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二百四十三話 撃退成功?

 ──"サンティエ・イリュジオン"。


「"ファイア"!」

『『『…………!!』』』


 刹那、フォンセは炎魔術を放ち、それによって敵の兵士や巨人兵を焼き尽くす。その炎は街全体に広がり、爆発のように街中を包み込んだ。


「"ウォーター"……!」


 そして生物兵器の兵士達が焼けたのを確認し、頃合いを見て水魔術で消化するフォンセ。燃えカスは風に巻かれて消え去り、湿った大樹がその場に残った。


『ど、何方どなたか存じ得ぬが……助けてくれた事へ感謝する……我らが牙で幾ら噛み砕こうと我らがツノで貫こうと我らが爪で切り裂こうと何度でも蘇る……』


『あ、ああ……それに加え、道具を使ったとしても魔法・魔術で攻めても何度も蘇る……まあ、元々道具は得意じゃないが……どちらにせよ奴らは化け物だ……』


 そんなフォンセの背後には"サンティエ・イリュジオン"に勤めている幻獣兵士たちがおり、肩で息をする程疲弊していた。幻獣兵士たちの爪や牙、ツノには敵の返り血が付いており、何度も敵を殺した様子だった。しかし結果は見ての通り、敵兵士を確実に仕留める事は出来なかったようである。


「ああ、コイツらは人間・魔族を元に改造された生物兵器だ。能力自体が上がっているか定かでは無いが、治癒力を含めた生命力が常軌を逸しているな。不死身性ならばヴァンパイアと何ら変わらない。力がヴァンパイアよりも弱いくらいだ」


『『…………』』


 そんな幻獣兵士たちに返すフォンセ。

 フォンセの知る情報は、不死身の兵士にして欠片一つ残す事無く消さなければ何度でも蘇ると言う事。強さはよく分からないのが現状だが、その不死身性だけで面倒と言う事に変わり無い。


『ヴ、ヴァンパイアと同レベルの不死性だと……!?』

『本物を見た事は無いが……弱点以外で死ぬ事の無い魔物と……!!』


 フォンセの言葉を聞き、驚愕の表情を見せる幻獣兵士たち。

 それもその筈。現在その多くは姿を消したヴァンパイアだが、その伝承だけでヴァンパイアの不死性は伝わっているからである。


「再生力はヴァンパイア並みにして日光や杭、十字架などの弱点が無いからな。力は巨人兵士以外それ程でも無いが、その不死性だけでかなり厄介となるだろう。それでもそこそこあるがそれは置いておこう。取り敢えず事実、今現在敵の兵士相手に中々倒せず苦戦していたからな」


『何と言う事だ……弱点が無く死なない生物がこの世に……』

『これでは、街の護りようが無いではないか……!!』


 幻獣兵士たちに向け、淡々と言葉をつづって話すフォンセ。幻獣兵士たちは意気消沈しており、絶望に打ちひしがれていた。


「やれやれ、貴様らは何も見ていなかったのか?」


『『……! なにっ!?』』


 そのような幻獣兵士たちに向けて呆れるように告げるフォンセ。幻獣兵士たちは思わず声を上げ、フォンセの方を向いて訝しげな表情をする。絶望の淵に立たされた今、呆れられたのだから当然だろう。


「私は先程炎魔術で兵士を消したでは無いか。つまり、敵兵士の再生が追い付かない程の速度で破壊して欠片一つこの世に残さなければ良いのだ。簡単だろう?」


『『……!?』』


 フォンセが言った事は、決して簡単な事では無かった。

 フォンセや孫悟空程の実力があって初めて成功する事であり、一端いっぱしの幻獣兵士たちに行える事では無いのだ。


『そんな無茶な……! ガルダ様や今この街に来ている斉天大聖様。そして支配者様や幹部様方たちならまだしも……』


『我々はロクに魔法・魔術も扱えん……人間・魔族よりも牙や爪が発達している分、使う必要が無いからだ……しかし、今になって覚えておけば良かったと……!』


 足を地に叩き付け、苛立てながら大地を粉砕する幻獣兵士。それによって粉塵が巻き上がり、風に巻かれて消える。

 そう、幻獣・魔物は魔法・魔術に長けていない分、素の力が人間・魔族よりも圧倒的に強いのだ。無論、それは常人や一つの軍隊レベルであり、一人だけで軍隊や国を壊滅させる事が可能な幹部の側近や星を破壊出来る幹部、そして宇宙を破壊出来る支配者は除いてでの話である。

 何はともあれ、普通の人間・魔族より強い力を秘めている幻獣・魔物に魔法・魔術は無用の長物と言う事である。


「そうか。……だがそれなら、それでも敵兵士の足止めくらいは出来る筈だ。取り敢えず私も力を貸す。後は残った住民を救出するんだ」


『ああ、我らもそのつもりで居る。貴女が力を貸してくれるのなら心強い!』


『良し。街の事なら我ら兵士が熟知している。案内するから着いて来てくれ』


 そしてフォンセは風魔術で浮き上がり、幻獣兵士二匹が翼を広げて飛び上がる。刹那の間に加速し、粉塵を巻き上げて移動した。敵の兵士は厄介だが、それでも仕留める方法を知っているのと知らないのでは大きく違う。他の場所を救う為に、フォンセたちは向かって行く。



*****



「……! サイフさん!」

「慌てるな、マルス王!」

『……!』


 次の瞬間、巨人兵士の巨腕がマルス、サイフと支配者の部下兵士五〇数匹に目掛けて振り落とされた。その衝撃で辺りは爆散し、大樹が砕けて崩落ほうらくする。そして巨大なクレーターが形成され、それによって地盤が浮き上がった。


「……ったく、巨人兵士ってのは一挙一動で街を破壊するからなァ……面倒だぜ……」


『……!』


 刹那、サイフの創り出した矢が巨人兵士の巨腕に突き刺さり、そこから真っ赤な鮮血が噴出する。その血は雨のように降り注ぎ、マルス、サイフと幻獣兵士たち五〇数匹を染めた。


「どうせ再生するなら、この場に固定していた方が良さそうだ……! "巨大な矢(キビーラ・サハム)"!!」


『……!』


 そして巨人兵士の頭上から巨大な矢が一本降り、巨人兵士の脳天を貫いて股下まで行き、巨人兵士を固定した。


『な、何と言う……力……』

『これが魔族の国、幹部の側近か……』

『我が国に幹部はおれど支配者以外の側近はいない……』

『側近制度も良さそうだな……ドラゴンさんに報告しよう……』


 その光景を見て驚愕する幻獣兵士たち。不死身の生物に対し、その対処法が無いという訳ではない。

 一つ目はフォンセやガルダが行ったように、再生速度の追い付かない破壊力の秘めた攻撃をする。即ち気化させたり焼き続ける事である。

 二つ目は手の届かない場所まで追放する事。例えば深海の底や宇宙の果て。それらに追放する事で能力自体がそれ程高くない不死身者は何も出来なくなる。

 三つ目はたった今サイフが行ったように、身動きを取れなくして無効化する事。もしくはレヴィアタンに行われていたような封印。サイフが行ったモノは数日で解けるだろうが、封印ならば数百、数千年は被害が無くなるだろう。

 四つ目はライや一部の者にしか出来ないであろう事、不死身の性質その物を消し去る。

 ライ、と言うより魔王(元)が持つ力の事だ。この世に存在する全ての異能、もしくはまだ見付かっていない術や異能とは異なる身体の性質。それら全てを無効化する全能を防げる魔王ライの力ならば不死身生物を消し去る事が出来るだろう。

 死なないから"不死"の"身"なのだが、『不死身を殺す』という矛盾をやってのける魔王ライの力。そのように、不死身の対策は異例を含め四つ程あると言う事だ。サイフが行ったのは三つ目であり、身動きを取れなくする事で無効化したのである。


「さて、こうすりゃ無限の再生力も関係無ェ。残りの奴らも固定して行くぜテメェら!!」


『『『ウ、ウオオォォォォ!!!』』』


 サイフの掛け声に同調するよう、幻獣兵士たちが鳴き声に似た声を発して返事をした。マルス、サイフと幻獣兵士たちも街の救助へ向かう。



*****



『オイ、斉天大聖』

『んあ?』


 ところ変わって上空。そこには鷲の翼を羽ばたかせて空を飛ぶガルダと、觔斗雲きんとうんに乗る斉天大聖・孫悟空の姿があった。

 ガルダは孫悟空を探す為に街を敵兵士から護りつつ、空を飛んで移動していたのだ。そして、ついに見つけたと言う事である。


『何か用かガルダ? 俺は今、見ての通り敵兵士を数人沈めたところだが……』


 そんな孫悟空は如意金箍棒にょいきんこぼうを片手に、目の前に居る敵兵士達を倒したところだった。その兵士達は下に落ちており、身体がバラバラになっていた。

 辺りには戦闘の痕があり、幾つかの大樹が砕けたその欠片が地面に落ちている。しかし孫悟空本人は無傷で、そこには敵兵士のみが倒れていた。


『じゃあ、早速だが……あの兵士は全員不死身だ。幾ら砕こうと骨を折ろうと即座に再生する。そこら辺を気を付けて相手しててくれ』


『不死身の兵士か……確かに厄介だな……』


 辿り着くや否や、自分が伝えようとした情報を伝えるガルダ。

 不死身と言う事を早めに言っておかなければ後々苦労する。なので即座に伝えたのだ。


『……取り敢えず私が伝えたのはその事だけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。後は頼んだぞ』


『おう、任せとけ!』


 ガルダが伝えたその瞬間、『分身の孫悟空がボンッと消え去る』。そう、今觔斗雲(きんとうん)に乗っていた孫悟空は『本物の孫悟空』が創り出した分身だったのだ。


『さて、私もそろそろ敵兵士の数を減らそうか……千人以上は居ると踏んで……まあ、適当で良いか……』


『『『…………!!!』』』


 孫悟空の分身が消えた瞬間、下から敵兵士達が現れる。

 バラバラ状態から再生し、そこから跳躍してガルダの近くに来たのだろう。


『跳躍力は数十メートルか……肉体的な強さはそれなりと言う事だな……』


『『『……! …………』』』


 ──そして兵士は蒸発した。


 ガルダは再び気化させる程の炎を放ち、空中にて兵士達を消し去ったのだ。そこには何も残らず、上空の雲すらも蒸発してしまった。下の地面も少し溶けており、その炎の威力が窺える。


『さて、伝える事は伝えたし……住民の元へ急ぐか……』


 それからガルダは翼を羽ばたかせ、一瞬にしてその場から姿を消した。フォンセ、マルス、サイフ同様、ガルダも敵兵士の殲滅に駆り立てるのだった。



*****



『はぁ……さて、これで流石に逃げられねぇだろ……中々やるじゃねえか……アンタも幹部クラスの実力は秘めているって事か……』


「……」


 そして大樹では、如意金箍棒によって脇腹を抉られ、口からも大量の血液を吐いて立ち竦むヴァイスの姿があった。

 周りを見れば激しい戦闘が行われた形跡があり、この街"サンティエ・イリュジオン"でも一、二を争う程の巨躯を誇る大樹が半分になる程だ。倒されていた幻獣兵士たちは別の場所に移されており、その場に残っているのは瀕死のヴァイスとほぼほぼ無傷の孫悟空のみだった。


『殺しはしねぇ……色々と聞きたいもんでな……アンタは見たところ上位的存在だ……参謀かはたまた首領か……まあ、それはさておきだな……取り敢えず連行するから連れてくぜ?』


「……」


 如意金箍棒を肩に乗せ、淡々と言葉をつづる孫悟空。

 孫悟空はヴァイスがどのような立ち位置に居るかを推測し、それを踏まえて話を聞き出すと告げた。そう、敵を抹殺するのは楽であるが、それでは先に進まない。敵の情報を知り、確実な行動に移すそれが重要だった。


「確かに……はぁ……この……状況……どうやら私が……圧倒的に不利のようだ……勝てないとは分かっていた事だけど……これ程までとはね……」


『いや、意識を持っているだけで上々だ……アンタは俺の如意棒を何回も受けて終いにゃ脇腹の肉が抉れてんだ……ちゃんと治療してから話は聞く、安心して気を失いな?』


「……そう……か……」


 脇腹を貫いた如意金箍棒。それを握り、血を吐きながら話すヴァイス。孫悟空はそれだけで十分と告げるが、ヴァイスはまだ何かを思う表情だった。


「仕方無い……こうなればタネ明かしをするとしようか……」


『……うん?』


 刹那、ヴァイスの表情が苦痛から変わり、普段のように淡白なモノと化す。それについて疑問に思った孫悟空だが、決して如意金箍棒は緩めず、寧ろ出血を悪化させんとばかりに押し込む。


「……こう言う事だ……斉天大聖……」


『……!?』


 次の瞬間、ヴァイスは無理矢理動き、脇腹の肉ごと如意金棒を引き千切った。それによって内臓が飛び出し、ヴァイスは大きく吐血する。


『テメ……まさか情報を知られる前にみずから……』


 それを見た孫悟空はヴァイスの考えを推測し、最悪とまでは行かなくとも、それなりの事態に思考が辿り着く。

 そうなってしまえば、折角何らかの情報が得られるというのに無駄となってしまう。得られる利益はヴァイスの"死"のみ。それでも敵の上層を打ち崩せるので上々ではあるが、後味が悪くなる。


「ハハ、何を言っているんだい……私はみずからの命を絶って名誉の死を選ぶ程出来て無いさ……さっき言ったじゃないか『タネ明しをする』ってね? 率直に言うと、治療するんだよ。今この場で……!」


『……な!?』


 そして、ヴァイスの傷はみるみるうちに癒された。痛々しかった肉片はヴァイスに戻り、飛び出した内臓も包まれる。治療時間は数秒にも満たず、一瞬にして己の身体を回復させた。


『まさか……アンタも不死身の……「いや、それは違うね。残念ながら」……!?』


 それを見た孫悟空は、ヴァイス自身も不死身の力を得ていると思ったが本人によって否定される。しかし不死身でないとなれば、何故にこのような治癒力を持っているのかと言う疑問が残ってしまう。


「しかし、驚いた……私が連れて来た兵士達……貴方はロクに戦っていないのに不死身と見抜くとは……」


 そんな孫悟空の疑問を横に、逆に気になる事を思うヴァイス。孫悟空はあまりヴァイスの連れて来た兵士と戦っていない。

 そして、主に如意金箍棒で吹き飛ばしたり落雷で遠方から狙ったりと、直接再生する過程は見ていないのだ。にもかからず孫悟空はヴァイスの部下兵士が不死身と見抜いたのである。それが不思議でならなかった。


『ああ、それはさっき分身の一つが戻ってな……俺たち全員にそれが行き届いたって事』


「成る程、分身か……」


 そんな疑問に対し、特に気にせず返す孫悟空。分身の術と情報を共有される事を知られてしまうのは中々だが、孫悟空的にはそれ程関係無い事なのだろう。


「さて、そろそろ私は帰る。龍兵士は返すよ。身体を調べたりでもするが良いさ……今回は私の負け……戦利品として龍兵士を返す……」


『オイ、ちょっと待て……まだアンタから話を聞いちゃいねぇぞ?』


 そんな孫悟空を横に、さっさと帰りの準備をするヴァイス。今回得られた情報はヴァイスに再生能力があると言う事くらい。孫悟空からすればまだまだ聞きたい事があるのだ。


「そうだね、だったら……『今度は本物が私に挑んだらどうかな』? 『分身の貴方』に話しても実感が湧かない……」


『気付いていたか……』


 しかし、ヴァイスはどうやら本物では無い、分身の孫悟空に話したくは無いとの事。始めから、ヴァイスと戦っていたのは孫悟空の分身だったのだ。


「じゃ、私はこれで……あ、そうそう」

『……?』


 そしてヴァイスが帰ろうとしたその時、


「伸びろ、如意棒……!」

『……!?』


 ──孫悟空の持っていた如意金箍棒。その欠片を再生し、新たな如意金箍棒として孫悟空の分身に伸ばした。


「私の再生能力は何も肉体のみじゃない……魔法・魔術道具や家に山。そして神具などにも適応するのさ。ハハ、もう消えたから話しても無駄か。生物兵器になった龍兵士と如意金棒……良条件の物々交換だね」


 それだけ言い、自分の戦利品として自分が再生させた如意金箍棒にょいきんこぼうを持って帰るヴァイス。

 ヴァイスはほんの一欠片からでも全てを再生させる事が可能らしく、それを使って孫悟空と戦っていたらしい。

 既に消した孫悟空の分身、すなわち孫悟空の髪の毛を背後に、ゆっくりと歩みを進めてその場から去り行くヴァイス。

 これにてヴァイスと孫悟空の分身が織り成した戦闘は幕を降ろす。"サンティエ・イリュジオン"全体の戦いも、徐々に落ち着きを見せるのだった。

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