二百五話 三叉槍と三人
──"???"
「此処は……?」
サァ、と風が吹き抜け、その風がライの髪を揺らす。
辺りを見れば、そこは広い草原だった。
ライは起き上がり、立ち上がって改めて周りの様子を確認する。
「……確か……魔王が支配者の炎を消して銀河系サイズの惑星を破壊した……で、俺は此処に居る……。ふぅん……。……ッ! 三叉槍を受けた箇所が痛むな……」
呟くように言い、どういう経緯でこの場に居るのか推測するライ。
肉体の重さ加減とこの場所にある空気の雰囲気、そして三叉槍による身体のダメージから、まだ自分は生きている身と推測する。が、この場所が何処なのか理解出来なかった。
(重力の重さや数百度くらいの温度……氷点下の温度……そして目まぐるしく変わる月日は無いな……普通の重力に普通の気温、普通の空……)
痛む脇腹を抑えて堪え、思考を続けるライ。
ライはあらゆる物を感じ、この場所が基本的に普通の場所だと考える。
【ククク……取り敢えず十割の力は使えねェかもな。下手したら八割、九割もだ。あの支配者とやらが生きていたとしら……まあ、相応の覚悟は決めといた方が良いだろうな】
そんなライの思考を聞いた魔王(元)はクッと笑って話す。
曰く、もう最大の力でも七割が限界らしい。
仮にシヴァが無事で戦闘続行可能だったとして、ライが勝利するのは難しい事だろう。
(そうだな。まあ多分、この星は支配者が創造した星だろうな……そして此処に俺が居るって事は支配者は死んでいない……つまり要するに……)
星の様子を眺め、観察するライはこの星はシヴァが創造した星だと推測した。
そしてシヴァが生きているとも推測し、ゆっくり振り向きながら後方を見やる。
「……」
「まだ支配者さんは戦闘続行……って事だな……」
──三叉槍を構え、 第三の眼を開眼させたままのシヴァの方向を。
「……はてさて……見ての通りピンピンしていらっしゃるな……支配者さん。……一体全体どのようなご了見で……?」
フッと笑い、冷や汗を流しながらからかうように話すライ。
シヴァはそんなライの方を見、
「……もう使えねェ見てェだな……」
第三の眼を閉じて話した。
その言葉から推測できる事は、特に無い。しかし、第三の眼を閉じている状態だとしてもシヴァを相手にするのは少ししんどいだろう。
「ハハ、アンタも……傷は再生しているけど肩で息をしている事から疲労は溜まっている……傷を負っていない分、体感疲労は半端ない筈だろ……」
そんなシヴァを見てライは話した。
シヴァはライの言うように肩で息をしており、今にも倒れそうな雰囲気だったからである。
「ハッハ……そらァ疲れるぜ……頭がボーッとしてよ……意識が朦朧としてやがる……心なしか視界も見えにくいし……もう一度バラバラになったら俺は俺を創造する事が出来るか不安だ……第三の眼をもう一度開眼させたら最後……どうなるかも分からねェ」
それに対し、クッと苦笑を浮かべながら話すシヴァ。
シヴァはライが思っているよりも疲労が激しいらしく、次にライが十割の力を使えば確実に勝利する事が出来るだろう。
しかし、現在ライはそれが使えないのだ。
「……じゃあ、満身創痍の者同士で……」
「……次の戦いに行くとしますかァ……」
ザッ。ライとシヴァは向き合い、互いに構えを取る。
二人は息をするのも大変な状態であり、いつ倒れてもおかしくない様子だった。
寧ろ、限界を越えた十割を使ったライと銀河系サイズの惑星を粉砕。それ以上の拳を受けて再生し続けたシヴァに疲労が溜まっていない方が不思議なくらいである。
「「…………!!」」
そして二人は大地を踏み砕いて駆け出し、互いが互いの距離を詰めた。
それによって草原の草は消し飛び、大地に大きなクレーターが造り上げられた。
「……で、結局この星はアンタが創ったのか?」
「ああそうだ。大きさは銀河系サイズくらいはあるが、環境は比較的穏やかだぜ!」
ライとシヴァはぶつかり、大地に幾つものクレーターを造り出しながら話す。
どうやらライの推測通り、この星もシヴァが創った星らしく大きさは銀河系サイズあるらしい。
因みにシヴァは依然として三叉槍を構えており、ライは魔王の力を六割纏っている。
シヴァが巧みに繰り出す三叉槍を第六宇宙速度──光の速度で避けるライは踏み込み、直進してシヴァに向かった。
それによって大陸は沈み、轟音を立てて星一つ分の範囲を粉砕する。
「そうかい! わざわざ俺も助けてくれたのか、ありがたい!」
「ハッ! あのまま宇宙で戦っても良かったが、そういう訳にもいかない理由があるからな!」
ライは話、シヴァに光の速度で拳を放つ。そしてシヴァは返し、何かの理由があったので空気のある普通の環境の星に移したらしい。
確かに六割の力を使えているライならば宇宙空間で行動可能。移動する理由は無かった。
「どんな理由だよ! 俺に関係はあるのか!?」
「ああ! 無いとは言い切れねェ! てか、関係あるな! コレ!」
「そうかい!」
一瞬で数百回ぶつかり、地面に大穴を空けて吹き飛ばす。
二人は半ばヤケクソ状態であり、一言一言が大きな声だった。
そしてこの星に移動したのには理由があるらしい。
「それって何だ!?」
「今に分かる!!」
それから再び激突し、辺りを更地にして巻き上げた。
その粉塵はライとシヴァの移動によって消え去り、二人は中心で激突して大地を天空に舞い上げる。
「ほら、後数秒だぜ……待ってみるか?」
そんなシヴァはクッと笑い、ライに尋ねるよう促した。
後数秒で何故この星に居るのか分かるらしいが、待つも待たないも自由との事。
「……よし、待とう。俺も休憩したいところだったんだ……」
そんなシヴァに返すライはフッと笑って返答した。
事実、慣れない魔王の十割を纏った事によってライの疲弊は底知れない。
少しでも休む時間があるのなら、そちらが最優先という事である。
「……」
「……」
そして二人は黙り込み、警戒しながらも身体の力を抜いて立ちながら休息へ入っていた。
警戒を解いていないので精神的な疲労はあるが、身体を動かしていないので肉体的な疲労は無い。
二人の音が無くなった事により、辺りは静寂に包まれて風の音のみが聞こえていた。
風は草原を揺らし、ザァザァと葉と葉の擦れる音が木霊する。
青い空に白い雲、辺り一帯に広がる緑の大地と砕けた茶色の地面。
砕けた地面を除けば落ち着ける、ゆったりとした空間だった。
「「…………」」
シーンという静寂の音がライとシヴァの耳を突き、刻一刻と時間が過ぎる。肉体的な疲労を回復するには短過ぎる時間だが、休まないよりはマシな現在。
──刹那、突如として現れた目映い光が辺りを照らし、ライとシヴァの視界を白く染めた。
「……!?」
「……」
ライはその光に驚いたような表情を見せ、シヴァは何もせず佇んでいた。
──そう、『何もせず』。
つまりこの光はシヴァが放出した物では無く、自然? に発生したモノだという事が分かる。
自然という表現には些か語弊があるのだろうが、今回は敢えて自然という表現をする。
何はともあれ、何かが起ころうとしているのは定かだった。
「……え……? 此処は……?」
「……ふむ、また何処か別の星に移動したのか……?」
「「「…………」」」
「「…………」」
「「…………」」
それと同時に辺りへ響く二つの声。いや、その二人以外は喋る事すら出来ない状態──気を失っていた。
「……!! こういう事か……」
それらを見たライは肩を竦め、何がどうなってそうなったのかを理解した。
*****
──"シヴァの創った穏やかな星"。
「……ん? ライか。それに支配者……」
「あ、ライ君! 支配者さん!」
「……よ、よう……エマにキュリテ……」
先程の目映い光に照らされた後、姿を現した者はレイ・ミール、エマ・ルージュ、フォンセ・アステリ、リヤン・フロマ、キュリテの五人とアルモ・シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドの四人。
ライ・セイブル、シヴァとは別の空間で戦闘を行っていたであろう者たち九人だった。
そのうちのエマ、キュリテ以外は気を失っており、動く事は出来ない様子だ。
「ハッハ。どうやら戦いにて俺の側近たちは敗北したようだな……だが、不死身のヴァンパイアや全能に等しい力を持つ超能力者以外が意識を失っている事から俺の側近たちは善戦したらしい。数の不利を抑えた点では流石俺の側近。これが終わったら何かやるとしよう……」
倒れている己の側近を見たシヴァは軽く笑い、残念そうに呟いた。
光が起こっている間は余裕のある様子だったのだが、目の前にやられた側近が倒れているという事が悲しいのだろう。
「……これは?」
そんなシヴァに向け、警戒を高めながら尋ねるライ。
戦っていた者たちがやって来た事からある程度の事は推測できるのだが、やはり本人に尋ねなければ分からない事もある。
そんなライの言葉に対し、シヴァは気を引き締めて言葉を発した。
「見ての通りだ。テメェの推測は当たっていると思うぜ? 今から生き残りメンバーで戦うってだけだッ!」
バッと仰々しく両手を開き、無理矢理笑みを浮かべて話すシヴァ。
曰く、此処に居る戦える者が敵に攻めるという事。
しかし戦える者はライ、エマ、キュリテ、シヴァしかいない。傍から見ればシヴァが圧倒的に不利だろう。
「ふぅん……それが目的……ねえ……?」
「何だか分からないが……取り敢えず支配者と戦えば良いのか?」
「えぇ……私はパスしようかな……本格的な反逆者になっちゃうし……でもライ君たちを見捨てるのも嫌だな……」
ライ、エマ、キュリテから飛び出る、三者三葉の意見。
ライはシヴァが何かを企んでいるのでは無いかと警戒し、エマは腕を組みながら「支配者であるシヴァと戦うのか?」と怪訝そうな表情で言う。
そして、一応魔族の国側であるキュリテはどうするかを悩んでいた。
仮にこのメンバーで挑んだとして勝てるかどうか定かでは無いが、ライ一人よりは圧倒的に有利だろう。
しかしそうなった場合、キュリテはこの国の敵という事になる。
立場的には既に侵略者側のキュリテだが、"本元"を落とすのと本元の"周りにある壁"を破壊するのとでは大きく違う。
魔族の国出身にして幹部の側近を勤めているキュリテからすれば、支配者と戦う気になれないのだろう。
「ハッハ、キュリテよ。気にするな! 俺は気にしない! 魔族は戦闘が本能だからな……本能に従って戦闘を行うんだ、何も問題ある訳ねェだろ!」
──刹那、シヴァの周りに雲が集まった。
そして比較的穏やかだった空に太陽と月が行き交い、昼夜が激しく変わる。
シヴァの創造神としての力と天候神としての力が放出され、この星の環境に大きく作用されたのだろう。
「……さあ、やろうぜ?」
「……!!」
次の瞬間、シヴァがライとエマの間に入りエマを粉砕した。
三叉槍によって貫かれたエマはバラバラになり、ライは間一髪それを避ける。
「オイオイ……いきなりかよ……」
「速いな……そして正確だ……ライが苦戦しているのも頷ける……」
避けたライはシヴァに向けて言い、即座に再生したエマはシヴァの強さを推測するように言った。
シヴァの横顔は笑っており、先程までの何とも言えないような表情からは変わっていた。
「……さあ、キュリテ。テメェも掛かって来い。"侵略"って名目じゃなく"戦闘訓練"って名目なら問題無いだろ? テメェ的にはな……俺的には別に侵略でも良いんだが、テメェがそれは気に食わないらしいしよ……」
「……!!」
そしてシヴァはライ、エマの前から消え去ってキュリテの前に姿を現し、キュリテに向けて三叉槍を構えた。
「取り敢えずテメェを攻撃すりゃ、ちったァ警戒心も高まるだろ?」
「……ッ!」
──一閃、キュリテの身体に穴が開いた。
腕に脚、脇腹と連続して放たれた三叉槍で穴が開く。そこから真っ赤な鮮血が噴出し、キュリテの意識を遠ざけた。
「……くっ……!」
それによってキュリテの全体的なバランスが崩れ、キュリテは片足を地に着ける。
シヴァの持つ三叉槍の威力と速度から考えればキュリテの身体を一瞬で原子レベルに分解できるのだろうが、それをしなかったという事はキュリテを生かしておくつもりだという事である。
「取り敢えず、俺はテメェを一瞬で滅ぼせる事を忘れるなよ。魔族の国幹部、ダークの側近キュリテ。だからテメェは俺を殺す気で掛かって来い。魔族の国の主が許可を出したんだ……それに応えねェ方がアレだろ?」
「……」
そしてシヴァは笑い、キュリテに戦闘を促す。
意識が遠退いており、視界が薄れているキュリテは立ち上がって構えた。
「……分かったよ……支配者さん……!」
キュリテは"ヒーリング"を使って穴を防ぎ、戦闘体勢に入る。
「オラァ!!」
「ハッ、来たか……!」
その刹那、シヴァの背後から第六宇宙速度で直進するライが迫り、シヴァを殴り付ける体勢に入っていた。
シヴァは笑って振り向きながらそれを避け、ライの姿を視界に入れる。
それと同時に回し蹴りを放ち、ライの拳とシヴァの脚がぶつかって辺りの大地が粉砕した。
その衝撃は星を揺らし、天空の雲を消し去ってそれは青空を作り出す。
その青空は一瞬で夜空と化し、未だにシヴァの能力で太陽と月が目まぐるしく廻っている。
「……じゃあ、遠慮しないよ……支配者さん!!」
「おう! その意気だキュリテ!! それでこそ魔族よッ!!」
それと同時にキュリテはシヴァへ"フォトンキネシス"から創り出した光線を放ち、シヴァは三叉槍を使い光を見切って光線を切り裂く。
切られた光はシヴァの背後に進み、遠方の山々を破壊した。
「……天候を操るのは貴様だけの専売特許じゃないぞ?」
そしてエマが上空へ手を翳し、雲を創り出して目まぐるしく変わる空を曇り空に変える。
昼と夜が連続して来ているのでエマの身体に日光によるダメージは少ないが、それでも厄介なのは事実。
取り敢えず空を曇天に変え、日差しの影響を少なくしようという魂胆だろう。
「ハッハッハ!! 面白ェ!! 一対三のこの状況! 圧倒的に不利だがだからこそ面白い!! テメェら全員、俺に向かって掛かって来いやァ!!」
「ハッ! アンタに楽しむ余裕は与えないぜ! これが本当の魔族の国、最後の戦闘だ!! 俺はアンタを倒し、この国を征服する!!」
シヴァが高らかに笑って話、それに返すライも笑みを浮かべて話す。
シヴァは全員を相手にするのが楽しいらしく、派手に三叉槍を回していた。
ライは魔王の力を現在出せる最大かもしれない七割を纏い、大地に大きな亀裂を入れていた。
エマ、キュリテも構え、今魔族の国で行われる、本当の意味での最後の戦いが始まる。
ライとシヴァは光の速度を超越した速度で加速し、大地を踏み砕いて一つの惑星が収まるサイズの穴を造り出した。
ライ&エマ&キュリテvsシヴァの戦闘は、終わりに近付くのだった。