二百二十七話 幹部vs幹部
──"ペルペテュエル・フラム"、大樹。
その刹那、フェニックスの棲む大樹が大きく爆裂した。
大樹の壁が砕け散り、そこからブラックとフェニックスが飛び出して落下しながら攻防を繰り広げる。
『飛べない貴方と飛べる私……にも拘わらず空中戦を? 馬鹿なのですか貴方は?』
「ククク……テメェ相手にゃ丁度良いハンデだろ?」
『減らず口をっ!』
空中を飛び回れるフェニックスは高速で移動しながらブラックを狙い、ブラックは剣魔術で牽制しながら迎え撃つ。
フェニックスの脚は中々の硬度を誇るが故に、それが鋭い刃となる。
ブラックの剣魔術とフェニックスの脚はぶつかり合い、火花を散らして互いを弾く。
「"剣"!」
そのまま重力に伴って落下し、大樹の下に着地したブラックは魔力を集めて剣を具現化した。
その一本の剣はブラックの手に握られ、白く鋭い輝きを放つ。
『魔力を具現化した武器で戦う……何とも地味な能力ですね……そのようなナイフで私を倒せるとでも?』
「ククク……本来は大きさも使い方も違ェよ……鳥相手にゃこれで十分さ……」
『……口だけは一流ですね……心底呆れますよ……』
次の瞬間、一人と一匹は飛び出し、ブラックの剣とフェニックスの爪がぶつかった。
そして金属音共に火花が再び散り、ザザっと砂を軽く巻き上げて下がるブラックとバサッと羽を広げ、下がるのを止めるフェニックス。
それと同時に駆け出し、ブラックの速度は目の前から消えたかと錯覚する程のモノになる。
フェニックスはそれを見、天へ向けて加速した。
『……速い……中々の速さを持っておられる……その速度は認めて差し上げても良いでしょうかね……』
上空からブラックを見るフェニックスはその速度を確認し、炎の混ざったため息を吐いて感心する。
しかし認めたのは速度のみで、ブラックその者はまだ下に見ているようだ。
「クハハ、テメェはまだロクに攻撃してねェだろ? 悪魔としてのフェニックスを見せてくれや……!」
『……それは出来ない相談ですね……!』
一人と一匹は交わし、一瞬にして数回の攻防を繰り広げた。
炎を散らすフェニックスの身体はブラックの剣とぶつかり合い、その炎は大樹に移って引火する。
そして引火した炎をブラックが切り裂き、その勢いでフェニックスへ飛び掛かった。
『──ハッ!』
フェニックスはそんなブラックに対し翼を広げ、大きな風を起こす。
その風には炎の成分も含まれており、まさしく熱風というのに相応しい風だった。
「……クク、わりと熱ィな……だが、ダメージになる程の熱さじゃねェ……」
その熱風へ剣魔術の剣を振るい、空気と共に切り裂くブラック。
切り裂かれた熱風は辺りに散乱し、そのまま春風に触れて消滅した。
『……ふふ、わざわざ空に来るとは……それは自殺行為ですよ……!』
ブラックは今、空に居る。フェニックスからすれば、現在のブラックは格好の的なのだ。
フェニックスはブラックに狙いを定め、口を開いて炎を溜めた。
『焼けなさい!』
それと同時に渦を巻く炎を吐いて仕掛けるフェニックス。
炎はブラック目掛けて直進し、背後の大樹を焼いて貫いた。
貫かれた大樹は風穴が空き、そこから大きく燃え上がって大火事となる。
ゴウゴウと燃える炎から逃れるべく、その樹に居た幻獣たちは慌てて飛び出していた。
「……オイオイ……テメェの街だろ……何で焼いてんだ? あの樹に幻獣の気配は無くなったが……それでも樹に炎はマズイだろうよ。下手したら逃げ遅れた幻獣が焼かれたかもしれねェぞ?」
その炎を受けても尚、無傷であるブラックは大樹と幻獣の心配をする。
言い換えればフェニックスが眼中に無いとも言えるが、無論ブラックにそのようなつもりは無く純粋に大樹や幻獣が心配だったのだ。
『ふふ、大丈夫ですよ……私は再生を司る不死鳥……消えた大樹も再生させる事が出来ます……そしてあの樹に棲む者たち……そうそう死んでしまわれる程弱くありません』
そんなブラックの疑問に対し、フェニックスは淡々と言葉を綴って答える。
物を再生させる事に特化したフェニックス。なので例え大樹が消えようと、欠片の一つでも残っていれば再生出来るのだ。
そして、先程の大樹に棲んで居る幻獣たちは中々の力を有しているので無傷と告げる。
「……ククク……だったら……遠慮無く攻めても良いのか?」
『……どうぞご自由に……』
刹那、ブラックは剣魔術の剣を構え、それをフェニックスに向けながら跳躍した。
フェニックスは大きく炎の翼を広げ、それを迎え撃つような体勢になる。
「じゃ、遠慮無く……」
『……』
一閃、ブラックとフェニックスの攻防は一瞬で多くの大樹を切り裂き砕いて粉砕した。
粉砕した大樹はバラバラに崩れ、そのまま大地へ落下する。
そこから大きな土煙が舞い上がり、この街"ペルペテュエル・フラム"を土煙が包み込んだ。
それだけで攻防は終わらず、ブラックは剣魔術の剣一つでフェニックスと対等に戦い、フェニックスも全くの本気を出さずに迎え撃っていた。
空中で戦えないブラックは利用できる物を利用する。大樹を足場にしてはそこから飛び、大樹を砕いて加速した。
「そら!」
『……!』
ガキィン! フェニックスの持つ炎の足とブラックの持つ白く輝く魔術の剣は互いに弾かれ、一人と一匹は吹き飛んで大樹を砕く。
その大樹は崩れ、雪崩のように地面へ落ちて行った。
そしてその瓦礫にブラックとフェニックスの姿は無く、次の瞬間には炎と切断力のある空気が激突する。
熱せられて切断される空気は消え去り、その場に真空が生まれた。
その真空には別の空気が集まり、その空気が真空を埋める。そしてそれによって強風が生まれた。その強風は次の瞬間に消え『去らせられ』、その風が辺りに散って行く。
「流石幹部、中々やるじゃねェか……」
『……そうですね。貴方もそれなりの強さ"は"持っていますね……』
そして次の瞬間、その場に居なかった筈のブラックとフェニックスが風と共に現れて向き合った。
一人と一匹の闘争心は消えておらず、今すぐにでも飛び出そうとして居る状態だった。
「そろそろデカイ剣を使ってみるかァ……いや、二刀流も良いかもな……触手のように広げるのも良い……いっその事遠距離攻撃に徹するか……」
『ふふ、剣魔術と一括りにしても攻撃の幅は広いようですね……数を増やし手数を多くしたり、槍のように飛ばすも良し……中々興味深い魔術です……』
「ハッ、そうかい……」
向き合う一人と一匹は会話を交わし、依然として構えを解かずに警戒して佇んでいた。
それは一瞬後、何かしらのキッカケがあれば直ぐ様動き出しそうな雰囲気である。
そしてその時は、大樹の欠片が地面に落下した瞬間訪れた。
「……!」
『……!』
大樹の欠片が落下し、地面にぶつかり音を出す。
その音は"ペルペテュエル・フラム"の街中に響き、粉塵を巻き上げて視界を消し去る。それを合図に、ブラックとフェニックスは同時に動き出した。
『ブヒィ!! 勝手な事はもう終わり!!』
「『……!!』」
そして、猪八戒によって一人と一匹の動きは妨げられる。
猪八戒は九本歯ノ馬鍬を持っており、それでブラックとフェニックスの進行を阻止したのだ。
「……オイ、豚。俺の戦いに手を出すとはどういう了見だ? 返答次第じゃテメェを丸焼きだ……」
『……猪八戒。この者は私に挑んだ……それを迎え撃つのは幹部として当然の役割……邪魔をしないで貰えますか……?』
一人と一匹は強烈な威圧感を放ち、九本前歯ノ馬鍬を持つ猪八戒に対して敵意を剥き出しにしていた。
『ブヒ! 二人……? ……共! 今は戦っている場合じゃないでしょ! 確かに時間はそれなりにあるけど! 敵が必ず夜に来るって訳じゃないからね!? 何より重要なのは話し合い!』
「『…………』」
猪八戒が一人と一匹に向けて力説し、その当人たちはムスッとした表情で猪八戒の話を聞いている。
『だから、一旦落ち着いて話をしようよ! ブヒッ!!』
猪八戒の言う事は、今において最も正しい事だった。
今回はブラックもフェニックスも、協力する事になるかもしれない相手の実力を確かめたかったのだが、猪八戒の言うように相手が何時来るのかは分からないのだ。ブラックたちが夜頃来ると言ったのは悪魔で推測であり、実際は相手の動きが全く分からない。
相手が規則正しく動くようなロボットならばまだしも、意思のある生き物である以上、狩人もヴァイス達の動きも全く読めないのだ。
「……ケッ、しゃーねーな……ぶっちゃけもう協力とかどうでも良いが……任務を全うしなきゃならねェのも事実。温厚なら話くらいは聞いてくれんだろフェニックス?」
ふぅ……とため息を吐いて適当な瓦礫に座り、フェニックスの方に視線を向けるブラック。
ブラックは面倒臭そうにしているが、役目を果たす為に話し合いはしようという体勢に入っていた。
『……そうですね……私も少し頭に血が上っていたようです……街がボロボロですね。……ブラックさん。貴方の態度は気に入りませんが、その力は認めましょう。話の内容は大方知っていますが、敢えて聞くとしましょうか……』
翼を畳み、炎を静めて佇むフェニックス。
その姿には何処か神々しさと美しさがあり、見る者の目を奪うと錯覚する程だった。
辺りを見れば、砕けた大樹の瓦礫が落ちている状態。そして道中の木々も無惨に砕けていおり、道にはクレーターが造られている。
これだけ見れば、何かの災害が起こったのでは無いかと錯覚する程この街全体が大きな被害を受けていた。
「ふぅん……。こりゃ悲惨だな……クク……じゃあ、俺も頭を冷やすとして……早速休憩がてらの話し合いと行きますか……」
『……ええ、そうした方が良さそうですね……今はまだ昼過ぎ……十分過ぎる時間がありますから……』
瓦礫に腰掛けるブラックはフェニックスの方へ視線のみならず身体を向け、フェニックスはそれに返すよう綺羅美やかな身体を向ける。
軽い肩慣らしを終えた一人と一匹はようやく次の話をするらしい。
それからエマ、ラビアもブラック、フェニックス、猪八戒の元に近寄り、戦力となりうる者たちが全員揃う。
そしてブラック、エマ、ラビア、猪八戒、フェニックスの四人と一匹は狩人、ヴァイス達の組織に対する話し合いを始める事となった。