二百四十四話 三番目の街・終了
──"幻獣の国・???"。
「流石に強かったな……斉天大聖。力が本物よりも遥かに劣る分身であの強さ……如意金箍棒だけが戦利品では少し物足りないな……やはり龍兵士を連れて来るべきだったか?」
ザッザッザと、ヴァイス。そして数千人から八〇〇数人に減った兵士や巨人兵士が幹部の街、"サンティエ・イリュジオン"付近の道を歩いていた。
そんなヴァイスの片手には斉天大聖・孫悟空から食らった如意金箍棒。その欠片から再生させた如意金箍棒を持っていた。その棒をグルグルと回し、苦労の割りには少ない報酬を見るヴァイス。
事実、孫悟空を相手にヴァイスは死にかけた。始めから本気だったのなら分身の孫悟空に苦労する事は無さそうだが、ヴァイス自身少しばかり油断していたので少々疲れてしまっていた。
「まあ、かつて海に住みつつ"竜王"と呼ばれていた者が持っていた伝説の道具……報酬はこれで十分かもしれないな……」
文句を一転し、改めて思考する。よってかなりの上物と考え直すヴァイス。如意金箍棒は最大で約八トンの重さがあり、常人が扱うには少々重過ぎる。しかし、わざわざそのような重さにせずともかなりの破壊力を誇っているのも事実である。
なので死にかけた代償でこの如意金箍棒が手に入ったというモノは、これ以上に無い程幸運だった。
「そう言えば……結局バロールは使わなかったな……ライの仲間であるフォンセが居たしバロールの事は知られているだろうけど……まあ、手の内を明かした訳じゃないしバロールを温存出来て良かったと考えるか……」
ふと、念の為に持ってきたバロールを思い出すヴァイス。孫悟空との戦いでは、分身なので本気を出さなかったがバロールを使う暇は無かった。
それでもバロールの事を全て知られた訳では無く、ヴァイスの目論む『本当の目的』についてもバレていないので良しとする。
「追っ手が来るかもしれないな……来たら来たで新たな兵士を増やすのも良いけれど……それでまた面倒な事になったら嫌だね。少し急ぐぞ」
『『『…………』』』
ヴァイスの言葉に対し、無言で返す生物兵器の兵士達や生物兵器の巨人兵士達。このような大群、目立つにも程があるだろう。それによって追っ手の兵士が来た場合、相手取り味方に引き入れるのも良いがそれが切っ掛けとなってフォンセやサイフ、そして孫悟空にガルダが来たのでは厄介。
面倒事を避ける為、ヴァイスと兵士達八〇〇数人は先を急ぐのだった。
*****
──"サンティエ・イリュジオン"、幹部の大樹。
『悪ぃ、逃がしちまった。しかも分身の持つ最期の記憶からして如意棒を取られたかも知れねぇ……』
"サンティエ・イリュジオン"にて、敵組織が攻めてくると言う事態はある程度収束した。そしてガルダの大樹にマルス、フォンセ、サイフが集まるや否や、孫悟空が深々と頭を下げて詫びを申す。
「如意金箍棒を取られたか……いや、欠片を使われたと言っていたから取られたとは少し違うな……しかし、分身にも本物の如意金箍棒を持たせているとはな……それは二つと無い代物じゃないのか?」
そんな孫悟空へ向け、首を傾げて尋ねるフォンセ。如意金箍棒という物は、稀少な伸縮自在の金属で造られており、そうそう手に入る物では無い。と言うより、孫悟空以外で持っている者がいない程の武器である。にも拘らず、その孫悟空本人が二本以上所持しており分身に持たせているのだから疑問に思ったのだ。
『ああそれか……まあ、何て言うか……知ってると思うが如意金箍棒は伸縮自在だ。つまり……あまりやりたくないがへし折って伸ばせば増やせるんだ』
「へし折る……ふむ、物騒では無いが……何と言おうか……」
つまり孫悟空は、分身用の如意金箍棒を幾つか折って作り出しているという事。如意金箍棒は伸縮自在の鉄──神珍鐵を使った棒であり、全体が赤く両端に金の箍を付けた物。伸縮自在と言う事は、これ即ち横に折れば幾らでも数を増やせると言う事である。
『……で、髪の毛の数は大体十万本。俺は分身を髪の毛から創り出すから少し多めにしているが、取り敢えず十万本以上のうち数十本の髪を抜いて大体数十人の分身を創り出しているんだ。そしてその分身は俺より弱いが俺と同じような術を使う。つまるところ、俺と同じ戦闘スタイルだからこそ、如意金箍棒が必要って事だな。無くても妖術・仙術で十分に戦えるが、如何せんそれじゃ目立つし無駄な破壊を生んじまう。だだっ広い戦場で敵が目の前に集中しているならまだしも、街中で敵が紛れているんじゃ闇雲に狙う訳にも行かねぇ。だからこそ最小にして最大の破壊力を持つ如意金箍棒が分身にも必要って事だ』
「成る程な。小回りの利かない妖術・仙術よりも小回りの利く如意金箍棒の方が街では戦いやすいって事か」
そしてその如意金箍棒を増やす理由は、街においての戦闘を行うに当たって妖術・仙術よりも小回りが利くので戦いやすいとの事。如意金箍棒を伸ばした場合は別とし、通常の大きさは普通の剣などと同じくらいである。なので振り回すも良し、叩くも良しと、打撃を中心とした戦闘に応用が利くのだ。
『だが、アイツ……ヴァイスって言ったな。そのヴァイスは欠片から如意金箍棒を再生させやがった。幾ら伸縮自在とは言え、一欠片から完全に再生する事は流石に出来ねえんだ。仮に伸ばしたとしてもその大きさのままで伸びる。まあ要するに、長いだけで細くなっちまうって事だな。貫通力は増すかもしれねえが、威力は低いだろうよ』
「ふむ……再生させる能力か……魔法・魔術の何れかは分からないが……用心するに越した事は無さそうだな……」
そして、ヴァイスの能力を推測した孫悟空。孫悟空が持つヴァイスの情報は自分の分身が戦った記憶のみ。
その分身も消されてしまい、魔法道具を巧みに使う事と何かを行って生き物を生物兵器に変える事。そして自分自身や道具を再生させる能力がある事くらいしか分かっていない。それでも得られた情報は多そうだが、他にどのような魔法道具を持っているのか、どうやって龍兵士を生物兵器に変えたのか、自分と道具をどのレベルまで再生させる事が出来るのかそして魔法・魔術の一種なのかなど、まだまだ分かっていない情報も多い。
『ああ、用心はした方が良いな。そして再生能力の事だが、多分アイツは剣や銃、弓矢に槍の欠片を再生させて使ったって事は分かる。剣ならその剣に使われていた金属を、銃ならその銃に使われていた素材を、弓矢や槍も同じく……となると、創造させるまではいかないにしてもバリエーションの多い攻撃を仕掛けてくるだろうな』
フォンセの言葉に返しつつ、ヴァイスがどのような攻撃を仕掛けてくるのかについて話す孫悟空。
孫悟空はヴァイスが武器の欠片を再生させて新たな武器を造り出していると推測した。
ヴァイスはその事について説明したが、それは既に孫悟空の分身は消えている時だった。なので分からなかったのだが、推測のみでそこまで辿り着けると言う事には流石と言うべきだろう。
「厄介な再生能力だな。一欠片だけで物質その物を再生させるのか。強力な道具を不死身の兵士に持たされる可能性もあると考えると簡単な戦いでは無いと言う事が分かるな……」
そしてそれを聞き、ヴァイスの持つ再生能力の厄介さを呟くフォンセ。そう、ヴァイスの能力が本当にそうなのであれば、あらゆる魔法道具や孫悟空の如意金箍棒。そして伝承にのみ伝えられている武器などの欠片だけでもそれを創り出せると言う事。
不死身であり、気化させるか不死身を無効化させるくらいしか対処法の無い敵が、そのような持つだけで凄まじい威力を秘めた武器で攻撃して来た場合、流石の支配者やガルダ、斉天大聖・孫悟空でも苦労する事だろう。
『そうだな。だからこそドラゴンの旦那には早めにこの情報を伝えた方が良い。だから……この街に来たばかりだが、直ぐに街を出ようと考えている』
「「「…………」」」
『……』
孫悟空の提案に対し、黙りながら頷くマルス、フォンセ、サイフ、ガルダの四人。敵がこの街を攻める事は確定している。なので敵の戦力が揃うよりも早く、行動に移した方が良いのだ。
「皆さん……今回、僕は何も出来ませんでした……。僕はこのチームのリーダーですが……やはり本物の戦場に行く時は足手纏いにしかならないと思います……なので今回、参加しない方が良いかと……」
「「……!」」
『『……?』』
ある程度話終え、そんな頃会を見たマルスは思い詰めたような表情でフォンセたちに向け、役に立たない自分は幻獣の国の問題に関わらない方が良いのでは無いかと告げた。
それに対してピクリと反応を示すフォンセ、サイフと孫悟空、ガルダ。今回このチームは"マルスチーム"としてこの街"サンティエ・イリュジオン"に来たのだが、マルスは指示を出す事すら儘ならず、殆どの事をサイフに任せてしまっていた。
行った指示と言えばこの大樹からサイフと支配者の部下である幻獣兵士たち五〇数匹を動かしたくらい。それでも十分なのだが、マルスからすれば納得が行かなかったのだろう。
「ハッ、やっぱ悲観し過ぎだぜマルス王。それに、戦場には行かないって言ったな? アンタはそれで良いんだ。足手纏いとかそういう問題じゃねェ。元々マルス王は前線に出さないつもりだ。王を取られたら最後、俺たちの街"マレカ・アースィマ"は終わりだからな。指示や指揮能力ならこれから覚えていけば良い。今は如何にして戦場に置いて自分の身を護るかだ。直接的な参加はしないにしても遠方から俺たちの事を見守って貰うぜ?」
「……はい」
そんなマルスに向け、軽薄な笑みを浮かべながら言うサイフ。
そのサイフへ自信無さ気に返すマルス。サイフからすれば、マルスはまだ生まれたばかりの子供。普通は両親がおり、この年であらゆる教養を身に付けて行く事が必要である。
しかし両親を亡くし、世界の事をあまり知らないマルス。ライのように本を読みながら育った訳では無いので知らない事の方が多い。恐らくサイフからすればマルスは兄弟のような者なのだろう。無論、ブラック、シター、ラビアにとっても兄弟、姉弟のような者であり、"マレカ・アースィマ"の幹部とその側近、そして執事のカディルがマルスやマルスの妹であるヴィネラの家族のような者なのだ。
『どうやら俺たちの幕は無さそうだな』
「ああ、自分の事を思ってくれる者が居ると言うのは良い事だな……」
『フフ、まあ街の王を勤める者。自分が思うよりも王としての能力が上がっているかもしれないだろうさ』
マルスとサイフのやり取りを見、見守るような表情をするフォンセ、孫悟空、ガルダ。三人はサイフと言うより、マルスに対して穏やかな目を向けていた。
しかしライたちが来るまで闘技場の奴隷だったフォンセにとっては、自分の事を思う者についてよく知らず、何やらムズ痒いモノを感じる。それが何を意味するのかは分からないが、心地の好いモノでは無かった。
「さて、これで話も終わったな。悩みは無くなっただろう。自分を思っている者が居るだけで助かるものだからな」
「……! は、はい。フォンセさん」
その違和感を抑え込み、マルスの方へ笑みを浮かばて話すフォンセ。思っている者が居ると言うマルスが少し羨ましかったフォンセだが、今のフォンセにはライ、レイ、エマ、リヤン。そしてこの国には居ないがキュリテや血縁の近いルミエも居る。今は違和感を意に介しているより、先に進む事が重要だった。
『じゃ、そろそろ行くか……ドラゴンさんの所へ。私は街の者たちを説得してくる。恐らく快く受け入れてくれるだろうからその点は問題ないさ』
そんなフォンセの内心を読み取ったガルダは鷲の翼を広げ、マルス、フォンセ、サイフ、孫悟空の四人と幻獣兵士たち数百匹に向けて言い放った。
『ああ、分かった。じゃあ、この街の出入り口で待ってるぜ。勿論マルス王や住民を真ん中に置いた陣形で行く』
「「ああ」」
「分かりました」
『了解』
孫悟空はそれに返し、了承するように頷いて返すマルス、フォンセ、サイフ、ガルダ。
それと同時にガルダは飛び立ち、"サンティエ・イリュジオン"の住民を迎えに行く。
それを確認し、マルスたち四人と幻獣兵士たち数百匹は半分になった大樹から外に出て支配者の街に戻る。
こうしてマルス、フォンセ、サイフ、孫悟空、部下兵士数百匹は幹部の街"サンティエ・イリュジオン"にてその街の幹部を勤めるガルダを説得する事に成功した。
敵襲もあったが、どうやら被害は少なそうである。
順調に進めて行くライの仲間たち。本人らは知らず、今現在の時間ではまだであるが残りはいよいよライ、リヤン、ニュンフェ、沙悟浄のチームのみとなった。
着々と幹部を説得して行くチームは、各々が支配者の街を目指すのだった。