二百七話 傍若無人の魔王vs破壊の創造神・決着
──"絶対零度の銀河系惑星"
「──オラァ!!」
「……ッ!」
拳を一振り。
再び魔王の力を十割纏ったライは、その力でシヴァを殴り付け銀河系サイズの惑星を貫通させる勢いでシヴァを吹き飛ばした。
それによって大きな粉塵が上がり、シヴァは反対側の大気圏まで吹き飛んだ。
「ダラァ!!」
「……!」
そしてライは十割の力で大気圏からシヴァを叩き落とし、シヴァは隕石のように燃え上がって大地を粉砕した。
しかし今度は貫通させず、深さ数億キロ程度で抑える。
この場所の反対側に出てしまった場合、凍り付いたレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテがその振動で砕けてしまうかもしれない。なのでライはシヴァを貫通させ無かったのだ。
「ガァ!!」
「……!」
そしてシヴァは数億キロの深さから飛び出し、獣のような呻き声を上げながらライに向かって三叉槍を構えていた。
ライは紙一重でそれを避け、三叉槍の柄を掴んでシヴァを流す。
「オラァ!」
「……!!」
そしてそのままシヴァを投げ飛ばす。
シヴァは大地に叩き付けられ、その大地を浮かして地面が天空を舞った。
空を漂う大地は上部にある草の影響か、それはさながら空を飛ぶ島のようである。
ライとシヴァはその大地に着地し、そこを足場にして加速した。
二人の踏み込みにより足場は耐え切れず砕けて粉砕し、流星の如く落下して幾つものクレーターを造り出す。
その一つ一つが大きな粉塵を巻き起こし、上空まで立ち上った土煙によってライとシヴァの視界が消え失せた。
「オラァ!!」
「……!!」
次の瞬間にその視界は開け、土煙が全て吹き飛んだ。
その中心ではライとシヴァがぶつかっており、ライの拳と三叉槍の先端が触れ合っていた。
しかしライの拳は貫通せず、多少の出血で済んでいる。
(……? 確か魔王の力は特異な技は全て無効化していたけど……あの槍はどちらかと言うと物理寄りの筈……何で俺にあまり効いていないんだ……? まあ少しは痛むけど……)
それを見たライは自分で驚き、それを疑問に思っていた。
そう、魔王の力は魔法・魔術のような異能を全て無効化出来るが、剣や矢、銃に槍のような物理主体の物などは普通にダメージを受ける。
となると、三叉槍を受けて多少の出血で済んだ理由は一つ。
【ククク……そらァお前の力だな。今のお前は俺に身体を貸さずに十割の力を使っている。ってェ事は……お前の力が活性化? ……してるって事だ】
(……やっぱりか……)
魔王(元)の言うように、魔王の力では無くライとしての力が活性化しているという事。
魔王の力が魔法・魔術のような異能・異術の無効化だとすれば、ライの持つ力は物理攻撃の無効化。
似て非なる能力だが、ライと魔王──ヴェリテ・エラトマにはそれらの力が宿っている。
それらの共通点はそれを無効化する事。無効化するという事はダメージを無くすという事。
(だから俺は三叉槍を受けても傷が少ないのか……)
「……ッ!!」
刹那、ライは三叉槍の先端を掴み、シヴァの身体を自分に寄せて蹴りを放った。
蹴りを受けたシヴァは天空の島と化した大地を貫通し、島を粉砕し続けて惑星の地面に激突する。
その衝撃で辺りには新たなクレーターが造り出され、大地を浮かせて爆散させた。
「……これが俺の能力ねえ……イマイチ分からないけど……取り敢えず攻撃の幅が広がったのは事実だな。余計なダメージを気にする必要が無くなった分、攻撃をしやすくなった……」
重力に伴って落下する大地の上にて、落下の際に生じる風を感じるライは髪や服を揺らし、己の掌を見ながら呟く。
それは本人の言うように、ライは攻撃手段が増えたという事である。
今までは三叉槍の出方を窺い、その隙を見て攻めていたライだったが、物理的なダメージをあまり気にする必要が無くなったという事は様子見をする必要も無く攻める事が出来るという事。より効率的にダメージを与えられるだろう。
「……!」
「……だったら話は早いな……!」
そんなライに向け、シヴァは大地から飛び出して攻める。
ライの居る島を破壊し、下から上へ突き抜けて仕掛けるシヴァ。
ライはシヴァと向き合い、足場を全て消滅させながらぶつかり合った。
それによって二人は離れる。僅か数ミリの砂も無駄にせず足場にするライは、空気ごと砂を蹴って加速する。
その衝撃は宇宙へ放たれ、近隣の惑星・恒星を破壊した。
しかしそれはどうでも良い、ただ風圧に惑星や恒星が耐えきれず超新星爆発を起こしたに過ぎないのだから。
「オラァ!!」
「……ッ!!」
ライはそのままシヴァを殴り付け、銀河系サイズの惑星を揺らして大きく抉る。抉った範囲は果て知らず、惑星の表面が宇宙へ弾けた。
「"最後の炎"!!」
「効くかァ!!」
それと同時にシヴァは飛び出し、炎魔術を放つ。
その炎は数兆度。数百光年を蒸発させる炎である。それをライは殴り消した。
ライの能力がメインとは言え、魔王の能力が使えない訳では無い。
シヴァの能力で創り出した炎を掻き消す事は容易いのだ。
シヴァはその風圧に飛ばされ、恒星サイズの山々を砕いて進み遠方に大きな土煙を上げる。
「……!」
「……!」
その刹那、遠方から飛び出したシヴァは三叉槍を連続で突き刺す。その一つ一つは星を粉砕する破壊力を秘めていた。
ライはそれを両手で対応し、三叉槍の軌道を反らしている。
二人の鬩ぎ合いによって大地は割れ、そこからマグマが噴き出して地面を赤く染め、そのマグマの黒煙が空へ立ち上ぼり、辺りの視界は黒くなる。
それはさながら地獄のよう、現在位置の反対側では絶対零度の極寒。この場は数千度のマグマによって灼熱。
二つの地獄が銀河系サイズの星に広がっていた。
「オラァ!!」
「……ッ!!」
そしてライは、『マグマごとシヴァを殴り飛ばした』。
ライに殴られたシヴァは大地を抉り、マグマを巻き込んで加速する。
そして星の表面を粉砕し恒星数千個程入るであろう山を造って停止した。
「……これが……! 魔王の……!!」
「ハァ!!」
そこに居るシヴァは何かを言おうと口を開く、しかし間髪入れずにライが眼前に来ており、シヴァを思い切り殴り付けた。
それによって再び銀河系サイズの惑星を貫通し、絶対零度の極寒地帯を突き抜けて宇宙空間へと放出される。
突き抜けたシヴァは凍ったレイたちには当たらず、障害が恒星サイズの山と分厚い大地くらいしか無かったのでレイたちにダメージは無いだろう。
「何だ、その状態でも話せたのか……アンタ……」
「戦いに集中したいから無駄口は叩かねェけどな……」
そして二人は宇宙空間におり、空気も何も無い空間にも拘わらず会話をしていた。
第三の眼を開眼させたシヴァが話さ無かったのは、シヴァ自身が戦いに集中する為だったらしい。
正気は保っているので戦う点では問題無いが、割りとお喋りだったシヴァが無口になるというのは今更だが気になるものだった。
「じゃ、あと数日は話さなくても良い!」
「……テメェがか?」
刹那、ライとシヴァは宇宙空間で激突し、真空の暗闇に圧倒的破な壊力を誇る衝撃を生み出した。
その衝撃は下にある銀河系サイズの惑星の大気を揺らし、星全体の雲を吹き飛ばして更に広がる。
近隣の星々は砕けて超新星爆発が起こり、その欠片は目映く光る流星と化した。
その流星は四方八方へ散り、鮮やかに光ながら暗闇を照らす光となった。
そして、その場からライとシヴァの姿は消え去っていた。
「「オラァ!!!」」
それと同時に宇宙空間に存在する筈の無い音が響き、新たな衝撃が生まれて流星の欠片を更に細かく砕く。
その光が消え、辺りは漆黒の闇に包まれる。しかしそれでも尚、ライとシヴァは相手の存在を目視出来ていた。
「ラァ!!」
「……ッ!」
次の瞬間、ライは星の欠片を蹴り、シヴァにも目視できない速度で進んで蹴りを放った。
蹴られたシヴァは吐血し、血液を宇宙に漂わせて吹き飛ぶ。
そして幾つもの惑星を貫通し、数兆キロ進んだところで一際大きな恒星に激突してようやく停止する。
「……うーん……これって元の星に戻ったとして十割使ったら一挙一動で砕けるな……こりゃ……」
ライは殺さぬように軽く蹴ったのだが、十割というものは軽く蹴るだけで数兆キロ吹き飛ばすので面倒この上ないだろう。
腕を組みながら何かを考えるライはその事が気になっていた。
自分の星の地上でこの力を使った場合、征服する予定の世界が砕けてしまう。
「ハッ、テメェ……マジで何なんだよ……確かに魔王は全世界を治めていたが……幾らなんでもあり得ねェだろその力……」
そんなライに対し、第三の眼を開いているシヴァは呆れたように言う。
シヴァにも宇宙を破壊する力はある。しかし、その力を持ってしても魔王の力の足元レベルしかないからだ。
「……常軌を逸しながら全てを逸脱してて、圧倒的に規格外で不条理極まりない理不尽な力。滅茶苦茶で奇想天外、摩訶不思議……戦っている方が馬鹿馬鹿しくなるその力……概念と言う存在すら打ち砕く底無しの力……!! 表現のしようが無い圧倒的破壊力……何でそんな力を持っているのに魔王は勇者に負けたのか分からねェな」
宇宙空間で流れる筈の無い冷や汗を流すシヴァは薄ら笑いを浮かべ、何とも言えない表情となる。
まるで夢でも見ているような、そんな表情だった。
「……。俺からは何も言う事が無いけど……取り敢えずご託は終わったのか?」
「……」
宇宙空間に浮かび、依然として腕を組んだ状態のライは目を細めてシヴァを見る。
ライは話している暇が無い。話している間にもレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人と、一応シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの四人が命の危機に迫っているからだ。
エマは凍って砕けたとしても再生出来るだろうが、他の者たちはそう言う訳にもいかない。
命というモノは、ライが思うよりも容易く砕ける物だからだ。
現在レイたちが絶対零度で凍ってから数分が経過していた。そろそろ危ないだろう。
「ああ、終わった。そしてケリを付ける……もしかしたらこの宇宙が消えちまうかもしれないが……テメェを仕留める方法はそれしか思い付かねェからな……」
先程までの無口とは打って変わり、淡々と言葉を綴るシヴァ。
シヴァは己の出せる全力を持ってしてライを消し去ろうと考えているのだ。
「……そうかい。奇遇だな……俺もアンタにトドメを刺そうと考えていたところだ……まあ、殺さないようにしたいけど殺しちゃうかもしれないから……アンタの出方次第でそれを決める……」
クイッと掌を返し、挑発するように告げるライ。
その態度は余裕があり、シヴァの出方次第でそれが決まるらしい。
「クハハ、随分と舐められたものだな支配者も。……だが、テメェの本気と俺の全力に差があるのは理解している……だったら俺はテメェを消すしかねェかもなァ!!」
シヴァはライの言い放った傲慢極まりない言葉を聞き、青筋を浮かべながらピクピクと眉を動かして言う。
その様子から温厚? なシヴァの気に触ったと理解できるが、そのつもりで無ければシヴァを倒す気になれないライ。
シヴァの性格は良いのだろうが、良過ぎるが故に倒し難いのだ。
「……そのつもりで掛かって来てくれよ支配者さん。……俺はアンタを倒す為に、アンタが本当の意味で本気にならなければ意味がない……俺は相応の力でアンタを迎え撃つつもりだ……!!」
「上等だ……!!」
近くの惑星に降り立ち、互いの様子を窺うライとシヴァ。
二人は周りを見、数兆キロ先にあるレイたちが居る星に攻撃が当たらない場所で構える。
しかしそれは意味がないかもしれない。何故ならシヴァは宇宙を終わらせる攻撃を放とうとしているのだから。
「……行くぜ侵略者……俺は今までこの技を使った事が無い……だから手加減出来ねェけど了承してくれや……!!」
「……ああ、分かった」
──その瞬間、シヴァの周りに最上級の力が集まり、空気も光も無い宇宙空間へ"気"を漂わせる。
その気は集まり、ライとシヴァの立っている惑星以外の星が全て爆発した事が分かった。
空には幾つもの光の粒が見え、遠くに爆音が聞こえる。
「行くぜ……」
そしてシヴァは────
「────"ビッグバン"!!!」
────宇宙が誕生した際に起こった大爆発を創造した。
その威力は果てなく、このままでは宇宙その物が音も無く崩壊するだろう。
それは光の速度を超越した速度で広がり、一瞬も掛からずにライへ向かう。
その熱量は凄まじく、数億度、数兆度、数京度、数垓度、数予度、数穣度を超え──
──『数溝度に到達した』。
それは最早、存在するだけで宇宙を焼き尽くす温度となっているだろう。
宇宙の始まりを告げたビッグバン。その温度が今、ライに向かって進んでいた。
(……熱いな……耐えられるか……? 俺……)
その熱を感じ、全ての能力を無効化する魔王の力を纏っていても尚、熱量に押され火傷しそうになるライ。
【心配するな……だが、相応の覚悟は決めておけ……】
(……ああ……!!)
そんなライに向け、普段と違ってあまり余裕の無い魔王(元)は告げた。
こんなに自身の無い魔王(元)は珍しく、見た事の無い様子である。
ライはそれを理解し、身体中にある全ての力を今纏っている十割の力に集中させる。
この時間は僅か。秒も掛からずコンマよりも早い時間。そのうちに魔王(元)との会話を終え、ライは力を込めたのだ。
「オ────────────!!!」
────そしてライは、
「────────ラァッッ!!!!」
ビッグバンを────『殴り付けた』。
「──ッ!!! ガァァァァ!!?」
次の瞬間には想像を絶する痛みと熱がライの身体を焼き、この世のものとは思えない苦痛がライを襲う。
魔王の力を纏っていなければ0秒でこの世から消え失せてしまうだろう。
しかしライは堪え、魔王の力に己の力を更に上乗せして拳を突き出す。
「──────ッッッ!!!」
最早声にならぬ声を出し、赤い涙と赤い血液、赤い肉。そして白い骨を剥き出しにしてライは力を込め続けた。
辺りを見る余裕は無いが、もうこの場に残っている物質はライとシヴァの身体だけだろう。
「────アアアアアアッッッ!!!」
半ば自棄になって叫び、ライは拳を振り抜いた。
そして────────────
*****
「──────────────────ッッッ!!!!!!!」
──────ビッグバンを──『消し去った』。
────そして全てが白く包まれるライの視界には、力無く落下するシヴァの姿が映り、それを確かに捉えたのだった。