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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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百九十八話 震動・停止

 ──"冷え込む気候の惑星"。


「やあ!」

「ぜあ!」


 その刹那、レイは勇者の剣を振るい、ズハルはそれを避けた。

 そして地震の災害魔術を纏った片腕を近付け震動によってレイを破壊しようと試みる。

 それを見切り、避けるレイは流れるように剣を振るって迎撃する。


「はっ!」

「……!」


 ヒュンとレイの持つ勇者の剣は空を切り、前方を割って粉塵を上げた。

 ズハルはかするが避け切り、体勢を低くしてレイの死角から震動を放つ。


「わっ……!」


 そしてそれを避けようと動くレイ。だがしかし──


「……え?」


 ──ガクリと急に体勢が崩れた。


「……! チャンス!」


 その隙を見逃すズハルでは無く、大地を蹴って加速し震動を纏った掌がレイの顔に近付く。

 レイは既に三度受けている。そしてそれから少し攻防を広げ、体力はもう限界だった。体勢が崩れたのはそれ故だろう。

 この震動を受けたら最期、レイは目覚める事が無くなるだろう。


「……ッ!」


 レイは崩れた体勢を無理矢理戻し、剣を地面に着けた。

 そしてその剣を軸とし、滑るように回転する。

 回転するレイは体勢をズハルの手より低くしてそのまま駆け、ズハルから距離を取る。


「……ハァ……ハァ……」


 たったそれだけの行動しかしていないレイだが、レイ自身が思うよりもレイの疲労は激しかった。

 視界はかすれ、明るい昼間にもかかわらず全体が暗く感じる。

 寒い感覚が更に強まり、吐息が白く染まる。そして血液は冷え、立っているだけで体温が奪われるだろう。


「ククク……随分とお疲れの様子だな……どうだ、降参でもするか? 俺はテメェを殺す気で戦っているが、うちのシヴァさんはそんな気が無いみてェでな。降参するなら俺も戦闘を止めるしテメェも休め……「アナタが……降参すれば良い……!」……交渉決裂だな」


 レイを見たズハルは軽薄な笑みを浮かべて言い、レイはズハルの言葉に割って返す。

 それを聞いたズハルは止まり、改めて地震の災害魔術を纏った。


「つー事で……遠慮はしねェぞ? テメェが選んだ道だ」


「……!」


 次の瞬間、ズハルは目にも止まらぬ速度でレイの後ろに回り込んだ。

 レイは咄嗟に反応するがその速度に着いて行けず、


「ダラァ!」

「……ッ!」


 ズハルに吹き飛ばされた。

 "震動"によって身体を"振動"させられ、内部から破壊するのでは無く物理的に吹き飛ばされたのだ。


「……ッ! ……?」


 その事を疑問に思い、木に背中をぶつけ空気を漏らしながらも訝しげな表情でズハルを見やるレイ。

 実を言うとレイは、震動ならば何とか避ける事は出来た。

 しかし予想は外れ、物理的な攻撃を仕掛けられたのだ。なので防ぎ切れずに困惑したのである。


「ククク……やはりな……。テメェ、俺の災害魔術だけを警戒しているだろ? 俺は普通に近接戦も出来んだよ。つまり、だ。俺がその気になりゃ、瀕死のテメェを魔術無しで倒すのは容易いって事だよ……」


 レイを見、笑いながら話すズハル。

 ズハルはレイが災害魔術を警戒していると考えたので物理的な攻撃に切り替えたらしい。

 結果、レイは背中を強打し更にダメージを負ってしまった。


「……」


 血で濡れた顔を上げ、ズハルを睨み付けるように見るレイ。

 そうなると、今まで以上に戦闘し辛くなる事だろう。

 今までは震動を衝撃波として放つか、直接手を触れて破壊する攻撃がメインだった。

 しかし、近接格闘も選択肢入るとなると中々のモノだろう。


「クク……まだ立てるだろ? さあ、続きと行こうぜ?」


「……負けない……!」


 ズハルは先程の動揺が無くなっており、余裕が戻りつつあった。

 口に溜まった血を吐き、そんなズハルを見やるレイ。

 事実、先程のズハルはレイの根性とは違う執念に驚嘆していたが、今は普通に攻撃を行った。

 つまりもうレイに対する慢心や油断は無く、本気で戦闘を行うという事。

 油断していたが故にダメージを与える事が出来たレイだが、慢心や油断を消し去ったズハルは驚異となるだろう。


「「……!!」」


 そして二人は互いに向けて飛び出し、レイは勇者の剣を、ズハルは魔力を纏いつつ魔力に頼り切らない腕を振るう。

 レイの剣を避けるズハルはレイの顔に手を近付け、それをかわすレイ。

 二人は少し離れ、即座に近付いて互いを狙う。


「ゴラァ!」


「……!」


 ズハルは腕を出してのひらを向け、剣の腹でそれを防ぐレイ。それによって金属音が響く。

 剣の腹はダメージを与える事は出来ないが、範囲は広い。今のレイは如何にしてダメージを受けないようにいなせるかが重要だった。


「ダラッ!」

「……ッ!」


 そしてまたもやズハルはレイへ攻める。

 次は拳を握り締めていた。なので魔術じゃなく物理的な攻撃だろうか。

 しかし拳に魔術を纏っている可能性も否めない。

 何はともあれ、選択肢が増えたのは厄介な事だ。

 レイは顔を横に反ってそれを避け、ズハルのふところへ向かって剣を振る。


「やあ!」

「遅いんだよ!」


 そしてズハルに勇者の剣を振るうレイだが、ズハルはそれを完璧に見きってかわす。

 かわされると同時にレイは距離を取り、ズハルから離れて剣を構える。


「オイオイ、ヒット&アウェイの逃げ戦法か? 臆病に動き回ってんじゃねェよ、果敢に攻めろ果敢に!」


 それを見たズハルはつまらなそうに言い、レイを挑発した。

 しかし挑発と言ってもズハルは本心だったりする。

 ズハルが望むのは、手に汗握る一進一退の攻防。

 レイは一撃を受けたらほぼ最期なのでこの戦法なのだが、ズハル的には気に入らないらしい。


「じゃあ、アナタが来たら……!」


「ククク……生意気な小娘だな……!」


 そして、そんなズハルの心情を読み取ったレイは挑発し返すように言った。

 ズハルは挑発と理解しているが、やはり腹立たしくあるものだ。

 なのでズハルは大地を蹴り砕き、剣を構えるレイに向けて駆け出した。


「敢えてその挑発に乗ってやるよ!!」


 砕かれた大地は背後に吹き飛び、大きな砂埃を舞い上げて辺りを覆う。

 ズハルは一瞬にしてレイとの距離を詰め、片手に魔力、片手に何も纏わず両手をレイに向けて振り下ろす。


「……!」

「……チィ!」


 レイはそれらを紙一重で避け、ズハルはレイが避けた先に回し蹴りを放つ。それによって舞い上がった砂埃は晴れ、辺りに風を起こした。


「チョロチョロと……!」


 そしてその蹴りもレイは避ける。ズハルは攻撃が当たらない牴牾もどかしさにさいなまれ、苛立ちが増しつつあった。


「……」


 レイはズハルの攻撃を避けつつ、確実な一撃を決める為に集中する。

 身体を内部から三度破壊され、その他の物理的なダメージも負っている。

 常人ならば向こう数ヶ月は動く事すらままならない今の状態だが、レイの集中力は上がり、あらゆる事がより一層洗練されていた。


「……」


「……"震動衝撃ハザ・オーリア・サドマ"!!」


 そんなレイに向け、ズハルは大地に手をかざして地割れのような衝撃を放つ。

 その衝撃は真っ直ぐ進み、大地を大きく割りながら周りを巻き込んでレイに向かう。


「……!」


 そしてその衝撃をかわすレイ。

 レイはかわすや否や、流れに身を任せて身体を動かす。

 そしてユラユラと揺れるような動きでズハルとの距離を詰めた。


「……それで俺を翻弄ほんろうしているつもりか?」


 その動きを見たズハルは馬鹿にするなと言いた気な表情をしており、ピクピクと片眉を動かしている。


「そうだよ!」

「……!」


 刹那、レイは何時の間にかズハルの側に来ており、ズハルの懐に剣を構えて今にも切り付ける体勢に入っていた。


「コイツ、何時の間に……!?」


 それを見たズハルは少し驚き、近くに居たレイから距離を取る。


「そしてアナタは……私の動きを読めていない……!」


「!?」


 その刹那、ズハルの懐付近に居たレイはズハルの背後に立っていた。

 その影から剣を振りかざしている事がうかがえる。


「……ッ!」


 ズハルは驚愕して焦り、脚に魔術を纏って大地を蹴った。

 それと同時に大地は割れ、土煙に紛れてレイの姿が再び消える。


「……成る程な……俺はマジで翻弄ほんろうされていた見てェだ……」


 消えたレイの残像をうかがい、翻弄ほんろうされていないつもりだったズハルは、思い違いだったと肩を落とす。

 そう、ズハルは既にレイの手中に居たのだ。

 翻弄ほんろうされていないと思っていたのはズハルのみであり、レイは既にズハルを翻弄ほんろうしていた。

 何故突然ほぼ瀕死状態だったレイがこんなに動けているのか、ズハルのみならずレイ本人も分からなかった。


「……」


 しかし、今はズハルを仕留める事が最優先。レイは気にせず物陰からズハルの様子をうかがい、タイミングを計る。


「……! そこかァ!!」


「……!」


 その瞬間、物陰から窺っていたレイに向けてズハルは災害魔術を放った。

 少しの気配からレイの存在を見抜き、そこ目掛けて魔術を放出するズハル。

 震動は大地を振動させ、辺りを巻き込み大きく破壊してレイへ向かう。


「……けられる……!!」


 そしてその震動を避け、レイは駆け出した。

 その衝撃だけで身体中がきしみ、激痛が駆け巡るレイだが、視界は鮮明でかつて無い程感覚が研ぎ澄まされていた。


「速いな……加速している……!」

 

 レイの速度を確認したズハル。

 ズハルはその速度変化に気付き、警戒を更に高める。


「やあ!」


「……来いやァ!!」


 そして物の数秒で距離を詰めたレイ。

 レイは勇者の剣をズハルに振るい、ズハルはそれを紙一重で避けててのひらを向ける。


「……!」


 それを見て掌をかわすレイはかわすと同時に足を動かし、ズハルの攻撃を掻い潜りながら剣を振るう。


「チッ、面倒だ……!」


 その剣を見切って避けつつ反撃の隙をうかがうズハル。


「"破壊タドミール"!」


「……!」


 そしてまた攻撃を避け、剣を振るい続けるレイ。

 あと一撃でも食らったら終わりのレイとまだ余裕のあるズハルでは、レイが圧倒的に不利だろう。


「何なんだ……テメェは……?」


 しかし、


「はあ!」

「……ッ!」


 剣を振るい続け、ズハルを掻き回すレイは更に、更に速くなりつつあった。

 剣を振ると同時に移動するレイはズハルの横に回り込み、ズハルがそちらを向くと同時に別方向へ回り込む。

 そして切り付け、ズハルは何とか避けた。


「人間か……? この動き……?」


 そんなレイを見るズハルは、レイの動きが半ば信じられなかった。

 それもその筈。ズハルが知る限り、レイという者は普通とは違う剣を持っているだけの人間。

 にもかかわらず、その動きは速くなり心無しか力も上がっているのだから。


「やあっ!」

「……ッ!」


 その時、レイはズハルの脇腹を抉った。

 抉られたズハルは吐血し、レイより少し後ろに後退る。


「そこっ!」

「させるか!」


 そしてもう一度斬り掛かるレイだが、ズハルは片手に震動を纏いその剣の軌道を剃らす。

 軌道が逸れ、空を切ったレイの剣。ズハルはそれを見て横に移動し、レイの身体に手を近付けた。


「危な……!」


 それを避けるレイはバランスを崩しつつも何とか倒れずに踏ん張り、少し傾いた状態で剣を振るう。


「その状態じゃ動きにくいだろ?」


「……!」


 その剣を避けレイに震動を放つズハル。

 レイはそれも避け、体勢を低くしながら加速して駆け出す。


「別に……!」


「ほう?」


 レイの剣は空を切り、ズハルは軽く反ってそれを避ける。

 避けると同時に、ズハルは裏拳を放つように仕掛けた。


「……!」


 レイはそれを避け、そのまま剣を振り抜く。

 ズハルは再び片手でそれを防ぎ、レイとの距離を詰めて仕掛ける。


「"震動ハザ・オーリア"」


 そしてズハルは大地を大きく振動させ、そのまま地面を浮き上がらせた。

 浮かんだ大地は轟音を立て、レイの足場を崩して足場を悪くする。


「……!」


 それを受けたレイは、浮かんだ大地を踏みながら飛び越えて進む。

 通常なら満身創痍のレイはそれを飛び越える事は出来ない筈だが、今のレイは覚醒状態に入っている。ちょっとやそっとの地殻変動ではビクともしないだろう。


「厄介だ!」


 ズハルは戦闘方針を変え、一つの大地を浮かび上がらせた。

 その大地に手をかざし、大地を砕いてその破片をレイへ飛ばした。

 飛ばされた破片は空気を貫いて直進し、音速を越えてレイに向かう。


「……見える……!」


 全身から出血しているレイはそれを目視し、一つ一つの軌道を読んで避けて行く。

 避けた破片は背後に刺さり、木や岩を粉砕して何処かへ吹き飛ぶ。


「この動き……!」


 全てを見切ってかわしたレイに対し、何かを思うズハル。

 何度も述べるが、レイは満身創痍の瀕死『だった』。

 つまり、動く事すらままならない筈の状態で動きが良くなっているのだ。


「ますます厄介になってやがる……!」


 更に加速し続けるレイを見、苦々しく呟くズハルは両手を地面に着けた。


「先ずは動きを読むとするか……!」


 刹那、大地は割れ、先程よりも大きく陥落かんらくする。

 ビキビキと音を立て、大きく割れ壁のような形と化す土塊つちくれ


「……正面から来い……って事……」


 疲労とダメージにより、肩で息をし疲労困憊ながらも走るレイはその壁を見てズハルは正面に誘っていると理解する。

 もう少し観察したいが、生憎レイ自身の身体は限界に近付いていた。

 つまり、ここでトドメを刺さなければレイは敗北するだろう。


「……」


 覚悟を決め、レイは更に加速した。

 その速度は普通の人間が出せる最高速度を何段階も更新し、大地を砕きながらソニックブームを起こして更に加速する。


「乗って来たか……俺も全力……いや、限界を越えてやる……!! この星諸ともテメェを消し去ってやるぜ……!!」


 ズハルはレイを見、空気を災害魔術を全身に纏う。

 それによって身体は振動し、骨を軋ませ肉を揺らす。

 物の数分でズハルの身体は砕け散るだろう。それ程の力を纏っていた。


「……私だって……! 限界なんか無いから……!」


 レイは銀色に光る刃を持つ勇者の剣を地面に擦り、通った道を大きく抉り切り裂きながら直進する。

 その衝撃はソニックブームを纏い、更に更に加速し速く早く疾く人間を超え続けて進化して行く。



「"惑星破壊地震ナジュム・タドミール・ゼルザール"!!!」



「──やぁぁぁぁっっっ!!!!」



 そして地震と勇者の剣は、互いに衝突した。

 その二つは耳をつんざく轟音を鳴らし、大地を大きく粉砕した。

 冷え込む辺りは砕け散り、空気が揺れて天地を揺るがす。

 その衝撃は留まる事を知らず、星に巨大な亀裂を入れた。

 そしてそこから炎が溢れ、この星は砕ける。

 それでも尚勢い止まらず、辺りは更に大きく振動した。



*****



「…………」

「…………」



 ──そして、互いに満身創痍となったレイ、ズハルが立っており、辺りには塵一つ残っておらず"無"の空間が広がっていた。

 いや、完全な"無"ではなく地面や空はある。

 しかし何も言い表せない虚無感が二人には広がっていた。


「……チッ、あと一歩だったのによ……」


「……」


 そしてズハルは倒れ、レイの持っていた頑丈な勇者の剣は小さなヒビが入っていた。

 レイは既に血塗ちまみれであり、何故立っている事が出来るのか分からない状態である。

 しかし、ズハルが意識を失う事によってレイの勝利は確定した。



 何はともあれ、支配者側の幹部を一人倒したのは事実だ。

 壊れ行く惑星。レイはフッと意識を失い、その場に倒れ込むのだった。



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