魔術の応用で潜ったのか……? ……いや、今はスケルトンに集中しよう……その時はその時だ……)
可能性を考え出したらキリがない。
それによって被害が出てしまえば元も子もない今。
取り敢えずスケルトンならば苦労する事無く倒せるので、そちらに集中を高めるフォンセ。
スケルトンに向き直り、フォンセは手を伸ばし、
「"土"!!」
次の刹那、スケルトン達の足元が盛り上がり──スケルトンを纏めて押し潰した。
海水により音は聞こえないが、地上ならば骨が潰されて鈍い音が響き渡っていただろう。
「…………」
フォンセは一瞬にして全て片付けたあと、エマがいるだろう建物の中に戻るのだった。
──時を少し遡り、フォンセが外に出た直後の事。
エマは"それ"に向かって話し掛けていた。
「久しいな、『マギア・セーレ』よ」
「ハハハ……フルネームとはね……エマ・ルージュ? ……まあ、数百年振りの再開だし、フルネームというのも悪くないかな……?」
マギア・セーレと呼ばれた者は女性だった。どうやらエマの知り合いらしい。
しかし、かつての仲間という雰囲気は無く、どちらかといえば敵。という感じで話す。
マギアはそんなエマに笑い掛けて話す。
「それにしても、まだそんな風に子供みたいな幼い格好をしているんだ? ……まあ私には関係ないけど……、そんな姿で餌なんか取れるの?」
マギアが示す"餌"とは人間の事である。つまりマギアは、エマに向けて食事を摂れているのかが気になったようだ。
エマはフッと笑い、そんなマギアへ返すように言う。
「餌……か。残念だったな。最近は血や精気を吸っていないんだ」
エマの言葉にピクリと眉を動かしてマギアは言う。
「へえ、そうなんだ。……何々? 好きな生き物でも現れたの?」
一瞬訝しげな表情をしたが、直ぐに笑みを浮かべるマギア。つまり人間・魔族のように、ヴァンパイアと呼ばれるエマにその種族の中で食料的な意味では無く、感情的に好きな存在が現れたのかが気に掛かっていた。
エマは面倒だと思っているような素振りを見せ、話を進める。
「そんな事はどうでも良い。貴様は何故此処に居るんだ?」
「……別にぃ? 久々に貴女と戦ってみたいなあ……何てね?」
「……ほう?」
エマの急かすような言葉を受け、つまらなそうに返したマギアはエマと戦いたいと言う。
しかしエマは直ぐに、それが"嘘"だと見切った。
「私と戦いたい……か。ふふ、別に構わない。けど、生憎それは無理だ。今の私ではとてもお前に敵わん」
「…………」
あっさり勝てないと認めるエマの言葉を聞き、更に落胆したようなマギア。
そんなマギアを無視し、エマは言葉を続ける。
「……で? 『本当の目的』は何なんだ? お前は戦闘好きという訳ではなかろう。さっさと話せ」
中々話さないマギア。面倒になってきたエマが話を促す。マギアがそのような理由で此処に来た訳では無いと、エマは理解していたからだ。
そんなエマの言葉を聞いたマギアはため息を吐き、答える。
「ハア……ちょっとは冗談に乗ってくれても良いのに……まあ、話すけどさ。一応エマとは昔からの知り合いだし、腐れ縁って奴でね」
「そうか。その腐れ縁とは本当に切れないのか?」
エマは心底面倒臭そうに聞いている。長々と語るのは本当に面倒らしい。
その態度を前に、マギアは眉を顰めて言う。
「ちょっとそれはヒドくない? ああ、じゃなくて……エマに忠告をしに来たの」
「……忠告?」
次はエマがピクリと眉を動かして聞き返し、マギアは頷いて言葉を続ける。
忠告という事はつまり、何かの危険が迫っているという事。それが何かは分からないが、気になるエマ。
「そう、忠告。……暇潰しに未来を見てたらさ、近々ここら辺の海にとんでもない怪物が現れて世界が大変な事になる。……って未来が出ちゃってね。それで海を見てたらエマが映って、見殺しも後味悪いし教えて上げようかなあ? ……ってね?」
「ほう……? それ程までに力の強い幻獣・魔物なのか?」
マギアは未来を見、それから何が起こるかを理解したらしい。の話を聞き、エマも少しは興味が出た様子だった。
そんなエマを前にマギアはふざけず、真面目に質問へ答える。
「そう。強さだけなら支配者に匹敵するってさ。……まあ、目覚めたばかりだとその力は半分以下だけ…… 「何っ!? 支配者だと……!?」
そのように、話していたマギアの説明が一つの声によって中断された。
それを聞いた二人が同時に振り向くと、そこにはフォンセが居た。エマとマギアの様子はさておき、話を聞いたフォンセはマギアに問いただす。
「本当に支配者レベルの怪物が……!?」
「あら? エマのお友だち? ……なら教えても良いかもね……そうだよ。私の魔術はこの世界で上位を狙えるレベル。まず間違いない……貴女も魔術師?」
「……」
マギアは応える。エマの知り合いなら教えても良いと言う。知り合いでなかったのならどうなっていたか気になるが、それは気にせずフォンセはマギアの質問に頷いて返した。
「そう。なら、貴女たちもさっさと安全な所に逃げた方が良いよ。私は星が滅んだり、怪物が出現する事に限っては嘘をつかないから。……ああ、それから──『貴女たちの仲間である魔王を連れた少年を私の仲間が狙っているから』気を付けてね。魔王の子孫ちゃん!」
「「…………なっ!?」」
「じゃねー」
その刹那、その場からシュンッと消えるマギア。恐らく空間移動系統の魔術を使ったのだろう。
しかしそんな事より、エマとフォンセはライの正体を知られていた事に驚愕する。
フォンセも自分が魔王の子孫とは明かしていなかった。
確かに以前、自分たちの事を一部の者に明かしたが名は伏せた。つまりあの時の兵隊が約束を破ったのかという疑問が浮かぶものだ。そして、マギア・セーレ。彼女は一体何なのだろうかと。
*****
「……っ! まさか、そんな事が……!!」
「…………!!」
ライとレイは文字が記された紙を見て驚愕した。
その紙に書かれていた事は大変恐ろしい事だったからだ。その内容は──
『"アヴニール・タラッタ"最期の記録
この記録を読んでくれる者が現れるだろうか。
いや、いる訳が無いだろう。この街はこれから深く冷たい海底に沈むのだから。
しかし、もし数百年、数千年の月日が経とうと、読んでくれる者がおり、まだソレが目覚めていなかった場合。此処に忠告文を記そう。
まず始めに謝罪を申し上げたい。
すみません勇者様。貴方との約束を破り、怪物の封印を解い─しま──した。
謝罪の意を込─、この街と我──怪物ごと─印します。
しかし、我々の封印は勇──の封─より圧倒的─弱─。
数百年後……怪物の封印が解かれ──、その時世界は─滅し、か──の魔──居たときよ──凄まじ──獄が待っ─い───しょう。
"アヴニール・タラッタ"一同』
「……怪物の……封印だと……!?」
「それに……勇者って……!?」
繰り返そう、その文章はとてつもなく恐ろしい物だった。
後半部分が所々掠れて見えないが、世界が危ういという事は理解できる。
少なくともライとレイは、世界を危機に陥れる程の怪物が現れたという情報を、産まれてこの方聞いた事はない。
強いていえば魔王(元)の自分語りくらいだ。
「ねえ……ライ……。この文章って……この街の事を書いているんだよね……?」
「…………」
震えて聞くレイと、それに頷いて返すライ。
世界が危ういレベルの怪物ということは、支配者に匹敵する存在という事。その事はライたちも直ぐに分かった。
「……ねえ、どうする……?」
不安そうな表情をひたレイがライの方を見て言い、言われたライは立ち上がり、
「……そうだな。……まずはエマ、フォンセと──」
──"合流しよう"とは続かなかった。
「!!?」
──その刹那、海底へと大きな振動が奔る。言葉を続けようとした刹那の間に海底が大きく揺れたのだ。
地震なのか、それとも他の要因なのか定かではないがしかし、次に海底を揺らし響き渡る音を聞く事となった。
『キュルオオオオォォォォォォォッッッ!!!!!!』
鼓膜を突き、海底を揺らす程の嵐のような轟音。
しかし、その轟音は透き通る水の如く清らかなイメージも彷彿とさせる。
時に荒々しく、時に清瀞な、流れ行く波のようだ。
*****
「「あ、あれは……!!」」
その鳴き声と同時に、巨大な吸盤のついた脚がエマとフォンセの前に姿を現す。
声の主ではないようだが、それが巨躯を誇っている怪物なのは一目瞭然だ。
怪物がもう一匹居るとは思っていなかったエマとフォンセ。
ライとレイも建物から顔を出し、二匹に目をやる。
──今この時この瞬間、二匹の怪物が目覚め、ライ・レイ・エマ・フォンセの戦いが開幕したのだった。
『キュルオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!!!』