二百八話 魔族の国・征服完了・仲間との別れ
──"???"
「…………」
目が覚めると、ベッドに横たわるライの視界には見知らぬ天井があった。
ライは無言でベッドから起き上がり、辺りを見渡してその様子を確認する。
気温は常温。暑過ぎず寒過ぎず、一定の温度を保っている。
身体に異常は無く、傷も痛みも無い。記憶は正しく、何がどうなったのかは理解していた。
(確か……)
ライはシヴァと戦っており、魔王の力を十割纏ったライと第三の眼を開眼させたシヴァは銀河系サイズの惑星から飛び出し、シヴァの創った星から数兆キロ離れた場所で戦闘を行った。
そして最終的にシヴァは宇宙を消し去る攻撃を放ち、ライは魔王の力を十割纏った拳でそれを防いだのだ。
(……で、誰かが俺を見つけてこのベッドに運んだ……。……!! そう言えば……レイたちは無事なのか!?)
ライの脳内は整理が付き、その思考はレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、そしてシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドへ行き着く。
慌てて飛び出しそうになったライだが何とか踏み留まり、ゆっくりと起き上がって身体の調子を確認する。
(問題無く動く……まあ、回復魔法・魔術があれば死んでいない限り治るからな……けど、やっぱりレイたちが心配だ……!!)
身体の動きを確認し終えたライはドアに手を掛け、そのドアを開けた。
ギィと木の軋む音が鳴り、部屋よりも冷たい空気がライの身体を冷やす。この事からこの場所は冬の気候という事が分かった。
(此処は"ラマーディ・アルド"なのか? いや、もしかしすると全く別の場所かもしれない……というか此処は何処だ? こんな部屋は見た事無いし……)
一旦廊下に出たライは、部屋の出入口から自分が寝ていた部屋を見、記憶に無い部屋と考える。要するに、この場所は初めて来たという事だ。
部屋の窓から外を見るが、部屋の気温と外の気温の差からか窓は白く曇っており、外の景色が分からなかった。
窓を拭いて見ても良いが、今は何よりレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテたちを探すことが優先である。
(まあ、適当に見て回るか……情報は自分の足で探した方が良いしな……レイたちは俺が探して見つかる場所に居るんだろうか……)
【……お、良いじゃねェか! 俺もずっと寝ていたお前の中は退屈だったからな! 丁度良い!】
(……あ、居たのか……)
ライがレイたちの事を探そうといざ歩き出そうとしたその時、何時ものように軽薄な声で話し掛ける魔王(元)。
ライは寝惚けていたからか魔王(元)の存在を忘れており、話し掛けてきた魔王(元)に対して素っ気ない態度で話す。
(……? ずっと寝ていた……?)
そしてライは、そんな魔王(元)の言葉に違和感を覚えた。
それは魔王(元)の言った──"ずっと寝ていたお前の中は退屈だった"。と言う言葉。
(それってどう言う事だ? ……つまり、何だ。……俺は暫く寝ていたって事か?)
ライは態度を改め、魔王(元)に向けて質問するように尋ねた。
"ずっと寝ていた"と言う事は、"少しの間起きていなかった"という事。
数時間ならば流石の魔王(元)も何も言わない筈だが、魔王(元)が痺れを切らしているという事は確実に二、三日は寝てしまっているだろう。
【あー……まあ、そうだな。テメェが起きないから何があったかは知らねェが、取り敢えずテメェは結構寝てたぜ】
(へー……てか、俺の意識と魔王の視覚は繋がっているのか……)
そして、そんなライの質問に応える魔王(元)。
ライの予想は当たり、ライは暫く寝ていたらしい。
魔王(元)の居る場所はライの心の奥。そこからはライが意識を持たなければ外の様子を見る事が出来ないという事を初めて聞いた。
(まあ、それは良いとして……じゃあ誰が此処まで俺を運んだんだ……? 支配者を倒し切れなかったのか……? ……いや、それとも……)
「あ、ライ! 起きたの?」
「……え?」
そして、そのような思考を続けるライに向けて一人の少女が駆け寄ってきた。
ライはそちらを向き、仲間であるレイ・ミールの姿を捉えた。
レイは手にタオルや着替えなどを持っており、寝ていたライの部屋へ行こうとする途中だったらしい。
「レイ!? ああ、良かった! 無事だったのか!」
「きゃっ!?」
そんなレイの無事を確認し、思わずレイに抱き付くライ。
レイはビックリしたような表情になり声を上げる。
突然抱き付かれたのが恥ずかしいからかレイの頬は紅潮しており、両手をわたわたと動かしていた。
「……え、えーと……。……と、取り敢えず皆も居るから……ライも皆の所に行こ?」
そんなレイは冷静になり、ライに向けて全員の場所に行くよう促す。
レイの言葉から推測するに、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテや側近たちも無事という事である。
「……ん? ああ、そうだな! 早速行くとしよう!」
レイに言われ、レイの身体から己を離すライ。
ライは一先ず、レイたちの無事を確認出来たので気を取り直してレイに返す。
「そういやレイ。此処は何処なんだ? 気候的には"ラマーディ・アルド"と同じだけど……」
そしてレイの案内によって全員が待っているという場所へ向かう途中のライは、レイに向けてこの場所は何なのかを尋ねる。
支配者の街──"ラマーディ・アルド"。その街と同じ気候という事と廊下から見える外の景色からでもこの場所が何処なのか分からないが、レイなら何か知っていると考えたのだ。
「……うーん……結構ややこしい……って程じゃ無いんだけど……纏めて説明するから皆の居る場所で話した方が良いかな? ……って思ってね。その方が色々と話も進むからねぇ」
「ふぅん?」
レイの説明を聞き、相槌を打つライ。
"皆"という事は、その場所に全員が居るという事である。
そして、話が進むと言う言葉の意味はライがこの場に居る経緯やレイたちがどうやってシヴァの創った銀河系サイズの惑星から戻って来たのか……についてだろう。
「あ、着いたよ! 此処を見ればこの場所が何処なのか分かるよ!」
「……。成る程。確かに分かった……じゃあ、あの部屋はこの場所の一室だったって事だな」
レイの案内によって歩き続けたライ。
そんなライは、この場所が何処で何なのかを理解した。
レイに言われた場所は王室のようで、奥の方に玉座が見える。
そしてライはその景観に見覚えがあった。
「支配者が居た部屋……じゃあ、此処は支配者の住んでいる家か……まあ、城って言った方が近いけどな……」
そう、此処は支配者の街"ラマーディ・アルド"。この場所は、シヴァの住んでいる城だったのだ。
しかし暗い雰囲気だった部屋には明かりが点っており、真ん中に長机、そして人数分の椅子が置いてあった。今が朝か昼か分からないが、朝食か昼食を摂っていたのだろう。
その証拠に机には九枚の皿が置いてあった。
それを見る限り、ここ暫くこの城で生活をしていたようだ。
しかし皿の枚数を見る限り、シヴァもまだ此処にはいない様子である。
「あ! ライくーん! 起きたんだね!」
「お、ライ。おはよう。よく眠れ……ていたな」
「二、三日は目が覚めなかったからな。しかし起きたのは何よりだ」
「あ……おはよう……」
ライがその部屋に入るや否や、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテがライに話し掛けてくる。
彼女らはキュリテ、フォンセ、エマ、リヤンの順で話、全員がライを囲むように立つ。
エマたちは安心したような顔をしており、心底ライを心配していたようだ。
「ああ、おはよう。……挨拶が"おはよう"って事は、今は朝か……支配者はまだいないのか?」
そんなエマたちに返し、今の時間を知ったライは辺りを見渡してシヴァの姿を探す。
しかしライが二、三日寝ていたという事は生きていればまだ目覚めていないだろう。
もしくは、宇宙を破壊するビッグバン。それを破壊したライの拳によって生じた衝撃で死んでしまった可能性もある。
しかし安否を知らないのは戦ったライ的にも気になるので尋ねたのだ。
「……ああ支配者か。まだ寝ているな、多分。思った以上にライの攻撃が強過ぎたみたいだ」
「……へえ。……まあ、生きているなら良かった。俺の征服は力に物を言わせたモノじゃないからな……。最終的には戦闘を行ったけど……」
そんなライの質問にエマが答える。どうやら支配者は生きているらしく、その事に一安心のライ。
宇宙を破壊するビッグバンを破壊するライの拳の衝撃。
それを受けても生きているというのは流石の支配者と、称賛に当たる事である。
「……じゃあ、早速で悪いけど……俺と支配者はどうやってこの場所に運ばれたんだ? それを教えて欲しいんだけれども……」
そしてレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人と共に席へ向かったライは座り、その経緯を尋ねた。
取り敢えず今、ライが最も気になっている事は誰がどのようにして此処までライとシヴァを運んで来たのかという事。
ライとシヴァが戦っていた場所はシヴァが創った世界の、その宇宙。
宇宙空間でも行動出来そうな者は、不死身のエマか超能力者であるキュリテくらいだろう。
リヤンが酸素が無くとも行動出来る幻獣・魔物の能力を使えたなら行けるかもしれないが、リヤンに宿っているエマの不死身性は完全では無い。宇宙に漂う様々な物質によって死に至るだろう。
「……えーと……じゃあ、ライ君には私が説明するよ!」
ライの質問に対し、次に応えたのはキュリテ。
キュリテがあれから起こった諸々の事を説明してくれるようだ。
「お、そうか。頼んだ、キュリテ」
そんなキュリテに対し、ライは軽く笑みを浮かべて話す。
ライの返答を聞き、椅子に座ったキュリテは言葉を続けて話した。
「……えーと……先ず、私たちの氷は気付いたら溶けていたかなぁ? 多分支配者さんが創った絶対零度だし、支配者さんが倒れたから溶けたんだと思う」
「ふむふむ……」
まず始めに説明したのは、レイたちの身体が氷から解き放たれた時の事。
その絶対零度はシヴァの意思と連動しており、シヴァが倒れてたので効果が消えたと言う。
いや、"シヴァの意思と連動している"と言う言葉には少し語弊があった。
正しくはシヴァの意識に関係無く絶対零度は続くが、シヴァが倒れた事によってシヴァと絶対零度の間にあった魔力が消え去り、創り出されてから数分も経っていなかった絶対零度は消えたという事である。
シヴァの創造する力は、この世に留まった時間が長ければ長い程その形を保ち続ける。
要するに、創造されてから経過した時間が少なかった絶対零度はその形を留める事が出来ずに消滅したとの事。
「……そしてね、凍ってから数分しか経っていなかったから直ぐに身体は動いたの。だから私が"千里眼"でライ君と支配者さんの姿を探して、"テレポート"で移動したって訳。……まあ、支配者さんは身体がバラバラだったから"ヒーリング"を使っても中々戻らなかったのが大変だったねぇ……。完全に死んじゃった訳じゃないから支配者さんは無事だったの」
「……で、補足を入れればシヴァの意識が無くなった事で銀河系サイズの惑星も消え、気付いたら"ラマーディ・アルド"のこの城に居たって事だ」
キュリテが淡々と説明し、それに補足を加えて説明するエマ。
シヴァはバラバラだったらしいが、キュリテは何とか再生させたと言う。
流石のキュリテも死者を蘇生する事は出来ないが、生きているのならば"ヒーリング"でどうとでも出来る。
放っておけばライやシヴァが死んでしまっていただろうが、キュリテが間に合ったので二人は助かったのだ。
草原が広がっていた銀河系サイズの惑星もシヴァの意識と共に消えたらしい。何とも不思議なモノである。
「……成る程な。だから俺たちは無事だったって事か……」
二人の説明を聞き、納得したように頷いて返すライ。
あらゆる要因が奇跡的に噛み合い、都合良く事が進んだのでライたちは運が良かったのだろう。
「まあ、にわかにはシヴァさんが負けたってのは理解出来ねェ……したくねェけどな。こんなガキにやられちまうとはよ」
「ふふ、ズハル。敗北を認めましょう。私たちは負けたのです。そして彼らが勝った。ただ、それだけです……」
ライ、エマ、キュリテの会話を聞いていた支配者の側近──ズハルとシュタラ。
二人は優雅に紅茶か何かを嗜んでおり、ズハルは信じられないような表情をしていた。
「……まあ、分かるよ。ズハル。俺もヴァンパイアに負けるとは思っていなかった……反則だろ、あの再生力……」
「私もー。あんな女の子に負けるなんて……私より数百歳くらい年下じゃない?」
それに続くよう、ウラヌスとオターレドも話に参加した。
支配者の側近たちはシヴァもそうだが、自分たちの敗北も認めたく無い様子だ。
自分たちの事を言っているのはウラヌスとオターレドだけだが、ズハルの表情を見るに悔しさは感じているらしい。
しかしシュタラは特に悔しがっている素振りを見せないので気にはしているが達成感はあったのだろう。
「ハハ……まあ、その心情は分からなくも無いけど……俺だって二、三日寝込んだんだ。完全な勝利とは言えないさ……」
そんなシュタラを除いた三人をフォローするかのように話すライ。
しかしそれはライの本心であり、事実である。
そう、ライはシヴァのビッグバンによって大怪我をした。
最終的にはそのビッグバンを拳一つで消し去りシヴァよりも早く目覚めたのだが、ライ的にはイマイチなのだろう。
「……ハッ、うちの大将を倒してそれを言われちゃ皮肉にしか聞こえねェな。テメェは間違い無く、現在の魔族では最強の存在だよ侵略者」
それを聞いたズハルは容器の飲み物を飲み干し、机にコップを置いて笑いながら話す。
ライは謙虚なのだが、だからこそズハルにとっては皮肉にしか聞こえなかったのだろう。
「ハッハッハ! 全員揃って何よりだ! まあ、何だ。取り敢えず腹減ったから飯持ってきてくれ飯!」
「「「「…………え?」」」」
「「「…………は?」」」
「「…………えぇ?」」
その時、高らかな笑い声と共にその者が現れた。
身体中には所々再生し切れなかった傷の痕があり、相変わらず陽気なその者──支配者、シヴァ。
シヴァは目が覚めたのか、なんの前触れも無くライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテとシュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの前にその姿を現したのだった。
*****
「それで、これからどうするんだ? テメェらは? 取り敢えず支配者である俺を倒したって事はテメェらの目的は一先ず完了って事だろ? これで晴れて魔族の国を征服したって事だからな」
「ああ、そうだな。……まあ、これを食べ終わったら直ぐに発つつもりだけど……」
そしてライとシヴァは少し遅めの朝食を摂っており、シヴァがライにどうするかを尋ねた。
それに答えるライは直ぐに出発すると告げる。
それと同時にパンを口に運び、コップに入った紅茶を飲み込む。
紅茶からは湯気が出ており、ホットという事が見て取れた。
今朝の朝食はパンと紅茶。そしてスクランブルエッグにベーコン、サラダと、平均的な朝食である。
しかし使っている素材が違うからか、一味違った味わいを楽しめた。
「直ぐに発つ……ねェ? ……て事は、もう次に何処へ行くか決めているって事か?」
パンをちぎり、ライの方へ視線を向けて話すシヴァ。
話終えるとそのパンを口に含んで噛み、飲み込んだ。
「ああ。次は"幻獣の国"だ。……てか、結局アンタはこの国が征服されたって事を理解しているのか?」
そんなシヴァの言葉に返し、スクランブルエッグを食べるライ。
しかしシヴァの様子から魔族の国を征服したという実感が湧かなかった。
それを聞いたシヴァはクッと笑い、コップのホットティーを飲み干して言葉を発した。
「当然だ。第三の眼を開眼させ、宇宙を破壊するつもりで放った攻撃もその拳一つで防がれちまった。……悔しいが、俺の完敗だ侵略者……いや、ライ・セイブル。新たな支配者……に、なるつもりは無さそうだがな」
シヴァの敗北を認める発言。
コップに口を当てていたライはコップを降ろし、フッと笑って言葉を続ける。
「……ハハ、そうだな。俺は支配者にはならない。世界征服をするつもりではいるけどな……」
そしてコップのホットティーを飲み干し、パンやスクランブルエッグ、ベーコンにサラダを食べ終えたライは立ち上がった。
「そうかい。……じゃ、此処でサヨナラって事だな。ライにも何かと色々あるみたいだが……幻獣の国は今戦争中ってのは知っているよな? 数日前に突然攻めて来た奴らが居るらしいが……テメェらと違って無差別に破壊行為を行っているらしい。結構強いんで……無差別行為を阻止する為に色んな支配者が呼ばれてんだ」
立ち上がったライを見、シヴァは真剣な顔付きで幻獣の国の現在を話す。
ライもその事は知っており、主犯も誰なのか理解しているが、一つの事が気に掛かった。
「支配者が呼ばれている……? 招集されているって事か……それは初耳だ。けど、それを行っているのは誰なんだ? もしかして……」
それは支配者を招集しているのは誰か……という事。
支配者はこの世界に置いて絶対的な強さを秘めており、最強の存在。
今回戦ったシヴァも、魔王の力を纏ったライに大打撃を与えた。その事から、かつての魔王に等しい力を持っているという事は事実である。
そして支配者は唯我独尊の自由の身。者によっては暇潰しで一つの街を破壊したりもするという。
要するに、そんな支配者を招集するのは支配者以外あり得ないという事。
「ハッハ……ああ、ライ。テメェが考えているように幻獣の国の支配者が招集している。普通は自分の力で何とかするもんだが……まあ、さっきも言ったように侵略者が中々の奴等らしいからな。やむを得ず……って事だろ」
「……ふうん? それで、アンタは行くのか?」
立ち上がり、出入口付近に立つライはシヴァに向けて話す。
シヴァの話を聞いて何が起こっているのかある程度理解したが、シヴァがそこへ向かうのかどうか気になった。
「……そうだなァ……強ェらしいから戦ってみてェが……生憎今はこんな状態……魔法・魔術で治療は終えているがどうにも身体の調子が良くねェ……第三の眼を開眼させた疲れもあるし……傷が完全に癒えたら行くかもしれねェが今は無理だな……」
「……そうか」
曰く、ライとの戦いが想像以上に激しかったので本調子じゃないと言う。
争い事が好きなシヴァが参加出来ないのは本人的に残念そうだが、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの目も光っている。強行突破出来そうにも無いだろう。
「……じゃあ、またな。支配者のシヴァさん。俺はもう行く」
「オゥ、達者でな」
そしてその場からライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン……そしてキュリテが立ち去り、シヴァ、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドのみが残った。
「……シヴァ様……本当に宜しいのですか?」
「あ? 戦争に参加しなくて良いのかって事か? そこまで言うなら「違います」……おう……」
そんなシヴァへ向け、シュタラがシヴァに尋ねる。シヴァはふざけるが、シュタラによって一蹴された。
「……まあ、大丈夫だろ……『キュリテの奴』もな……永遠の別れって訳じゃねェし……ちょっと離れるだけだ……」
そう、シュタラが言ったのはキュリテの事。
キュリテがライたちの旅に着いて来た理由は魔族の国の案内の為。
つまり、ライたちとキュリテは此処でお別れである。シュタラはその事について気に描けていたのだ。
「取り敢えず俺は少し街を見て来る。城は任せたぜ……」
「「「はい」」」
「お任せを……」
朝食を終えたシヴァは立ち、シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドに向けて告げた。
四人はそれに返しそれ以上は何も言わなかった。
*****
──"ラマーディ・アルド"・出入口。
「……ライ君。レイちゃん。エマお姉さま。フォンセちゃん。リヤンちゃん。此処でサヨナラだね……」
「……。……ああ、そうだな……」
城から出て数分。城と出入口の距離は然程離れていないのだが、それ程の時間が掛かった。
理由は言わなくとも良いだろう。思うように脚が動かずそのくらい掛かったに過ぎないのだから。
「「……」」
「「……」」
「「……」」
辺りに沈黙が広がり、ヒュウと冷たい冬の風がライたち六人の身体を撫でる。
冷たい風は何時もより冷たく、冬の気候に相応しいものだった。
周りに魔族の姿は無く、その場に居るのはライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンキュリテのみ。
霜が足元を覆い、白く染まった。そして白く染まった六人の息。沈黙が広がる中、キュリテは笑顔を作って口を開いた。
「……じゃあ、またね♪ 短い期間だったけど、ライ君たちとの旅は楽しかったよ♪」
「「……」」
「「……」」
「……」
笑顔を作って片手を振り、別れを告げるキュリテ。
その目にはうっすりと赤い涙が浮かんでおり、その涙はルビーのように透き通る赤だった。
「……ああ、俺も楽しかったよキュリテ。数日間。キュリテは頼もしかった魔族の国について色々教えて貰ったし……別れるのは辛いさ……。じゃあ……またな!」
「……私も……ありがとうキュリテ。そう言えば……キュリテと一緒に戦った事もあったね……寂しいけど元気でね!」
「……ふふ、貴様にはイラつく事が多々あった……しかし、いざ別れるとなると名残惜しいものだな……サヨナラだ」
「同じ種族が旅から外れるのは思うところあるな……それに、何度か共闘もした……やはり寂しいんだな……別れるというものは……また何時か会おう」
「……えーと……仲間になったタイミングは私と同じくらいだし……私に良くしてくれたから寂しいな……けど……ありがとう。じゃあね、キュリテ……!」
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンは順にキュリテへ礼を言い、うちレイとリヤンは涙を浮かべる。
しかし、これは何れ来るもの。生きている限り何処かで出会う事があるだろう。
最後にキュリテは涙を光らせ、最高の笑みを浮かべて一言。
「じゃあね♪ 皆!」
「「……ああ」」
「「うん……」」
「……また何時か……な……」
ヒュウ。と最後に強い風が吹き、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの髪と服を勢い良く揺らした。
それに煽られ、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は足を一方踏み出した。
「……ライ君……皆……サヨナラ……。……エマお姉さまのくれた"ライラック"の髪飾り……大切にするよ……」
何時かエマがキュリテに渡した花の髪飾り──"ライラック"。
"ライラック"の花言葉、エマがキュリテに教えたのは"思い出"や"無邪気"。
そしてもう一つ。それには花言葉があった。
それは"友情"。エマは口では軽率だが、キュリテへ確かな友情は感じていたのだ。
涙を拭き、キュリテは"テレポート"でその場から消えた。
自分の街、"レイル・マディーナ"に帰ったのだろう。
「……ハッハ……やっぱ心配は無かったか……」
そして一人の魔族が高い建物の上からそれを眺めており、クッと歯を剥き出しにして笑っていた。
「お、シヴァさんじゃねェか。屋根まで来てどうしたんだい?」
「……あ? ハッ……ちょっとな……良いもんだと思ってな……"仲間"ってもんはよ……」
屋根の修理をしていた魔族の親父に言われ、その者はその場から消え去った。
「……良い街だったな……"ラマーディ・アルド"……そして良い所だったな……"魔族の国"は……」
「「……ああ」」
「「……うん」」
魔族の国の支配者の街──名は"ラマーディ・アルド"。
今日は晴天。快晴の空模様。旅立つには絶好の気候だった。
気温は低く肌寒いが、進むにはこれ以上無いだろう。
こうしてライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は魔族の国を征服し終えた。
世界を治める四つの国のうち、その一つを終えたのだ。
全ての国を征服するのにはまだまだ掛かりそうだが、着実にライたちは進んでいる。
ライの最終目的──世界征服。
始まって数ヵ月経った現在。それはまだ四分の一しか終えていない。
ライは進む。確実な一歩を踏み締め、目的を達成する為。
何年掛かるか分からないライの旅は、まだまだ続くのだった。