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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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百八十八話 二割

「「…………!!」」


 魔王の力を二割に引き上げたライと、支配者であるシヴァが激突した。

 二人が激突した衝撃で大地は揺れ、陸が割れて粉砕する。

 それでも尚ライとシヴァの攻防は続いており、あちこちに粉塵を巻き上げてクレーターを造り出しながら星を揺るがす。

 二人の姿を捉えるのは容易では無く、消えては現れ、消えては現れを繰り返す。

 一撃一撃がぶつかるにつれて地形は変わり、この星に地図があるのならその地図を書き換えなければならない程だった。


「その程度か!」

「……ッ!」


 シヴァの蹴りがライの腹部に入り、ライは嘔吐感を催す。

 しかしシヴァから意識を反らす訳も無く、蹴りを入れたシヴァの脚を掴んだ。


「んな訳ないだろ!」

「おっ……」


 そしてライはシヴァを投げる。しかしシヴァの一撃は遅れてライに入り、ライとシヴァは互いに吹き飛んだ。

 二人は幾つもの山を貫通し、土塊つちくれや岩、木々の破片を撒き散らして数キロ先で土煙が上がる。


「さて、なるべく遠くに投げたつもりだけど……」


 舞い上がる砂埃。揺れるライの服と髪。

 多少ダメージを受けたものの、動けるレベルではある。

 ライは遠方を見つつ目に入らぬよう腕を顔の前で覆い、


「全然堪えて無いな……」


「ハッハ……当然だろ、つかテメェもな?」


 背後に来ていたシヴァへ話す。

 互いに数キロ吹き飛んだのだが、ライとシヴァ、両方とも外傷は無く無傷に等しい状態だった。


「そらっ!」

「まだまだ!」


 刹那、ライは第二宇宙速度で蹴りを放ち、片腕でそれを受け止めるシヴァ。

 シヴァは受け止めた状態でもう片手を天に突き上げ、


「おっと……!」


 何かをしようとする前に、ライは脚の手を解いてそれを避け、そのままシヴァから距離を取った。

 その動きで砂埃が舞い上がり、風に吹かれて消え去る。


「ハッ、避けたか。まあ、避けるのが当然だな」


「ああ。まあ多分、それを受けてもあまり堪えないってのは自負しているけど……やっぱりやられっぱなしってのは俺的にも嫌だからな……避けるだけ避けた次第だ」


 避けたライに向けて笑うシヴァと笑って返すライ。

 互いに息の吐く暇も無い攻防。という訳では無い。ライは二割、シヴァは一割未満。つまりどちらも全くの本気ではなく、互いは互いに割りと余裕があった。


「……!」


 その瞬間、ライは第二宇宙速度でシヴァへと向かう。

 大地を大きく踏みつけ、粉塵と共に大きな破片を浮かせる。

 その破片は平べったく分厚い。もしもの時はこれを足場に出来るだろう。


「オラァ!!」

「軽い軽い!」


 そしてその破片はライとシヴァの激突によって粉砕した。

 ライは第二宇宙速度で拳を放ち、シヴァはそれを容易く受け止める。

 シヴァの背後では逃げ切れなかった衝撃が走り、大きな煙幕を辺りに散らす。


「「…………!」」


 受け止められたライは直ぐ様動きを変化させ、シヴァはそれに着いて行くように動く。

 そのままシヴァへ拳や足を放つライ。その速度はいずれも第二宇宙速度。もしくはそれ以上である。その一撃一撃が山を破壊する威力だ。


「ハッハー! まだまだだろ!!」

「当たり前だッ!!」


 その攻撃を軽くいなすシヴァと返すライ。

 一秒にも満たない時間で会話し、数百以上の攻防を繰り広げる二人。

 常人や一般的な魔族、その兵士には到底為す事の出来ない御技みわざだった。


「オラッ!」


 ライは身を捻り、身体のバネを生かして回し蹴りを放つ。

 その蹴りは空気を切り裂き、真空を生み出した。

 ライの放った身体のバネを生かした、しなやかつ鋭い蹴りはシヴァの元へ近付き、


「ハッ、残像だッ!」


 ふざけて笑うシヴァによって避けられた。

 ライの脚は光によって残されたシヴァの姿──残像を蹴り抜き、前方に大きな土煙を起こした。

 対象を失った爆発的な蹴りは勢い収まらず、ライの身体を別方向に流す。


「ハッハッハ! 残像ってのはそんなに速くねェ。精々音速より少し上程度のモノだが、残像を残した後で俺が速く移動すればテメェの目を一瞬でも奪えるって訳だ!」


 ライの後ろに回り込んだシヴァは攻撃するという訳では無く、攻撃を当てる事が出来なかったライをからかうように話した。

 実際シヴァなら残像を創っている間に十回は攻撃出来たのだろうが、ライをからかう為に敢えて残像を創ったのだろう。


「そうかい。無駄()つ何の意味も無い事と必要ない説明ご苦労さん……」


 シヴァに揶揄からかわれ、よわい十四、五のライは少しカチンとイラつきながら返す。大人のように達観していても、精神的にも肉体的にもまだまだ子供なのである。


「ハッハ、そう怒んなよ。しかし、テメェがちゃんと俺の姿を追えていたのは分かったぜ。残像を蹴った瞬間に俺へ意識を向けたからな」


 そんなライに向けて笑って話すシヴァ。

 シヴァが残像を創った時、ライはシヴァの姿を追えていたのだ。

 シヴァはその事に気付いたらしく、からかいながらも称賛の声を上げる。


「見えていてもアンタに攻撃を当てられなきゃ意味が無い……アンタの残像は無駄だったが、俺の蹴りも無駄だったって事だ……」


 ライは土煙で砂が乗った髪を掻き、頭の砂を取りながら話す。

 そんなライを見、楽しそうに笑うシヴァは一言。


「……じゃあ、どうするんだ?」

「……アンタに攻撃を当てる……!」


 刹那、ライとシヴァの居た場所は轟音を上げて吹き飛び、『空に幾つもの地面を放った』。

 その表現に比喩は無く訂正も無い。ライとシヴァが動き、何かをした事によって大地が大きく割れて数キロ程の土地が空へ上昇したのだ。


「そらっ!」

「甘い!」


 空中に浮かんだ地面を足場にし、ライとシヴァはぶつかる。

 それによって地面は砕け、辺りへ隕石のように飛び散った。

 地面が地面にクレーターを造り出すという奇っ怪な現象が起き、それでも尚ライとシヴァはぶつかり続ける。

 ライは第二宇宙速度で拳を放ち、蹴りを放つ。それを防ぐシヴァは一つ一つを確実に防ぎ、一撃も受けていなかった。

 空中に浮かんでいる大地は次々に砕け、次々に近距離で造られた隕石と化す。

 ライとシヴァにダメージは無い。が、ライとシヴァが一挙一動する度にこの星が大打撃を受けていた。


「…………!!」

「…………!!」


 ライとシヴァは目にも止まらぬ速度で攻撃を放ち合い、その衝撃のみで空中に浮かぶ。

 浮き上げた大地は全て消えており、空中には何も無い。

 なのに浮かんでいる姿を見れば、二人が空を飛んでいるのでは無いかと錯覚する程だった。


「落ちろ!」

「……ッ!」


 そしてシヴァはライの攻撃を掻い潜り、ライの顔面に拳を突き刺した。

 それを受けたライはこらえる事が出来ずに落下する。

 ライの顔を拳が貫通したという事では無いが、ライに確かな一撃が入ったのは事実である。

 そしてライが落下した場所には、先程とは比にならない程の大きな土煙が上がる。


「オラァ!!」

「……は?」


 そして、シヴァの後ろにはライがおり、ライは『第三宇宙速度で拳を放った』。

 それを受けたシヴァは先程ライが落ちた筈の場所に落下する。

 そこから大きな爆音が上がり、新たな煙が造られる。


「オイオイ……俺は確かにテメェを叩き落とした筈なんだがな……どういう事だ?」


 地面に落ちたシヴァ。シヴァはほぼむきずで立ち上がり、ライに向けて疑問を発する。

 そう、確かにライはシヴァの拳で落下した筈なのだ。


「ん? ああ、それな。それは落ちた瞬間に少し力を入れて三割にしたんだ。だから俺は無事、大きな土煙は俺が移動した際に生じたんだろうな」


 そんなシヴァの疑問に応えるライ。

 ライはシヴァに殴られ、上空から勢いよく落下した。

 しかし、落下した際に魔王の力を三割纏い受け身を取ったので無事だったのだ。

 ライは受け身を取ると同時に動き出し、そのまま三割でシヴァに攻撃したという事である。


「成る程な。取り敢えずテメェが少し力を高めたのは分かったぜ。じゃ、さっさと続きと行くかァ……」


 ライの説明を聞き、納得した様子のシヴァ。

 シヴァは口角を吊り上げ、クッと笑って続きを促す。

 辺りには依然として暖かい空気が流れていた。


「ハッ、俺もそのつもりだ。アンタを倒したいからな!」


 ライは再び力を込め、次は三割でシヴァに挑む。徐々に力を上げて行き、最終的に本気を出せれば上々だ。

 ライとシヴァはまたその場から消え去った。



*****



 ウラヌスは、加速してエマとの距離を一気に詰める。

 その速度は定かでは無い、しかし、かなりのモノという事は分かった。


「そらよっと!」

「……」


 そのまま加速した勢いでエマに攻撃を放ち、エマは紙一重でそれを避けた。

 微かな朧月おぼろづきの光のみが頼りのこの空間。エマはウラヌスの姿をハッキリと捉えている。

 そして、今は夜。エマにとってはこの時間がゴールデンタイム。

 闇夜でウラヌスの動きを確実に捉え、見抜く事はエマにとって普通に戦うよりも容易い事なのだ。


「ふふ……遅いぞ……」

「……ッ!」


 水を得た魚、闇夜のヴァンパイア。エマはウラヌスの横に回り込み、そのまま爪でウラヌスを切り裂く。ウラヌスは何とかかわしたが、脇腹から出血していた。


「実に良いものだな……夜というのは。世界が一生夜だったら良いのに……とは考えぬが、それならヴァンパイアの仲間も見つかるかもしれぬ……」


 手に付いたウラヌスの鮮血を朧月おぼろづきに照らし、ペロリと舐めて告げるエマ。

 エマはヴァンパイアの仲間を見た事がほぼ無い。ヴァンパイアというものは本来より闇夜を好む種族なのだが、ヴァンパイアの食事は人間や魔族の血液。

 古来より人間の天敵として生きていたが人間が殆ど支配するこの世界。駆除対象として絶滅させられそうになっていると考えるのが普通だろう。


「仲間がねぇ……俺は別に関係無いが確かに独りは辛いもんだな……」


 エマの言葉を聞き、フッと笑って話すウラヌス。

 エマの言い分に同意したらしく、同情してくれているのだろうか。


「フッ、何を言っている……同意した『フリ』をして何かを仕掛けようとしているのが分かるぞ……」


「……おっと、そうかい」


 エマは軽く跳躍し、木の上に登ってウラヌスとの距離を置く。

 木に立つエマの金髪は朧気おぼろげな月明かりに照らされ綺羅綺羅キラキラと輝いていた。


「一つ聞きたいが……貴様はどんな力を使うんだ? 速くなったりしているのを見れば加速系かライと同じように力系と見受けるが……」


「……ん?」


 そして、余裕の態度を見せるエマは唐突にウラヌスへ尋ねる。

 昨日ライと戦った時や今さっきの加速。エマの推測では己の力を強増させると考えていた。


「ハッハッハ……そうそう教える訳無いでしょ。君は自分の素性を簡単には明かさないだろ? つまりそう言うことだ」


 エマの質問を聞き、軽く笑って返すウラヌス。

 実際、相手に能力を知られれば相応のリスクを背負う事となる。

 そのリスクを敢えて背負う者も居るが、ウラヌスはその立場の者では無かった。


「そうか。まあ仕方無いな……」


 ウラヌスの言葉を聞き、能力を聞くという事を潔く諦めるエマ。

 教える気の無い者に尋ねたところで意味が無いからだ。


「まあでも……力を見せるくらいなら良いかな?」


「……!」



 ──その刹那、エマの立っていた木が……『へし折れて沈んだ』。



 木の上に立っていたエマ諸ともひしゃげ、バキバキと音を立てて陥落かんらくしたのだ。

 その場所には大きな穴が空き、熱と衝撃で黒く染まった。

 辺り一体に伝わる微かに香る肉が焦げ、たんぱく質が焼けたような匂いはエマのモノだろう。


「……ハッハ、これである程度は分かっただろ? その木は己の質量を支えきれなくなって地面ごと沈んだんだからな……」


 黒く焦げ、何もなくなった場所に向けて言葉を発するウラヌス。その場所では何かがモゾモゾと動き、


「ああ、理解したよ……貴様は重力を重く出来るんだな……いや、加速した事から軽くも出来る……つまり重力そのものを操れるって事か……」


 黒く焦げていたタンパク質の塊が凝縮し、赤くなる。

 そして液体が流れ、その焦げたタンパク質は人の形を形成した。そんな、再び形が戻ったエマはウラヌスの能力を明かす。


「ああ。……つか、気持ち悪いな……ヴァンパイアの再生力は高いって知っていたが……まさかこれ程までとは……」


 エマの再生過程を見、気持ち悪いと告げるウラヌス。

 しかし無理も無いだろう。種族は違えど形は似ている魔族とヴァンパイア。肉片が再生されるのは生理的に受け付けない者も多い筈である。


「しかし重力を操るとはな……自然災害では無いが……自然災害よりも厄介だ……簡単に言えば天体を相手にしているようなモノだからな……」


 服までは再生せず、全裸となったエマは羞恥心など無くウラヌスの能力について考えていた。

 重力というのは時として破壊をもたらす。ブラックホールが良い例だろう。

 ブラックホールは重い惑星。一説では恒星の死後の姿と謂われている。

 普段エマたちが生活している星も、重力が重要な役割を担っているのでその形を保ち、環境を保つ事が出来ている。

 "地震"や"洪水"など、世界規模で破壊をもたらす災害も厄介だが星その物のような重力はそれ以上に厄介だろう。


「ハッハ、お褒めに預り感謝するよヴァンパイア。だけどまあ、その再生力があるんじゃ……手加減できずに殺してしまう可能性もあるんだよなぁ……」


 ウラヌスは重力を纏い、身体の一部を重くして身体の一部を軽くした。そしてエマの方に視線を向け、


「取り敢えず死なないように気を付けてくれよなッ!」


 一気に加速してエマへ向かった。

 ウラヌスが移動した際にソニックブームが生まれ、辺りの木々を薙ぎ払う。

 音速は軽く超越している速度だった。


「ああ、気を付けるよ……」

「……そうか」


 そしてエマは横に避け、ウラヌスの突進をいなす。

 避けられたウラヌスは急停止し、背中越しでエマに言う。

 重力を使うらしいが、木ごとエマを沈めた時以外物理的な攻撃しかしていない。

 恐らくまだエマの様子をうかがっている段階なのだろう。


「じゃあ取り敢えず……ヴァンパイアが死ぬまで潰してみるかぁ……」


「ふふ、面白い。取り敢えず貴様が重力を使うって事が分かっただけでも上々の収穫だ……」


 ウラヌスは後ろを向きながらエマに言い、エマはそんなウラヌスに向けて返す。

 そして互いに背中を合わせていた二人は再び動き出す。

 そして辺りの木々は消し去られた。

 こうしてライは三割の力を使い、ヴァンパイアと重力使いが対峙する。

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