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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第八章 王の街“マレカ・アースィマ”
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百六十六話 ライvsブラック・決着

 ──"マレカ・アースィマ"・城の中、ハリーフの牢屋前。


「……暇だな……」

「……ああ、そうだな……」


 ライとブラックが戦っている中、"マレカ・アースィマ"のとブラックの部下である兵士達は数名がハリーフの牢屋前で見張りをしていた。

 しかし見張りは暇らしく、兵士達は欠伸あくびをしながら雑談している。


「俺たちもブラックさんと、昨日の戦いに一役買ったっていう侵略者の試合を見に行くかァ……?」

「何言ってんだよ。そんな事が許される訳が無ェだろ?」


 兵士達が持ち場から離れるのは職務放棄に値する。

 それに加え、彼らが見張っているのは凶悪犯的なハリーフである。見張りを放棄して脱走でもされたら一大事だろう。


「けど……あの人……不気味だよなァ……何考えているか分からない……捕まっているにも拘わらず……余裕があるような……」


 兵士の一人がハリーフの方に視線をやり、ハリーフの姿を見て身を震わせる。

 実際、両手脚の自由が無く、目隠しで視界も分からないハリーフから何かを感じているのだ。

 しかしそれはハリーフ本人が行動を起こさず、誰かを頼っているかのような、そんな雰囲気。


「そういや、仲間が居るらしいし……助けに来るかもな……」


「馬鹿な。助けに来るったって……こんな地下牢獄だぞ? キュリテさんのように"テレポート"でも使えるならばまだしも」


 片方は警戒し、片方は「大丈夫じゃないのか?」と告げる。

 実際のところハリーフは超能力者じゃなく、槍魔術を使う魔術師。

 仲間が居たとして自分の居場所を伝える手段は無い。

 無論、"ハルブ・アドゥ・マウラカ"の指揮官達も厳重に警戒して捕らえているので仲間に情報を伝える事は出来ないだろう。


「それに……仮に敵がこの場所を見つけていたとして、この城には……いや、この城の近くにある闘技場にはブラックさんたちが居る……運良くそれを抜けたとしても我々の仲間が何人も上で待機している。言ってしまえば牢獄全体を映す魔法・魔術で監視している。それらを掻い潜って此処に辿り着くなど……先ずあり得無い……」


 兵士の一人は言葉を続けて話、この場所に辿り着く事は無いと言い切った。

 それもその筈。今この場所には近くの闘技場に幹部や力の強い侵略者たちが居る。そして平均的魔族よりも強い兵士達が待機しているのだ。

 そう簡単にその中を抜けるなど、支配者でも難しい事だろう。


「……しかし、何やら妙な胸騒ぎが……」

「胸騒ぎ?」


 ハリーフを助けに仲間が来ると懸念している兵士は己の胸に手を当て、胸騒ぎがすると言う。

 それに返すもう一人の兵士。胸騒ぎが起こった兵士は言葉を続けて話した。


「まるで、災害の前兆のような……数ヵ月、数年後に何か大きな変化が起こりそうな……言葉では言い表せる事が出来ない胸騒ぎだ……」


「……か、考え過ぎだ……! さっきの言葉は前言撤回する。さっさとハリーフさん……い、いや……ハリーフを見張っていよう!」


 その兵士の言葉に焦る、油断していた方の兵士。

 何はともあれ、絶対とは言い切れないが上や近くにも何人か兵士が居るので外よりも安全であろうこの空間。

 一応警戒を高めつつ、兵士達はハリーフの監視を続けるのだった。



*****



「"無数の剣アダド・ラー・ニハイィ・セイフ"!!」

「そらよっ!」


 ブラックが複数の剣魔術を放ち、ライが拳の爆風でそれら全てを防ぐ。

 それによって金属音が響いた後で辺りは大きく沈み、粉塵を巻き上げて爆音が響いた。


「"放出ラマー"!!」

「……!」


 続いてブラックは粉塵から剣魔術を放出する。

 その剣魔術は粉塵を切り裂き、空気を突き抜けながらライへ向かって行く。


「そんなもの……」


 ライは軽く大地を踏み砕いて跳躍し、剣を避けながら空気を蹴って加速する。


「……食らわねえよ!」


「……ッ!」


 そして次の瞬間にブラックの顔へ向けて放たれたライの拳が突き刺さり、ブラックはその場から吹き飛ぶ。


「──ッ! ……だぁ!」


 吹き飛ばされても尚体勢を崩さず、ザザッとその場でこらえるブラック。

 ブラックが吹き飛ばされた場所には砂埃が舞い上がって後に消滅した。


「オラァ……!」


 ブラックが止まるや否や、直ぐ様地面を踏み込んで加速するライ。ブラックが気付いた次の刹那には眼前までやって来ていた。


「"巨大な剣(キビーラ・セイフ)"!」


 そんなライに向けて巨大な剣を創り出して構えるブラック。

 ブラックはそのまま魔術から創られた大剣を振るい、ライを狙う。


「……!」


 ライはその大剣を見、身体を仰け反らせて避ける。


分解(アト・ハルール)!」

「……!」


 ブラックは避けたライに向けて大剣を小さく分解し、細かくして弾丸のようにライへ放つ。


「……!」


 ライはその塊を弾き飛ばし、小さくなった剣魔術の塊全てを背後に流して防いだ。


「そこ!」

「違うな!」


 そのまま回し蹴りを放つライに、それを防ぐブラック。

 その衝撃は留まる事を知らず、大地を大きく砕いて闘技場全体を大きく揺らし、岩盤を粉砕して地面の下へ沈んで行く。


「オラァ!!」

「"爆発剣インフィジャール・セイフ"!!」


 次の瞬間、地面の下から爆風と共にライとブラックが飛び出し、刹那を過ぎる間も無い程の速度で激突していた。


「……一割じゃキツいか……(魔王。任せた)」


【任せとけ!】


 そして、このままでは互角以上に持っていけないと判断したライは力を三割纏った。それによって血が煮えたぎり、活性化して行く。


「……ほう? この一瞬で随分とパワーアップしたようだな?」


 その事に直ぐ気付いたブラック。

 魔王の事を知らない筈だが、魔王ライかもし出している独特の雰囲気から理解したのだろう。


「まあな。さて、やろうか?」


 次の瞬間、ライは第三宇宙速度でブラックに向かって突き進む。

 簡単に説明すると一割が音速~第一宇宙速度で、三割が第三宇宙速度~雷速である。


「速いな……"剣山(セイフ・ガバル)"!!」


 そんなライに向け、ブラックは自分の周りに鋭利な木々の生えた山を形成した。

 無論、その木々は全てが切れ味の良い剣魔術だ。


「オラァ!!」


 ライは気にせずその木々を砕き、真っ直ぐブラックに向かう。


「……魔法・魔術は効かねェのか……」


 そんなライを見たブラックはライの体質を理解する。

 ライの戦闘を見ていなかったので、ライが魔法・魔術を無効化出来る事を知らなかったのだ。

 ライの事を調べていた時も詳しく分からなかった為、目の当たりにして初めて理解した。


「……ま、関係無ェな……"セイフ"!」

「そうかい……!」


 互いに交わし、互いにぶつけて互いを吹き飛ばす。

 その衝撃で土煙が視界を消し去り、何も見えなく──


「オラァ!!」

「"切断スィッキーン"!!」


 ──そして二人はその土煙を消し去ってぶつかり合う。

 二人の勢いは依然として加速して行き、更に激しく闘技場を包み込む。

 互いに譲らない戦いはまだ始まったばかりである。



*****



 ──"マレカ・アースィマ"・???


 ヒュウ、と涼やかな一筋の風がつむじを巻いて吹き抜け、夏の気候である"マレカ・アースィマ"を通り過ぎる。

 その風によって小さな砂埃が舞い上がり、道端のゴミをすくって天へ散り行く。

 街は依然として活気に溢れており、街にある巨大なモニターでは闘技場の様子が映し出されていた。

 殆どの人々はそれを楽しげに見ており、娯楽のような感覚だろう。


「あー……楽しそうだなァ……。ハリーフの野郎が捕まらなけりゃ、俺もまだ楽しめたって言うのによ……。つか、あの二人しか戦ってねェのか……?」


「もう、文句ばっかり……。私だって面倒臭いんだからね?」


 そんな賑わっている道を歩いている二人の男女。

 男性の方はモニターを見て文句を言いながら歩いており、女性の方はそんな男性に呆れ半分で返していた。


「……てか、何で俺は変装しなきゃならねェんだよ……テメェは変装していねェじゃなェか……?」


 その女性に向けて変装は面倒だと告げる男性。

 まあ、自分だけが変装をしなければならないというのは中々嫌だという事は理解でき無くも無い。

 要するに男性は変装用の衣装が邪魔だと言う事である。


「しょうがないでしょ? 『貴方は死んだ事になっている』んだから。もし死んだ筈の人が生きていたらどう思うの?」


「まあ、そうだけどよ。やっぱ楽しみたいのが本筋ってやつだろ?」


「本筋の意味分かってる?」


 そのような会話を繰り広げる二人の男女。

 男性の方は死んだ扱いになっているらしく、魔族の国と関わりがあるようだ。

 まあ、そうだろう。この者は、そしてこの者達は、


「まあ、それが魔族(オレたち)の本性? 本質? って奴なんだよ……『マギア』」


「……『ゾフル』ってば……全く……。『シュヴァルツ』に『グラオ』だけじゃなくてもう一人戦闘狂が加わって……『ヴァイス』も苦労しそう……」


 全ての生物を手中に収めようと目論む者達だからだ。

 となると、ハリーフ関係の何かがあるというのは確定要素である。


「まあ、さっさと要件を済ませて戻るとするかァ……」


「そうだね。この街での目的は達成したみたいだし、さっさと見つけて……」


 マギアがゾフルの言葉に返しつつ、何かを探す。

 そんなマギアに向け、話し掛けてくる影があった。


「……やあ、マギアにゾフル」


「やっと来たね。もう既にハリーフの居場所は特定したよ」


「……ヴァイス、グラオ」


 ヴァイス達一味で一番の実力を持つというグラオ──グラオ・カオスとその一味のボス? であるヴァイス──ヴァイス・ヴィーヴェレだ。


「昨日から探しているけど……まあ単純で分かりやすい場所に捕らえられているね。シュヴァルツの方も順調らしいよ」


 昨晩の騒動から、既にヴァイスは色々調べてハリーフの居場所を突き止めていたらしい。

 そして、この場にいないシュヴァルツもシュヴァルツで、何かしらの行動を起こしているようだ。


「そう、分かったよ。じゃあ、三人とも捕まって。ヴァイスが言った場所に飛ぶから」


 それを聞いたマギアは言葉を続け、ヴァイス、グラオとゾフルに行動を促す。

 そして次の瞬間、ヴァイス、グラオ、マギア、ゾフルはその場から姿を消し去った。



*****



「まさか、三割(この力)と張り合えるとはな……。やっぱ幹部は幹部って事か……」


「ああ、俺は幹部の中でも上位に行けると自負している。驕りでも何でも無ェ……事実だからな?」


 そして闘技場ではライとブラックが戦っており、闘技場の原型は既に無かった。

 レイたちとサイフ達が居なければ辺りは更地と化していただろう。

 二人が戦い始めてから数十分。二人は肩で息をしている状態だが行動する分には問題無さそうな雰囲気である。


「ハッ、確かに今の俺と張り合えるアンタはこの国でも上位に君臨出来るくらきは強いな。……けど、だからと言って俺に勝てると思ったら大間違いだぜ?」


 そんなブラックに向けて挑発するように話すライ。

 実際、ライはまだ魔王の力を最大でも三割しか使っていない。

 つまり、ライが今から四割五割纏い、更に強化したとしてブラックが着いて来れるかが問題だ。


「クク……たりめェだ。俺は自分が強いと思っているが、油断している訳じゃねェ……無論の事上には上が居る。世界で見れば精々真ん中くらいの立ち位置だろうよ。だからこそ油断せずにテメェを叩く……!」


 刹那、ブラックは幾つもの剣を創り出して一気に放出する。

 その剣は空気を切り、超速でライに向かう。


「じゃ、俺も油断しないようにしなきゃな……(って事だ。魔王。蹴りを付けるから五割纏う)」


【ククク……了解!】


 そして、ライはその剣を回避しつつ魔王の力を半分──五割纏った。


「……! スゲェ感覚だな……テメェの力がビリビリ伝わって来やがるぜ……! これは決着を付ける……って受け取って良いのか?」


 その感覚を味わいつつ、軽薄に笑いながら話すブラック。

 そんなブラックはライの力からライの思考を読み取っていた。


「ああ、何時までも茶番劇を続けている訳にもいかないからな。楽しみたいところ悪いが、今から終わらせるからそこんとこ宜しくな?」


「ククク……任せろ。よーく理解しているぜ……じゃあ俺は……『星を切り裂こう』……」


 ザザッと地を擦り、ライとブラックは互いに構え、己の力を引き上げる。


「さぁて……さっさと終わらせようか……こんな茶番は……互いになぁ……!」


 ライは魔王の五割を身体に込め、拳を握り締めて地面が割れる程の体重を脚に乗せる。


「クハハ、上等だ……だったら俺もさっさと終わらせてやるよ……! 言ったろ? 星を切り裂くってな……!」


 対するブラックは片手に魔力を集中させ、より強く、より強力な剣を生成させる。


「……」

「……」


 互いが無言になり、互いが相手の出方をうかがう。

 今までの幹部たちも、最後はこのような構え、このような集中力、このような雰囲気で決着が付いた。

 これが終われば、もう魔族の国の幹部と戦う事は無くなる。

 それどころか、ブラックを倒して支配者も倒せば魔族の国での出来事は全て終了だ。魔族の国に寄る事も無くなるという事である。

 なのでライは、全力の五割で迎え撃とうとしていた。


「────」

「────」


 二人の無言は長くなり、沈黙を破ったのはブラックだった──


「──行くぜ! ライ!」


「──来い! ブラック!」


 ブラックが叫び、ライが返す。

 このような掛け合いが行われた、次の刹那──


「"魔王の剣(シャイターン・セイフ)"!!」



 ──巨大な漆黒の剣が生み出され、ライの方へ向かって行った。



「"魔王の拳(サタン・フィスト)"!! ……なんてな?」



 ──ブラックに続き、ライは全力の五割を正面に向けて突き出した、そして──




 ────ッッッ!!




 耳をつんざくような巨大な爆音は無く、ただ何かが耳を抜ける音のみが広がって過ぎ去った。





 ────そして、正面から数千キロが綺麗に割れる。





 その一瞬後に遅れて爆音が響き渡り、闘技場全体を粉砕して消し去る。


「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」

「「…………!!」」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、サイフ、ラビア、シターの八人は必死になって客席を護り、衝撃を抑えようとするが堪らず吹き飛ばされてしまう。

 その衝撃によって大きな土煙が舞い上がり、数キロある闘技場は何も見えなくなっていた。



*****



「……」

「……」


 ──そして煙が晴れた後、ほぼ更地と化した闘技場には二つの影があった。

 一つの影は立っているような様子でたたずまい、もう一つは横になっているような様子だった。


「……ったく、何なんだよ。あの拳は……スゲェ威力じゃねェか……今の一瞬で星を何周したんだ?」


「……さあな。けど、アンタの剣も結構な威力だったよ。腕が切り離されたと思ったからな。今現在、腕はくっ付いているけど感覚が殆ど無い」


 無論、ライとブラックである。

 ブラックは全身から血を流しながら横になっており、ライは片腕をズダボロにしながら脂汗を流して話していた。


「……観客席の方は……まあ死人は何とかいねェだろ。狙ったのはテメェだけだったからな」


 ブラックはフッと笑ってライに告げる。

 実際、ライとブラックの対角線上に観客席は無く、二人が放った風圧でとてつもない破壊を生み出したが、奇跡的に二つの衝撃が打ち消し合い、闘技場が消し飛んだ程度で済んだ。

 闘技場は消し飛んだがレイたちとサイフ達の活躍もあり、被害は最小限に抑えられた。


「……まあ、これは完全に俺の負けだな。全身の骨が折れてねェか心配だ……」


「ハハ、じゃあ取り敢えず回復係のフォンセ、リヤン、キュリテが瓦礫から出てくるのを待つとするか……」


 ライはブラックの前に力無く座り、軽薄に笑いながら話した。



 こうして、ライvsブラックの戦いは、ライの勝利で終了したのであった。



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