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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
189/982

百八十六話 舞台2

 ──"???"。


「……」


 チリチリコロコロと透き通るような声で虫が鳴き、立っているだけで汗が吹き出る熱帯夜のような沼地。

 天気は良いが辺りはジメジメしており、気温も相まって真夏の闇夜を彷彿とさせる。

 足元に泥濘ぬかるみがあり、フォンセの足に気持ち悪い感触が伝わっていた。

 そこに飛ばされたフォンセは困惑したように辺りを見渡し、今の自分が置かれた状況を思考する。


「……」


 辺りを見ると全体的に暗く、恐らく時刻は夕刻の最も暗い時間帯だろう。そこにあるものは大きな沼と数十本の木々に足元を覆う草。

 沼や泥濘ぬかるみの地面からは、ゾンビかなんかのようなアンデット系の幻獣・魔物が出てきそうな雰囲気である。


「不気味な所だな……さっきまで私が居た場所とは空気が少し違う……別の場所に移動させられたのか……?」


 取り敢えず立ち止まったままでは意味が無いだろう。

 仮に此処が舞台ならば、いつ何時なんどき敵が襲ってきてもおかしくないからだ。

 フォンセは探索を兼ねて歩き出し、キョロキョロと辺りを見渡して周囲を警戒していた。

 しかし薄暗く、辺りの様子がよく分からない。

 生物の気配を感じ取ろうとするが多種多様の生物が居るらしく、一つの気配に集中出来ない様子だ。


「全く……何とも悪趣味な舞台だ……此処に派遣された奴は誰なんだか……その者とは趣味が合わないな……」


 泥濘ぬかるみを歩く度にグチャグチャと水気のある音がし、そんな沼地を歩くフォンセはその景観と感触に文句を言う。

 実際、此処に送られたのがライやレイ、エマにリヤンのような物理をメインとする者たちだったなら足場が悪く動きにくいだろう。

 ライとリヤンは一応魔術も使えるが、主に物理メインである。

 何はともあれ、少ない確率でこの場所に送られたのがフォンセという事は幸運。と呼べるだろうか。


「失礼ね! 私もこの場所を気に入っている訳じゃないわよ!」


 そして、そんなフォンセの文句を聞いてやって来たのは支配者──シヴァの側近であるオターレド。

 オターレドは何処かで様子をうかがっていたのか、突然姿を現した。

 その眉間にはシワが寄せられており、フォンセの言葉が気に食わない様子だった。


「おっと、悪かったな。しかし、沼地という水場に雨や洪水の魔術を使う者……ピッタリじゃないか!」


 突然姿を現したオターレドへ向け、揶揄からかうように笑って挑発するフォンセ。

 オターレドの雨・洪水魔術を皮肉るように言う。

 ジメジメとして湿気が多く、爬虫類や両生類のような水辺を好む生物しか棲まなそうな場所。

 どちらかと言えば、草原とかのようなジメジメしたり暑過ぎたりしない場所を好む魔族のオターレドへ向けた皮肉である。


「ハンッ! 余裕でいられるのは今のうちよ! 貴女の綺麗な顔が苦痛に歪む姿を思えば今から楽しみで仕方無いわ!」


 余裕の態度を見せるフォンセへ向け、若干苛立てながら返すオターレド。

 まるで子供のようなオターレドへフォンセは呆れる。


「私の顔を綺麗と言ってくれるのか。いやいや、それはありがたい。感謝する。しかし、面と向かって言われると照れるな」


 取り敢えず子供っぽいオターレドへ向けて、軽い演技をしながら再び挑発するフォンセ。


「な、何よ! 嘘よ、嘘! 嘘だからね! 貴女の顔なんか綺麗じゃないもんね!」


 オターレドはその挑発にまんまと引っ掛かった。

 しかしその返答も子供のようである。確かな強さはあるのだろうが、やはり気が抜けてしまうモノだ。


「まあ良い……お前の話に付き合うのは疲れた。「何よ!?」……どうせやる気なんだろ? さっさと始めてくれないか……」


 取り敢えずある程度遊んだ後でフォンセはオターレドへ戦闘を促した。

 オターレドは途中、フォンセの言葉に入ったがフォンセはそれを無視して自分の言葉を言い終えた。


「……ッ! 良いわ! 貴女の身体に分からせて上げる! 災害の恐ろしさをね!!」


 オターレドは両手を広げ、それによって晴天だった夕空は曇天の空模様へと変貌する。


「ふふ、昨日見たからその強さは理解しているよ……」


 フォンセも魔力を込め、いつでもエレメントを使える体勢に入る。

 今、通常よりも上の魔術と災害の魔術が激突しようとしていた。



*****



 ──"???"。


「あ、リヤンちゃん!」


「……え? ……あ……キュリテ……」


 一方のリヤンとキュリテ。

 キュリテがリヤンを見つけて言い、キュリテを見つけたリヤンは返す。

 それからリヤンとキュリテが互いに近寄り、辺りを改めて一望した。

 そこは温かく、過ごしやすそうな心地好い空間だった。

 周りには色とりどりの花が咲き乱れており、緑の草が地面を覆っている。

 そして暖かい風が吹き抜け、草花を揺らしながらリヤンとキュリテの頬を優しく撫でる。

 空は快晴の天気模様。僅かに空を漂う雲が風に流され、それ程日差しが強くない太陽が輝く。見ていて飽きない穏やかな空間だった。


「キュリテ……此処は……?」


 先ずリヤンが、この空間を知っているであろうキュリテに尋ねる。

 知っていると思う理由は単純、キュリテが魔族の国で幹部の側近を勤めているだからだ。


「えーと……支配者さんが創った空間……いや、惑星……かな?」


 リヤンに尋ねられ、取り敢えず応えるキュリテ。

 キュリテも側近として何もしていない訳ではない。勿論あらゆる仕事をこなしているのだ。

 その事についてキュリテは説明するように話した。


「側近の仕事には支配者さんの星を管理する仕事があってねぇ~。何度か色んな星に行ったりしているんだ。"テレパシー"が使えるし"テレポート"も使えるからねぇ。生態系や色んな事の管理はお手の物なんだ♪」


 その仕事の一つに支配者関連の事もあり、星を管理する事もたまにあるとの事。

 キュリテの超能力はあらゆる事に対して便利に使える。

 なので星を管理する事は容易いのだ。

 無論、その星々にも強い幻獣・魔物のような動物も居る。

 その時は支配者であるシヴァに頼んで何とかして貰ったりと、取り敢えず幹部やその側近には星の管理という仕事もあるという事である。


「へぇ……だからこの星が支配者の作ったモノって分かるんだ……」


 キュリテの話を聞き、納得したように頷くリヤン。

 実際キュリテから知っていると思って聞いたリヤンだが、信憑性が高まるにつれて支配者の力というモノが分かり、"次元の違い"が明らかとなっていく。

 次元の違いというモノ──例えば"絵"。

 紙に描いた絵というモノは二次元、そしてこの世界は通常三次元。

 その紙に描いた絵は人が軽く力を入れると簡単に破れてしまう。絵は紙と共に、為す術なく無くなる。

 リヤンはそれ程の差が支配者と自分の間にあると感じているのだ。

 支配者が人だとすればリヤンは紙に描かれた絵。何も出来ずに破られてしまう存在……恐らく今のリヤンが支配者に挑んだら最後、為す統べなくこの世から消えてなくなってしまう事だろう。


「……」


「どうしたの? リヤンちゃん……」


 黙り込むリヤンを見たキュリテは、心配そうな表情でリヤンに尋ねる。


「え……? あ……ううん……何でもないよ……何でもない……」


「……ふぅん……へえ……?」


「……! な、何……?」


 暫く呆けていたリヤンはハッとし、キュリテは何かを察する。

 リヤンの様子を見るに、支配者関係の事を考えていたのは明らかだ。

 そんなリヤンへ向け、キュリテは笑って返した。


「アハハ! 大丈夫だよリヤンちゃん! リヤンちゃんは私が護るからね♪ だからリヤンちゃんも私を護ってね♪」


 キュリテは笑い、リヤンは依然として困惑した表情を浮かべていた。


「えーと……うん……分かった……」


 そして少し経ち、リヤンはコクンと頷いてキュリテへ返す。

 それによってリヤンの長髪がフワリと舞い上がって揺れ、それと同時に再び風が吹き抜けた。


「わっ……」

「あ、大丈夫?」


 ビュウ。と吹き抜けるその風に煽られてバランスを崩すリヤン。キュリテは軽く笑いながらリヤンの肩を掴み、リヤンの心配をする。


「うん……平気……」


 リヤンは片手で靡く髪を押さえ、なんとなく空を見上げる。

 穏やかな春の気候だが、此処に敵が居る事は確かだろう。

 暖かな風が吹き続け、その風は突然止んだ。


「成る程。私の相手は貴女達二人なのですね……まさか別の街を治める幹部の側近だった者が相手とは……」


「「……!」」


 そして風が止むと同時に、その者は花弁を散らせながら突然現れた。

 花弁はその者の周りを囲い、その者を鮮やかに彩る。

 それによってその者が着用しているスカートが揺れ、エプロンがなびく。


「シュタラさん……。……私は側近"だった"じゃなくて今もちゃんと側近だよ……」


「あ、あの人……。……普段着はスカートだったんだ……戦いにくそう……」


 現れた者──アルモ・シュタラ。シヴァの側近にして侍女をやっている者。

 侍女をやっているからか、その服装はメイド服っぽかった。

 ライたちとはまだ一度も戦っておらず、その強さはライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの誰も知らない。

 キュリテが知らない理由は、シュタラがシヴァの侍女をやっているのであまり前線にでないからである。


「おや、まだ側近でしたか……ふふ、それは失礼致しました。如何せん貴女は自由で有名……いつ敵に寝返ってもおかしくない者だと……私が勝手に思っております故に……私の中で貴女をクビにしてしまいました」


 シュタラは笑いながら淡々と告げるようにキュリテへ謝罪した。

 キュリテの性格から、キュリテは本当に側近の座を降りたモノだと勘違いしていたらしく、その事について深々と頭を下げる。

 そして頭を数秒下げた後、シュタラは顔を上げ、


「しかし、まだ側近として仕事をしているなら、そこに居る侵略者一味の仲間をこの場で倒してみてください……殺さなくても結構です。ただ行動不能の状態にすれば良いので……」


「……!」


 次の瞬間にリヤンを指差し、自分の目の前でリヤンを倒すようキュリテに命令した。

 リヤンは肩を竦ませ、スッと後退る。キュリテは特に反応を見せず、


「……うん、嫌!」


 満面の笑みでそう告げた。


「……そうですか」


 それを聞いたシュタラはガッカリしたように肩を落とし、再び顔を上げて話す。


「残念です……。しかし、ならばやはり反逆者では無いのでしょうか? キュリテさん。貴女、自分が何をしているのかを理解しておりますか? 貴女は自分の国を落とす為に戦っているのですよ? 分かりますかこの言葉の意味を?」


 シュタラの意見を断ったキュリテに対し、シュタラは言葉を淡々とつづっていく。

 しかしシュタラが言う事は割りと正しく、確かにキュリテは自分が産まれ育った国を落とそうとしているに等しい状況である。


「わ、分かってるよぉ……。け、けどさ……私はただ側近仲間と戦っただけだから……うん。別に幹部さんたちとは戦っ……たりはしたけど! 幹部さんを一人も倒してはいないよ! 勝てなかったし!」


 シュタラの言葉に返すキュリテ。

 実際、キュリテは幹部の側近を何人か倒したりはしたが幹部その者は倒していない──厳密に言えば倒す事が出来なかった。


「それでも戦ったのは事実ですよね? 例えば……そうですね、特訓とか練習とかのような口実があるのならまだしも、国を落とす者達に手助けするような戦闘は流石に目を瞑る事は出来ません。特に貴女は超能力者。それ程貴重な人材です。貴女は自分の価値をしっかりと考えてください。これは貴女を道具として見ている訳じゃありません。貴女が……貴女という国民一人の命が大事だからこそです!」


「……うっ……」


 シュタラに痛いところを突かれ、思わず声が出るキュリテ。

 シュタラが最も許せない事は魔族の国を侵略するという、支配者がシヴァのように温厚な者じゃなければ即座に死刑を執行されそうな罪を犯した事についてだった。

 キュリテは幹部の側近、シュタラは支配者の側近、似たような立ち位置に居るキュリテが心配なのだろう。


「……えーと……よく分からないけど……取り敢えず謝ろう? キュリテ……」


「何で!?」


 キュリテとシュタラのやり取りを見ていたリヤン。

 リヤンは状況が飲み込めなかったが、取り敢えずキュリテへ謝る事を促した。

 その言葉に対して、キュリテは困惑の声を上げる。


「……では、謝ってもらいましょう……」


「シュタラさん!?」


 リヤンの言葉を聞き、シュタラもキュリテに謝罪を促した。

 キュリテは更に困惑し、結構大きめな声を上げる。


「ふふ……冗談ですよ……。……しかし、そこに居る侵略者の御仲間さん……中々気が合いそうな気がします……。"気が合いそうな気がする"と言うのは少々違和感のある言い回しですが……まあ良いでしょう。出会い方が違ければ親友になれたかもしれません……」


「……え?」


「……リヤンちゃんとシュタラさんの気が合う……? 本当かなぁ……」


 シュタラが述べた、リヤンと気が合うと言う言葉。

 リヤンはそれに反応し、キュリテはリヤンとシュタラを交互に見て、またもや困惑したように呟く。

 実際、大人しい性格のリヤンと支配者の側近兼侍女をやっており、話をメインにしているシュタラでは真逆の性格である。

 それでも気が合うという事はあるだろうが、その姿が想像できないキュリテ。


「ふふ……まあ、それはそれで良いです。話が脱線してしまいましたね。すみませんでした。……では、そろそろ本題に戻しましょうか」


「……」

「……うん、そうだね。そうしようかシュタラさん」


 シュタラが頃合いを見、リヤンとキュリテへ向けて話す。

 そして、二人に言葉を続けた。


「キュリテさん。貴女は私の敵として君臨するのですね? では、私も容赦致しません。貴重な戦力を削るのは気が引けるのですが、やむを得ない事です。もう一人の方。貴女とは別の形で出会いたかった。しかし、これもやむを得ません。二人と戦うのは……やむを得ない事なのです……!」


 シュタラが言う言葉。シュタラはやむを得ないを連呼する。

 それ程に戦いたく無いのだろう。恐怖という訳では無く、シュタラ自身がリヤンとキュリテを傷付けたくないのだ。


「……うん、了解」

「右に同じ……」


 シュタラの言葉に返答するリヤンとキュリテ。

 キュリテが先に言い、リヤンが続くように言葉を発した。


「……では、なるべく傷付けずに終わらせましょう……」


 ザッと両足を軽く広げ、リヤンとキュリテに向き直るシュタラ。それによってフワッと髪が揺れ、メイド服っぽいスカートとエプロンが揺れる。


「良いよ、本気でも……どうせ負けたら私も反逆者的な存在になっちゃうかもしれないからね……」


「……同じく……私は元々侵略者だけど……」


「……」


 軽い雰囲気を漂わせているシュタラへ向け、リヤンとキュリテが返す。シュタラは何も言わず、静かに構えていた。

 戦うメンバーはライとシヴァ、レイともう一人、エマとウラヌス、フォンセとオターレド、リヤン、キュリテとシュタラ。



 こうして全ての駒は出揃った。

 今、魔族の国で行われる、魔族の国に置いての最終決戦が始まりを告げようとしていた。



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