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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第一章 魔王の力
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十八話 一段落

 指揮官との決着が付き、場が静まり返る。

 それと同時に、他の兵士達は武器や魔法・魔術道具を捨てた。

 恐らく、今奇襲を仕掛けようとライには絶対に敵わないことを察したのだろう。

 レイ、エマ、フォンセの三人はライへと駆け寄る。


「やったー! 勝ったよ! ライ!」


「まあ、お前自身の力であの程度に勝てなくては世界を支配するなんて出来んからな」


「見事だ。が、……ヴァンパイアの言った、世界を支配するとはどういうことだ?」


 言い回しは三者三葉だが、ライを祝福する気持ちは全員同じのようだ。

 そしてフォンセは、"世界を支配する"という言葉に疑問を覚える。


「ああ、それは後で説明する。今はやる事があるからな」


 フォンセには後で詳しく話すというライ。

 そんなライは振り向き、戦意喪失している兵隊へ演説するように言葉を発した。


「聞け!! 兵士達よ!! お前達のリーダーであるこの者は、たった今俺の手によって敗北した!! しかし、殺してはいない!! そして!! この奴隷は俺が今買ったことにしろ!! 貨幣ならある!!」


「……なにっ!?」


 淡々と続けるライ。その横でフォンセが素っ頓狂な声を漏らし、ライが何気なく言った突然の言葉に困惑したフォンセはライに向けて尋ねるように話した。


「な、何を言っている!? 私がお前に買われただと!? 何時そんな事を!?」


 そんなフォンセの言葉を聞かず、ライは演説を続ける。


「俺たちの事を世界に報告するのは構わない!! しかし!! 俺たちの名は伏せて貰いたい!! それに加え!! 今日一日は俺たちの後を追わないで欲しい!! 俺たちは無闇に力を振るい!! 暴れるという真似はしない!! その約束を守ってくれるのならば今直ぐにでもこの街から出ていこう!!」


 ライがつづる言葉に、困惑と疑惑を織り交えた表情で口を噤ませる兵士達。自分達の隊長格である指揮官が倒れ、呆然としているのだ。

 だがしかし、しばらくして兵士の一人が前に出て返すように言った。


「分かった!! 指揮官殿が破れた今!! 我々にお前達を倒す方法は無い!! 後を追っても我々兵隊の人数を減らすだけになるだろう!! これからこの街を消し去ったり、悪戯に兵士達の命を奪おうとしない限り、我らは今日一日、お前達に手出しはしない!!」


 ライの言葉を飲み込んでくれたようだ。

 恐らく指揮官の次に階級が高い者だろう。それが気になるところだが何はともあれ、ライたちはこの街を後にするのだった。



*****



 街を出る時、やはり不安なのか、兵隊はライたちを見送る……というより、監視する形で街の外まで着いてきた。

 ライたちは街を抜け、道を進む。

 それを確認し、安心した兵隊達は街の修復作業に取り掛かる。

 住民を思ってなく、自分勝手な兵隊かと思ったが、どうやら思い違いだったらしい。

 その場の怒気を上げる為に、敢えて住民を無視するかのような発言をしたのだろう。



*****



 ──その後。


 ライたちは左に草原、右は木々に囲まれた一本道を進む。空は依然として青く、白い雲がライたちを見下ろしていた。

 空も去る事ながら、太陽も燦々(さんさん)と輝いているがエマは闘技場で購入した傘を日除け用に使っているので日光によるダメージは無い。

 街から大分離れ、自然が多くなってきたところでフォンセが気になっていた事をライへ言う。


「で? 私を購入した事と、世界を支配するという事を詳しく話して貰おうか? 私はお前達の仲間になった覚えはない。確かに魔王の力を操る事は気に掛かるが……」


 フォンセが気になっていた事、それは自分を購入した事とライが目標としている事である。

 そんなフォンセの言葉を筆頭とし、レイとエマも続くように発言する。


「私も気になることがあるよ。……ライが魔王を宿しているって、どういうこと? そしてフォンセが魔王の子孫って事も」


「ふむ。その事は私も気に掛かった。まあ、説明しにくかったり、話すのに気が引けるのは概ね承知するがな?」


 フォンセが聞きたいライが自分を買った事と世界征服の事に対し、レイとエマが聞きたいのは魔王の事についてだ。

 三人から睨まれて逃げ場が無く、孤立無援の状態であるライは誤魔化すように苦笑を浮かべ、頭を掻きながら答える。


「……ま、まあまあ、落ち着いて……。……えーと……まずは……えっと……うん、どっちから話そうか?」


「「「どっちでも良い」」」


 言葉を揃えて言う三人。

 何時からそんなに息が合っているんだ? と思うライだったがしかし、これを言うと話が進まないので敢えて言わなかった。

 どうしたものか。と少し考えたあと、ライは言う。


「えーと……まずはフォンセから説明しようか? 一番最初に聞いた訳だしな」


 そして、ライが話す体勢に入る。先ずは最初の質問者であるフォンセの問いに対してだ。

 レイ、エマ、フォンセは、近くにあった石に腰を降ろし、こちらは話を聞く体勢に入った。


「まず、フォンセを買った訳。それはフォンセの事を思ってだ」


「私を思って? ……私はお前に頼んでいないぞ?」


 その理由はフォンセの為らしい。その事に対し、ますます気に掛かったフォンセが訝しげな表情でライへ尋ねる。

 質問に対してライは頷いて返す。


「ああ、俺も頼まれていない。いってしまえばただのお節介だ。けど、フォンセがあのまま彼処あそこに居たのなら、間違いなく今まで以上に厳重な警戒と注意を張られた上で監視されるだろうな。勿論自由なんて無い。最悪、処刑されるだろうさ」


 ライが言った、"処刑される"の部分にピクリと反応するフォンセ。

 ライはフォンセの反応を横目に、その言葉を続ける。


「今までは一部の者しかフォンセが魔王の子孫ってことを知らなかった。けど、今回の一見で魔王を操る者と、魔王の子孫がこの世に存在するって事を一部以外にも広がってしまった可能性がある。だから──『人間の安全の為』『世界の安全の為』に『フォンセを処刑する』という意見が多数出てくるだろうさ。俺はそれが嫌だった」


 つまり、また新たな魔王を生み出し、世界の秩序が再び乱れてしまう前にその元凶を破壊しなくてはならない。という思考を元に、支配者を含めた全世界が辿り着く可能性が高い。なのでライはその事を懸念し、フォンセの命を守る為にフォンセを買った。という訳である。

 フォンセはライが考えていた事に困惑する。

 まさか、元・奴隷である自分の為に、此処までしてくれる者が存在したとは考えなかったのだ。

 気が付けば、フォンセの目頭が熱くなっていたが、何とか堪える。


「そ、そうか……。……次は世界を支配するということについて詳しく教えて貰おうか……?」


「ああ、それは──」


 ライは、何時かレイやエマへ言ったように自分が思い描く世界征服について話す。

 魔族・魔物・人間・幻獣。それら全てを支配する。しかしそれらの自由は"最低限"奪わない。

 血で血を洗う争い事や、生き物の悲しみを無くし、平穏で平和な世界を創る。それがライ自身の思い浮かべる理想郷。

 真剣な表情でそれを聞くフォンセ。


「──てこと」


 そしてその話が終わった。

 一括り着いたところで、フォンセが気になった事をライに質問する。


「……争い事を無くすと言っているのに、お前自身が争ってどうするんだ?」


「…………あ」


 思わぬ盲点を突かれた。

 確かに争い事を無くすのが最終目標。だがその為には、ライ自身が戦わなければならない。


「ハハハ……取り敢えずその時はその時だ。風の吹くまま気の向くまま……ってな」


 そんなフォンセの言葉に対し、ライは笑って誤魔化す。

 時には力付くで問題を解決しなければならないこともある。それは確かにそうだ。しかしライ自身、無闇な殺生は好んでいない。

 相手がどうしても止めない場合と、存在自体が天災の場合くらいしかライは殺生をしていないのだが、生き物を殺した事があるのは事実だ。


「まあ、俺もなるべく殺すことは避けたいな……」


「………………」



*****



 ──突然、遠くを見るように、寂しげな目をする、目の前にいる男。

 他の二人も黙ったままだ。

 "私"自身、どんな反応をすれば良いのか分からない。

 今まで、見た目だけで私を買った者達は全員が全員、欲にまみれた気味が悪い目をしていた。

 幼き私の身体だけを欲した者も沢山いた。

 気持ちが悪く、全員吹き飛ばした。

 気付けば闘技場で怪物と戦わせられる日々……。

 祖先が人々や幻獣を苦しめたのは事実。

 しかし私の祖先を知っている者は少ない。

 数千年越しに報いが来たのだろうか、今まで生きてきた十数年間、楽しいと思えることは、何も無かった。


「理想郷を創る為にはあと、どれくらいの生き物が犠牲になるんだろうな……」


 目の前の男が呟くように言う。

 フフ……どうやら私は少々意地悪な質問をしてしまったらしい。

 避けられない戦いがあるのは、この世界では仕方の無い事なのにな……。

 その男は、私に手を差し伸べ、言った──



*****



「なあ、フォンセ。どうだ? 改めて聞きたい、俺たちの仲間にならないか?」


「………………」


 ライは手を差し出し、フォンセを仲間に勧誘する。

 そんなライの言動に、フォンセは少し考えている様子だったがしかし、直ぐにその手を取り、


「……ああ、良いだろう。お前の話を聞いたら私も世界とやらを変えたくなった。これからよろしく頼む」


「ああ!」


 そしてフォンセが仲間になり、新たな旅仲間が増えた。

 フォンセの疑問に答え終えたライ。続いてライはレイとエマの方を向き、魔王の事について話す。


「で、次は魔王の事か……」


「「…………」」


 レイとエマは無言で頷く。

 ライは考えるように言葉を選び、その中から適切な言葉を発した。


「まずは俺自身が宿している魔王について話そう……いや、俺も魔王の事はよく知らないんだ……だったら、『本人に聞いてみよう』」


「「「…………?」」」


 レイ、エマ、フォンセの三人は、ライが何を言っているのか分からなかった。

 ライが言った本人に聞いてみようと言う言葉はまるで、魔王がライの中で生きているかのような口振りだったからである。

 聞く前にライは、懸念したことを言う。


「あ、そうだ。今から魔王を見せるけど、話しているのは俺なんだよな……おかしな奴とか思わないでくれよ?」


 それは話す張本人についてだ。

 確かにライは魔王を宿しているが、黒いオーラがライを包むこと以外は自分の意思で戦ったりの行動をしている。

 魔王自身に話を任せても、話しているのはライなので独り言かと思われる可能性もあるのだ。

 レイ、エマ、フォンセの三人は頷いて返し、ライは魔王を出すようにする。


(オイ、魔王。てな訳で説明してくれ、勇者の子孫と、ヴァンパイアと、お前の子孫にな。今は何秒くらい出れる?)


【そうだなあ、多分十秒はイケる。だからコイツらの質問に応える事が出来るとすりゃ、一人だけかな? ま、出来るなら連続して俺を出せば良いだけのことだな】


(……分かった)


 今の魔王は十秒出れるらしい。

 前まで、といってもほんの数日ほどだが、その時は三秒くらいだったことを考えると倍以上の時間出られるようになったと言える。


「取り敢えず、十秒だけは魔王を出せるみたいだ。何で十秒かは本人に聞いてくれ」


 それだけ言い、ライは漆黒の渦に包まれる。

 血が熱くなり、魔王の力が身体に流れるのを感じるライ。

 戦うつもりは無いのだが、どうやらこの力を纏うだけで闘争心が溢れてしまうらしい。

 ライの意識は、『目で見えるのに暗い空間』へといざなわれた。

 その場所は、暗いのか黒いのか、それとも白いのかも分からない。

 近くにとてつもない威圧感を感じる。恐らく魔王だろう。


「【良し、出てこれた。俺が魔王って奴だ。さっさとしろ。十秒で消えちまう】」


 次の瞬間、ライが普段とは違う口調で話し掛けた。その雰囲気は変わっており、確かにライのようでは無かった。

 そんな様子を見、先ずはエマが魔王ライに質問をする。


「……お前が魔王なのか……?」


「【だからそうだと言ってんだろ? 早くしろ。あと五秒だ】」


 即答で応える魔王ライ。エマは本当に魔王かどうか聞きたかったようだが、それ程までに即答だと返す言葉も見付からない。

 そんな魔王ライは三人の顔を見回し、レイ、エマ、フォンセに向けて言う。


「【なんつーか……勇者野郎の子孫と、俺の子孫が旅をするってのは……──】」


 ──刹那、黒いオーラが消えた。

 ガクン、と、糸が切れたように座り込むライ。何かを言い掛けていたが、言い終わる前に魔王が消えてしまった。

 レイとエマは思わず苦笑を浮かべる。

 魔王そのものを出すのは、十秒でも負担が大きいらしい。


「……何か、悪いな。質問に応えることが出来なくて。まあ、取り敢えず今見せたのが魔王だ。信じられないかもしれないがな」


 元に戻ったライは、やはり先程とは違いレイたちが良く知る方のライだった。つまり本当にさっきの者は魔王だったのだろう。

 そんなライは期待に応えることが出来なかった事が気掛かりだったが、一先ずは魔王の存在を伝えることが出来た筈だ。

 レイは、先程のライの様子を見て感想を言う。


「うん。にわかには信じられないけど……確かにライとは雰囲気が違っていた気がした……」


「うむ。独り言に聞こえなくもないが……確かに"何か"を感じた」


 レイとエマも魔王の気配を感じ取ったようだ。

 フォンセは元々知っていたので、特に反応という反応を示さなかった。

 ライは魔王について話す。


「この魔王は……実は俺もよく知らないんだ。気付いたら俺の中に居た……的な感じでな」


「気付いたら……?」


 ライの言葉に訝しげな表情で返すレイ。"気付いたら"という事は、ライ自身が魔王の存在に気付いていなかったという事。

 その感覚は例えるのが難しく、何とも言い表せない不思議なモノらしい。

 そして、そんなライはレイの言葉に頷いて続ける。


「ああ。俺が魔族だって知ったのは、最近の事って前に言ったよな? 魔王が俺に話し掛けたのは俺が自分を魔族だと理解してからなんだ」


「へー……」

「ほう……」


 要するに、魔王については全く知らないという事。

 しかし、世界征服するのには便利な力なので頻繁に使っているのだ。

 これでライの話は終わる。何か腑に落ちないが、本人すら何も知らないのだから仕方ないで済ますしかない。

 ライたちが話していたのは数十分程度、まだまだ周りは明るく、移動できるだろう。

 日除けの傘があるので、エマも日差しの影響で倒れることは少なくなる筈だ。

 仲間を増やしたライたちは、世界征服の旅を再開する。



 世界を征服し、かつて勇者が築き上げた、平穏で平和な世界を創る為の旅は、まだ序章に過ぎないのだから。



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