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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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二百二話 軍隊・後退

 ──"暖かな環境の星"・戦場。


「「……ッ……!」」


 数千万を優に超える兵士達が創り出されたこの星の戦場。

 リヤンとキュリテの二人は息を飲んで警戒を最大限に高め、気を引き締めて構えを取る。


「さあ、行きなさい兵士達の皆さん! そしてあの御二人に制裁を……!!」


「「…………」」

「「…………」」

「「…………」」


『『…………』』

『『…………』』

『『…………』』


 ザッザッザ、ズズーンズンと、軍靴を鳴らし、重い足音を響かせる数千万の兵士達と巨人兵。

 それらはシュタラの合図に従い、全てがリヤンとキュリテに向かっていた。


「……行くよ、リヤンちゃん……!」

「……うん、分かった……!」


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


『『…………!!』』

『『…………!!』』

『『…………!!』』


 刹那、リヤンとキュリテは互いに小さく交わし加速して兵士達の元へ向かった。

 それと同時に兵士達も走り出し、近付いて来る二人を迎撃する体勢に入る。


「「やあ!」」


 駆け出すや否や、一瞬にして兵士達との距離を詰めるリヤンとキュリテは、二人同時に兵士達へ攻撃を仕掛けた。

 リヤンはイフリートの魔術、炎魔術を使って兵士達を葬り、キュリテは"パイロキネシス"で兵士達を燃え上がらせる。

 一瞬にして墨と化した兵士達は動きが停止し、新たな兵士がやって来る。


「吹き飛んじゃえ!」


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


 そしてその兵士へ向け、広範囲を吹き飛ばせる"フォノンキネシス"を繰り出すキュリテ。

 "フォノンキネシス"の衝撃波と大きな音は兵士達を吹き飛ばし、数十人を消し去った。


「……たったこれだけか……まだまだだね……」


 吹き飛ばしたは良いが、キュリテは一気に一万人は吹き飛ばさなければ意味が無いと感じ、気を緩めず超能力を放って行く。


「やあ!」


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


 そしてリヤンは、水魔術を使って兵士達を洗い流した。

 勢いよく放出された水は兵士達を飲み込み、リヤンも数十人の兵士達を仕留めた。


「……まだまだ居る……」


 そして辺りを一瞥し、数千万から数十人だけ減った兵士達を確認する。

 兵士達は無表情で近寄っており、何とも言えない不気味さがあった。

 ザッザと足音を響かせ、無表情で恐怖も無く近付いて来る兵士達はさながら動く肉人形である。


「はあ!」

「やあ!」

 

 別々の方向に居るリヤンとキュリテは互いに声を上げ、再び兵士達を己の方法で吹き飛ばす。

 リヤンは一掃する為イフリートの魔術を使い、キュリテは超能力で兵士達を吹き飛ばす。

 それらを何度も行ったが、それで減らせたのはたった数百人である。

 つまり要するに、まだ先があるという事だ。


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


『『…………!!』』

『『…………!!』』

『『…………!!』』


 そして通常サイズの兵士達がリヤン、キュリテに向けて銃や矢を放ち、巨人兵士達が巨躯の武器を振りかざす。

 それらは同じタイミングで二人に向けて放たれ、空気を揺らして衝撃を散らした。


「「…………」」


 リヤンとキュリテはそれを避けており、互いに空中から兵士達に狙いを定める。そしてそのまま仕掛けた。


「……えい……!」

「はあ!」


 リヤンが放ったのは風魔術、そしてキュリテが放ったのは"エアロキネシス"。

 それら二つは文字通り風と空気を操り、下方に集まっている兵士達と巨人兵達を纏めて吹き飛ばした。

 上空から放たれたそれは広範囲に降り注ぎ、大地を大きく抉りながら兵士達を吹き飛ばす。


「……これで何人……?」

「さあ……けど、数万人は消したかもね……」


 風魔術で空に浮かぶリヤンと"サイコキネシス"を応用して空に浮かぶキュリテ。二人は会話をし、何人の兵士達を仕留めたのか数える。


「……上空へ銃、矢、大砲、投石、その他諸々を放ちなさい!」


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


『『…………!!』』

『『…………!!』』

『『…………!!』』


 そして再び兵士達は動き出し、シュタラの合図に従って空中へ漂う二人に向け、遠距離射撃やそれに等しい攻撃を行った。

 銃弾は音速を超えて放たれ、矢は音速の1/4の速度で向かう。

 そして砲弾は遅いが何時でも爆破出来るようになっており、投石は鋭利で破壊力の高い岩が放たれた。


「飛び道具は効かないよシュタラさん!」


 それを"サイコキネシス"で停止させるキュリテ。

 空中でそれらが止まり、キュリテはシュタラと兵士達の方へ視線を向けた。


「お返し!!」


 刹那、それら全てをシュタラと兵士達へ返し、数千人の兵士達を仕留めるキュリテ。


「……火薬には引火する……!」


 そして舞い上がった黒煙へ向け、イフリートの炎魔術を放つリヤン。

 炎は黒煙に引火して燃え上がり、連続して小さな爆発を起こした。

 粉塵爆発のように思えるが、粉塵爆発は粉などが燃えるだけで爆発では無い。つまりリヤンの炎魔術は爆発魔術も多少含まれていたのだろう。

 敵を一掃するなら広範囲の爆破系が便利なので当然だ。


「まだです! 兵士達は幾らでも……何人でも何体でも何匹でも創造する事が出来ますよ!」


 それを見たシュタラは声を上げ、戦闘不能に陥った兵士達を消し去って新たな兵士や巨人兵を創造する。

 創られた兵士達はその列を乱す事無く一心不乱に歩き続け、ザッザッザという音を響かせる。


『…………!!』


 そして一体の巨人兵が大地を踏み砕いて跳躍し、空中に居るリヤン、キュリテとの距離を詰めた。

 巨人兵が踏み込んだ大地は大きく凹んで陥落かんらくし、巨大なクレーターを造り出す。

 その巨躯からは想像付かないような速度と跳躍力で空中に辿り着いた巨人兵は、その巨腕を振るってリヤンとキュリテへ放つ。


「危ない……!」


 そしてキュリテは"サイコキネシス"でその腕の方向を逸らす。が、


「……ッ!」


 その風圧で吹き飛ばされてしまった。

 巨大な身体から繰り出された凄まじい速度の拳。それを逸らせたからとはいえ、余波も凄まじかった。

 吹き飛ばされたキュリテは山に激突し、大きな砂埃を舞い上げる。

 風圧だけだったので山は砕けなかったものの、キュリテじゃなくリヤンならばその命を落としていたかもしれない程の衝撃だった。


「……! ……やあ!」


『……!』


 そして空中に居る巨人兵へ向け、土魔術の槍を放つリヤン。

 巨大な槍は巨人兵の鎧を砕いて貫通し、巨人兵は鮮血を撒き散らして落下した。


「……キュリテ!! だ……大丈夫!? ケホッ……」


 その巨人兵を見届け、山方面へ吹き飛んだキュリテに視線を向けて慣れない大声を上げるリヤン。しかし、慣れていないのでせてしまった。


「大丈夫だよ……リヤンちゃん……私は平気……」


「……キュリテ……」


 そして、そんなリヤンの背後から声が掛かる。

 キュリテが山から"テレポート"し、移動して来たのだ。

 取り敢えずキュリテの無事に安堵するリヤンだが、キュリテの傷を見て息を飲む。


「ああ、これ? 大丈夫、私の"ヒーリング"で……「……私が治療する……!」……え?」


 キュリテは自分の傷を見、"ヒーリング"で治療出来るから大丈夫と告げた。

 それを聞いたリヤンはキュリテの傷口に優しく触れ、治療を施す。


「キュリテ……私を護ってくれた事で怪我したから……」


「……そう。ありがと、リヤンちゃん♪」


 リヤンの言葉を聞き、フッと笑って返すキュリテ。

 数秒で治療は終わり、リヤンとキュリテはシュタラの方を見やる。


「……じゃ、次は私の番。リヤンちゃん、何処でも良いから私の身体に触って!」


「うん……」


 キュリテが言い、リヤンがキュリテの肩に掴まった。

 そしてその場から二人の姿は消え去り、リヤンとキュリテはある者の前に降り立った。


「もう帰って来ましたか。離れてから僅か数分、随分と早い御帰りです……」


「……」


「……うん、シュタラさんを倒せば結果的に全ての兵士達が消えるからね……!」


 その者、アルモ・シュタラ。

 知っての通りこの兵士達を創り出した張本人。

 兵士達や巨人兵達と一々戦っていたのでは意味が無い。なのでリヤン、キュリテは本元を砕きに来たのだ。


「成る程。つまりキュリテさんは最後まで彼方側の味方になるのですね? どうやら私が甘かったようです、キュリテさんを本気で倒さねばこの国は落とされてしまうと……今確信に変わりました……」


 キュリテが言い、シュタラが残念そうにため息を吐いて返す。

 シュタラはキュリテが完全にライたち側へ付いた事に肩を落としたのだ。

 それもその筈、魔族の国が誇る最高戦力の幹部、その側近であるキュリテが魔族の国を侵略しようと目論んでいるライたちの元に付いたのだから。


「シュタラさん……私はちゃんと戻るよ……! 魔族の国にね……!」


「……そうですか、それは良かったですね」


 刹那、シュタラは兵士達を全て消し去った。

 突如として数千万の生き物が消え去り、辺りには虚無と虚空が現れる。

 それによって暖かな風が吹き抜け、リヤン、キュリテは恐る恐るシュタラを見やった。


「……言ったでしょう? 私は本気を出します。それはどの兵士達でも無い、私自身の本気……見せて上げましょう……!!」



 ──その瞬間、『シュタラが二人に増えた』。



「……え!?」

「……嘘……?」


 それと同時にキュリテとリヤンが声を上げる。当然だ、シュタラが増えたのだから。


「「……どうです? これが私の能力です。兵士を創造し、相手の能力を無効化し、そして私自身が増える事も出来る。私はシヴァ様が創った星の生き物の創造主、アルモ・シュタラ。自分の事を創造する事など容易い事なのです……」」


「「…………」」


 それを見た二人は息を飲む。

 一人でも手を焼いたシュタラが二人に増えたのだ、それも仕方の無い事である。


「「……では、早速始めましょうか? キュリテさんを正気に戻して差し上げましょつ……!!」」


「「……ッ!!」」


 刹那、シュタラはリヤン、キュリテとの距離を一気に詰め、二人の懐に掌底しょうてい打ちを放った。

 二人は同時に吐血して吹き飛び、花畑だった更地を更に抉って転がる。


「これは……中々大変かも……」

「……うん……!」


 二人は口元の血を拭って起き上がり、軽く会話をする。

 シュタラは好戦的な性格では無い。が、体術もけているらしく能力無効化という能力も相まって強敵だった。

 魔族であるキュリテは素の身体能力もそれなりだが、人間か魔族かよく分からないリヤンは運動が得意という訳では無さそうである。

 それでもシュタラの掌底しょうてい打ちを耐えられたのは、シュタラに触れなければヴァンパイアの再生力が宿るからだろう。

 それは完全では無いが、確実にダメージを減らす事は出来ている。


「では御二方。そろそろ終わりです、御了承を……」


「「……嫌だ!」」


 その瞬間、リヤン、キュリテ、シュタラは互いに互いの敵へ向かって駆け出した。



*****



「……!」


「……」


 まずリヤンはフェンリルの速度に到達し、シュタラの周りを回ってシュタラを翻弄しようと試みる。

 シュタラが自分の分身を操っている間は無効化能力を働かせる事が出来るのかは分からないが、シュタラに触れられるのはシュタラ本人の体術熟練度から危険とリヤンの野生が判断したのだ。


「気になっている見たいですね、リヤンさん。フェアにする為教えておきましょう、私は自分の分身を操る間は無効化能力を働かせる事が出来ますよ。勿論それは嘘か本当が定かではありません、さてどちらでしょう?」


「……」


 それを読み取ったシュタラはリヤンを惑わすように言い放った。

 フェアにする為教えると言ったシュタラだが、嘘か本当か教えないのでたちが悪い。しかし敵に能力をホイホイ話す方がアレなので賢い事である。

 キュリテならば"テレパシー"が効くか効かないかで分かるが、それが無いリヤンは難しいだろう。


「……!」


 そしてリヤンは大地を踏み砕き、カウンターを食らう覚悟でシュタラの元へ向かった。

 何はともあれ、触れれば答えが明らかになるだろう。

 それによってダメージを受けたてしても、リヤンの再生力はヴァンパイアの能力も相まって凄まじい。即死攻撃を受けない限り戦い続ける事が出来る筈である。


「やあ!」


「ふふ、それが分かっているのにわざわざ受け止める訳が無いじゃないですか……貴女の攻撃は隙が多く軽い……避けるのは容易い事です……」


 その攻撃をヒョイと避けるシュタラ。避けられたリヤンはフラつき、体勢のバランスが崩れた。


「……はっ!」

「……ッ!」


 そんなリヤンに向けて肘打ちを放つシュタラ。

 リヤンが空振った瞬間、シュタラはリヤンの横に移動してリヤンの背中に肘を打ち付けたのだ。

 打ち付けられたリヤンは口から息が漏れ、地面に倒れるよう叩き付けられる。


「そこ!」


「……ッ!」


 そしてシュタラは、叩き付けられて浮き上がったリヤンに蹴りを入れ、リヤンは吐血して吹き飛ぶ。

 リヤンは近くの木にぶつかり、口から血を吐いて咳き込んでいた。


「……ふふ、どうですか?」


 余裕のある表情でリヤンに近付き、尋ねるシュタラ。

 リヤンは普通の少女と変わりが無い。シュタラの攻撃を受けられる回数は二、三回が限界だろう。

 その間に距離を取り、己の体力を回復しなければそこで終わりだ。


「……もう、良いよ……」


 余裕のあるシュタラに向け、うずくまっているリヤンは呟くように言った。


「……? 諦める……という事ですか……?」


 それを聞いたシュタラは首を傾げ、訝しげな表情でリヤンに尋ねる。


「……違う、貴女はその状態でも無効化出来るって事が分かったから……もう貴女を倒すって決めたの……!!」


「……!?」


 ザァ。リヤンの言葉に共鳴するかのように風が吹き抜け、リヤンはその体勢を起こして立て直した。

 それを見たシュタラは何かを感じ、思わず冷や汗が流れる。


「……何ですか……その気迫は……恐ろしく、神々しい……今までに味わった事の無い……」


「……」


 リヤンの後ろには太陽があり、そこから後光が見えた。

 冷や汗が流れるシュタラは後退り、リヤンから距離を──


「……!!」

「……!?」


 ──取る前に、『第六宇宙速度。すなわちち光の速度で駆け抜けたリヤン』によって意識を刈り取られた。

 何の前兆も無く、急激に速くなったリヤン。

 前触れ、前兆、兆候、それが何も無くリヤンは加速したのだ。

 シュタラはそれに気付く事無く、為す術無く地に堕ちた。


「……え……? ……何で……私……アレ……(意識が……どんどん……)」


 何故目の前に居たシュタラが後ろにおり、何故自分の身体が今までに無い疲労感と気だるさがを感じているのか全く分からないリヤンは、意識を失った。

 何かが起こり、何も起こらなかった戦いは、瞬間的に終わりを迎えたのだった。



*****



「……!? もう一人の私が……消えた……? 幾らなんでも速過ぎます……」


「……! じゃあ……リヤンちゃんは勝ったんだね……!」


 一方のキュリテとシュタラ。

 こちらの二人が戦い始めてから経った時間は数分、辺りに多くの大岩が落ちている事から、キュリテは直接的に触れるような攻撃をした訳では無く"サイコキネシス"などの超能力で物を操り、遠距離から攻めたと考えられる。

 それでもシュタラはほとんど無傷だが、キュリテは所々に傷があり口元に血の後もあったので今はシュタラが優先だったのだろう。


「……けど、リヤンさんが此方に来る気配もありません……良くて共倒れでしょう……」


「じゃあ……私がシュタラさんを倒して私たちの勝利にするよ……!」


「そうですか、無駄な努力が実ると良いですね……」


 刹那、キュリテがシュタラの目の前から消え去り、それと同時に幾つもの大岩がシュタラへ向けて放たれた。


「……その程度、簡単に読めますよ……!」


 スイスイと、流れるように可憐な動きで大岩を避けるシュタラ。

 シュタラに当たらなかった大岩はシュタラの背後を大きく抉り、クレーターを造り出していた。


「……そして、貴女の動きも読みやすい」


「……ッ!」


 それと同時にシュタラは飛び出し、キュリテの懐に蹴りを放った。

 それによってキュリテは吐血して吹き飛び、草花を散らして木々に激突する。


「……まだ攻撃は続きますよ?」

「……ああッ!」


 鈍い音が鳴り、キュリテが叫ぶと同時に吐血した。

 その音からアバラが砕けたと推測できる。

 普段は声を上げ無いキュリテが声を上げるという事は相当のダメージを負ったのだろう。


「吹き飛びなさい!」

「……!!」


 そしてそのまま蹴られ、高台から落とされるキュリテ。

 キュリテの姿はそこから見えなくなり、辺りには砕けた木々の欠片のみが残った。


「終わり……ではありませんね……けど、如何せん行動が読みやすい……」


 落ちたキュリテを見、終わっていないと確信しているが攻撃が見やすいと呟くシュタラ。


「だったら、読めない程の速さで攻撃したらどうかな……?」


「……ほう?」


 その刹那、キュリテはシュタラの背後に"テレポート"で姿を現し、それから連続して"テレポート"を行い、シュタラを翻弄ほんろうするようにあらゆる箇所に姿を現し、姿を消し去る。

 消えては現れ、消えては現れを繰り返し、上空に浮かせた岩は未だ浮遊していた。


いささか面倒ですね……。……リヤンさんと共倒れになったかもしれない私の半身を戻しますか……」


 キュリテを見、考えるように呟くシュタラ。

 その言葉から推測するに、シュタラは半身ずつの場合全力が出せないらしい。

 本人がよく喋るからか、その事が筒抜けだ。


「……今がチャンスって事だね……!!」


 刹那、キュリテは"テレポート"によって何もない真空を創り出し続ける。

 空気のある空間はその真空を埋める為に近寄り、それによって強風を巻き起こした。

 強風はシュタラの動きを狭め、阻む。


「……ッ。これは消せませんね……隙間を埋める為に発生させた風ですか……」


 強風に阻まれたシュタラは身動きが取れなくなり、前後左右上下全ての退路が絶たれる。

 その風はメイド服のようなシュタラの服を揺らし、シュタラの髪も揺らす。


「そう! 自然の風ならシュタラさんにも防げない。何時もなら簡単に突破された筈だけど、今のシュタラさんは本気を出せないみたいだからね! 今のうちに倒すよ!」


「……随分とナメられたモノですね……。この程度の風が私を阻止できるとでも? 上に漂う岩も当たらなければ意味がありません事よ?」


 キュリテに向け、淡々と言葉をつづって返すシュタラ。

 事実、シュタラは人が吹き飛ぶ程度の強風では微動だにしないだろう。

 目が乾くので辺りが見え辛くなり動きにくくなっているが、ダメージは全く無い。


「……知ってるよ!」

「……!?」


 その時キュリテは、『シュタラの足元を大きく動かした』。

 キュリテは"サイコキネシス"を使い、シュタラが足を着いていた大地を浮かせたのだ。


「……ッ。上の岩やキュリテさんの無駄に派手な動きは全てこの為の……!!」


 そう、シュタラに小賢しい攻撃は効かない。

 それを理解した上でキュリテは、わざと大きな動きで翻弄ほんろうしてシュタラの意識を足元から離したのだ。


「流石のシュタラさんも、完全に本気を出せない状態で死角からの攻撃をいなす事は不可能に近いよね……?」


「…………。……そうですか」


 キュリテの言葉を聞き、何かを察した様子のシュタラは目を瞑ってその岩に立つ。

 キュリテはそんなシュタラを見、言葉を続けた。


「……大丈夫、シュタラさん。私は魔族の国のままだよ。裏切りはしないから……!!」


「……それが貴女の決めた道なのですね……まあ、万が一にもシヴァ様が負ける訳無いので……私はゆっくり休むとしましょう……」


 そしてシュタラはキュリテが浮かべた土塊に潰された。

 常人なら死に至るモノだが、身体が頑丈な魔族にして支配者の側近を勤めているシュタラなら気を失う程度で済むだろう。

 気を失うというのは酸素が頭に回りにくくなったりで不利点が多いが、死ぬよりはマシという事である。


「……はあ……。シュタラさんが本気を出せない状況で良かった……それでも結構食らっちゃったし……少し休もう……リヤンちゃんを迎えに行ってから……」


 シュタラとの戦闘により超能力を使い過ぎた為、疲労困憊の様子であるキュリテ。

 腹部に受けたダメージも相まり、意識も朦朧としていた。



 何はともあれ、リヤン&キュリテvsシュタラの戦い。戦争は終わった。

 残る戦いはライとシヴァの大将戦のみである。

 キュリテはリヤンの元に行き、少し休もうと考えるのだった。



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