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二百十話 幻獣の国へ続く道中

 ──"幻獣の国へ向かう道中"・宿屋前。


「……では、早速話をしましょうか……」


 ローブを取り、美麗な髪と顔を晒したその者はライに向けて話す。それを見たライは肩を竦ませ、軽く笑って言葉を発する。


「オーケー……けどアンタ……人間っぽい見た目だけど人間じゃなかったんだな。その髪に顔……それらは人に近いんだけども……その尖った耳……エルフ族か」


 それは、その者の種族について。

 ライは薄々気付いていたらしいが、その者は人間や魔族ではなかった。

 特徴的な耳があり、それからエルフという事が即座に理解出来たのだ。


「はい。私はエルフ族の『ナトゥーラ・ニュンフェ』と申します。貴方のお名前を聞かせてくれませんか?」


 ローブを纏っていたその者──ナトゥーラ・ニュンフェ。

 ニュンフェは己の名を言い、ライに向けて名前を尋ねた。


「……ライ・セイブル。何処にでも居るしがない旅人さ……」


 それを聞いたライは世界征服を目論んでいる事を伏せ、ニュンフェに向けて告げる。


「しがない旅人があの構えを……にわかには信じられませんね……」


 ニュンフェはライの名と行動を聞き、ライの動きからただの旅人では無いと推測した。

 ライの構えは死角から攻められたとしても対応できるような、そんな構えだったからだ。


「ハハ、少し武術をかじっているだけさ……そんな事よりも、何でアンタは俺たちに話し掛けて来たんだ? それを知りたい」


 そんなニュンフェの言葉を聞き、ライは腕を組みながら小首を傾げて質問する。

 幻獣の国関係の事なのだろうが、それが何なのか定かでは無いからだ。


「分かりました。……えーと……貴方たち……さっき幻獣の国へ行きたいと言っていましたね?」


「……? ああ。その言葉に嘘偽りは無い」


 先ず確認の意味を込め、ニュンフェはライに向けて幻獣の国へ行きたいと言ったかを尋ねる。

 それに対し、ライは訝しげな表情を取りつつも頷いて返した。


「今、幻獣の国は攻め込まれ戦争を行っていると理解していますか?」

「ああ、理解している」


 次にニュンフェは戦争に付いて尋ね、ライは即答で返す。

 一つの国が攻められているという事もあり、新聞や魔法・魔術の伝令で広がっている事なので詳しくは知らなくとも、ライはおおむね分かっていた。


「……。……では本題です……『貴方は何故、そんな危険な場所に行こうとしているのですか』?」


「……成る程ね……」


 それを聞いて一瞬黙り込んだニュンフェは、ライに向けて何故その国へ行こうとしているのかを尋ねる。

 そうニュンフェは、ライたちの目的について詳しく知りたかったのだ。


「見たところ……貴方は魔族ですが幻獣では無い。そして幻獣の国では暴れ回っている中には魔族の国、幹部の側近を勤めていた者がいます……。……貴方は、新たに幻獣の国へ送り込まれた刺客ですか?」


「……」


 そして、ニュンフェはライを新たな刺客と思っているようだ。

 ライはその魔族に心当たりはあるが、ライが仲間という訳ではない。

 しかしニュンフェは、戦争中の危険な場所に軽装で行くのは明らかにおかしいと考えたのだろう。


「それって……俺を疑っているのか? 俺がそいつらの刺客で、幻獣の国を落とそうとしているって……?」


「ええ、疑っています。それもかなり」


 それを聞いたライはニュンフェへ尋ね、ニュンフェはハッキリ疑っていると告げた。

 此処までハッキリしていると寧ろ清々しい。しかしエルフは幻獣の国の一員。怪しい者は倒すというのが自分のルールなのだろう。そこまで話を聞き、明らかに疑われているライはクッと笑い、


「そうだ。……って言ったらどうする?」


 そう言い放った。


「貴方をこの場で滅ぼします……!」


 その刹那、ニュンフェは何処からか弓矢を取り出し、常人の目なら追う事の出来ない疾風のような速度でライの背後に回り込んで弓矢をライの首元に向けた。


「……おーおー……恐ろしいねぇ……」

「……真偽の程はどうですか?」


 それを目視したライは視線を背後のニュンフェに向け、飄々とした軽い口振りで挑発するように言う。

 ニュンフェは依然として弓矢を構えており、今直ぐにでも矢を放てる体勢となっていた。

 無論、ライは刺客などでは無いのだが、ニュンフェの実力を見る為に挑発するような返事をしたのだろう。

 ニュンフェはそれに乗ってしまい、何時でもライを射抜ける状態である。


「勿論"偽"だ。俺は無闇な殺生を行わない。まあ、戦争を吹っ掛けるとかは……まあうん……それはそれ」


「……?」


 そんなニュンフェに対し、ライは刺客じゃないと言い放つ。

 戦争を吹っ掛ける事はあったりなかったりするが、幻獣の国へ攻め込んでいる刺客じゃないのは事実だ。


「妙な間がありましたが……それは良いでしょう……。……だったら何故幻獣の国へ?」


 ライの返答を聞き、首を傾げつつ続けて質問をするニュンフェ。

 刺客じゃないのならば、わざわざ戦時中の幻獣の国へ行く筈が無いと考えているのだろう。


「……そうだな……」


「……」


 その質問に対し、ライは……。


「──戦争を止める為……かな?」


 そう答えた。


「……へ?」


 その答えに対し、思わず固まるニュンフェ。

 当然だろう。刺客という事をほのめかせるような答えを言った直後に戦争を止めると告げたのだ。

 それを聞けば誰だって固まるに違いない筈である。


「…………。ふふ……おかしな人ですね……一体何を言っているのでしょうか……」


「……いや、本当にそう思っているんだって(……まあ、征服するつもりだけど……)」


 暫くしてニュンフェは笑い、弓矢を畳んで自分の背中に戻す。

 ライは一応本心だと告げ、改めてニュンフェの方を向いた。


「……まあ良いでしょう……貴方の目を見る限り、悪い人では無さそうです……。何かを企んでいるような顔ですけど……まあそれはそれとしましょう」


「……ハハ」


 そしてライを見るニュンフェは、ライが悪党や刺客のような者では無いと分かった。

 まあ、世界征服を目論むライが悪党では無いのかと言われてみれば微妙なところだが、ニュンフェはライが何か企んでいる事を理解しているみたいである。

 流石に世界征服をしようとしている事は見抜いていないが、流石の洞察力だろう。


「さて、単刀直入に言いましょう。私が貴方を幻獣の国へ案内しましょうか?」


「……え?」


 その時、唐突にニュンフェはライへ向けて幻獣の国へ案内すると言い放った。

 それに対してライは思わず素っ頓狂な声が漏れ、"?"を浮かべてニュンフェを見やる。


「幻獣の国へ案内するって……確かにアンタ……いや、貴女は此処の宿によく通っている常連のようだけど……幻獣の国の場所が分かるのか?」


 ライが気になった事、それは幻獣の国の場所がニュンフェは分かるのかという事。

 ライはこれから宿を出、ライ、レイ、フォンセ、リヤンよりは詳しいであろうエマに尋ねて幻獣の国へ行こうとしていた。

 しかし、たった今知り合ったばかりのニュンフェがライたちを案内したとして、エルフ族とはいえ幻獣の国に詳しいのかが気になったのだ。

 それを聞いたニュンフェはフッと笑い、悪戯っぽくライに向けて言葉を発した。


「……ふふ、何を言うのですか……『"幻獣の国"幹部の私』が"幻獣の国"までの道を知らない訳が無いじゃないですか♪」


「………………………………は?」


 "幻獣の国"・幹部のナトゥーラ・ニュンフェ。

 それが彼女の本職だった。

 ライは二度目となる素っ頓狂な声を上げ、信じられないような目でナトゥーラ・ニュンフェを見るのだった。



*****



 ──"幻獣の国"・道中。


「へえ。ニュンフェさんって幻獣の国の幹部だったんですか。しかもエルフ族の……何故あの宿に?」


「はい、私はエルフ族の幹部です。あの宿に居た理由は……まあ、暇潰し……とでも言って置きましょうかね……」


 ライたちが宿泊していた宿に居た、謎のローブを纏う者。

 その正体はエルフ族にして幻獣の国の幹部、ナトゥーラ・ニュンフェだった。

 ライはレイ、エマ、フォンセ、リヤンにそれを言い、ニュンフェと共に幻獣の国へ向かっていた。

 その道中、レイは興味津々でニュンフェと話をしている。

 エルフ族と言うものは高貴な種族。その中でも上位の立ち位置に居る者が目の前に居るのだから当然だろう。

 辺りは木々や草花に囲まれた穏やかな道で、爽やかな風が吹き抜け、雲一つ無い青い空がライたちを見下ろす。

 旅の途中だとしても、少しのんびりとくつろぎたい道中だった。


「良い場所だな……ニュンフェさんは良く来るんですか?」


 両腕を頭の後ろにやり、両(てのひら)で頭を押さえながらゆったり歩くライはニュンフェに向けて尋ねる。

 元々自然が豊富な幻獣の国の近くだからか、空気の違いというモノがハッキリと分かるこの道。

 幻獣の国を知る為にもライは尋ねたのだ。


「……ええ、そうですね。気持ちの良い道でしょう? 私たちは心の底から自然を愛する種族。此処のみならず自然の多い場所には良く行ってました。……あと、敬語で無くとも結構ですよ? 先程までは敬語じゃなかったのですから」


 そんなライの言葉を聞き、ニュンフェは頷いて返す。

 エルフ族は本人の言うように、自然を好む種族。豊かな土地には興味があるのだろう。


「あ、そうですか。……じゃあ改めて……それにしても"良く行ってました"……って事は……最近はあまり行かないのか?」


 それを聞いたライは一つの事が気に掛かり、その事をニュンフェに尋ねる。

 それはニュンフェの言葉。"自然の多い場所には良く行ってました"という部分。

 良く行っていたと言う事は、今はもう殆ど行っていないと言う事である。それを聞かれ、ニュンフェは肩を竦ませて言葉を続ける。


「……はい。……とはいっても、行かなくなった……というより出歩きにくくなったのはつい数日前からです。戦争中の現在、幻獣の国にて最高戦力である幹部が自由に行動するのはご法度。そもそも、私があの宿に居た理由は外からやって来るかもしれない刺客を迎え撃つ為なのです」


「……へえ……」

「「…………」」

「「…………」」


 苦々しくライたちに向けて話すニュンフェ。

 つまり、ライたちを怪しく思ったのは幻獣の国を攻めているうち、魔族の幹部。その側近が居たからこそ、魔族のライ、フォンセを怪しんだのだ。

 それに加え、人間・魔族の天敵にして上位の魔物であるヴァンパイアも居る。四方八方から攻められている者たちからすれば危険極まりないだろう。


「……で、俺たちが"シロ"だったから俺たちから手を引き、あの宿には他に怪しそうな者が居なかったから幻獣の国へ方向に行こうと動き出した。そしてついでに幻獣の国へ用があるって言う俺たちを案内しようって事ね」


 ニュンフェの説明を聞き、それを理解したライは脳内を整理する為にも口に出して現在の状況を言った。


「はい、理解が早くて助かります。中々頭のキレる方と見受けします……」


「……ハハ、無い無い。頭の良い奴は先の先の先まで理解しているような奴さ。俺はさしずめ……若いから理解力があるに過ぎない……かな?」


 そんなライの理解力に感心するニュンフェと、手を振って否定するライ。


「あ、そうだ。今の戦況ってどうなっているんだ? 新聞や伝達魔法・魔術を見る限り幻獣の国が押されているような事を言われているけど……」


 次いで、もう一つ気になったライはニュンフェに尋ねるように質問した。

 それは幻獣の国、現在の戦況について。

 ライは宿に泊まる時、部屋にあった新聞を読んで幻獣の国が押されていると推測した。

 だから隣国の魔物の国や魔族の国、人間の国に支配者自らが助けを請うたのだろう。

 再び肩を竦め、眉を顰めたニュンフェは更に言葉を続けて話す。


「現在の戦況は支配者、幹部で幾つかのチームを作り、そのチームに腕の立つものを組み込んで迎え撃つ体制に入っています。戦闘能力の少ない幻獣たちは各々幹部の街に集まり、側近たちが何とか堪えている状況ですね……。私が直ぐに戻ろうとしたのは戦力の幹部が一人でも抜けると手痛いから……だから早く戻りたいのです……」


「……ふぅん……戦況は不利……か……」


「……ッ」


 詳しい状況を話さなかったニュンフェだが、作戦と行動は分かった。

 そしてそんな風に話すニュンフェの表情から、ライは中々不利な状況に陥っていると推測する。


「……アナタたちは決して悪人じゃないと思いたいですが……やはり……」


 そして、ニュンフェは本心をライたちに告げた。

 敵意は無く、ライたちが刺客じゃないと理解しているのだが、幻獣の国の現在の状況からどうしても疑ってしまうのだろう。

 それに対し、ライは口を開いて返す。


「安心してくれ、俺は本当にそいつらの刺客じゃない。そいつらには色々と借りがあるからな……その借りを返す為に幻獣の国へ向かっている……」


「……借り……?」


 ライが言った事は事実である。

 その主犯者はライたちと知り合いであり、それなりの因縁を持っている。ライはそれをニュンフェへに話したのだ。

 そして、それを聞いたニュンフェは訝しげな表情で"借り"についてライへ尋ねる。

 ライはニュンフェを一瞥し、言葉を続けた。


「ああ、そいつらの掲げる目標さ……。俺はそれを阻止する為に幻獣の国へ用があるんだ」


「……」


 ライの知る"そいつら"が掲げる目標。全ての生物で優秀な者だけを残し、残りを全て絶滅させるモノ。

 ライの掲げる世界征服と似ているが、大量虐殺が起こると言う点からしてライたちの目標から遠く掛け離れている。


「……その……"そいつら"とやらが掲げる目標と言うのは……?」


 それを聞き、訝しげな表情を更に深めて尋ねるニュンフェ。

 ライはニュンフェを見、続けて話す。


「……それは幻獣の国に着いてからで良いか? 多くの者に伝えた方が良いからな」


「……」


 しかしニュンフェにそれを話さなかった。

 それを聞くと同時に、自分の国を愛しているニュンフェは慌てて駆け出してしまうだろう。

 慌てた場合、上手く行くモノも行かなくなってしまう。

 幻獣の国の幹部だからこそ、ニュンフェには冷静でいて欲しいのだ。


「分かりました。それに、もう着きましたから……後はゆっくり……は、無理だとしてもサクサク話を進めましょう」


 それを聞いたニュンフェは落ち着き、納得したように返す。

 そして遠方を指差し、幻獣の国へ辿り着いたと告げた。


「おお、此処かぁ!」


 その光景を見、ライは感嘆のため息を吐いて話す。

 遠方からしか見えないが、自然の豊富さ、そして流れる滝や川。

 それらを見、素晴らしい国なのだと理解したからだ。

 そうして、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人と幻獣の国、幹部のナトゥーラ・ニュンフェは幻獣の国へ辿り着いたのだった。

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