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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第一章 魔王の力
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一話 魔王の力

 ──数年後。


 ライは少し成長し、家事や洗濯などを一人でこなせるようになっていた。

 そしてある日の事。ライが独りで家に居ると、あの時祖母を連れていった兵士が不敵な笑みを浮かべて家に上がり込む。


「フフフ……」


「……っ! お、お前は……!!」


 ライは眉を顰め、その兵士に敵意を剥き出して睨み付ける。祖母を連れ去った憎むべき存在の兵士。ライにとっては見たくも無い顔なのだ。

 兵士はそんなライの視線を無視し、ライに向けて話しかける。


「そう睨むな、来い。祖母に会わせてやる」


「……え?」


 そんな兵士は、祖母に会わせてくれると告げる。とてつもなく怪しいがしかし、祖母に会いたいのも事実だ。ライは訝しげな表情をし、距離を取りつつ兵士の後を追いかけた。


「……どういう風の吹き回しだ……?」


「なに、王様の気紛れだよ」


 それ以上話が続かない。突然だ。ライは兵士に恨みがあれど親しくない。今直ぐにでも飛び掛かりたいのだから。

 それから曇天の空の下、ライが良く通る道を暫く行くと街に出た。

 その街ではよく祖母と買い物に出ていたが、祖母が足腰を悪くしてからはライが独りで夕飯の買い出しに行っていた。今も独りで買い出しに行っている。

 そして街の中心には、何やら人だかりが出来ていた。それを見れると、全員が貴族や王族であった。

 何かのイベントだろうか、兵士もその場へ向かっているようだ。

 そこでライは、衝撃の光景を目の当たりにする事となる。



 それは──



「ば、ばあちゃん!?」


「ライちゃん……!? な、何で此処に!?」



 ──街の中心に置いてある『処刑台』に、見慣れた祖母が居たからだ。

 ライは慌てて飛び出す。が、しかし処刑台を囲む兵士達に止められてしまった。


「……ッ! は、離せェ!! その人は……!! その人だけは……!!!」


 ライは暴れ、その兵士を振り解こうと試みるが兵士の力に負けてしまい処刑台から離される。

 そんなライを見ていた周りの貴族・王族は、侮蔑を交え、汚物を見るような目をしていた。

 そして連れてきた兵士が一言。


「フン、諦めろ。貴様を此処に連れてきたのは最愛者の最期を見届けさせてやるためだ」


 ニヤリと不気味に、楽しそうに笑う兵士。

 鎧を着た兵士達も心無しか鎧の中で笑っている気がする。その証拠に鎧が震えていたのだ。

 そしてそんなやり取りが行われる中、祖母の両脇には首を切断するための剣を持つ兵士達が居た。


「邪魔だァ!! 離せ!! 離してくれェ!!」


 ライが再び暴れ、鎧の兵士へ素手で挑む。

 しかしもう既に遅し、祖母の首筋へと剣が振り下ろされそうになっていた。

 そして祖母は押さえつけられたライの前で最高の笑みを浮かべ、涙を流しながら──



「……サヨナラ……私の可愛いライ・セイブル……」



 ──ザンッ。



 肉を断ち、骨を切断する音、無情にも斬り離される首と胴体、勢いで飛び散る鮮血。

 それを見た兵隊達は高らかに笑い声を上げた。


「ハッハッハッハッ!! 良いザマだ! おい、小僧! お前も笑えよ!!」


 目の前で最愛の人を失ったライに向け、侮蔑と皮肉をおり交えた笑みが向けられる。

 周りの者は皆が笑っていた。中には顔を覆い、同情している者も居るが兵士や貴族、王族は笑みを止めなかった。


「な……何で……! 何でばあちゃんが……!」


 それを見たライは悔し涙を流す。その涙は己の実力不足、そして弱さに落胆しているという意味もあるだろう。

 兵士はその様子を見て嫌味をたっぷり織り交えてライに向け、


「ケッ、知らねえのかよ? だったら教えてやるよ。お前は……お前達は──『忌々しい魔族の生き残り』なんだよ!!」


「!?」


 そう言い放った。


 ライはそれを聞いてハッとする。

 慌てて顔を上げ、兵士を睨み付けながら信じられないような表情を浮かべていた。


「そ、そんな……魔族……? 僕が……?」


「そうだよ! 知らなかったのか!?

少しは変だと気付けよ! いくらガキだったとはいえ、『隔離された場所に家がある』時点でお察しだろ!? バァーカ!」


ギャハハハハ! と、下品な笑い続ける兵士と兵隊達、ライは最愛の人を失い、それに加えて衝撃のカミングアウトを受ける。

 もう精神状態はボロボロだった。


「未練がましく現代まで生き残ってんじゃねぇよゴミの一族が……貴様らが人の世界で生きていけると思うなよ?」


 唾を吐き、見下すような目でライを見る兵隊達。


「……何で……何で祖先の悪事を現代まで受け継がなきゃならないんだ……!」


 それを見て聞き、怒りで再び悔し涙が流れるライ。

 ライはこの兵士達を、笑った貴族、王族を心の底から殺したいと願う。ライの心には、一つの殺意が浮かび上がっていた。



 ──次の瞬間、ライの目から溢れていた涙が、『赤くなった』。



「「「「…………!?」」」」


 次の瞬間、その様子を見た兵士達から余裕の表情が消え去り、驚愕した表情となる。

 驚愕し、顔をしかめる兵士は各々に言葉を告げていた。


「な、何で涙が赤ェんだ!?  ま、まさか……! "魔族の血"が甦ったのか!?」

「そんな馬鹿な!? コイツに魔族の血はもうほぼ残ってないんじゃ……!? ……ほ、殆ど人間の血液が流れているんじゃねえのか!?」

「し、知るかよそんなこと!! 知っていたらコイツもさっさと処刑していた!!」

「だ、だが、このままではマズい!! 兵隊よ!! こ、このガキを……ライ・セイブルを……殺せェェェェェェ!!!」


 兵士達が立ち上がり、槍に剣、銃に矢、魔法・魔術道具。所持している限りの武器を全て──たった一人の少年に向けていた。


「そ、そんな……僕は……"俺"は……泣くことも許されないのか……この血が流れているだけで……」


 ライは豹変した兵士達に吐きそうな程の嫌悪感を催す。そして益々怒りと殺意が沸き、握り拳を作って血が出る程力を込めていた。



 その刹那──



【な、醜いだろ? この世界の人間って生き物は?】


「…………!!?」



 ──ライの頭の中に、一つの声が響いた。


「……は?」


 ライは頭に響いたその声に反応する。

 その反応は小さな反応だった為、兵士達は気付いていない様子だ。


【俺の頃は魔族も人間も幻獣もその他の生き物も一日を生きるのに必死だったてのによォ……。"俺"や"神"が死んで、人間が世界の支配者になった途端コレだよ。人間が世界で一番偉いと勘違いしてやがる。勇者のヤローも今頃聖域とやらで嘆いてるだろうぜ。まあどの口が言っているって話だがな】


 淡々と言葉をつづる謎の声。

 さしてそれを聞いていたライは、謎の声が言った言葉が引っ掛かり、その事を聞いてみる。


(ま、待て……! 『俺』……だと……!? つまり……まさか、お前は……!!)


【ああ、数千年前、世界を支配していたって謂われている──魔王様ってやつだ。ま、今は魔王じゃねえけどな】



 ──魔王。かつて世界を支配し、世界を滅ぼす力を持っていた存在。



 その世界は力ある者のみが生き残り、弱者は死ぬ。

 それ故に数多くの勇者が招集された。

 魔王はその力で次々と挑んでくる勇者達を殺していく。が、遂に一人の勇者に倒された全世界の支配者。


【そして薄々気付いているかも知れねえが、俺が入れるのは『力のある魔族の身体』くらいだ】


(……!? 俺は……本当に……)


 魔王(元)の声を聞いたライは、自分が魔族だった事に嫌気が差す。という事はつまり、祖母も魔族だったが為に処刑されたのだろう。


【一つ提案がある】


(……え?)


 思考と状況整理を続けるライの頭に再び響く魔王(元)の声。

 そんな声を聞いたライは、つい耳を貸してしまう。いや、そこに居るが存在はしていないモノ。耳を貸すという言葉には少々語弊があった。

 しかしそんな事よりも重要な事。それは今、魔王(元)の声音で発せられる。



【『この世界を……変えねえか』?】



(…………!?)


 ──ドクンと心臓が鳴り、ライに鼓動が奔った。

 魔王(元)が言った、"この世界を変える"という言葉。

 要するに人間の支配を終わらせて、魔物の世界を取り戻そうということなのだろうか。

 それとも……。


(そ……そんなこと出来る筈が……!)


【…………】


 言葉が詰まる。"筈が無い"と言いたいのだが、改めてこの兵士達の行動を考える。

 まともな者も居るのだろうが、ライからしてみれば、育ててくれた祖母を連れ去り、その祖母を自分の目の前で処刑した者達。

 そしてこの世界。貴族や王族は良い思いをしているが、普通の町人や奴隷は血を吐く思いをしている者しかいない。


【どうだ……? コイツらは武器や魔法を駆使して世界を支配している。要するに……『俺と同じ』だ。俺はお前が勇者になりたい事も勿論知っている。ずっとお前の中に居たからな……どうする? お前が俺を使わなければ俺は何もできない。今、此処で、──『俺を使って』人間という名の魔王を滅ぼし、世界を救わねえか?】


 魔王(元)はライを誘うように言う。

 本当は断りたいが、やはり魔族の血が故なのだろうか──今聞こえる魔王(元)の言葉、一つ一つに高揚感と鼓動が増す。


(…………)


【どうする? 嫌なら構わねえ。お前なんて俺たちにとっては産まれたばかりの赤子同然だからな。……まあ、やらない場合は全ての魔物や魔族は死に絶え人間の世界が続くか……もしかしたら衰退した魔族や魔物が息を吹き返して新たな魔王が誕生するかだな。どの道家畜や虫は残るかもしれねぇけど】


 どうやら魔王(元)は、ライの中でしか生きることが出来ないのだろう。

 自分で決めることが出来ないからなのか、最後の判断をライに委ねる。

 そして、ライは決断を下した。


(……分かった。こんな世界、変えてやる……! 血で血を洗う戦いをしたい訳じゃない……けど、このままじゃ大昔に勇者が成し遂げた事は全て無駄に終わる……! だったら……俺が……人間と魔族に魔物……『世界を征服して』、本当の楽園を築き上げてやる!! 俺がこの世界の……魔王として、勇者として救世主になる!!!)


【ククク……人間と魔物、魔族。どちらの味方をするという訳ではないか……強いて言えば勇者寄り。……まあ良い。久々に暴れられる事への喜びがあれば十分だ】


 その刹那、ライの身体が漆黒の渦に包まれた。その闇よりも深い黒は身体を覆い、辺りの土を浮かせていた。


「………!? 何だか雰囲気が変わったぞ!?」

「───っ! 矢を放てェ!!」

「銃を撃て!!」

「遠距離魔法で制圧しろォ!!」

「ヤツは魔族だ!! ガキでも油断するな!!」


 それ見た兵士達は顔を青ざめて驚愕し、次々と連結して一人の少年へ向けてそこに存在する武器を放つ。

 そんな兵士達を前に、漆黒の渦に包まれた状態でライはそちらを見やる。


「……(なんだ……まだ近付いて来ていなかったのか、隙だらけだった筈なのに……。いや、『近付けなかった』のか? ……まあどうでも良いや。……で、どうすればいいんだ? 俺はお前の使い方が分からない)」


 ライ率直な感想を述べる。兵隊を見、全く焦らない。むしろ群がる蟻のようにしか見えていない。どうやら性格も少し変わったようだ。

 そのあと魔王(元)に聞いた。どのようにして魔王(元)を使い、どのようにしてこの者達を消し去るのか。について。


【ククク……簡単だ。取り敢えず俺を纏うイメージをしろ。それが出来たら腕や脚を振るうなり、拳を突き出すなりすりゃ良い】


(……分かった)


 ライはイメージを広げる。魔王(元)の姿を見ることは出来ないが、何となく魔王っぽい姿を想像した。

 不思議な感覚がライを包んでいた。力が溢れるというか、身体に熱が伝わるというか、何とも言えない。そんな感覚。


(……腕を振るえば良いんだな…………)


 そしてライは腕を挙げ、眼前に迫り来る兵士達や弓矢に銃、魔法。それらを今一度のみ確認し、直ぐに腕を振り降ろした……次の刹那──!!



 ──……街が、『消し飛んだ』。



 音は無い。ただ手を降ろしただけ、さながら手招きをするように軽く、それだけ、ただそれだけで処刑台、放たれた矢に銃弾、周りに居た貴族・王族・兵隊。それらを吹き飛ばし、数十キロに渡って、そこにあった全てを消滅させたのだ。



 その衝撃で辺りには真っ赤な水溜まりが出来上がり、生き物の気配が一気に減った。

 それによって曇天の空模様は消え去り、天空からは光の差し込む青い空が顔を見せる。


(……こ、これが……魔王の力……!?)


 その力は、力を使った本人ですら驚愕していた。

 当たり前だろう。いくら魔王の力とはいえ、精々建物一つを消滅させるレベルだと思っていたからだ。

 なのにその力は、"デタラメ"・"規格外"・"超越"。それら全ての表現をもちいても足りないほどの威力だった。

 そんなライの様子を見た魔王(元)は、大変楽しそうにライへ言う。


【ククク……どうだ気に入ったか? 要望通り、貴族・王族・兵隊を吹き飛ばしてやった。まあ、街の建物で消滅させたのは貴族・王族の家くらいだ。そして他の人間もお前が嫌悪感を示した奴等しか殺していない。つまり貴族・王族・兵隊も一部は生かしてある。町人や奴隷たちの住み家も残した。お前が怒るだろうからな。因みに、奴隷たちへ家も作っておいたぞ】


 そんな魔王(元)は、どうやらライが殺意を覚えた者しか消しておらず、ライを嘲笑ったりしていない者は生かしてあるらしい。

 それでも街が消えたのでこれからはかなり大変そうである。


(……へー。ちゃんとそこら辺は考えてくれているのかー……中々便利だなー……)


 ライは驚愕と畏怖、そして元・魔王とは思えない気遣いに困惑し、流すように返事をした。

 それもその筈、あの破壊力を前にすればそんな気遣いをしようとしなかろうと全てが消えていてもおかしくないのだから。


【ああ。互いの考えが分かるってことは、お前が思っている殺してもいい奴と、殺しては駄目な奴も分かるってことだ。俺的には自分の欲を満たせるヤツ以外は皆殺しにしても良いと思うんだがな……。まあしかし、お前の力は俺にとっても予想外だった。力のある魔族とはいえ、人間の血の方が濃いお前なのに、俺に近い力を出せるとはな】


(そうなのか……)

【ああそうだ】


 そんなライに返す魔王(元)。

 その話の中でライは物騒な言葉も聞こえた気がしたが、取り敢えず無視して魔王の言った、"俺に近い力"という部分が気になった。

 それほどの力を所持しておりながら、何故勇者に負けたのかと。


【ああそれか。恐らくだが、勇者は俺たちの武器や魔法とは違う別の力があったのだろうな】


(……え!? ……いや、ああそうか。成る程)


 魔王(元)はライの考えに返事をする。

 ライは一瞬驚いたが、頭の中で話しているのだから考えが全て魔王(元)には丸聞こえだったのだろう。と、自己解決した。


【で、これからどうするんだ? 世界を支配するんだろ?】


 街を消し飛ばし、取り敢えず一段落したところで魔王(元)が次の行動を促す。


(うん。先ずは悪逆非道と名高い国々を制圧する。何より大事なのは辛い思いをしている国民だ。だが、善き心を持つ貴族・王族・兵隊は生かす。お前みたいな思考の持ち主を優先して倒す)


【あー、何だか複雑だが……まあ良い。俺は力を振るえればいいんだ。それがお前の考えならそれに従うまでだ】


 ライの行動、それは悪者や魔王(元)のような思考を持つ者を優先して滅ぼすらしい。

 自分に近い性格の者も倒すと言われた魔王(元)は少し複雑そうな心境だったが、ライは気にすることなく、世界征服に向けて一歩前進するのだった。

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