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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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二百話 洪水・収束

 ──"沼地地帯"。


「"ファイア"!!」


 次の瞬間、フォンセはオターレドに向けて炎魔術を放った。

 炎魔術は沼地を焦がし、蒸発させてオターレドへ向かう。


「"正面雨(アマーム・マタル)"!!」


 そしてオターレドは雨を両手に纏い、正面に向けて水を放った。その魔術は通常の水魔術と違い、水の中を白い光が奔っているように見える。

 その魔術には雨水のみならず、雷の成分も含まれているらしい。

 水は電気を良く通す。水が電気を纏う事によって威力が上がっているのだ。

 そして二つの魔術がぶつかり、炎魔術によって水魔術は蒸発して水魔術によって炎魔術は消え去った。

 二つの魔術は互いに打ち消し合い、その事からそれらはほぼ互角の威力だったという事がうかがえる。


「"竜巻トルネード"!」

「"竜巻イサール"!!」


 そして両者は竜巻魔術を放ち、渦を巻く強風が巻き起こった。

 フォンセが放ったのは風魔術の竜巻。オターレドが放ったのは災害魔術の竜巻。

 それら二つの風は互いに打ち消し合って消滅した。


「"アイス"!!」

「"タルジュ"!」


 消滅するや否や、水魔術を応用した氷魔術を放つ二人。

 竜巻によって生じていた風は凍って消え去り、空気ごと粉々に砕け散る。

 辺りはジメジメしており蒸し暑いくらいだったのだが、今となっては水魔術、氷魔術、風魔術によってすっかり冷え込んでしまっていた。


「"サンダー"!」

「"ラアド"!!」


 そしてその冷え込みを貫通するいかづちが走り、辺りに光を起こしてゴロゴロという音を出す。

 それによって沼地地帯は感電し、沼からは何かの生物が浮かぶ。辺りに煙が充満し、沼地地帯特有の悪臭が広がっていた。


「フフ、やっぱりやるわね……私の魔術と互角の魔術……この広い世界でも中々出会える者じゃないわ……」


 そしてフッと笑い、フォンセに向けて話すオターレド。

 感情がたかぶったり笑顔を浮かべたりと忙しないモノである。


「そうか。しかしまあ、世界は広い。そして宇宙はそれよりも広い。私たち以上の魔術師など星の数程居る筈だ……」


 そんなオターレドに返すフォンセ。

 フォンセは自分の力がどれ程のレベルあるか、よく分かっている訳ではない。

 だがしかし、魔術のみならば圧倒的上位の位置に立っているだろう。

 人間の国に住む魔術師の腕は定かでは無いが、少なくとも魔族の国では幹部の側近である魔術師を何人か倒しているので上位に君臨している筈だ。


「そう、謙虚ね……貴女はもっと自分に自信を持てば良いと思うのに」


「ふふ、生憎だが表の世界に出てきたのは最近でな。世間知らずなんだよ、私は──"ファイア"!!」


「そう……! "雨水(マタル・マイヤ)"!!」


 刹那、フォンセはオターレドに向けて炎魔術を放ち、オターレドは水魔術を放った。

 それら二つは再び打ち消し合い、蒸発させて掻き消される。

 そして辺りに水蒸気が広がり、薄暗くジメジメしている沼地地帯を白く染めた。


「"爆発エクスプロージョン"!!」


 その瞬間、フォンセは水蒸気を掻き消す大爆発を起こし、水分に引火して更なる爆発を起こす。

 爆発は更に更に大きくなり、沼地地帯全体を大きく包み込んだ。


「"竜巻イサール"!!」


 そしてオターレドは爆発の際に生じた黒煙を竜巻で吹き飛ばし、そのままそれをフォンセへけしかける。


「"土の壁(ランド・ウォール)"!!」


 向かってくる竜巻に向けて土魔術で壁を造るフォンセは竜巻魔術を防ぐ。

 壁にさえぎられた竜巻は逸れ、フォンセには当たらずにフォンセの背後を吹き飛ばした。


「まだよ! "槍の雨(ハルバ・マタル)"!」


 そしてオターレドはフォンセの上空へのみ雲を創り出し、そこから槍のような雨を降り注がらせた。

 元々天候を変えていたのもあり、普通の雨と見分けが付かなそうである。

 しかし、仮に見分けが付いても防げるかどうかは分からないので、あまり関係は無い事だ。


「邪魔だ……! "ウィンド"……!」


 フォンセはそれを確認するや否や、上空に向けて風魔術を放った。

 放たれた風魔術は上空へ届き、フォンセの上にたたずんでいた暗雲を消し飛ばす。直径数百メートル程晴れた雲からは日差しが覗いていた。


「嘘……いいえ、事実ね。やっぱり相手が魔術師じゃ荷が重い……」


「だったら眠れば軽くなるぞ……! "落石フォーリングロック"!!」


 一部の雨雲を消されたオターレドが言い、フォンセが返しつつ土魔術で造った岩をオターレドの上空へ放つ。

 その数は数十。オターレドはその全てを容易く避けた。


「それは嫌ね……まだ眠くないし諦めていないし……! "竜巻イサール"!」


 次の刹那、その落石に向けて竜巻を放つオターレド。

 竜巻は落石を貫き、砕いてそのままフォンセの方へと向かう。


「"浮遊風(フロート・ウィンド)"……!」


 そしてフォンセは風魔術で跳躍し、その竜巻を避けた。

 竜巻は空中へ避けたフォンセに当たらず進み、沼地地帯を大きく揺らす。

 岩や泥、木々に草花は吹き散らされ正面数百メートルは平らになった 。

 依然として普通の雨が降り続ける沼地地帯。その場所の殆どは抉れており、沼地など跡形も無く消え去っていた。


「沼地の一部が消えた……まあ驚く事じゃないがな……」


 雨と風を感じながら空中に居るフォンセは沼地跡を見、下に居るオターレドを見やる。

 オターレドは依然変わり無く凛として佇んでおり、降り続ける雨の滴に身体を濡らしながら空中に居るフォンセへ視線を向けていた。

 オターレドの言動はアレだが、黙って立っている姿は美しく芸術作品のようにも見える。

 何はともあれ、フォンセはオターレドを倒す為に空中で構えた。


「"光線レーザー"!」


 次の瞬間、フォンセはオターレドへ向けて光線を放つ。

 その光線は空気を貫き、真空状態を生み出す程の速度で進み沼地地帯に大きなクレーターを造りながらオターレドの元へ向かう。

 その熱と速度は計り知れず、空気を焦がし続けるそれは進み続ける。


「……面倒ね……」


 オターレドは呟き、向かってくる光線へ手をかざす。


「けど、光は屈折するわ!」


 刹那、オターレドは自分の前に雨水を集めて一つの塊を創り出した。

 それらは光を屈折させ、そのまま光線を受け流す。

 受け流された光線はオターレドの背後に進んで背後の岩や木々を貫いた。


「高いところは危険よ侵略者さん!」


「……ッ!」


 次の瞬間、フォンセの近くを雷が通過する。

 雷は基本高いところに落ちるのだが、他の木々よりも高いところに居るフォンセはその場に居るだけて危険な状況だった。


「……」


 取り敢えず危険と判断したフォンセ。

 フォンセは一旦沼地地帯へ降り立ち、


「……低いところの方が危険かもね……♪」

「……なっ……!」


 雷速で距離を縮めたオターレドによって吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされたフォンセは木々を砕き、泥を散らして大地を抉りながら大岩に激突してその動きが止まる。

 その際に少し吐血したが、特に気にするダメージではない。


「チッ……そういえばアイツは自然現象を纏えるのを忘れていたな……」


 頭を掻き、木々の欠片などを払って立ち上がるフォンセ。

 パラパラと欠片は落ち、フォンセは口の血を拭って辺りを見渡す。


「いないな……」


 辺りを見渡し、オターレドの姿を探すフォンセ。

 しかしそこにオターレドはおらず、沼地地帯が広がっていた。


「"大爆発ラージ・エクスプロージョン"!!」


 そしてフォンセは辺りに爆発魔術を放ち、沼地地帯ごと周りを吹き飛ばした。

 吹き飛んだ沼地は何も無くなり、黒煙が立ち込める空間が続く。


「貴女も結構無茶するじゃない……"雪崩(サルジュ・ガゼィール)"!!」


 オターレドはフォンセの上におり、雪を発生させて雪崩を起こした。

 雪崩は空気を揺らして降り注ぎ、一つ一つの巨大な雪塊せっかいが沼地地帯を揺らす。


「お前に言われる筋合いは無い……"ファイア"!」


 その雪崩に向けて炎魔術を放つフォンセ。

 炎は雪崩を溶かして貫き、蒸発させて空中に居るオターレドへ向かう。


「じゃあ、どっちもどっちって事で……"洪水ファヤダーン"!!」


 その炎へ向けて洪水魔術を放ち、炎を消し去ってフォンセの方へ向かう。


「……そうか」


 フォンセはそれを跳躍して避け、片手に魔力を込めた。

 そしてオターレドの方へ視線を向け続け、


「"ウィンド"!」


 風魔術を放出した。

 放出された風魔術は真っ直ぐ進んでオターレドへ行く。


「食らわないわ!」


 オターレドはそれを見て風を避け、空中で身を捻ってフォンセに近付く。


「"土突き(ランド・スラスト)"!」

「"霧雨(ダバーブ・マタル)"!」


 そして二人は魔術を放ち、ほぼ更地となった沼地地帯を更に吹き飛ばす。

 フォンセは四角いブロックのような岩を突き出し、オターレドはその岩の隙間に雨水を入れて粉砕する。

 この岩は土魔術から造られた岩。そこに微かな隙間があったのでオターレドは岩を破壊できたのだ。


「貴女は魔術だけ、私は魔術も近接戦も可能……力の差は歴然ね?」


「……ッ!」


 岩を砕いたオターレドは空中で雷速移動しフォンセの懐に脚を突き刺す。

 それによってフォンセは吐血し、勢いを抑える事も出来ずに吹き飛んだ。

 まず大地に叩き付けられて大きな土煙を上げ、幾つもの木々を砕きながら遠方に煙を上げる。

 高速で吹き飛んだ事によってフォンセの身体は傷付き、木で切ったのか切り傷もあった。


「大変だな……」


「じゃあ、諦める? "氷柱の雨ダラート・ジャリィディイヤ・マタル"!!」


 それと同時にフォンセへ向けて氷柱つららを降らせるオターレド。

 氷柱つららの尖端は鋭利であり、槍のようにも見える。


「……断る。"ファイア"!」


 そしてその全てを焼き捨てるフォンセ。

 雪系や氷系統の技は炎で溶かして蒸発させるのが一番だ。

 炎魔術で氷柱つららを消し去ったフォンセは、傷だらけの身体で起き上がって構える。

 その出血は酷く、沼地の泥によって赤黒く汚れていた。

 腕には何かが貫いたような穴があり、そこから出血していた。所々青く見える場所もあり、そこは打撲か骨が折れていると分かる。

 足は布が破れて肌が露出しており、そこにも小さな切り傷が多く見受けられた。

 頭からも血が出ており、諸々の傷も合わせてフォンセの全身は傷が無いところを探す方が難しい。

 それらの傷はいずれも痛々しく、見てるだけで苦痛だ。


「ふふ、満身創痍……って言葉がピッタリね……その姿も中々イカすわよ。赤と黒が良い感じに混ざって良い感じになんやかんやがあって兎に角良い感じ……」


「……。……何を言っている……」


 フォンセの姿を見、何かを言おうとしたオターレドだったが言葉が思い付かなかったのか、取り敢えず"良い感じ"という言葉を主張する。

 その事に対して満身創痍ではあるフォンセは呆れたように呟いた。


「……兎に角! そろそろケリを着けようかしら? 貴女と遊んでいるのも良いけど、今の状況から私が圧倒的優位に立っているもの。もう終わらせるわ!」


 フォンセに言われたオターレドは適当に流し、フォンセへトドメを刺すと告げる。

 背後には轟水の渦が広がっており、その様子から本当に終わらせようとしているみたいだ。


「フンッ、やってみろ。私もまだ奥の手がある……! それを使えるかどうかは分からないがな……」


「……へえ?」


 それに対し、フォンセはまだ自分には奥の手があると告げた。

 それを聞いて興味深そうに笑うオターレド。

 その笑みは"揶揄からかい"や"信じない"といった笑みでは無く、どんな奥の手なのか楽しみだという意味の笑顔だった。


(前に使った先祖の技……禁断の魔術も良いが先ずはこちらからだな……)


「……?」


 フォンセはいつぞやに使った魔王の力を思い出していた。

 強い力には禁断の魔法・魔術もあるのだが、それは何度も使えると確認済みである。

 なので、何時でも使えるか分からない魔王の魔術を使おうと試みているのだ。

 それを考える為に黙り込むフォンセに対し、首を傾げて"?"を浮かべるオターレドは言葉を続ける。


「……来ないなら、此方から行くわよ?」


「……ッ!」


 刹那、フォンセの腹部にオターレドの蹴りが当たりフォンセは吐血する。

 それと同時にオターレドは脚を引き抜き、てのひらをフォンセの前にかざした。


「"洪水ファヤダーン"!!」


 そして洪水魔術を放ち、勢いのある水でフォンセを吹き飛ばすオターレド。

 洪水によって腹部に衝撃を与えられ、吹き飛ばされたフォンセは何処かに行き姿が見えなくなる。


「手応えあったわね……!」


 それを確認したオターレドは雷を纏って加速し、雷速に到達してフォンセを追う。

 オターレドが一瞬で姿を消し、辺りには静寂のみが残っていた。


(駄目だな……やはり使えない……気持ちの問題か、それとも……)


 吹き飛ばされたフォンセは木々の山で起き上がり、傷だらけになった己の身体を見る。

 それを見、まだ魔王の魔術を使えないと感じるフォンセ。

 魔王の魔術のみならず、魔王の性質があるだけで魔術師相手には大きく変わるのだが、如何せん使える訳じゃない。

 感覚で分かったのだ。己がまだ、内に眠る力を使う事は可能じゃないと。


(しょうがない。今はまだ禁断の魔法・魔術を使うか……いずれ自由に使いたいものだな……ライに何かを尋ねてみるか……)


 「はぁ……」とため息を吐き、仕方無いと痛む身体で立ち上がり、


「今はまだ……支配者の側近が居るからな……」


「ふふ、何の事? 何かを考えていたのね。まあ、確かに私は此処に居るけどさ」


 目の前に立っているオターレドを見やった。

 オターレドはフォンセの言葉の意味が分からず、一瞬だけ怪訝そうな表情をしたが何かは察した様子だ。

 何はともあれ、まだフォンセは魔王の魔術を使わないで置く事にした。


「随分と酷い怪我ね……可哀想。今、楽にして上げるから暴れないでね?」


「……断る。楽になるのはお前の方だ。意識が無くなった見たいに落ち着けるぞ……?」


「そう……生意気ね!」


 ジリ、フォンセとオターレドはそれだけ交わして互いに構え、相手の身体を見て全体に視線を向ける。


「……どの道これで終わりよ──!!」


「それはこっちの台詞だ──!」



 ──その刹那、



「──"自然災害カーレサ・タベイエッサ"ッ!!」


「──"───の炎(───ファイア)"ッ!!!」




 ──沼地地帯は、




 ──いや、この星の表面が、





 ────『消し飛んだ』。





 二つの最強魔術は全てを飲み込み吹き飛ばし、最終的にこの星の表面を消し炭にしたのである。

 消し飛んだ星の表面にはチリも残らず、空の雲は直線に割れる。

 耳をつんざく轟音が一瞬鳴り響き、それが収まり辺りには何も残っていなかった。



*****



「……ふう……久々に使ったが成功した……まあ……これが成功しても……意味は無いのだがな……」


 煙が晴れ、フォンセの姿が現れる。

 その姿は凄まじい惨状であり、五体満足なのが奇跡と言って良い程ボロボロだった。

 服は殆ど破けており、両手両足はぜた痕、そして頭に胸に腰には火傷がある。

 フォンセの意識が朦朧としており、言葉では余裕がありそうだが、もう一般兵と戦う気力すら無いだろう。


「……へえ……私をこんな状態にして……意味が無いって……相変わらずムカつく娘ね……でも……私の負けだわ……太陽を拝めたのは……貴……女……よ…………」


 そしてそんなフォンセに返す仰向けの状態であるオターレドは、フッと意識が無くなった。

 オターレドもフォンセのように衣類がボロボロ身体もボロボロ、全身に酷い火傷が起こっており息をするのも辛そうな状態だった。

 オターレドが意識を失ったのは、オターレドの身体が死なないように脳が枷を掛けたからだろう。


「……そうか……私は勝ったのか……良か……った……少……し……休む……と……しよう……」


 フッと意識が無くなり、フォンセも地面に倒れ込む。

 オターレドは先程の言葉を告げた瞬間に意識を失い、フォンセは勝利を確信した後意識を失った。



 抉れて砕けた星の表面の上に眠るフォンセとオターレド。

 二人の戦いは両者気を失ったがその直前でオターレドが敗北を認めた為、フォンセの勝利となったのだった。



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