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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
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百七十一話 支配者の街

彼処あそこの街か……?」


 白銀の雪道を歩き進んだライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は小山の上におり遠方に見える街を見ていた。

 その街に目を凝らし、じっと見ながら話すライ。

 小山という事もあり、そこの場所は少々強い風が吹いていた。

 それによってライたちの髪はフワリとなびいてサァ、と揺れる。


「多分。……あと数キロくらいか?」


 そんなライの言葉に返すようにフォンセが、依然として冷たく凍て付く風と空気の中で白い息を吐きながら言う。


「ああ、恐らくな……。数十分で辿り着くだろうさ……となるといよいよ敵の本元に入るって事になるな……」


 そんなフォンセに返すライ。

 辺りは純白の雪で囲まれている為、ポツリとあるその街が目立っていた。

 ライたちの予想は今見えている街が支配者の住む街で、その街との距離は僅かという事だ。

 一応地図は持っているのだが、支配者が何かしらの能力で街を隠している可能性を考慮して推測。という意味でそう言った。

 しかし、好戦的な魔族の支配者がそのようなセコい事をするとも考え難いので目の前に見える街は支配者の街とする。


「……行くか」


 そして、凍てつく冷風を浴びながらその街に視線を向けるライ。

 話していた時はフォンセの方に視線をやっており、相手の目を見て話していた。

 改めて確認するという意味で支配者の街? を一瞥したのだ。


「うん。此処も寒いし……」

「ああ、寒さは感じないが、支配者の街ならさっさと行った方が良いだろう」

「……私は寒いが、それはさておき、早く行こう」

「……うん……」

「寒いからねー♪」


 ライの言葉にエマを除いた四人は寒いからと同意する。

 実際、寒さは辛い。なので取り敢えず街に行きたいのだろう。


「……ハハ、確かに寒いからなぁ……」


 そして、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は支配者の街? に向かって行く。



*****



「何か……街もそれ程変わらないと言うか何と言うか……」


 そしてその街に着き、先ずはライがこの街での第一声を発した。

 それに続き、レイたち五人も言葉を発する。


「……うん。寒い……」

「同感だ……」

「寒い……」

「私は寒さを感じないが……まあ寒いのだろう」

「多分ねぇ。私も能力が無ければ凍えていたと思う」


 レイ、フォンセ、リヤン、エマ、キュリテの順で話、この中の三人が寒さを文字通り肌に感じていた。

 街ならば多少は暖かいと思っていたライたちだが、そういう訳では無いらしく普通に寒かったのだ。


「ハハハ……街の人は寒さに慣れているのか……寒そうな素振りを見せないな……」


 寒いという事は置いといて、ライは街の人々を観察して推測混じりの言葉をつづる。

 極寒の北国に住む者は温暖の南部に住む者より寒さ耐性があるのだ。

 しかし逆に、極寒の北国に住む者は温暖の南部に住む者より暑さに耐性が無い。

 そもそも、あまりに寒過ぎるとほんのりと寒い場所に住んでいる者ですら声を上げるだろう。

 何を述べたいのかと言うと、要するにそれ程寒くない街や場所に住んでいたレイ、フォンセ、リヤンは寒さ耐性が無いという事だ。

 つまり大変という事である。


「取り敢えず何もしないのは俺の性に合わないし……適当に探索してみるか?」


「そうだねぇ……」

「ああ、そうだな」

「ああ……そ、そうだな……」

「……うん……」

「そうだねぇ」


 取り敢えず提案を出してみたライ。

 街の事を詳しく知っているという訳では無いので、ライたちは適当に探索してみる事となる。

 レイたちの場合は寒い場所から離れたいという願望もあるのだろう。

 探索するという事は店などに入る事が出来るからだ。


「じゃ……何処に行く? まだ朝食も食べていないし……俺は腹が減ったな」


 その後、探索するという事が決まり、ライはレイたちにどうするかを尋ねた。

 今朝は雪の降る気配は無かったが、万が一を考えてレイたちの目が覚めたら直ぐに行動した。

 なのでライたち六人は全員、朝食を摂らずにこの街へ向かったのだ。

 エマは数週間摂らなくても平気だが、ライたちはそういう訳に行かない。

 今後絶対にそうならない確信は無いが、生き物である以上何かを食べなければならない。


「うん、そうだね。ご飯を食べれば今よりは温かくなるだろうし」

「今から戦闘が起こる可能性のある以上、エネルギー補給は大事だからな」

「……うん。お腹減った……」

「私もー♪」

「……私は平気だが……確かにそうだな」


 ライの提案に直ぐ乗ったレイたち五人。

 街の探索という口実で、街に辿り着いたライたちは朝食を摂る為の店を探す為に歩みを進める。



*****



 ──この街は、冬という事もあり今は寒い状態だった。

 つまり魔法・魔術で気候を変えていないという事になる。

 冬の気候といえば最近寄った街──シャドウが居た"ウェフダー・マカーン"。

 その街も気候をいじっておらず、街の不気味さも相まって色んな意味で凍えた。

 しかし、この街はその"ウェフダー・マカーン"よりも寒いのである。

 無論、精神的な意味は無く物理的に寒いというだけの事。

 まだ来たばかりなので精神的衛生が良いのか分からないが、取り敢えず今のところは普通の街だ。

 話が逸れたが、要するにこの街は普通の気候にしても寒過ぎるという事である。

 昨晩の猛吹雪で荒れたというのもあるのだろうが、それにしても寒い。

 街の人々を見ればそのような事を考えていないような雰囲気で、これくらいの寒さがこの街では普通という事が見て取れる。

 となると、この街は世界的にも寒い街だろう。

 これより寒い場所も勿論あるのだが、取り敢えずライたちが寄った街の中では一番寒い。


(まあ、取り敢えず……これからどうするか……だな。"支配者は居ませんか?" って聞くのも何かアレだし……)


 そしてライは店の窓から街行く人々を眺め、支配者と何時会おうか考えていた。

 ライたち六人は飲食店のような店に入っており、既に軽い朝食を済ませていた。

 店の中は外よりも遥かに快適で、考え事をするにはこの一時が最適だろう。


「……どうした? ライ。食べ終わってからずっと考えているが……また話していたのか?」


 そんなライに向けて尋ねるエマ。

 エマは黙っているライが気になった様子だった。

 この場合は大抵魔王(元)関連なので魔王(元)の事を伏せつつ話す。


「……ん? ああいや、今回は一人だ。一人で考えていたんだ……これからどうしようかなぁ……ってな? ……それに、アイツはただ一方的な侵略しか考えて無いだろうさ。俺とは根本的に違うんだ」


「……そうなのか?」


 エマの言葉に気付き、エマの目を見て話すライ。エマはキョトンときていた。

 それはさておき、この場合は魔王(元)に頼れない。

 ライ本人の言う通り、魔王(元)は取り敢えず支配者の元に行ってぶっ飛ばすという考えだろう。

 実際のところ魔王(元)に聞いていないのだが、大体確信出来た。


【オイオイオイオイ……。それは中々ヒデー事んじゃねェの? 風評被害もいいところだ。俺だって何時も正面から強行突破だ!! って訳が無いだろ】


 そんなライの思考を聞いた魔王(元)はライの思考を否定するように話した。本人はそう言っているが、当然の如く信じられる訳が無い。


(じゃあ、一応聞くが……お前は何時攻めれば良いと思う?)


 そして、結果が読めているライは一応念の為に魔王(元)へ尋ねた。

 魔王(元)はフッと笑ったような声音でライに向けて言葉を続けて話す。


【原点に帰って強行突(却下)破……!! …………!? チッ、やっぱ却下かよ!】


(ああ、予想出来ていたからな)


 ライの予想は見事的中し、魔王(元)の考える作戦を言い当てた。

 しかし、魔王(元)の考えている事は大抵戦いの事なので推測という程では無いだろう。


「ああ、根本的な違いってのは主に性格だが……まあ良いさ。実際に俺もあんまり知らないしな」


 魔王(元)との会話を終えたライは、魔王(元)との会話の所為せいで少し遅れながらもエマの言葉に返答した。

 ライと魔王(元)。ライは魔王(元)の事を全く知らない。

 強いて言えば、一般の者達から口々に発せられる魔王(元)の悪い評判くらいだろう。

 それプラス、ライと魔王(元)の性格が大きく違うという事だけだ。


「ほう? ……まあ、数ヵ月の付き合いらしいからな。分からないのも無理はあるまい」


 ライの言葉を聞いたエマはフッと笑って話した。

 エマの言うようにライと魔王(元)は出会って? 僅か数ヵ月。

 つまり、一年もいないのだ。それなら知らない事の方が多いだろう。


「ハハ、確かにな。……まあ、何時かは全力を出させてやりたいモノだな」


【ハッハ! それはありがてェ! 俺も全力を出してみたいな!】


 ライが言い、魔王(元)が返した。

 話している時、外から風が入り込んでライの髪を揺らす。

 この街の誰かが外から店に入ったか、店から外に出た際に風が生じたのだろう。


「……で、これからどうするの? 朝食は摂り終わったし……街を見てみる?」


 そして、ライとエマ。ついでに魔王(元)との会話が終わると同時に頃合いを見ていたレイがライに尋ねる。

 今は店も空いている為、多少の話し合いをするのは問題無さそうな雰囲気だった。

 事実、空いているという事は静かな空間だという事。話し合いには最適だろう。


「うーん……そうだな……」


 ライは視線をレイに移し、腕を組ながら考える。

 探索するというのは良い事だが、特に調べたい事も無いのだ。


「"アレ"も"コレ"も、知らない事の方が多いけどなぁ……情報を得られる確信が無い……」


 今、ライたちが持っている物の中で本人がよく分かっていない物は"神の日記(ゴッド・ダイアリー)"・"謎の老婆に貰った物"・"フォンセが貰った禁断の魔法"・"魔術が書かれた本"・"賢者の石の欠片"。と、"アレ"や"コレ"やが多々ある。

 しかし、この街にそれらが関係する物があるか分からない。

 強いて言えば支配者が何か知っている可能性がコンマ1%以下のごく僅かな確率くらいはある。と言うところだろうか。


「……まあ、結局は行動を起こしてみなくちゃ意味が無いな。何も得る物が無いってのは悪魔で推測の範囲だし」


 しかし、何もしない訳にはいかない。

 なのでライは立ち上がり、取り敢えず見るだけ街を見ようと動き出した。


「そうだな、そうしよう。答えの出ない話よりも先ず行動優先だ……」


「うん、それが良いかもね。此処にいても何も始まらないし」

「ああ、私も賛成だ」

「……同じく……」

「うん、オッケー♪」


 ライが立つと同時にエマが言い、レイ、フォンセ、リヤン、キュリテも賛同する。

 そして会計を済ませ、ライたち六人は店の外に出た。



*****



「ハッハッハ! お前も気配を感じているだろ? 遂に侵略者が俺の街にやって来た! これはめでたい、ようやく俺が戦えるかもしれないんだぜ!?」


 そして、ライたちの気配を感じた支配者は高らかな笑い声を上げながら外の景色に目をやる。

 支配者は高いところにおり、そこからは街全体を見渡せていた。

 昨晩の吹雪による影響はこの街も多少受けており、道には白銀の氷晶ひょうしょう──雪が積もっている。

 冷たい空気が入り込んで来ており、支配者とその側近が居る空間は冷え込んでいる状態だ。


「ハハハ、街その物が奴らを歓迎しているな……! こんな雪を降らせたのは久々だッ!」


 そんな雪景色を眺める支配者は笑いを止めずに話続ける。

 そして、それを見て聞いていた側近が一言。


「しかし───様。この雪を降らせたのはアナタでは無いにしても……『その要因を作り出したのはアナタ』ですよね?」


 そう、支配者が雪を降らせた訳では無いのだが、支配者の力によって昨晩の豪雪が巻き起こったのだ。

 支配者は側近を見やり、クッと笑って言葉を続ける。


「ハッ……まあ、そうだな。……だが、それも仕方の無ェ事さ。幹部の街を全て制圧した奴らだ……この状況を楽しめなくて何が魔族だ。何が支配者だ。久方ぶりの対戦相手に成りうる可能性を秘めた若い力が向かって来ているんだぜ? そらもう天候くらい変えてしまうさ!」


「随分と楽しみなのですね───様」


「当然だ!」


 支配者は外の景色を眺めつつ、側近に向けて嬉々とした表情で話していた。

 実際、何度も述べたかもしれないが支配者は平穏な日々を過ごしている。

 通常なら平穏を脅かす存在は敵対すべきなのだが、長過ぎる平穏は時として退屈へと変貌する。

 退屈が極まれば何もやる気が起こらなくなり、無気力というどうしようも無い現象を引き起こすのだ。

 つまり、"平穏"を脅かす"敵"のような存在、それが居るだけで支配者の生活は退屈から別の姿へと変えるという事。

 刺激という名の風が猛吹雪と共に入り込んで来たこの状況は、怠惰で退屈な日々を嫌という程味わっている支配者にとって喜び以外の何物でも無い。

 そしてそんな風に歓喜している支配者へ向け、側近は言葉を続けて話した。


「しかし、既に一人の側近を送りました。侵略者達がその側近を倒せるかどうか……それによって───様の暇潰しの質も変わります故……」


 曰く、既にライたちの元へ死角を送り込んだらしい。

 それを聞いた支配者は依然とした態度でクッと笑い、


「ハッハ……そうだな。取り敢えず俺と対等は無理だとしても……爪先レベルの強さは欲しいものだぜ」


 支配者は笑い、白く染まっている自分の街の景色を眺めた。

 その空気は冷たく、支配者にもどれ程の寒さか分かる程。

 そして僅かに迫った暇潰しに対し、高揚感を醸し出していた。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は街を探索し、支配者は側近の一人を送り込んだ。

 眼前まで迫り来ているその時を、ライたち六人と支配者一人はただ犇々(ひしひし)と感じていた。

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