百九十七話 九割
──"シヴァが創った銀河系サイズの巨大な星"。
この星は、シヴァの言うように通常の生き物は生きる事が出来ないだろう。
恐らくこの星に近付いただけで死滅する筈だ。
通常の星、この場合はライたちが生活していた星についてである。
この星は銀河系サイズの大きさに加え、通常の数千、数万倍の重力がある。
それはブラックホールレベルは無いにしても中々だろう。常人ならその場に居るだけでペシャンコだ。
現在の時刻は『夕刻から朝方』。目まぐるしく太陽と月が動き、昼と夜が交差する。
何が原因でこうなってるのか定かでは無いが、過酷な環境を再現する為にシヴァが大量の太陽と月を創り上げたのだろう。
昼間の気温は数百度から数千度。夜の気温は氷点下五〇度から二〇〇度。
その場に居るだけで中々のダメージを負いそうなモノだが、ライとシヴァは気にしている様子は無かった。
「「…………!!」」
そして、ライとシヴァは同時に駆け出した。
それと同時に、『惑星が抉れた』。
それは距離にして数億キロ。惑星が一千万個以上は軽く入る範囲だった。
二人は光の速度を超越した速度、更にその速度を超え、それすら超えたその向こう側の速度で互いに向かう。
「「オ────」」
そして二人は、互いに拳へ握力を込めてその拳を思い切り握った。
その状態で握った方の手を少し下げ、身体を捻って力を込める。
更に加速し、大地を大きく抉りながら互いに向かうライとシヴァ。
「「────ラァ!!」」
その刹那、ライとシヴァは拳を突き出し、相手の拳に己の拳をぶつける。
そしてこの星の──『1/100が砕け散った』。
この惑星の広さは銀河系一つ分程、つまり約十万光年。
十万光年はキロにして九十四京六千兆キロメートルである。
その1/100となると、九百四十六兆キロメートル。
これら全ての距離は悪魔で推測に過ぎないが、簡単に言えば数十億以上の惑星が軽く収まる範囲をライとシヴァは破壊したという事だ。
それでも尚どちらも堪えておらず、直ぐ様次の行動に移った。
「オ──ラァ!!」
「ハッハッハァ!」
ライとシヴァは即座に拳を離して軽く下がり、次の瞬間には脚を繰り出し終えていた。
その速度に衝撃は追い付けず、ライとシヴァが止まってから辺りに爆発を起こした。
その爆風は星を包み、
「……そらよ!」
「どうよ……!」
一瞬にして晴れた。
ライとシヴァは衝撃や光、音を置き去りにして光速以上でぶつかり合う。
一挙一動で数千万キロが砕け、銀河系サイズの星を削ってゆく。
先程も述べたように、この星の重力は通常の数万倍。
二人はその重力を意に介さず攻撃を続けているのだ。
今のライとシヴァは数十tを軽く凌駕する体重になっている事だろう。
動く度にヒビが入る重さだが、ライとシヴァにとってはあって無いようなモノだ。
「そら!」
「だら!」
そしたライとシヴァは再びぶつかり、辺りに衝撃波と共に爆風を巻き起こす。
そして二人は手を離し、互いに回転して回し蹴りを放つ。
「「……!!」」
それに両者は弾かれ、大地に巨大なクレーターを造り出して跳躍した。
跳躍した二人は無の空を思い切り蹴り飛ばし、空間を破壊してぶつかる。
それから空中で攻防を広げ、互いに拳、脚、腕に肘をぶつけて衝撃を撒き散らす。
空中から数万倍の重力で落下する二人。その時間は一秒も無く、その瞬間の間で目にも止まらぬ速度の鬩ぎ合いを織り成していた。
「そこォ!!」
「……ッ!」
刹那、シヴァはライを殴り付ける。
それを受けたライは成す術無く吹き飛び、数万倍の重力を受けながら加速して大地を抉って直進した。
大地を大きく抉り続けながら進むライは恒星サイズの山々を貫通し、砕き、破壊して進む。
勿論不可抗力だが、それはさておきそのまま恒星から恒星の距離を進んだライは一際大きな山に激突してようやく止まった。
「……やれやれ……恒星何個分の距離だ……? 結構な勢いで飛んだぞ……」
「……あー……知らねェな……」
それによって仰向けになったライはシヴァに殴られた時以外のダメージは受けておらず、ちょっとした土汚れのみがライの服に付いていた。
「ま、光の速度以上で飛んだし……相応の距離を進んだってのは確かだな……」
そして飛び跳ね起きの要領で起き上がってシヴァに向き直るライ。
起き上がった衝撃で土煙が舞い、辺りを包む。
数十tの重さで起き上がったのだ、当然だろう。
「……にしても……これが九割の力ねえ……(成る程な……一挙一動の破壊力、移動速度全てが八割よりも圧倒的に上だな……。まあ当然か……)」
【ハッハッハ! あたぼうよ! お前には俺の全力を扱える可能性がある! もっともっと上に行けるぜ!】
起き上がり、己の感覚を確かめるライ。
そんなライに向けて笑うような声で話す魔王(元)。
ライが使っている力は九割。しかしまだ九割の中での一割。つまり全くの本気じゃない。
にも拘わらず、ライはシヴァと互角で渡り合っているのだ。
シヴァも本気では無いのだろうが、ライもシヴァの両者は共に完全な全力では無い。
だからこそ本気を出した時、その時がこの戦いの命運を分ける事になるだろう。
「そーら……」
「……!」
その瞬間、シヴァはライに向けて仕掛ける。
ライは即座に身を捻り、迎え撃つ体勢に入った。
「……よっとォ!!」
「……おっと……!」
シヴァの拳がライに当たる。が、両手を前に出してそれを防ぐライ。
その勢いで背後に砂埃が舞い上がり、重力によってズシンと落ちる。
その瞬間にライとシヴァは姿を眩まし、一瞬で巨大なクレーターを造り出して轟音が響いた。
「よっ……!」
「ダラ……!」
その轟音が自分たちの耳に入るよりも早くぶつかる二人は衝撃を散らし、辺りを粉砕する。
その衝撃は止まる事無く惑星を進み遠方で大爆発を起こした。
「……捕らえた!」
「……ッ!」
そしてライはシヴァに腕を捕まれ、シヴァは口角をつり上げ歯を剥き出しにして笑い、
「吹き飛べッ!」
「うわっと……!」
そのまま背負い投げのように投げ飛ばされた。
勢いよく投げられたライは光の速度を超え、その更に向こう側の速度で吹き飛ぶ。
恒星サイズの山々を再び貫通し、貫通痕を残して加速する。
それが起こす衝撃は底知れず辺りを蹴散らし、ライは空中で何とか体勢を整えザザザと足を地に擦らせて停止した。
「ふう……また飛ばされたよ……」
今回は飛ばされただけ。
山を貫通したりもしたがダメージは無い。
自分が吹き飛んで来た方向を見るライはゆっくりと立ち上がる。
目の前の地面は大きく抉れており、その距離だけでも恒星数十個分はあるだろう。
「……そうか、吹き飛ばされるのは嫌か……なら、テメェをこの場でバラバラにでもするかァ……。もし死んだら俺が創造してやるから安心しな!」
「……オイオイオイ……それを聞いて"オーケーやろうぜ!" ……とはならないだろ……」
「やろうぜ!」
「断る!」
──刹那、辺りは大きく爆発して砕け散った。
轟音と共に大きな粉塵が舞い上がり、大地が沈んで他の大地が空に浮く。
ライとシヴァは沈んだ大地から跳躍し、大地を更に沈ませて空に舞う。
跳躍と同時に空中に浮かんだ大地を蹴って飛び回り、踏まれた大地は一瞬にして崩壊する。
二人は崩壊した大地の欠片を更に踏み砕き、空気が無く飛行できない代わりに土塊を足場にして空中を移動していた。
「「オ────!!」」
そして空中で大爆発を起こし、更に激しい粉塵が辺りに広がる。
「「…………」」
次の瞬間にライとシヴァは着地し、その次に星の表面を抉って加速した。
ベロンと剥がれた土層は宇宙へ放たれ、秒も掛からずに互いに拳を放つライとシヴァはその衝撃で離れる。
「"隕石"!!」
離れるや否や、シヴァは空中に巨大な隕石を創造し、それをライに放つ。
隕石はシヴァに放たれた速度と重力が相まって第二宇宙速度の数千倍で降り注ぐ。
「しゃらくせえ!」
そして掌を横に薙ぎ、その風圧で隕石を吹き飛ばすライ。
隕石は宇宙に帰り、何処かで漂っている事だろう。
「"太陽""月"!」
隕石が防がれた瞬間、シヴァは太陽と月を創造した。
この太陽は先程の小型では無く、両方とも空に浮かぶ太陽と月と同じサイズである。
太陽に比べると圧倒的に月は小さいのだが、何となく創ってみたのだろう。
「太陽に月……随分と神秘的な光景だな……目まぐるしく移り変わる昼夜も相まってより一層際立たせる……その場に存在するだけで数キロを焼き尽くす恒星……」
太陽と月を見上げ、感嘆の声を上げながら話すライ。
しかし、その態度からまだまだ余裕があるような感じだった。
まあ、今のライは太陽程度では死ぬ事が無いだろう。
寧ろ太陽その物を破壊する側である。
「取り敢えず、今からこれをテメェにぶつける。だから火傷しねェように気を付けな!」
「言われなくても……」
刹那、シヴァは太陽と月をライに向けて放った。
それら二つは光の速度を超えて直進する。
全体が高圧のエネルギー体である太陽と巨大な隕石と化した月。
それら二つを受ければそれなりのダメージを負うかもしれない。
「……」
なのでライは、
「ほいっと……!」
軽く手を振るって消し去った。
九割纏ったライの手は圧倒的な破壊力を生み出し、軽く振るうだけで太陽の火が消え去り月が粉々に粉砕する。
「ハッハー! 流石だ侵略者ッ!! だがしかし、創造神たる力はまだまだあるぜェ!!」
太陽と月が砕けるや否や、シヴァは新たに数百個の恒星を創り出した。
目まぐるしく廻る空は恒星によって埋まり、それら全てが目映い光を醸し出してライの視界を真っ白に染める。
ライで無ければ失明していただろう。それ程の眩しさだった。
「さあ、全部避け切れるのか……一勝負と行こうぜ!」
「やってみろ……」
──その瞬間、シヴァは全ての恒星をライに向けて放った。
放たれた恒星も光の速度を軽く超越した速度で進み、銀河系サイズの惑星を大きく揺らして直進する。
「全力の九割で迎え撃つさ……!」
そしてライは九割の力を込め、天から降り注ぐ恒星目掛けて構えた。
「────オ────ラァ!!」
──そして、上空にあった全ての恒星は、『消し飛んだ』。
その衝撃は止まらず、そのまま宇宙を駆ける。
それは全宇宙に広がるあちこちの銀河系を砕き、破壊し、粉砕して進んで行く。
ライが拳を放ったのが上空じゃなければこの星も軽く粉砕していた事だろう。
その証拠にライが放った拳の先には何も残っておらず、銀河集団が消し飛んだという事が窺える。
「オイオイ……恒星の流星群は一瞬で終わりかよ……。……つか、消えた銀河系を再生させるのは俺なんだがな……」
「へえ? それは悪い事をしたな。まあ、頑張ってくれや」
「他人事かよ……」
消し飛んだ銀河集団を見たシヴァは呆れたように言い、ライはそれに軽く返す。
実際この世界はシヴァが創ったようなモノ。
一つの宇宙を創造する事など容易い。
そもそも宇宙は一つだけじゃなく、沢山あると考えた方が良いだろう。
何を述べたいのかと言うと要するに、無数に存在する多元宇宙の一部はシヴァが創り出した宇宙という事。
なのでそれを再生させるのもシヴァの役目なのだ。
「まあ、さっさとテメェを倒して再生させるってのが一番手っ取り早いかァ……もっと楽しみたい気持ちもあるけどな」
ゴキッと首を鳴らし、パキパキと指を鳴らすシヴァ。
軽く動き、ライに向けて一言。
「取り敢えず……そろそろ本気で攻めてみるぜ侵略者……!」
「……へえ? ハハ、良いじゃん……俺も乗じるよ……」
シヴァの言葉を聞き、両足を広げて話すライ。
シヴァは遂に本気を出すらしい。それは嘘という可能性も勿論あるが、先程までのシヴァよりは確実に強くなるだろう。
「じゃあ……行くぜ?」
「……ッ!」
刹那、いや、刹那よりも早く、秒よりも早い瞬間、シヴァは一瞬でライの背後に回り込み、ライを背中から吹き飛ばした。
吹き飛ばされたライは数億キロ吹き飛んだ後に気付き、地に足を着けて停止する。
「……!」
その時、上空には数千万以上の恒星があり、それら全てがライの方を向いていた。
空を照らす目映い光は更に明るく発光し、視界全てが埋め尽くされた。
「そーら……よっとォ!!」
ライが確認すると同時に何処からか恒星を放つシヴァ。
その恒星は先程よりも更に速度を上げて落下する。
「面倒だな……」
小さく呟き、その全てを目視して避けるライはシヴァの姿を探す。
軽く辺りを見渡し、シヴァの気配を感じる。
「……居た……!」
気配を感じたライはシヴァの方向へ──
「それはテメェの後ろだよ!」
「……ッ!」
──向かうよりも早く、シヴァはライの背後に回り込んでおりライに向けて蹴りを放った。
ライは脇腹を蹴れて吹き飛ばされ、恒星サイズの山々を砕きながら何度も回転して銀河系サイズの星を巡る。
「……ッ! 早さに磨きが掛かってる……それに力も……」
何とか空中で体勢を整えたライは半ば無理矢理己の身体を停止させ、何とか勢いを止めて立ち上がった。
「ああ、言ったろ。本気を出すってな?」
(速いな……)
そして背後に回り込んでいたシヴァ。ライはその速度に少し驚き、タラリと冷や汗が背を伝う。
立ち上がったのである程度は反撃できるだろうが、どれ程通用するか分からない。
「「…………」」
ライとシヴァは黙り込み、辺りはシンと静まり返る。
重い重力がズシンと掛かり、依然として太陽と月は目まぐるしく回って昼夜を変える。
何も無く、過酷な環境の星に佇む二人の影。それを包む緊張が今──
「「…………!!!」」
──解き放たれた。
ライとシヴァは同時に動き出し、
「そーら!!」
「……ッ!」
シヴァの拳がライの顔に突き刺さった。無論貫通した訳では無い。物の例えである。
それによってライは吹き飛ばされ、
「まだまだァ!!」
一瞬にして距離を詰めたシヴァが光速で畳み掛ける。
移動しながら拳、脚、肘、踵なのどの部位でライを攻撃し、
「そこォ!!」
思い切り蹴り上げて星一つ無くなった宇宙へ吹き飛ばす。
ライは一瞬で数億キロ上空に飛ばされ、
「これでどうだ?」
「──ッ!!」
そこから叩き落とされる。
そのまま落下するライはこの星の重力によって更に加速して大地に大きな粉塵を巻き上げた。
「そら!」
土煙が上がるや否や、シヴァは幾つもの恒星を創造してライの落下した場所に放つ。
「オラァ!」
そしてライはその恒星を吹き飛ばして防ぎ、そのまま立ち上がって宇宙に居るシヴァを見やる。
「ふう……(これは……中々疲れるな……全体的に能力が上がっているし……)」
シヴァを見るライはその力を実感し、少し不安になっていた。
それもその筈。ライはまだ全力を使えないというのにシヴァはそれに等しい力で戦闘を行っているのだ。
魔王(元)が自負している多元宇宙を含めた全宇宙を一瞬で破壊する力。
流石にそれレベルは無いだろうが、ライが扱う魔王の九割は軽く超えていた。
「ハッハッハ! どうした? 本気は出さないのか? それともさっきまでの力が本気なのか……本気を『出せない』のか……どっち何だろうなァ?」
そんなライを見て宇宙から地上に着地するシヴァ。
その衝撃で辺りは揺れたが気にする事では無い。
「ハハ、いや……アンタに本気は必要なのかを疑っていてな……確かに今は俺以上だが……持続力の問題だよ……」
シヴァに返すライは強がり混じりに話す。
そうでも言っておかなければ何が起こるか分かったモノでは無いからだ。
「ほーん……そうか……」
「……ああ、そうだ……(これでどうだ……?)」
シヴァはライを見、ライはシヴァを窺う。
どちらにせよ、決着を付けなければ戦いは終わらないだろう。
【ククク……確かに今は俺の十割をお前は使えないが……『お前が俺になれば使えなくも無いぜ』……?】
(……! 何だって……?)
そんなライを横に、魔王(元)は不敵な笑みを浮かべるように予想しなかった事を話した。
それに返すライは、訝しげな気持ちとなる。
("お前が俺になる"……つまり俺が魔王になるって事か……?)
【ククク……ああ、その通りだ。テメェのままじゃテメェは俺の力をフルに使えない。だからテメェ……お前が俺になるんだよ。そうすりゃ俺はお前を使える。結果、アイツに勝利する事が出来るって訳だ!】
魔王(元)の言っている事は、ライにはよく分からなかった。
しかしライの意志が無くなる可能性があると言う事だけは理解していた。
「そ──────」
「……!?」
その瞬間、シヴァの姿がライの視界に入った。
ライと魔王(元)は話していたが、今回は二人だけの空間で話していなかった。
なので動かないライを見たシヴァが仕掛けたのだろう。
「──らよっと!」
「……!」
そしてライはシヴァに蹴り飛ばされ、銀河系サイズの惑星を吹き飛ぶ。
またもや恒星サイズの山々を貫通して粉砕し、大きな土煙を上げながら数万倍の重力を誇る星を進む。
そして数兆キロ吹き飛んだ辺りでようやく止まる。
粉塵は上がり続けており、ライの姿は土塊に埋もれて見えなくなっていた。
(俺にデメリットは……?)
吹き飛ばされたライは確かなダメージを身体に受け、動き難い状態で魔王(元)に質問した。
【ククク……お前が俺になるんだからな。今の俺の状態をお前が体感するくらいだ。お前になった俺が死なない限りお前が死ぬ事は無い。そしてずっと留まる事は出来ねェから、仮に俺が倒し損ねたらトドメはお前が刺す……最も大きなデメリットはお前の身体が持たなきゃ倒した後とか、トドメを刺す時に行動するのが難しくなる……くらいだな】
(そうか……)
そしてそれに答える魔王(元)。それを聞いたライは考える。
魔王(元)を本当の意味で纏った場合、ライの身体に様々な負担が掛かる事だろう。
ライが魔王の力を十割使えない理由はライの実力不足とライの身体が持たないから。
つまり、魔王を本当の意味で纏った場合確かにシヴァへ大ダメージを与える事が出来るだろうが、そのリスクも莫大なのだ。
(じゃあ……)
「ハッハー! 本気を出しやがれ侵略者ァ!!」
「──ッ!!」
ライが魔王(元)に返そうとした瞬間、光を超え、それを更に超え、それすらを更に超えた速度で殴り付けるシヴァ。
今は一刻を争う事態。シヴァに勝てるのは全力を纏ったライだけ。その他諸々の要因も加わるので考える時間も無いだろう。
シヴァに殴り飛ばされたライは再び山々を砕いて直進した。
「ハハハ……オイオイ……俺が少し本気を出した瞬間にこの様か……やっぱ力を戻そうか……?」
ライを吹き飛ばしたシヴァは吹き飛ばした時の体勢のまま笑いながら話す。
本気を出した事によってシヴァに余裕が表れたのだろう。
「……いいや、問題は今『無くなった』】
「……ッ!?」
その瞬間、シヴァは土塊から抜け出したライ? によって吹き飛ばされ、ライが進んだ距離を戻った。
ライ? に一撃受けたシヴァは頭から鮮血を流し起き上がる。
「……クハハ……オイオイ急に何だ……この力は……」
【ハハ、スゲェだろ?」
頭を掻き、自分の鮮血で手を濡らしながら呟くシヴァ。
そしてライ? の方を見──
「……つかお前──誰だ?」
──苦笑を浮かべて尋ねた。
【…………」
そしてそこには、不敵な笑みを浮かべて立ち竦む者が居た。
「…………】
その者はただ笑い続け、シヴァの方を見ている。
こうしてその者vsシヴァの戦いは、最終戦へ縺れ込むのだった。
【……………………………………………………】