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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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百七十四話 支配者

 ──"ラマーディ・アルド"・巨大な建物前。


 軽い話し合いを終えたライ、エマ、リヤンの三人は目標であった建物の前に居た。

 おかしな事にそれを警備する者の姿は無く、その建物はポツリとあるにもかかわらず威圧感をかもし出しながらたたずんでいる。


「おかしいと思わないか? 幾ら支配者が強いとはいえ、警備の一人もいないなんて……しかも……」


 その事に違和感を覚えつつ、ライは『開きっぱなしになっている門』に目をやった。


「ああ、おかしいな。こんなに歓迎ムードとは……見るからに罠だろ……」


「……うん、怪しい。とても……」


 まるで何かを誘うよう、大口を開けてたたずむ建物に大きな門。

 何もなかった道中と一人もいない警備。それらが相まり、エマとリヤンはその建物から不気味な何かを犇々(ひしひし)と感じていた。 


「まあ、罠だとしても、罠じゃなくて元々歓迎してくれていたとしても、俺の目標は変わらないさ。俺が前に出る。エマとリヤンも互いに警戒していてくれ。罠だとしたら敵がいつ来るかも分からないからな」


「……うん……警戒してる……」

「ああ、当然だ。ライも警戒を怠るなよ」


 ライは一歩踏み出して話、リヤンとエマもそれに返す。

 三人は警戒を高めながらその建物に近付き、ゆっくり……ゆっくりと歩みを進める。


「……」

「……」

「……」


 三人は息を殺し、辺りの気配に集中して歩く。

 寒さによって息が白くなっているライ、リヤン。

 ライ、エマ、リヤンは雪の積もった建物前に移動し、開いている門に背中を付けて中の様子をうかがう。

 その中は薄暗く、光の届いていない奥の方は目で見えなかった。


「気配は無し……側近どころか、部下兵の気配すら……な……」


「……あ、ああ……」

「……う、うん……」


 ライは奥の方へ意識し、その気配を感じようとしている。

 しかし、そこに側近や部下兵のような気配は無かった。

 だが、エマとリヤン、そして勿論ライも何かを感じていた。その何かは何か分からないが、何かが何かを打ち消すような、気配によって別の気配が消されているような、全てが分からない"何か"。


「「「…………!?」」」


 その何かを感じ、ライ、エマ、リヤンの身体に得体の知れない衝撃が駆け巡る。

 冷たく、熱く、涼しく、暖かい。そして痛くて優しい、心地好くて辛い。全てが矛盾しているこの世のモノとは思えない何かが。


「……これは……予想以上に厄介だな……強さで言えばレヴィアタンを軽く超越する……。重く、大きく、過重で巨きい……今まで感じた気配や感覚の中でも最上級だ……」


 タラリ、と冷や汗を流してエマとリヤンの方を一瞥するライ。

 背筋が凍るとは正にこの事。蛇に睨まれた蛙のように動かず、恒星でも背負っているのではと錯覚する重圧が掛かっていた。


「……ッ!」

「……! リヤン!」

「……!?」


 そしてリヤンがフラ付き、エマがリヤンの名を叫ぶ。

 ライは一瞥から方向転換し、エマとリヤンの元に駆け寄った。


「……。……エマ、リヤン……。二人は建物の入り口付近で待っていてくれ……俺が建物の中を確かめる……!」


「……ッ! ライッ……!」


 そして二人の肩を抱き寄せ、二人の耳元で呟くように話す。

 そんなライの言動にエマは反応を示し、反応を確認したライは言葉を続ける。


「ああ、分かってる。此処は危険で……危険で危険で危険だ……危険と言う言葉しか思い付かない。俺の身体が拒否反応を起こして震えている。……これは寒さによる震えじゃない。……まあ、寒いには寒いけど……この寒さが心地好く感じるレベルには麻痺しているよ」


「……ライ……」


 ライは自分の掌を見やり、その震えを確認した。

 幼き時のライは震え、祖母に助けを求める事は多々あったが、魔王を宿してから恐怖を感じたのは初めてである。

 レヴィアタンを前にした時も、ベヒモスを相手にした時も、ぬらりひょんや大天狗を相手にした時も危険という事を理解していたが、身体が拒絶反応を起こす程では無かった。

 今現在、この街"ラマーディ・アルド"にあるこの建物の、その側に居るだけでライの身体は危険信号を出しているのだ。

 エマは何かを言おうとしたが、ライの様子とこの建物を見て言葉が頭から無くなった。

 不死身で不老不死のエマが"死"の危険を感じているのだ。

 それは初めてライと戦った時以来、久々の感覚だろう。


「……行くのか?」

「ああ、直ぐ戻るさ……」


 フラリ、ライは固まって動きにくい足を動かして建物の中へ踏み入る。

 身体は拒絶反応を起こしているが、ライの心境に変化は無い。

 そして、魔王という絶対的な者が宿っているのだ。不安というものは一度動いてしまえば払われるだろう。


「………………………………」


 そしてライは、踏み入ったその建物の中を探索するのだった。



*****



 ライたちと別れたレイ、フォンセ、キュリテの三人は取り敢えず、あまり目立たぬように路地裏に居た。

 路地裏は表通りよりも冷えており、その暗さからも体感温度が更に低く感じる程だ。


「さて、今回は悪魔で偵察みたいなモノだ……。ライたちが帰って来るまで私たちは何をしていようか……」


 そしてそんな路地裏では白い息を吐き、上着を羽織った状態のフォンセがレイとキュリテに尋ねる。

 薄着よりは大分マシだが、それでも寒いという事実に依然として変わりは無い。


「うーん……。どうしようか……。……このまま此処に隠れているってのも良いかもしれないけど、ライたちがあの建物に向かったし……だけど相手の側近や部下達も此方に向かっていない保障は無いんだよね……」


 そんなフォンセに向けて、最初に返したのはレイ。

 今回は先手を打ったつもりでいるが、相手が行動を起こしていないという事は無いだろう。


「うん。支配者さんたちの側近や部下兵は考えが無いって訳じゃ無いからねぇ……。半ば無理矢理で起こした行動が成功するとは思えないなぁ……」


「ああ……」

「うん……」


 キュリテが言った事は正しく、この世に全てが上手く行くという事はほぼ無い。

 今までは魔王ライの力があり、レイやフォンセが元々持っていたであろう内なる力が目覚めたりした。

 しかしレイとフォンセは、極限にならなければその力を使えない。

 今回は偶然にも潜在的な力が目覚める確信は無く、敵に攻め込まれた場合どれ程渡り合えるか分からないのだ。


「ああ、全くその通りだよ。『俺たちも俺たちで行動を起こしていた』って考えずに提案したのか、お宅のリーダーは? だったら浅はかだな。……いや、それ程仲間を信頼していたって事か?」


「「「…………!?」」」


 その時、路地裏にある建物の屋根の上からレイ、フォンセ、キュリテに話し掛けてくる影があった。

 その影の顔は見えないが、フッと笑ったような動きを見せて言葉を続ける。


「侵略者がどんな顔かを見に来たが……何やら知った顔もあるな……キュリテ? テメェ……自由な奴ってのは理解していたが……まさか己の国を征服する為に暗躍していたとはな……。失望した」


 その者は屋根から飛び降り、着地したその衝撃で石の道にクレーターが造り出される。

 そのクレーターが造られた反動で粉塵を巻き上げ、その粉塵は消え去った。


「……"レイル・マディーナ"、幹部の側近キュリテよ。お前は魔族の国三本柱に入っていた街出身って事を理解した方が良い。……この調子じゃ"レイル・マディーナ"のダークに"ウェフダー・マカーン"のシャドウ……そして"マレカ・アースィマ"のブラックもどんな感じになったのか気になるな……無論、"シャハル・カラズ"のザラームや"イルム・アスリー"のゼッルとシャバハ……"タウィーザ・バラド"のアスワドの事もな」


 言葉を続けて話す者。

 要するに、他の街に派遣されている幹部やその側近が相手側に寝返って無いか心配なのだ。


「心配しなくても良いよ……『ズハル』さん。私は別に魔族の国を裏切った訳じゃない。むしろ……側近だった人が私の知る限りじゃ二人も別の組織に寝返っちゃった事の方がショックだし……」


「……ゾフルにハリーフか……。ダークとブラックから移動魔術の応用版……声だけを移動させる魔術で話を聞いたが……確かに残念だ」


 それに対して話すキュリテと、残念そうに返すズハル。

 "音声移動"の魔術で既に話は聞いていたらしいが、同僚が居なくなった心境だろう。

 それも悪い方向に行ったという意味で。


「……ゾフルが生きていたって事は驚いたが……生きていたからこそ野望の闇が広がった……つまり、幹部の側近であるテメェをそんな風にする訳にはいかない……!」


 ザッとズハルは一歩踏み出し、それと同時に大地が振動して割れる。

 キュリテをゾフルやハリーフのようにさせない為、力ずくで止めると言う。


「私はそんな風にはならないよ……! ライ君たちと楽しくやってるもん!」


「だから駄目なんだッ!! 敵と仲良くするだァ!? そこまで落ちたか超能力者ァッ!! 俺の力を持ってしてテメェに分からせてやるよ……テメェの選択が神に喧嘩を売るような愚策って事を……「……やあ!」…………ッ!」


 ──その刹那、ズハルの頬に斬撃がかすり、ズハルの頬を傷付ける。そこから鮮血が流れ、背後の建物が一刀両断された。


「キュリテを狙っているなら、私たちが許さないよ!」


「ああ、今ではもう仲間的な立ち位置になってしまったからな……!」


 そしてキュリテの前にレイとフォンセが立ち上がり、ズハルの前に立ちはだかる。


「成る程……。それなりの仲間は揃えたという事か……」


 ズハルは動きを止め、レイとフォンセの方を見やる。

 そして不敵な笑みを浮かべ、


「だったら纏めて粛正してやらァ……! テメェが今まで戦ったであろう幹部の側近と俺は天と地ほどの実力者があるって事を証明してやるよ!!」


 その瞬間、周りの建物が振動し、大きく揺れて砕け散った。

 瓦礫は"ラマーディ・アルド"の街に降り注ぎ、街の道を抉りながら静まる。

 静まる中で、ズハルはただ不敵に笑い続けていた。



*****



 建物に入ったライは、薄暗い内部を警戒しながら進む。

 周りにあるのは柱や鎧。絵画にカーテンと、正に城のような内装だった。

 しかし、この薄暗さではそれらの装飾品をよく見る事が出来ず、折角の飾り付けが台無しである。


(……って、そんな雰囲気じゃないな……一歩進むごとに重さが加わってく……キツいな……)


 道を進みつつ、巨大な気配を感じるライは冷や汗が止まらなかった。

 常人ならば既に意識を失っている事だろう。

 そんなライを見? 楽しそうに笑ったような声を上げて魔王が言葉を発する。


【ククク……逆に楽しみだ……支配者とやらが昔でいう俺の役割なんだろ? 魔神と魔王、どちらが魔族最強か確かめられる良い機械だ!】


 魔王(元)は、今現在のこの状況を心から楽しんでいた。

 今までの道中、対等な相手がいなかったという事実から楽しみなのだろう。


(……。……ハハ、こういう時は魔王オマエが居てくれて助かるよ……。お陰で威圧は感じるけど不安という感覚は無い……)


 そんな魔王(元)に頼もしさを感じながら話すライ。

 魔王という、世界を治めていた力が宿っているのだ。不安になる要素はほぼ無い。


「……ッ!?」


 その瞬間、ザワッとライの身体に悪寒が走る。


「……」


 そして一つの扉に目をやり、警戒心を最大限まで高めた。

 その扉はそれ程大きく無く、ライの背丈より少し大きい程度の高さだった。

 しかし、その扉の奥から迫り来る威圧感は想像を絶するモノで、全身の筋肉が硬調したような錯覚を覚える。


(此処か……間違いない……此処だ……!!)

【ククク……中々じゃねえか……これは楽しみだ……】


 疑問形を確定形に直したライ。

 ライはこの奥に支配者が居ると確信し、恐る恐るその扉に手を掛け、ゆっくりとその扉を開けた。


「よう。お前が侵略者か? スッゲー! マジでガキじゃねェか! その年でよくまあ、侵略者なんてやってんな!」


「……アンタが支配者?」


 そして、その扉の向こう側にあった王間のような部屋。

 そしてそこにある王座のような椅子に座っている者が居た。この部屋は薄暗く、その者の顔はよく見えない。

 支配者? は軽薄な態度を取っているが、その威圧は変わらず健在でおり、ライの冷や汗は止まっていなかった。


「ああ、そうだ。……そしてまあ、そんな堅くなりなさんなよ侵略者……」


 支配者は軽薄な笑みを浮かべ、飄々とした軽い態度を取りながら話を続ける。


「……俺はただ楽しみたいだけなんだ……」

「……!」


 次の刹那、ライの後ろに支配者が居た。

 移動した際に生じた風圧はライの身体を揺らし、室内にもかかわらず小さな砂埃を巻き起こす。

 残像すら残さずに支配者はライの後ろへ回り込んだのだ。


「成る程、かなりの速さだ。目で追うのが精一杯だった……アンタがかもし出している威圧も踏まえて……アンタは間違いなく支配者だな……この街にアンタ以上の気配は無い」


 ライは一応目で追えていたので動揺せず、後ろに居る支配者へ話す。

 それを聞いた支配者はクッと笑って言葉を続けた。


「ハッハッハ……そう言ってくれるとありがたい。まあまあ……わざわざ通り所から折角来てくれたんだ……茶でもどうだ?」


「断る」


 支配者はライに提案し、ライは即答で支配者の案を蹴る。

 実際、ゆっくりと茶を楽しむ時間などある訳も無く少しでも隙を見せたらライの頭だけが空中を舞うだろう。


「ハッハッハッハ! いや、そうかいそうかい。確かにゆっくりしちゃ居られねェよ……「オラァ!」……な?」


 刹那、ライは後ろを振り向いて回し蹴りを放った。


「……っと……」


 ヒュンとライの回し蹴りは空を切り、支配者が移動した時に生じた砂埃は全て消滅する。


「……取り敢えず俺がわざわざ会いに来たんだ……さっさと構えなよ。アンタ、強者に飢えてんだろ?」


「クク……!」


 避けた支配者に対してフッと笑い、挑発するように話すライ。

 それを聞いた支配者は改めてライの表情を窺い、歯を剥き出しにして笑う。


「ハッハッハッハッ! 良いぜ、良いぜ良いよ良いなその表情! その動き! 支配者オレを前にして果敢かかんに攻め来るその態度、全てが気に入った!! ならば改めて俺が相手をしてやろうじゃねェか侵略者!!」


 支配者は手を薙ぎ、それによって天井にぶら下がるシャンデリアにともる。

 それによって支配者の身体があらわになり、ライはその姿を確認した。


「……アンタがこの街……いや、この国を治める者で間違い無い様子だな……大丈夫か? 身体が真っ青だぜ……」


 支配者の姿を確認したライは構え、支配者への警戒を更に高めつつ身体に力を込める。

 支配者の体色は青い不健康そうな色をしており、髪の毛は白かった。

 支配者は軽薄な笑みを止めず、更に続ける。


「ククク……ああ、俺は支配者だ! そして俺が持つその名は──」




 そして支配者は口を開き、己の名を告げた。




 「──『シヴァ』! 魔族の国全てを治める支配者にして、魔族最強を謳われる魔神!! それが俺だァ!!」




 ──支配者が告げたその名は、シヴァ。




「……シヴァ……!!」


 名を告げられたライは漆黒の渦を纏って構える。

 この日、この時、この瞬間、かつて世界を治めていた魔王を宿す侵略者──ライ・セイブルと、魔族の国を現在治める支配者にして魔族最強の称号……"魔神"を持つシヴァが出会った。



 今居る部屋の外から風が吹き抜け、互いの髪が揺れる。

 何時の間にか外の天候は変わり果て、大嵐のような暴風が吹き荒れていた。




 そして今、"魔王"と"魔神"──最強を謳われる二つの魔族が争おうとしていた。




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