表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第九章 支配者の街“ラマーディ・アルド”
173/982

百七十話 吹雪の道中

 ──ヒュウ。と、昼間にもかかわらずに一段と冷たい風が吹き抜け、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテたち六人の頬を撫でる。

 冷気が辺りに広がっており、水溜まりの水は凍り付いていた。

 辺りを覆う木に葉は無く、今にも雪が降りそうな曇天の空模様がライたち六人を見下ろす。

 そんな空から、白く、柔らかい氷の塊が降ってきた。


「……雪か……」


 今にも雪が降りそうだった空から雪が降り、ライは空を見上げて天を仰ぐ。

 体内との温度差によってライたちの息は白く染まっており、ライたちが歩く度に道にある落ち葉がクシャリと音を鳴らす。


「……うう……寒い……」

「……うん……」

「……寒さはどうにも出来ないからな……」


 そんな中、レイ、フォンセ、リヤンの三人がレイ、リヤン、フォンセの順で話、自分の両手を肩に当てて擦っていた。

 冷え込む道中。厚着を持っていないライたちは寒いのだ。


「大変だなレイたちは……私はよく分からないが……」


「私も"パイロキネシス"を使ってなかったら寒いだろうからねぇ……」


 そして、宵闇を生きるヴァンパイアであるエマと超能力者であるキュリテはそんな三人を見て暢気のんきに話していた。

 エマは太陽嫌いのヴァンパイアなので然程寒さを感じず、キュリテは自分が使える超能力──"パイロキネシス"で己の体温を上げていたので寒さ対策が出来ていた。


「ハハ、確かに寒いな……気候が冬ってのは分かっていたけど……まさかこれ程までとはなぁ……」


 レイたちの言葉に返すライ。

 実際、魔族の国は冬の気候らしいが今まで寄った街はほとんどが魔法・魔術で気候を変えている。

 なので今は本来の気候なのだが、ライたちの身体が慣れていないのだろう。


「まあ、本来の季節だし……逆に雪を楽しむって手もあるぞ?」


 そんな凍てつく寒さの中、ライは空から降り注ぐ純白の氷晶ひょうしょうに手をかざして己の体温で一滴溶かしながら話した。


「……? 雪合戦とか?」


 そんなライを見たレイがライに尋ねるように聞いた。

 降雪は徐々に強くなる中、ライはレイに返すように言葉を続ける。


「……いや、雪合戦とかの雪遊びも良いけど、今はそんな事をしている暇が無い。だから雪が降るこの景色その物を楽しめば良いんだ!」


 ライが言った、楽しむという事。それは雪が降り注ぐ今現在の状況を楽しめば良いとの事だった。

 雪という物は白く、冷たい。しかし冷たくとも、見る分にはその白さが美しいのだ。


「あー、確かに雪その物を眺めるのも良いかもねぇ……私はどっちかって言うと友達と雪合戦とかの遊びをしていたから……」


 レイは幼き日々の思い出に浸るようライに話す。

 まあ、レイは割りと活発な少女なのでおかしくは無い。


「へえ? 良いじゃないか。俺の街はあまり雪が降らなかったからなぁ……たったの数十キロ程度でそんなに変わるのか……」


 忘れているかもしれないが、ライとレイの街は五十数キロ程度しか離れていない。にもかかわらず、降雪量の違いに驚いたのだ。


「雪合戦か……思えば、私はそんな遊びをした事が無かったな……エマ、リヤン、キュリテは雪遊びに関する思い出とかあるか?」


 フォンセは昔奴隷だった。

 なので雪遊びというものに縁が無かったのだ。

 それ故なのか、エマ、リヤン、キュリテに雪遊びに関する思い出を尋ねる。

 エマたちは少し考え、


「ふむ、自分で言うのも何だが……私は孤高の存在だからな。同種族すらここ数百年見ていないんだ。雪に関する思い出は無いな……強いて言えば雪降る夜に人を襲った……くらいか……」


 始めに応えたのはヴァンパイアであるエマ。

 その力は強く、この世界でも相応の位置に居るのだが、同族をあまり、いや、全く見た事が無いらしい。なので遊び関連の事にはうといのだろう。


「えーと……私はフェンやユニたちと遊んでいたよ……? 特にフェンは雪が降るとはしゃぐから……」


 次に応えたのはリヤン。

 リヤンは森に棲んでいた幻獣・魔物たちと遊んでおり、フェン──つまりフェンリルは特にはしゃいでいたと言う。


「へえ、雪遊びかぁ……。私の場合は寧ろ遊びしかしてなかったって言うか何と言うか……兎に角結構楽しかったよ?」


 最後に応えたのはキュリテ。

 まあ、キュリテの場合は本人の性格上遊び優先というのは頷ける。


「ハハ、皆それなりの思い出はあるのか。……あと、良い思い出が無いなら俺たちと作れば良いさ。仲間だからな!」


 そして、エマたちの話を聞いたライがエマたちに向けて話す。

 エマは幼少期に何があったかよく分からず、フォンセには幼少期があって無いようなモノである。

 なのでライは、思い出を作ると告げた。


「……ふふ、思い出を作る……か。面白い事を言うもんだ。しかし、嫌いじゃないぞ、その性格」


「いきなりなんだよ……」


 ライの言葉を聞いたエマは笑い、ライは訝しげな表情でエマに返す。


「……まあ、取り敢えず思い出作りは大事って事だな」


「……フォンセまで」


 エマに続いてフォンセが話、ライは更に疑問の念を強くする。

 そんなやり取りが行われている中、雪は強くなり続けていた。


「……まあ良いか。取り敢えず完全に視界が無くなる前にベースになりそうな所を見つけなきゃな」


「「うん」」

「「ああ」」

「オッケー」


 ライの言葉を筆頭にレイとリヤン、エマとフォンセ、そしてキュリテぎ返す。支配者の住む街目掛け、ライたちは先を進むのだった。



*****



 ──凍てつく寒さと雪の影響は、この街まで届いていた。

 この、支配者が住む街まで。


「ヤバイぞ……奴等が来るらしい……!」

「ああ……聞いた話じゃ、幹部の住む街は」

「……ああ、全て制圧済み……」

「幾ら支配者様と言えど……」

「しかし、支配者様ならきっと……」


「ハッハッハ! 任せろ! 不逞ふていやからは俺が倒してやる!」


「おお、何と心強い御言葉……!」

「流石支配者様だ!」


 そして、その街では話をしている者が居た。


「───様。一体何故……『独り言』を?」


 この街を、この国を治める支配者だ。

 支配者の側近はそんな支配者に向けて、独り言を言っている理由を尋ねる。


「ハッハッハ! ん? ああ、シミュレーションだよシミュレーション! 侵略者とやらが俺の元に今現在向かっていると思ってな、何時尋ねられても良いようにシミュレーションをしているんだよ! 部下たちがどんな反応を示すのか考えていたんだ!」


 曰く、支配者は脳内でシチュエーションのシミュレーションをしていたとの事。

 まあ、確かに練習? をするのは悪い事では無い。


「はぁ……左様ですか……。しかし、アナタの部下ならば慌てる事も無いかと……」


「そうか? ……まあ、確かにそうかもしれねェな……」


 笑顔を引き吊らせつつ、支配者に向けて話す支配者の側近。

 支配者はもしもの可能性を考えているのだが、側近はもしもというのはあり得ないと言う。


「……まあ、もしもを祈るさね。俺は。久方ぶりの戦いが出来るってんだ。最低ランクで俺と対等が願いだな!」


「……それこそあり得ませんね……」


 支配者は望む、己と対等関係になりうる敵を。

 はたして、支配者の望みは現実へなるのだろうか。



*****



「……すっかり視界が悪くなったな……。これ以上進むのは危険か……?」


 そしてその侵略者──ライたち六人は現在、猛吹雪に襲われながら立ち竦んでいた。

 ライは真っ白に染まった視界を眺め、吹雪に煽られながら他の五人に尋ねる。


「そうかもしれないな……。私やキュリテは大丈夫だが、レイ、フォンセ、リヤン……あと念のためライは寒さに強いという訳じゃなかろう……」


 そして、それに応えたのは吹雪でもあまり関係無く行動できるエマ。

 エマに続き、キュリテも言葉を発する。


「……うん。天候を変えるなら私たちでも出来るけど……不完全な状態で天候を晴れにして雪崩なだれでも起こったら大変……」


 キュリテの言う事は最もで、エマの持つヴァンパイアの力やフォンセの魔術。そしてキュリテの超能力で天候などどうにも出来るのだが、雪が降り始めて数十分。吹雪になって数分。

 突然天候を変えれば雪崩なだれとなってライたちのみならず、近隣の街まで被害にあってしまう可能性があるからだ。


「だな。じゃあ、取り敢えず今回は此処で野宿か……。フォンセ。土魔術を使えるか? もし使えないなら俺が穴を掘るけど……」


 エマとキュリテの言い分に賛同し、フォンセに土魔術で拠点となる小屋? を造れるか尋ねるライ。


「あ、ああ……。寒くて手がかじかんでいるが……土魔術で建物を造るくらい造作無い……"土の建物(ランド・ビルディング)"……!」


 次の瞬間、フォンセは正面に手をかざして土から建物を造り出した。

 数個の壁が造られ、それらがライたちの背丈を越えて建物の形となる。そして物の数秒で寒さや風をしのぐ為の建物が構築された。


「ありがとう、フォンセ。寒い中悪いな……俺の魔術はまだ未完成で繊細な物を造り出す事は出来ないんだ」


 フォンセに礼を言いつつ、レイ、フォンセ、リヤンの寒さに弱い組みを先に入れるライ。

 ライも特別寒さに強いという訳では無いのだが、年相応の強がりという奴だろう。

 そして、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人はフォンセが造り出した土の建物に入る。


「これで一難は避けられたけど……雪が止むのは何時になるか……。最悪の場合はキュリテに頼るしか無いかもしれないな……」


 土の建物に入り、ライは外の猛吹雪を眺めながら言う。

 何時か言われた暗黙の了解ルールというモノがあるのだが、支配者の街にはもしかしたら"テレポート"を使わなければならなくなるのだ。


「別に私は良いんだけどねぇ。バレたとしても超能力って対策のしようが無いもん」


 ライの懸念とは裏腹に、キュリテは別に構わないと言う。

 実際、キュリテは個人で他の街に行く時"テレポート"で行っている。

 つまり言ってしまえば、キュリテにとっては暗黙の了解ルールなどあって無いようなモノという事。


「まあ確かにそうだけど……やっぱり頼りっぱなしってのは……」


 キュリテの言う、超能力は対処のしようが無いという言葉。

 ライはその事に同意はするが、やはり頼りっきりというものはライ自身が許さないのだ。


「たまには頼れば良いのになぁ~。ライ君も」


 あまり頼ってくれないライに不貞腐れるキュリテ。

 このメンバーの中では一応二番目の年上なので頼ってほしいのだろう。


「ハハ、頼る時は頼るけど……暗黙の了解とやらを破ってまで協力させるのはちょっとな……」


 そして、ライも頼る時は頼ろうとしているのだが、魔族の国のルールというモノを破って超能力を使うのに気が引けていた。


「それに、吹雪は直ぐに止むだろうさ。昨日今日と連戦続きだったし……それ以前に少しは休みを取らなきゃな……」


 "マレカ・アースィマ"を出てから数時間。

 昼前だった時間は夕刻に変わり、チラリと見える景色は全てが真っ白。とまあ、今動けばその方が危険になりうる状態だった。

 なので先ずは休むのが最優先だろう。


「そっかぁ……でも、確かにそうだねぇ……無理に身体を動かして病気にでもなったら大変」


 ライの言葉に頷いて返すキュリテ。

 取り敢えずライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は一晩を土魔術で造り出した建物で過ごすのだった。



*****



「……う……眩し……!」


 カッ。と、土魔術で造り出した建物の隙間から目映まばゆい光が入り込む。

 閉じた瞼にも入り込む光で、それによってライの意識は覚醒した。


「……朝……なのか?」


 一番危険性が高い入り口付近には本人の意思でライがおり、ライ、キュリテ、フォンセ、レイ、リヤンの順で寝ていた。

 目覚めたライは手で顔を覆い、外の様子を眺める為に立ち上がる。


「……音は……無いな……」


 先ず耳を澄ませ、吹雪の音が聞こえないかを確認した。

 音は聞こえず、朝の静かな空間が広がっていた。


「……おはよう、起きたか。ライ」

「……ああ、おはよう。エマ」


 そして、そんなライに向けてエマが歩み寄って来る。

 エマがライに挨拶をし、ライがそれに返す。

 此処には多くの日差しが射し込んでいるが土魔術の建物に居る為、それ程影響は受けておらずにいた。


「取り敢えず……俺は確認する為に外に出ようと思う。エマはどうする? それとも、もう確認したのか?」


 エマとの挨拶を終えたライ。

 ライは自分を除いて一人だけ起きているエマに向けて外を見たのかどうかと話す。


「いや、見ていないな。……だが、音が止んだのは夜が明けてからだったからな。音が止んだと同時に日光が差し込んだよ」


 そんなライに返すエマ。

 話を聞くにどうやら吹雪が収まったのは朝方らしく、エマは既に外へ出られない状態。という程では無いが、取り敢えず外に出るのは傘を差しても体力を消耗するのでこの空間でのんびりする方が体力回復的な意味で丁度良いのだ。


「そうか。じゃ、ちょっと行ってくる」


 ライはそれだけ言い、土魔術の外へ一歩踏み込んだ。


「……っと……」


 ビュウ。ライが外に出ると同時に、ほんの少しだけ強い風が吹き抜ける。

 それによって煽られ、思わず顔を覆うライ。

 その風は冷たく、少しの水気を含んでいた。

 それが吹き抜けると同時にライの口や喉に冷気が入り、体内を急激に冷やす。

 ライの肌に冷たい感覚が伝わり、服の上からでも寒さがハッキリと分かった。


「……」


 そして、そんなライの視線の先には目映まばゆい白銀の世界が広がっていた。

 たまに吹く少し強めの風によってまだ固まっていない雪が舞い、その風がライの髪を揺らす。


「……眩しかった理由は積もった雪に日光が反射したからか……」


 額に手を当て、眩しさ故に目を細目ながら呟くライ。

 天候はすっかり回復し、今は快晴の青空がライを見下ろす。


「……これならレイたちが起きたら普通に進めるな……」


 辺りを見渡し、白銀の世界を眺めるライは生き物の姿も無く遠方に雲などよ無いのを確認して呟く。

 そして再び土魔術の建物に入って行った。


「あ、おはよー……ライー……」

「おはよう……ライ……」

「おはよ……」

「おはよー……ライくーん……」


「お、おはよう。皆。起きたのか」


 入るや否や、目が覚めていたレイ、フォンセ、リヤン、キュリテがライに向けて挨拶をする。

 それに返すライ。四人は目を擦り、小さく欠伸あくびをしていた。


「……その様子を見ると、外は晴れていたようだな?」


 そして、そんなライに笑みを浮かべながら尋ねるエマ。


「ああ。すっかり天候も回復したし、雪崩なだれの心配も無さそうだ」


 ライはエマの言葉に頷いて返し、雪の凝固具合から崩れる事も無いと推測していた。


「……じゃあ、少し経ったら先に進むとしようか」


「「……うん……」」

「……ああ……」

「良いよー……」


「ああ、そうしよう」


 そんな四人とエマにライが尋ね、五人は答える。

 取り敢えず四人の目を完全に覚まさせる事と、雪山は気温と足場の悪さから体力を奪われるのでギリギリまで少し休む事が重要だ。

 こうして、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は吹雪の夜を越えて支配者の街に進む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ