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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第八章 王の街“マレカ・アースィマ”
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百六十五話 ライvsブラック

 ──"マレカ・アースィマ"・城の中、貴賓室きひんしつ


 翌日、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人とブラック、サイフ、ラビア、シターの四人は昨晩集まった城の貴賓室きひんしつに居た。

 その場には既に緊張が走っており、王であるマルスや王妹であるヴィネラ、そしてマルスの側近。つまり執事であるカディルらも表情を強張らせていた。


「まあ、そう固くなるなよマルス君。ブラック"さん"やその仲間方には言っていなかったが……俺はこの街を征服するつもりは無い……」


「……あ、はい……けど……」


 そんなガチガチに固まっていたマルスを宥めさせるように話すライ。

 マルスはおどおどしながらも、何とか言葉を返答した。

 そしてブラックは片眉をピクリと動かし、そんなライに返すように話す。


「征服するつもりは無い……? 一体どういう事だ? ……俺の考えじゃ、お前は街々を征服して歩き……ヴァイスとやらと同じような目的を持っているなら……ゆくゆくは世界を征服するつもりだと思っていたが……」


 ライは、魔族の国を征服するとは言ったが世界そのものを征服するつもりの事は断片的にしか言っていない。

 にもかかわらず、ブラックはライが世界そのものを征服つもりという事を推測したのだ。

 中々の考察力を持っているだろう。そんなブラックに対し、ライは言葉を続ける。


「へえ? アンタの言う通りだよブラック。俺は魔族の国を征服し終えたら世界を征服するつもりだ。……つまり、魔族の国は通過点に過ぎない……いや、世界征服まではこの星にある全ての国。それが通過点だ。……最終的には何処まで行くか……俺は考えていないけどな……」


 そして、挑発するように全世界を通過点と告げた。

 それに対し、ブラックは眉を顰めながら苦笑を浮かべて返す。


「全世界が通過点ねェ……ククク、言うじゃねェか……呆れを通り越して尊敬に値すらァ……テメェのような年齢でそんな目的を抱えている奴が居るとは……支配者制度のこの世界……世も末だな……ガキに此処までさせる程世界は落ちぶれたのか?」


 ブラックはライの言葉を馬鹿にせず、素直な感想を話した。

 子供がそれを言えば軽く笑って流すのが普通だが、ライの実力を少しだけでも目の当たりにすればその目的の意味を理解できるだろう。


「……で、テメェは通過点である魔族の国を征服する為に通過点の通過点だろうこの街……"マレカ・アースィマ"は征服つもり無いって言っていたが……それで目的に到達出来るのか?」


 そんなライに向けて、改めて本当に征服しないのかと尋ねるブラック。

 世界征服を目標にしているのなら主力が集う街を全て征服しないと始まらない。

 なのでブラックはライに向けて「良いのか?」と尋ねたのだ。


「ああ、征服はしないが……相応の事は考えている。……相応と言ってもアンタら"マレカ・アースィマ"側も不利益にはならないと思うぜ?」


 そんなブラックに対して軽薄な笑みを浮かべながら告げるライ。

 ブラックは訝しげな表情をし、ライに再び尋ねる。


「俺たちの不利益にならないって? つー事は……何かしらを提供してくれんのか? それともテメェらが征服したあかつきに世界の半分でもくれてやろうとか、そんな事考えてんのか?」


 それはライたちがブラック達に向けて何かを提供するのかと言う事。

 普通に考えれば世界を管理する権利や世界の金銀財宝を半分、上級者になれば己の力を相手に分ける事も出来る。

 要するにブラックは、ライが何か望む物をくれるのかと考えているのである。


「いや、そうじゃない。世界の管理はまた別の事だからな。それはまだだ。……俺が言いたい事は……」


 ブラックの言葉に返し、言葉を続けようとするライはフッと笑ってブラックに話した。


「アンタらを倒した後でゆっくりと話すとするさ……」


 ザッと、話すと同時に脚を軽く開き、少し斜め寄りに重心を傾けて片手を突き出し、そのてのひらを自分の方に向けて挑発するように言った。


「ほう? そういや、俺たちと戦うのは避けている訳じゃ無かったな……」


 そんな闘争心剥き出しのライに対し、ブラックもゆっくりと構えを取りながら言葉を発する。

 そのブラックを見たライは口角を吊り上げ、軽薄な態度を取りながら言葉を続ける。


「ああ、アンタらを倒して俺がやろうとしている事を話してやるよ……」


「ククク……上等だ……」


 ライとブラックが互いに向き直り、互いの闘争心を高める。

 その圧によって城の床が剥がれ、ヒビが入っていく。


「テメェ……改めて聞く、この街を征服するつもりは無いんだな?」


「ああ、何度でも答えてやるよ。……いや、やっぱ五回くらいで……。……兎にも角にも何はともあれ、俺はこの街を征服するつもりは無い。別の目的はあるがな」


 ブラックの問いに即答で返すライ。

 それを聞いたブラックは笑い、ライに返すように向けて言葉を続けて話す。


「なら……『わざわざ幹部一同を総動員する必要は無い』よな?」


「……へえ?」


 ブラックの言った言葉、それに対して軽薄な笑みを浮かべつつ訝しげな表情でブラックを見やるライ。

 ブラックは笑みを止めず、更に続けて話す。


「まあ要するに、だ。俺とテメェの差しでタイマンしようぜ……って事だな。テメェの仲間も俺の仲間も、それなりに疲労は溜まっているだろうよ。だから互いのリーダー格同士の俺たちのみで戦い、決着を付けようって事だ。この街を征服しないならその方が余計な疲れを溜めなくて済む」


 つまり、ライとブラックが一騎打ちで決着を付ける事によって互いの持つ兵力。それらを余計に使わずに済むという事。

 確かに早く決着が付いた方がライ的にも都合が良い。


「……ふぅん? 俺的にもそれなら早く済んで良いけど……アンタんとこの側近方はどうなんだ?」


 なので、特に否定はしないライ。

 続けてブラックの側近であるサイフ、ラビア、シターにどうかを尋ねる。

 ブラックがリーダーとはいえ、側近の意見を聞かずに戦闘を行うのはどうかと考えたからだ。


「……そういやそうだったな。お前達はどうする?」


 ブラックもそれに気付き、サイフ、ラビア、シターの三人に向けて尋ねるように話した。

 三人は少し考え、


「ま、ブラックさんが決めたなら別に良いっスよ?」

「同じく良いよ!」

「ええ。別に戦いは好きじゃありませんから」


 ブラックの意見に任せると告げた。

 それを見ていたライもハッとして振り向き、


「そうだ、俺も聞いてなかった。レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテはどうだ? 全てを俺に任せる事になりそうだけど?」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人に尋ねた。

 ブラックとの会話に夢中になっていたが、優先すべきは仲間たちの意見だからである。


「うん、大丈夫だよ?」

「ああ、私も構わない」

「同じく」

「うん……同じく……」

「皆にさんせーい♪」


 レイたち六人もライとブラックの考えに賛成し、これにて全員の許可が降りた。


「……では、貴方方を案内します。着いてきて下さい」


 それを静かに見ていたマルスも王として、ライとブラックに戦闘用の場所を提供してくれるらしい。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人と、ブラック、サイフ、ラビア、シターの四人はマルスに案内され、その場所へと向かって行く。



*****



 ──"マレカ・アースィマ"・城が管理する闘技場。


 マルスに案内されたライたち六人とブラックたち四人。

 その闘技場は半径数キロ程あり、中々の広さを誇っていた。

 周りには高い壁で囲っており、その壁の向こう側には観客席がある。

 観客席には城に避難していた者達が居た。恐らくマルスでは無くマルスの部下である兵士達が集めたのだろう。

 まあ、貴族的な"マレカ・アースィマ"の住人の、暇潰しには快適である。

 そしてそれには一切の飾り気が無く、戦闘を行う為だけに存在しているような場所だった。


「中々広い場所じゃないか……」


 ライは闘技場の辺りを見渡し、その様子を確認していた。

 闘技場の見た目は前述通りで、ライはその広さからどのような戦闘を行うかイメージしている。


「クク……良いじゃねェか……多分普通の山よりも脆いだろうし、力を存分に使える訳じゃなさそうだが……実践的な練習って考えりゃ丁度良い」


 ブラックも闘技場を見渡しており、その雰囲気を窺っていた。

 何はともあれ、征服が関係無い戦いなので所謂いわゆる茶番的なものとして観客を楽しませれば上々だろう。

 今のライが思い浮かべる目的にも街の人々の評価を上げておけば上出来だ。


「さっさとろうぜ? 出し物的な奴になりそうだが、テメェとは戦ってみたいと思っていたんだよ」


 クッと笑ってライに話すブラック。

 実際、ブラックはライの強さを目の前で見た訳ではない。

 それでもレヴィアタンを倒したと言うので、ライの持つ実力は理解しているのだ。


「そうかい。なら俺も……ギャラリーを楽しませる事に一役買ってやるか……ハリーフの話を聞く限りじゃ昨晩住民の平穏を奪ったのは俺だからな」


 ライとブラックはそれだけ話、ゆっくりと歩みを進めて闘技場へ入場する。


「「「わああああああ!!」」」


 そして、ライとブラックが闘技場入りすると同時に見学している住人達から一段と大きな歓声が上がった。

 街の幹部と街を護った立役者が戦うというのだ。血気盛ん魔族でそれを楽しまない者は少ないだろう。

 今、ライとブラックは……見世物的な戦闘を行うのだった。



*****



 ──そして、ライとブラックは互いに駆け出した。



「オラァ!!」

「"セイフ"!!」



 刹那、ライの拳とブラックの剣魔術が激突し、金属音が辺りに響き渡る。

 その衝撃で周りを囲んでいた壁は砕け、観客席の方へ瓦礫が飛び散る。


「うわあああ!」

「逃げろォ!」

「此方に来るぞォ!!」


 それを見た観客達は慌てふためき、その瓦礫から逃れる為に逃げ惑う。

 当然の行動だろう。逃げなくては押し潰され、最悪死してしまうかもしれないからだ。


「……だからブラックは一対一を望んだのかしら?」


 そして、その瓦礫を盾魔術で受け止めて防ぐシター。


「そうなのかなぁ? けど、今回は一対一だからこの場所になったんだし……違うんじゃない?」


 それに続き、爆破魔術の球体で瓦礫を粉砕するラビア。

 シターとラビアによって一部の瓦礫は防がれた。


「成る程な。ブラックさんが俺たちを此処に配置したのは観客を護る為か……」


 そう、ライとブラックの仲間たちは広い観客席に移された。

 理由はサイフの言う通り、ライとブラックの激突によって巻き起こる被害を防ぐ為だろう。


「……何で私たちも……」

「まあ、ライの仲間だからな。おかしくは無い」


 一方ではレイとエマ。


「……私……どうすれば良いんだろう……」

「……蜘蛛の糸で瓦礫を防ぐとか?」


 一方ではリヤンとフォンセ。


「何で私は一人なの!? 別の街の幹部の側近だからなの!?」


 最後に叫んでいるキュリテ。

 と、ライとブラックの仲間たちは二人の戦いを観戦しつつ被害を抑えているのだ。


「そらっ!」

「"切断スィッキーン"!」


 再び拳と剣魔術が激突し、ライの背後には何かに切断されたような亀裂が出来、ブラックの背後は地面が抉れて何かが通ったかのような道が出来ていた。

 無論、何も通っていないのだが。


「オ──」

「"セイ"──」


「──""!」

「──ラァ!」


 次に破壊力と切断力のある粉塵が舞い上がり、半径数キロの闘技場を大きく揺らす。

 それによって再び辺りに衝撃が走り、レイたちとサイフ達がそれらを防ぐ。


「オラッ!」

「……ッ!」


 そしてライは剣魔術を掻い潜り、ブラックの腹部に蹴りを放ってブラックを吹き飛ばす。

 今のライは魔王を纏っていないのだが、それでも数キロは吹き飛ばす力があった。

 しかし、ブラックは数メートル進んだだけで砂埃を巻き上げて停止する。


「やっぱ近距離は不利だな……」


 ライから少し離れたブラック。ブラックは剣魔術を空中に創り出し、切断力のある魔力の塊を漂わせた。


「"放出ラマー"!」


 刹那、周りに漂っていた剣魔術がライに向けて放たれた。

 空気を切り裂き、闘技場に舞う砂埃を貫いて突き進む。


「あーらら……(魔王。俺に剣魔術はあまりダメージ無いけど、俺じゃ砕けない……て事で一割使う)」


【ハッハッハ! 一割か!? まあ良い。やってやろうじゃねえかよ!】


 次の瞬間、ライの周りを漆黒の渦が包み込んだ。

 ライだけでも剣魔術を迎え撃つ事は出来ていたが、悪魔で反らす程度で砕く事は出来なかった。

 なので、魔法・魔術を砕ける魔王の力を一割でも纏う事によって正面からブラックを叩こうという事である。


「さて、やるとするか……」


「クク……随分と雰囲気が変わったな……まだ全力の一割未満……ってところだろうがな」


「……へえ?」


 ライが改めて向き直り、ブラックがライの様子から力の変化を推測する。

 その的確な推測に関して感心するライだが、別に気にする必要も無い。

 魔王の力を一割だけ纏ったライと、魔族の国最後の幹部ブラック。本人たち曰く、暇潰しの茶番のような戦いが始まった。

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