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二百十四話 合流・話し合い

 ──"幻獣の国"・大樹、大広間。


 幻獣の国の支配者であるドラゴン。

 ライたちはそのドラゴンと協定を結び、ドラゴンの案内によって話し合いが行えそうな空間へと連れて行かれた。

 その空間は大樹にある大きな隙間を利用しており、部屋の中心には何故か大樹の中にも拘わらず切り株がありそれをテーブル代わりにしている。

 壁はくり貫かれており、そこから幻獣の国全体を一望する事が出来た。

 国全体といっても勿論限られているが、遠方の山々から森に海など美しい景色が見える。

 その窓代わりの穴からは、心地好い暖かな風が吹き込んで来てるので大樹の内部という事も相まって自然をじかに感じられた。

 今が争っている最中でなければ茶か何かを飲んで一服したいところである。


『……では、これから作戦会議の意味を込めた話し合いをしようと思いますが……よろしいです?』


 そして、ドラゴンの部下らしき者が大樹の外を眺めているライたちに向けて話、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人はそちらを見やって話を聞く体勢に入る。


『ああ、頼む。君たちは切り株の周りにでも座ってくれ。石を利用した椅子がある筈だ』


 そんな部下にドラゴンは言い、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人に座るよう促す。


「ああ、分かった」


 取り敢えずライたちは石の椅子に座り、転送用の魔法・魔術道具で来るであろうマルスたちを待つ。

 あの話し合いを終えた後、ライたちとマルスたちはこれから幻獣の国にて合流すると約束を交わした。

 しかし移動するのには金貨数十枚程の費用が必要であり、余程の時でなければ転送用の魔法・魔術道具を使わない。

 今回マルスたちがそれを使うと考えた理由は幻獣の国全体の問題だから、と言えるだろう。

 魔族の国と幻獣の国。この二つの国は仲が悪いという訳では無いのだが、仲が良いという訳でもない。

 つまるところ、魔族の国、最高戦力の幹部が居る街が幻獣の国に力を貸せば今後の付き合いも増える可能性があるのだ。

 マルスたちがライたちと幻獣の国に対して同盟を結んだ理由がそれであり、結果的に大きな利益が動く事となるだろう。


『しかし、君たちは一体何者なんだ? 魔族の国幹部の街と繋がりがあり、魔族の国の支配者であるシヴァ殿とも出会った事があるそうじゃないか。そして何より……君を含め、君の仲間たちからは底知れぬ力を感じる……例えるならそう、かつて世界を大きく動かした"勇者"・"神"・"魔王"といった伝説の存在たちが集っているような、そんな感じだ……』


 椅子に座り、マルスらが来るまで楽な体勢でくつろぐライたちに向け、ドラゴンは淡々とつづった。

 それはライたちから何かの気配を感じるという事。

 ドラゴンは野生生物だからなのか、ライに宿る魔王。その魔王の子孫であるフォンセ。かつて世界を救った勇者の子孫であるレイ。かつて全てを創造し、この世の全ての頂点に立っていた神の子孫であるリヤン。など、それらの気配に気付いているかのような口振りで話したのだ。


「ハハ、それは嬉しいね……かつて起こった本物の神話。それを俺たちに例えてくれるとは……ドラゴンさんは何時から支配者を?」


 ドラゴンの言葉に軽く笑って返すライは、ドラゴンに向けて支配者歴を尋ねた。

 ドラゴンは数千年を軽く生きる生物であり、支配者を何年勤めているのか気になったのだ。

 支配者制度が出来たのは数百年前なので、それが分かればドラゴンの大まかな年齢も分かるだろう。

 それを知ってどうすると言われればそれまでだが、取り敢えず何もせずにマルスたちを待つというのもアレなので場繋ぎの意味も合わせて質問したのである。


『そうだな……支配者制度が始まった時から俺だ。恐らく支配者の中でも最古参の部類に入るだろう……。他の支配者は殆どが父親から座を譲り受けたというのが多い。所謂いわゆる二代目だな。……まあ、そのどれもが父親を超越した力を持っている……ある意味安泰だが……他の支配者達にはもう少し責任感を持っていて欲しいものだな。自分が楽しむ為なら己の国を簡単に懸けるような奴らばかりだ』


「成る程ねぇ……」


 多少の熱を帯びたため息を吐き、鱗が纏わりついた長い首を振るドラゴン。

 ライはその話を聞き、確かにシヴァは自分の国を割りと簡単に懸けたなと考える。

 それどころか、一回の戦闘で宇宙を消そうとしたシヴァは戦闘になるの周りの事が見えなくなるタイプなのだろう。


「まあ、世界一有名と言っても過言じゃないなドラゴンさんが支配者なのは良いと思うけど……ドラゴンさんには息子とかいないのか? 龍族は長生きな種族だけど永遠って訳じゃない。跡継ぎがいなくちゃこの先の平穏を保つ事が出来なくなるかもしれない……」


 そんなドラゴンに向け、ライはこのまま跡取りがいなくても良いのかと尋ねる。

 最古参の支配者と言う事はそれ程の歴史を持っており、年老いているという事。

 つまり、後何年生きられるか分からないという事だ。


『まあ、居るには居るが……如何せん問題がある……義理堅く力も俺より強くて裏切り行為とかもしないんだが……心から自由を求める奴でな……"折角翼があるのに何故同じ国に留まり続けるんだ?"……とよく言っていた。その結果、数年前に外へ飛び立ち時折土産と共に顔を出すくらいだ。……孝行な奴ではあるがな……。後、ドラゴンさんは何か違和感があるからドラゴンだけで良いぞ。部下にも言っているが部下はさんや様を付けたがるのがな……』


「へえ……」


 始めに陰鬱そうに呟き、その後笑いながら話すドラゴン。

 子を持つ親の気持ちは分からないライだが、息子とやらの話をするドラゴンは嬉しそうだった。

 親戚以外に血の繋がりのある者がいないライは、何処か物寂しそうな表情でそれを見ていた。


「……」


 そして、そんなライに気付いたのは親戚すら居るか定かでは無いリヤン。

 今のライの目は、遠くのモノを見ているような、そんな目だった。


「「「…………」」」


 少し遅れ、レイ、エマ、フォンセの三人もライの目に気付く。

 特にエマとフォンセ、こちらの二人も血縁者が居らず、エマに至っては同種族の存在すら知らない。フォンセも親戚以外の親族が居らず、孤独だ。

 レイには両親が居るが、ライたちの気持ちは理解していた。

 孤独というものはそれ程に辛い事なのだろう。


『まあ、言う程問題では無いな。自由を求め過ぎる性格が何とかなれば支配者の器としても良いのだがな……国一つを治める者になるには責任感が重要だ』


「成る程ねぇ……」


 現支配者のドラゴンはその息子を跡取りにしたいらしい。

 しかし、息子の性格故にそう上手く行くものでは無いという事が伝わった。


『支配者様! たった今、魔族の国"マレカ・アースィマ"からマルス王とブラック様がやって参りました!』

 

 そしてある程度話していた中、一匹の龍兵士が魔族の国からマルスたちがやって来たと報告する。

 その様子はキリッとしており、気が引き締まっているのが犇々(ひしひし)と伝わってきた。

 

『ああ、ご苦労。そしてよくぞ来てくれました、魔族の国幹部の街出身の皆様』


「ハッハ……そう堅くならないで下さいよ。支配者さん。アナタの方が俺よりも圧倒的上位の存在なんですから……」


「はい。僕……いえ、私たちもアナタ様のお力になれて光栄です。何卒宜しくお願い致します」


 こうして役者は揃い、これからどのような行動に移るのか作戦会議? が始まろうとしていた。



*****



 ──"幻獣の国"・大広間。


 魔族の国、"マレカ・アースィマ"から移動用の魔法・魔術道具を使って幻獣の国へ飛んできたマルス、ブラック、サイフ、ラビア、シター。

 ヴィネラとカディルの姿が無い事から、その二人は留守番をしているのだろう。

 まあ、ヴィネラは子供にしてカディルは戦闘を行わない執事なので当然である。

 ライとマルスも子供だが、この二人は侵略者に一つの街の王。扱いは特別だろう。

 そもそも、まだライが侵略者という事は幻獣の国に明かしていないが、まあ良いだろう。


『皆、改めて話し合いをしようじゃないか。……今、幻獣の国はかつて無い危機に陥っているからな……!』


「……」


 真剣な顔付きで集まった者たちに言うドラゴンと、緊張した面持ちのマルス。

 ドラゴンの言っている事は大袈裟じゃなく、本当に幻獣の国が危機を迎えていた。

 マルスは支配者の直ぐ隣に居るという事で、緊張するのは無理も無いだろう。


「あー……キュリテちゃんとは魔族の国で別れたんだねぇ……寂しくない?」

「……まあ、勿論寂しいけど……キュリテは幹部の側近だからな。自由な性格だけど職務を放棄させる訳にはいかないだろうさ」


「クハハ、久々だなテメェら! 遂にこの時が来たようだ……!」

「フッ……相変わらず魔族という種族は暑苦しいな……」


「久々ね。今回も味方として協力するわ。宜しく」

「うん! 宜しく! シターさん!」


「ハッハァ! 俺たちが来たからにはもう大丈夫だ! 何たってブラックさんが居るからなァ!!」

「……そうか……」

「……そう……」


 そして、そこに集まったライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンとマルス、ブラック、サイフ、ラビア、シターの十人。

 その中では、ラビアとライ。ブラックとエマ。シターとレイ。サイフとフォンセ、リヤンが久々に出会ったので会話をしていた。

 勿論、ドラゴンとマルスを無視して。


「あの……皆さん……支配者様の話を聞きましょうよ……!」

『ハッハ! 賑やかで良いじゃないか。これから戦いを行うんだ。今のうちだけは気を緩めても問題無かろう……』


 マルスは焦りながらライたちとブラックたちに言い、ドラゴンは軽く笑ってその様子を眺める。

 ドラゴンは中々寛大な心を持っているようで、器の大きさがよく分かった。

 それからその場は収まり、ライたち五人とマルスたち五人、そしてドラゴンたち数匹が切り株の前に改めて集まった。


「……で、では、これから幻獣の国戦争対策会議を始めたいと思います……!」


 その話し合いを進める進行係は"マレカ・アースィマ"の王であるマルス。

 その事もあり、額から冷や汗がダラダラと流れ、目があちこちを泳いでいる。それはガチガチに固まっており心底緊張している様子だった。


「ハハ、マルス君大丈夫か……? 声が震えているけど……」


「は、ひゃい! 問題"あま"せん!」


 やはり緊張している。その場に居る全ての者がそう思った事だろう。

 返事のみならず言葉すら違和感を覚えるという、それ程の状態だった。


「……しゃーねェ……進行は俺がやっから、マルス王は意見を纏めてくれ」


「え、あ、はい。分かりました」


 そんなマルスを見やり、ブラックが頭を掻きながら提案する。

 マルスはそれを聞き、ホッと肩を落として席に着く。

 王とはいえ、マルスは特別な力の無い子供。世界を纏める四つの支配者のうち一つを前にするのは荷が重過ぎたのだろう。


「うし、じゃあ話し合いだが……もう既にあちこちで戦闘が行われているのはこの国にある街の破壊跡から分かる。ぶっちゃけ時間が勿体無いんで……手っ取り早く決めようと思う」


 マルスとは打って変わり、淡々と先に進めるブラック。

 ブラックはさっさと前置きを終え、ライたちとマルスたち、そしてドラゴンたちに視線を向ける。


「先ず……此処には戦力になる者が支配者の側近を含めて十人以上居る。戦争は個々の力よりも戦術やチームワークが重要視されるが、星一つを破壊できる攻撃には数千数万、数億程度の数は意味を成さないからな。それを俺と侵……いや、ライがその攻撃を放てるとして……取り敢えずこの人数を均等にチーム分けした方が良い」


 つまり、ライチーム、ブラックチーム、ドラゴンチームに分け、ニュンフェを含むその他の幹部たちも均等に振り分けるという事。


「ああ、それは俺も同意だ。けどそのチーム分けだが……チームは俺、ブラック、ドラゴン、そしてマルス君の四チームにした方が良いと思う」

「ぼ、僕ですか!?」


 ブラックの話を聞き、補足を加えるようにチームを一つ増やしたライ。

 それに対し、増えたチームのリーダーになりそうなマルスが驚愕したような表情で返した。

 当然だろう。非戦闘員のマルスがリーダーに抜擢ばってきされたのだ。困惑するのも無理は無い筈だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 確かに僕は王を勤めていますが……戦場を指揮する事など……!!」


 そしてそれに反論を言うマルス。

 そのチームのリーダーを勤めるという事は、その組織を全ての纏めるという事。

 即ち、リーダーの判断ミスでチームが全滅し兼ねない。

 リーダー一人に数百人以上の命が懸けられていると言えば事の重大さが分かるだろう。

 まだまだ子供のマルスが背負うには重過ぎるのだ。


「それに……僕は戦闘を行えません……!! 力も無いですし……僕よりも幻獣の国幹部の何方どなたかの方が……!!」


 必死になってチームのリーダーを勤める事は出来ないと話すマルス。この少年には、まだまだ他人の命を預かる事は出来ないのだ。


「……いや、マルス君だからこそだ。同じくらいの年齢の俺が言うのもアレだが、マルス君は現在の時点で一つの街を背負っている。マルス君自身が成長する為にもこの場でリーダーになって指揮を取り、この国を勝利へ導く必要があると思うんだ」


「……ッ」


 弱気なマルスに向け、経験を積む為にもマルスがリーダーとなってチームを治める必要があると告げるライ。

 マルスはそんなライに何も言い返せず、ただ黙り込んでいた。


「もしも、もしもだ。もしも仮にこの世界が今以上に争いが絶えなくなって"人間"・"魔族"・"幻獣"・"魔物"問わずに沢山の生き物が死んでしまう時が来るとする。その戦火は必ずマルス君たちの街にも来るだろう。その時王であるマルス君が確実な指揮を取らなければ悪戯に住人を死なせてしまうかもしれない……」


「……!!」


 仮定の話をするライと、それを聞いて息を飲むマルス。

 ライも世界を知っている訳では無いが、魔族の国で数々の戦闘を行ってきて集団戦に必要な事を学んだ。

 それと同時に、リーダーが弱気になったら最後、その組織は崩壊する事を推測して理解した。


「……けど……だからこそやはり僕には……」


 マルスはますます自信を無くし、"仲間の命"という名のプレッシャーが重くのし掛かる。

 そんなマルスを見、ライはニッと笑って言葉を続けた。


「大丈夫だマルス君。マルス君が思うよりマルス君は強い。俺と親戚だからな!」


「……!」


 その言葉によって、マルスの心から何かが解けた。

 それでも心臓の鼓動が激しく、動悸を起こしているがさっきよりは幾分マシになった事だろう。


「……分かりました。何処までやれるか分かりませんが……出来るだけやってみようと思います……!」


 呼吸を整え、大粒の冷や汗を流しながらライに向けて話すマルス。

 その様子から不安は払い切れていない様子だが、多少のやる気はみなぎっているだろう。


『フッ……良かったな。……さて、まだ話し合いは終わっとらん。次はそのチームに入るメンバー。この場所から何処の幹部の居場所まで行くか、その他にも多くの作戦を練るぞ……!』


 そしてそれを見届けたドラゴンは軽く笑い、改めて言葉を続けて話す。

 そう、チーム分け程度で話し合いが終わったらこれ程楽な事は無いだろう。

 敵の組織というものは、自分たちが思うよりも圧倒的に大きいのだから。

 こうしてチームリーダーが決まり、次にメンバー、その他諸々の作戦を練ってゆく事になった。

 そしていよいよ、ライたちが"そいつら"──ヴァイス、シュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフルにハリーフ達の居場所へ向かうのだった。

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