百六十三話 ハリーフの目的
──"マレカ・アースィマ"・城の内部、牢獄の部屋。
ブラックに言われて観念したライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人。
ライは苦笑を浮かべながら姿を現し、ブラック、サイフ、ラビア、シターの中でブラックに尋ねる。
「何時から気付いていた? ……って言っても……最初から気付いているよな……多分、俺たちが着いて来る事を初めから想定していたんだろ?」
ライが尋ねたのは既に気付いていたのかと言う事。
しかし、聞いたライ本人も気付いていたとは理解していた。
そんなライの質問に対し、ブラックは笑いながら返す。
「ああ、最初から気付いていた。で、お前も俺が気付いている事に気付いていた……まあつまり、俺やお前がやっていたのは茶番って事だ……」
互いに茶番を演じていたと、自虐するように話すブラック。
ライも苦笑を浮かべており、隠す必要も無かったと自嘲するように笑った。
「……で、本題だが……バロールの蹴りを受けたお前達……蹴りは痛かったか?」
そんなやり取りを終え、ブラックはフォンセとリヤン。という、主にバロールと戦っていた二人に向けて尋ねるように質問した。
「ああ、まあ痛くないと言ったら嘘になるな。凄く痛かった」
「同じく……死んじゃうって思った……」
強がりを言う必要も無いので、フォンセとリヤンは正直に痛みの感想を言う。
二人は淡々としているが、バロールの衝撃は想像を絶するモノがあった。
「……って事だ。実際、それを受けたサイフは気を失ったしな」
「面目ないです。はい」
フォンセとリヤンの言葉を聞いたブラックはハリーフに向けて告げ、横で聞いていたサイフは頭を掻きながら返す。
そして、ブラックはハリーフに向けて言葉を続ける。
「……まあ要するに、"俺は負けてない!"って事だな」
フン……と鼻息をしてハリーフに向けるブラック。
「何だか無茶苦茶な理論ですね……まあ、仮にそうだとしても私が勝てると思っていたのでこのタイミングで攻め込んだ……という風には考えないのかね?」
そんなブラックの言葉に返すハリーフは、少し困惑していたが話を戻すべく話した。
曰く、バロール一体でどうにか出来ると考えたから……との事。
「そうか。言う気は無い……か。……まあ、素直に吐けば処刑は免除するように頼もうと思っていたが……全く話す気は無いらしい。
「……ええ、ご覧の通り……」
本当の目的を話す雰囲気が無さそうなハリーフ。
そんなハリーフに向け、ブラックはニヤリと笑いながら言葉を発した。
「まあそれでも……だ。最悪……キュリテに頼めば良いんじゃねェの?」
「……!?」
それはキュリテの超能力を使い、ハリーフの思考を読むと言う考え。
確かに"テレパシー"を使えるキュリテならハリーフの考えている事が手に取るように分かるだろう。
その言葉に対して揺れたハリーフは言葉を続ける。
「そう来ましたか……。まあ、確かにキュリテさんが居たのなら考えられる方法だ……。しかし、そんなもの私が考えなければ「あ、もう部屋に入った時に読んじゃった……ゴメンね?」良い事……え?」
ハリーフが言葉を続けようとした時、キュリテは両手を合わせてハリーフに謝りながら告げ、ハリーフは素っ頓狂な声を出して固まった。
「……らしいぜ? ハリーフ?」
「……ッ」
そんなハリーフを、若干小馬鹿にしたような表情で話すサイフ。
対するハリーフはキュリテの言葉を聞き、固まったまま動けない様子だった。
「えーと……じゃあ話しても良いのかな?」
ハリーフを見たキュリテはライたちとブラック達を一瞥し、尋ねるように話した。
「良いんじゃね?」
「うん良いんじゃない?」
「ああ、良いと思うな」
「ああ、賛成だ」
「右に同じ……」
先ずはライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人が返し、
「よし、許可する」
「ブラックさんに同じ」
「良いよー♪」
「ええ、構わないわ」
ブラック、サイフ、ラビア、シターの四人も賛成するように返した。
「……どうせ私の意見は無視でしょう?」
「無論だ」
そんなやり取りを聞いていたハリーフは小さく呟き、ブラックが即答で返す。
そしてキュリテはライたち六人とブラック達四人を見渡し、言葉を続ける。
「えーと……どうやらハリーフはライ君たちの強さ、力を調べる為にこの戦争を挑んだみたい」
「……俺たちの力?」
先ずキュリテが話したのはハリーフの目的。それはライたちの強さ、力を調べる為との事。
ライが聞き返し、キュリテは頷いて更に話を進める。
「うん、"テレパシー"の情報だから誤りは無いね。何でも……ハリーフにはまだ味方が居て、その味方にライ君たちの事を伝えるのが目的みたい。あの方に伝えるって考えていたし」
「味方?」
ピクリ、ブラックが片眉を動かして聞き返す。
ハリーフが親玉だと思っていた様子のブラックは意外だったようだ。
「うん。その味方の名前はまだ聞いていないから……今から読むね……」
ハリーフの思考は一部欠けていた。それもその筈。
何故ならキュリテは入った瞬間にハリーフの思考を読んだ為、詳しい事は聞いていないのだ。
「もう好きにするが良いさ。味方の名前は別に隠す必要も無い。何故なら君達は名前を聞いたら殺す術とかを持っていないからな。それに、寧ろ聞いた方が反応が面白い……私が言っても良いが、それならばこの拘束を「読めたよー♪」解い……チッ……交渉決裂かい……」
早口でブラック達に提案をしようとしていたハリーフだが、交渉を成立させる前にキュリテに思考を読まれ、舌打ちをして喋るのを止める。
思考というものは、考えたく無かったとしても対象のワードを言われてしまえば無意識に名乗ってしまうのだ。
「……じゃあ、教えてくれ。キュリテ」
キュリテの言葉を聞いたライは早速キュリテに尋ねる。
キュリテの様子を見る限り、驚いた様子も無さそうなので恐らくライたちも知らない人物だろう。
ライの言葉に頷き、キュリテは読み取った人物の名を発する。
「その人は……『ヴァイス・ヴィーヴェレ』って言うらしいよ?」
「「「「…………!!」」」」
「「「…………?」」」
「「「…………?」」」
キュリテが話した名前、それを聞いたライ、レイ、エマ、フォンセの四人は肩を揺らして大きな反応を示す。
その反応を見たリヤン、キュリテ、ブラック、サイフ、ラビア、シターの六人。ブラックは訝しげな表情を浮かべてライたちに尋ねる。
「ヴァイス・ヴィーヴェレ……俺たちは全く知らない名だが……お前達は何か知っている様子だな……しかし、見たところお前達六人のうち二人は知らなそうだが……」
それは、ヴァイスという人物を知っているのか? という事。
リヤン、キュリテと出会ってからはヴァイス達との接点は無いが、リヤン、キュリテと出会う前にはちょっとしたいざこざは何度か起こっていた。
ブラックの言葉に対し、ライは頷いて返す。
「……ああ、俺たちはその名前を知っている。……それにしても……ヴァイスは俺たちについて調べていたのか……。別に不思議って訳じゃないけど……」
ライは返しつつ、ヴァイスらが自分たちについて調べている事が気になった。
確かにライたちとヴァイス達には因縁があるのであまりおかしくは無いのだが、敵対するかもしれないという意味で気になるのだ。
「へえ? 聞かせて貰おうか……そのヴァイスとやらについてよ……俺が担当している街の側近がそいつの仲間って事で関係してんだ……俺たちに関係無い訳無ェだろ?」
ライの言葉を聞いたブラックはヴァイスの素性について尋ねる。
この街、"マレカ・アースィマ"はブラックが任せれている街。
つまり、その幹部の側近であるハリーフの事は主である自分も関係していると、責任を感じながら考えているのだろう。
「そうだな……確かにヴァイス達の目的はアンタら……いや、全世界の者達に関係している……一応教えておくか……そいつらの目的は──」
そして、ライはリヤン、キュリテ、ブラック、サイフ、ラビア、シターの六人にヴァイスとの関係やヴァイス達の目的を説明するように話した。
ヴァイス達が掲げる目的、ヴァイス達と何処で出会ったか、そして何処で戦ったか。
その他にもヴァイス達に関係している。と思う事を説明する。
「──って事くらいかな……まあ、相手の目的が目的だし……他にも色々と動いていると思うけどな」
「……幻獣・魔物の統一……」
「魔族や人間は一部を生かして他は弾くって……」
「選別って言った方が正しいかもな」
ライは説明を終える。その説明を聞き、リヤンとシター、サイフが真剣な表情で返した。
ヴァイス達の目的。それは幻獣・魔物を統一して一つの国を創り、知能のある人間・魔族は優秀な者を残して消し去る事。
それを聞いたブラックはクッと喉を鳴らし、笑いながら言葉を続ける。
「ほう……そんな目的を抱えた奴らも居るんだな。……クク、目の前にも似たような事を目的にしている奴がいるけどな。……まあ、根本的な事は違うのか?」
ヴァイスにとって完璧な世界を創造するという、ライの目的とは似ても似つかないモノであるのだが、ライの征服についてはライ自身が説明していない為、皆が幸福になれる理想の世界を創造するという事はブラックは知らない。
ライは幹部達を倒した後に自分が世界を征服しようとしている理由を教えているのだ。
何故なら、同情によって相手が全力を出せないのを阻止する為に。
「……まあ、違うっちゃ違うな……。けど、確かに俺もヴァイスも世界を狙っている事に変わりは無い」
そして、ヴァイスについて話したのでブラックとの会話を終えるライ。
ライたちとブラック達は牢獄を後にし、マルスが待つ上階へ向かうのだった。
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「……どうでしたか?」
牢獄から移動したライたち六人とブラック達四人は何時もの貴賓室におり、王のマルスは真剣な表情でライたちに牢獄での出来事を尋ねた。
「あー……それはな……」
そして、幹部としてそれを話すブラック。
ブラックが話したのはハリーフから聞いた、ハリーフの目的だったライたちの力の情報とヴァイスという者達の組織があり、世界を創造しようと目論んでいる事。
それを聞いていたマルスとヴィネラは眉を顰め、マルスが苦々しく口を開いた。
「そのような組織が関わっていたなんて……しかし、ライさんたちが出会った時は四人しか居なかったって事は……増えている可能性もありますよね?」
マルスが話したのは、ライたちとヴァイス達が出会った数週間前。ヴァイスらに新たな仲間が加わっている可能性についてである。
事実、ライたちがヴァイスらと出会った時は四人しかおらず、他に仲間が居る様子も無かった。
しかし、空白の数週間でハリーフがヴァイス達の仲間になっていた。
それだけじゃなく、"ハルブ・アドゥ・マウラカ"の者達もハリーフに味方していたという事はヴァイス達と何かしらの関わりがあるのだろう。
ライはマルスの言葉に対し少し考えたあと頷いて返す。
「ああ、その可能性は勿論考慮してある。そもそも、ヴァイス達の強さはまだよく分からないんだ。ヴァイス達の幹部……的な立ち位置であろう奴とは戦ったが、互いに満身創痍で引き分け……結果的には俺が勝ったっぽいけど腑に落ちない」
ライが考えていたのは、ヴァイスの仲間の一人であるシュヴァルツについてだ。
ライとシュヴァルツは一度拳を交えているが、最終的には向こうが自ら負けを認めて戦いが終わった。要するに、どちらもまだ底を見せていない状態なのだ。
シュヴァルツの底は星を砕く程度の力では無いと、ライは確信を持っていた。
「ヴァイス一味の……幹部との戦いですか……大変気になる事ですが……今考えるべき事は違いますね……ライさん。これで一時的な助っ人は終わった訳ですが……どうします?」
そんなライの言葉を聞き、マルスは表情を固めながらライに問うように尋ねた。
そう、"ハルブ・アドゥ・マウラカ"との戦いでは一時的にライたちが"マレカ・アースィマ"側に付き、敵を倒すという約束だった。
しかし、それが終わった今、ライたちは再び征服を目論む侵略者として"マレカ・アースィマ"のメンバーと敵対するという事である。
「そうだな。俺も俺の目的を達成する為……そろそろ動くとするか……」
ザアと城の窓から風が入り、ライの髪が揺れる。
まるで自然の風がライの言葉に反応したように、ブラック達幹部一行はライの言葉に警戒を高めており、ライは言葉を続けて話した。
「まあ、今はもう夜も遅い……魔族なら今が本番だろうけど……少なからず全員それなりに疲労している……今はまだ戦わないさ」
警戒を高めているブラック達に向け、ライはおどけるように話す。
それによってブラック達は肩を竦ませ、警戒を解く。
「そーだな。確かに万全じゃねェ奴らと戦うのは面倒だ……じゃ、俺たちは部屋に戻るぜ……」
警戒を解くと同時に、ブラックは背を向けて貴賓室を後にする。
それに続き、ライたちも歩み出した。
「じゃあ、また後日って事で……」
ライはそれだけ言って少し進み、
「……あ」
何かを思い出してその動きを止め、マルスの方を向いた。
「そういや言い忘れていた……マルス君、俺がこの街の幹部に勝っても……『この街を征服するつもりは無い』からなー。そこんとこ宜しく」
「…………え?」
それだけ言って自分の部屋に戻るライ。
ライはマルスに向けてこの街。つまり"マレカ・アースィマ"は征服をしないと言う。
「……ッ、それって……!」
その言葉に対し、マルスもそれに聞き返そうとした。が、ライたち六人はさっさと行ってしまった。
何はともあれ、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人とブラック、サイフ、ラビア、シターの四人は各々の部屋に戻った。
果たして明日、この者たちは激突するのだろうか。




