百六十二話 終戦
ライ、レイ、フォンセ、リヤン、キュリテによってレヴィアタン、バロール、ハリーフの強者を倒し終えた。
──しかし、
「飽きたな……」
『『『………………』』』
生物兵器達は幾ら殺しても再生する為、全体的な戦闘が終わったとは言い切れていなかった。
エマも飽きており、欠伸をしながら生物兵器を消し去る。
(私も強者の方へ向かえば良かったか? ……しかし、ライたちなら余裕だろうから私は要らないな……)
エマが考えている事、それは生物兵器達を相手にしていたが本当にそれで良かったのかという事。
実際、エマがライたちの邪魔になりそうな生物兵器を倒していたのは役に立っていたのだが、本人はその場にいない為よく分からないのだろう。
『『『…………』』』
そんな事を考えているうちにも更に再生する生物兵器。
「はあ……」
生物兵器達は相変わらず拳一振りで街を破壊出来る程の強さを持っているが、やはりエマにとっては弱いので面倒臭さが勝っているのだ。
『『『…………!!』』』
形を再構成した生物兵器、その者達がエマに向かって飛び掛かろうとしていた──
「オラァ!!」
──その前に、上空から何かが高速でやって来てそれら全てを粉々に粉砕した。
その衝撃で辺りには深いクレーターが造り出され、粉塵を巻き上げる。
「ライか。どうやらレヴィアタンの方は片付いたみたいだな……」
「ああ、まあけど……まだほんのりと違和感があるけどなぁ……」
上空からやって来た者──ライ。
レヴィアタンを倒し終えたライは取り敢えず適当に移動しながらエマたちを探していた。
そしてエマを見つけ、手助けも兼ねて生物兵器を文字通り土に還したという事だ。
「邪魔だったか? 面倒臭そうな顔をしていたけどそれなりに楽そうな表情でもあったが……」
クレーターから跳躍し、手助けをしたつもりのライはエマに尋ねる。
戦いの間に入られるのを嫌う者も少なくない。エマは違うだろうが、一応念の為に尋ねたのだ。
「……いや、問題無いさ。実際、ただ面倒なだけだったからな」
そんなライの質問にフッと笑って返すエマ。
本来なら邪魔されるのはあまり好ましくないが、今回はただ単に面倒臭さが勝っていたのでエマ的にも助かった? のである。
「再生しないな……」
そしてライが砕いた生物兵器達の残骸を見たエマは、生物兵器達が再生しない事が気に掛かっていた。
バラバラにしてから数分、再生しないにしてもそろそろ肉片同士がくっ付いても良い時間だからだ。
そして、ある事を思い付いてライに話す。
「成る程。ライは魔法・魔術その他諸々を無効にする……つまり生物兵器達の不死身性も無効にしたのか?」
エマが思い付いた事、それは魔王の持つ魔法・魔術、その他の異能全てを無効にする力が発動? したからと考える。
それを聞き、ライは"?"を浮かべてエマの言葉に返す。
「……でも、おかしくないか? 初めてエマに出会った時も魔王の力を使っていたが……エマの半分を消し去ってもエマは再生しただろ?」
ライが思った疑問は同じ不死身の肉体を持つエマを砕いた時、エマの身体が再生した事だ。
同じようにレヴィアタンも光の速度を越えて貫通した時再生した。
つまり、不死身性を無効に出来るのならエマはもう既におらず、レヴィアタンは苦労せずに倒せたのでは無いかという事。
「ふむ、成る程。じゃあ生物兵器の力には少なからず魔法・魔術の何れかが使われていた……という事じゃないか?」
「……!」
エマの言葉を聞いたライはハッとし、顎に手を当てて考えながら話す。
「確かに……純粋な科学だけじゃ生き物の性質を変えるには結構時間が掛かるな……なら、魔法・魔術で元の生物に何らかの処方を加えれば……」
エマの言う事には一理ある。
実際、魔法・魔術を使った人体、生物実験は生物兵器を創り出す街なら頻繁に行っているだろう。
しかし、無論の事それらで生物兵器を創り出す事は禁止されている。
それは"人間の国"・"魔族の国"・"幻獣の国"・"魔物の国"。と世界共通である。
戦力が上がって驚異になるという事ではなく、命を粗末にするという事だからだ。
「まあ、生まれつきの不死身者はいるし……生物兵器実験に失敗が無ければ世界的に利点もある……後々生物兵器が当たり前の世界にも成り兼ねんからな……」
生物兵器の実験が世界的に禁止されているのは失敗するリスクの方が高く、成功しても意思を持たない事があるから。
仮にリスク無しの百パーセントで力の強い生物になれるのなら進んで受ける者の方が多くなるだろう。
ある程度話終え、エマは最後にフッと笑ってライに話す。
「ふふ、ライならば不死身な不老不死を殺す事は可能だろうさ……私が死の恐怖を感じた程だからな……」
「……え?」
「……さて、そろそろ他の場所も調べてみた方が良いな。レイたちが心配だ」
エマが何かを話、ライが聞き返す。
そんなライを横目に、エマは遠方を見てレイたちの事が気になると告げて歩き出した。
「……ふむ、気が早く今の状況には全く関係の無い事だが……旅を終えた後で共に旅をしたレイ、私、フォンセ、リヤン……あと一応キュリテ……とどのような関係で今後をどうするかも考えなくてはな。征服後の世界も変えなくてはならないだろう。……それに、生き物の本能は子孫を残す事だからな……」
先程の話とは関係の無い話ではぐらかすエマ。
ライは訝しげな表情を更に深め、"?"を浮かべた。
「はあ……よく分からないけど……まあ分かった。考え? とくよ」
分からないなりに考え、疑問の表情を浮かべながら返すライ。
「ふふ……まだまだ子供だな。数十年後にはどんな風になっているか……今から楽しみだ」
「……?」
最後にエマが話、更に困惑するライ。
取り敢えず残りの生物兵器を何とかする為、ライとエマはレイたちの方へ向かうのだった。
*****
「やっほー! ブラック! サイフ!」
「「……ラビアか」」
一方のラビア、ブラック&サイフ。
ラビアはブラック達の姿を見つけ、笑顔を浮かべながら走り寄ってくる。
『『『…………!!』』』
──背後に生物兵器達の群れを引き連れて。
「……シターは?」
「うーん……シターちゃんよりも先に此方を見つけたからねぇ……次はシターちゃんを探すつもりだよ?」
そんな生物兵器達を見向きもせずに無視し、ラビアにシターの事を尋ねるブラック。ラビアも生物兵器達を無視しながら居場所は分からないと告げた。
「そうか。……なら、さっさとシターも見つけて幹部とその側近を集めてハリーフを回収するかァ……」
ブラック達は敵の気配を察する力に長けている。
ブラック達のみならず、幹部の殆どはそうだ。なので、ハリーフが既に倒れている事は理解していた。
「……じゃあ、さっさと向かいますか。ブラックさん。ラビア」
「ああ、そうだな。シターは問題無いと思うが一人だけ残すってのも中々酷だからな」
「さんせーい!」
『『『…………ッッ!?』』』
会話を続けながら生物兵器達をバラバラにしたブラック、サイフ、ラビア。取り敢えずこちらはシターを探すようである。
「あ、ブラックー! サイフー! ラビアー!」
「「「…………!」」」
そして、動こうとした瞬間に手を振りながら歩いて来る人影があった。
無論、シターである。
「あら? 皆どうしたのかしら? 固まっちゃって……」
『『『…………』』』
そして、その後ろには生物兵器達が立っていた。
「……見つかったね……」
「……ああ、結果オーライ……って奴か?」
「……はい」
生物兵器達には気を掛けず、シターの姿を見て苦笑を浮かべるブラック、サイフ、ラビアの三人。
「ああいや、何でも無い……さっさとハリーフを回収するか……」
「はい」
「さんせーい!」
「……? うん」
『『『…………!?』』』
取り敢えず頭を掻いて提案するブラックと、それに乗るサイフ、ラビア、そしてよく分かっていないシター。
当然のように生物兵器達は粉々に砕かれていた。
何はともあれ、ブラック、サイフ、ラビア、シターの幹部とその側近達は内通者であるハリーフから色々と聞き出す為に行動を起こす。
*****
──"マレカ・アースィマ"・城。
「皆さん! お疲れ様です!」
「お疲れ! 皆無事で良かったよぉ!」
その後、ライとエマはレイとキュリテ、フォンセとリヤンと合流し、城に戻った。
ブラック、サイフ、ラビア、シターの四人もハリーフを回収し終えて城内に入る。
「あー、疲れ……てはいないけど。……いや、やっぱ疲れたし……ついでに言うと精神的にも疲れたなぁ……それにしても大丈夫なのか? レイたちは?」
「私は苦労の無い戦闘だったが……レイ、フォンセ、リヤン、キュリテは中々の死闘だったらしいな……ゆっくり休むと良い」
「あ、いや……別に……」
「ああ、問題無い」
「……私も……」
「全然大丈夫ー!」
フォンセ、リヤンやレイ、キュリテの大怪我を負っていた組みは各々の回復術で治療して集まっていた。
ライたちは心配しているが、レイたちは大丈夫と言う。
そして、残っていた"ハルブ・アドゥ・マウラカ"の指揮官と兵士達、生物兵器達はこの街の牢に幽閉していた。
その理由は簡単、生物兵器を創り出すという禁止されている事を行った為に魔族の国の支配者へ差し出すという事だ。
戦いに勝てば罰を与える側となり、負ければ罰を与えられる側になる。
一見は理不尽だが、歴史というモノはそういう風に作られていくのだ。
「あの……ハリーフさん……ハリーフを含めたあの方達は一体どうなってしまうのでしょうか……」
そんな幽閉される為に連れていかれた者達を見、王のマルスは幹部であるブラックに尋ねた。
ブラックは少し考え、マルスに向けて言葉を発する。
「まあ、懲役数十年から数百年……禁止されている生物兵器で殺害を行った事を考えりゃ……指揮官とハリーフは処刑だろうな」
「……ッ!」
マルスはそれを分かっていた。
しかし、子供のマルスは一つの争いで多くの兵が死に、責任者は多くの場合処刑されるという事実が受け入れられなかったのだ。
「しょうがねェさ……ハリーフの事は俺も残念だが……クーデターってのは勝てば官軍負ければ賊軍……単純な事だ……」
それを話すブラックの目は何処か遠く、向こう側を見ていた。
裏切り者とはいえ、幹部の仲間として思うところがあるのだろう。
「……サイフ、ラビア、シター。行くぞ。ハリーフから色々と聞き出さなきゃならねェ」
「「「…………」」」
ブラックは他の側近三人に告げ、歩き出す。
サイフ達三人も頷いて歩みを進め、ハリーフが幽閉されている牢へと向かった。
「やっぱ……何かありそうだよな? あのハリーフって奴……」
そして、そんなブラック達の行動を見ていたライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテに尋ねた。
ブラック達の行動からして、ハリーフには何かの訳があると考えたのだ。
「……ああ、何かはあるだろうな。私たちが来たタイミングで襲ってくるとなると……私たちが関係していそうだ」
「「「……うん」」」
「確かにな。何が目的かは分からないが……」
ライの質問に同意するよう応えたエマ。エマに続いてレイ、フォンセ、リヤン、キュリテも頷いた。
「となるとやる事は一つだ……」
「「「…………」」」
「「…………」」
ライの言葉へ静かに頷き、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人はこっそりと移動する。
「……あれ? ライさん達は……?」
マルスがそんなライたちに気付いたのは、既にライたちが何処かへ向かった後だった。
*****
──"マレカ・アースィマ"・城の内部、牢獄。
そこは薄暗く、僅かな光でしか視界が見えない場所だった。
数十の牢があり、そこに居るのは生気を失ったような顔をしている者が多くである。
中には強力な殺人鬼、強盗犯、放火魔、その他諸々の犯罪者が幽閉されており、その者達は他と違ってギラギラと目を光らせていた。
「相変わらずの場所だねぇ……薄気味悪い……」
「しゃーねーさ。それ程の事をやらかした奴等が居るんだからな」
「確かにこんなところに閉じ込められていても同情は出来ないわね……」
「ゴチャゴチャ言うな。コイツらは殆どが死刑対象の罪人。今でもどうにかして脱獄出来ねェか考えているだろうよ」
そんな道を行く、ブラック、サイフ、ラビア、シターの四人。
ラビアが周りを見ながら言い、サイフとシターが同意する。
そしてそんな三人に告げるのはブラック。
ブラックたちはコツコツと足音を立てながら石畳の道を歩いていた。
「「「…………」」」
「「「…………」」」
──そして、そんなブラック達の後をコソコソと追う六つの影。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人である。
そんなライたちはバレないように後ろを付き纏って進む。
「女だァ……幹部の側近以外の女だァ……」
「あ、一人は除くけどな……」
「姉ちゃん、此方来いや……楽しもうぜ」
「俺は餓鬼の方が良いな……」
「じゃあ全員此方来いや……」
そんなライたちに向け、汚れた手を伸ばす囚人達。
こんな牢獄暮らしだ。色々とあるのだろう。
無論、ライたちはそれを無視してブラック達の後を追い続ける。
「「「「…………」」」」
少し進むと、ブラック達四人は一つの部屋に入って行く。
その牢屋は他の牢屋と違い、少しだけ豪華な造りのようだ。
「「「…………」」」
「「「…………」」」
それを見たライたちも続き、その部屋の入り口で中の様子を窺っていた。
「さてハリーフよ。お前……何を企んでいる? 今回の件だが……腑に落ちねェ箇所が多々ある」
中の造りもそれなりで、動けないように両手両足を固定されており、目隠しをしているハリーフがブラックによって質問されていた。
「ハハ、何を企んでいる……って。私はただ、この街を攻め落としてゆくゆくは世界を……「違うな」……?」
ハリーフが応えようとした時、ブラックは即答でハリーフの答えを拒否する。拒否に対して"?"を浮かべたハリーフを見、ブラックは言葉を続ける。
「……お前……いや、テメェはその程度の考えで行動するような馬鹿じゃねェってのを知っているからな」
「……へえ? 随分と高い評価を下さるのですね……ブラックさん?」
ブラックの言葉を聞き、不敵な笑みを浮かべながら返すハリーフ。
ブラックは頷いてハリーフが返した言葉に返す。
「ああ、テメェは頭が切れるタイプだ。そんなテメェの場合は確実性を高める為にあの程度の兵士達や生物兵器で攻め込む訳がねェ……カディルを狙ったのもわざと気付かれる為としか思えねェんだ。本当にこの街や国を狙っているなら、もっと練りに練った作戦と行動で示す筈だからな」
ブラックが気になっていた事、それはハリーフが明らかな戦力不足で"マレカ・アースィマ"へ攻め込んだ事についてである。
生物兵器はハリーフ以下の実力。それでも腕の一振りで街を破壊できるが、ライたちがおらず、ブラック達だけが相手だったとしても生物兵器には余裕で勝てるだろう。
その程度の実力しか無い生物兵器にも拘わらず、本気で街を落としに来た事が疑問だったのだ。
「フフフ……流石ですねブラックさん。けど、私が勝てるつもりで来ていた可能性は無いのですか? 生物兵器に加えて私が居る。そして最終兵器のバロール……つまり、それだけで我々の戦力は「いや、それは無いな」……!」
ハリーフが話す中、ブラックは最後まで話を聞かずに即答で拒否する。つまり、それは無いと断言できる確信があったのだ。
「まあ、確かにバロールは驚異的存在だった。それに加え、レヴィアタンまで攻めて来るとはな。しかし、レヴィアタンは世界を破滅させる為に存在しているらしいが……今回は少し様子がおかしかったな……固定の街を襲うって事はしねェらしいが……まるで誰かに怨みを持っているような」
「……!」
ギクリ、とそれを聞いていたライは肩を竦ませる。
そう、レヴィアタンの狙いは自分を海底に沈めたライなのだ。
つまり、今回レヴィアタンが襲って来た件はライが原因と言っても過言じゃない。
「まあ、それはさておき……レヴィアタンは無理にしても目覚めて間もないバロールなら俺一人でも勝てた。何故なら俺は今回、全く本気じゃなかったからだ」
ブラックは、その気になればバロール一体なら軽く勝てると言った。それに対し、ハリーフは笑いながら言葉を発する。
「フフフ……おかしいですねブラックさん。貴方はバロールによって吹き飛ばされ、侵略者一行の小娘がバロールを倒したと聞いたのですが……それを見ていないのに貴方なら勝てたとは……負け惜しみにしか聞こえませんよ?」
「……」
ハリーフが笑った理由、それはハリーフがどういう訳か知っているブラックがバロールによって吹き飛ばされた事実。
実際ブラックは吹き飛ばされ、最終的にはバロールではなく生物兵器の方を相手取っていた。
それを聞いたブラックは笑い、言葉を続けて話す。
「ククク……確かにそうだな……俺はバロールに吹き飛ばされた……だが、見ての通り俺は無傷だ。城に戻ってからも回復系の魔法・魔術は受けていない……つまり、それが何よりの証拠になるんじゃねェか? 俺はバロールの蹴りを受けても無傷だったって事実が……」
「成る程。しかし、実際に戦っていませんよね? たった数回攻撃した程度……本格的に戦ってもいない者がそう言っても説得力がありませんよ?」
ブラックが返し、ハリーフが負けじと返す。
互いに不敵な笑みを浮かべており、ブラックは言葉を続ける。
「ククク……なら、『実際に戦った奴らへ聞こう』じゃねェか……。なあ? 侵略者ご一行さん?」
「「「…………!」」」
「「「…………!」」」
ブラックは牢の出入口付近に向けて話し掛ける。
それを聞いて肩を竦ませるライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人。
ブラック達はライたちが着いてきていた事に気付いていたのだ。
「ほら、さっさと出て来いよ。俺たちはハリーフを含め、全員が気付いているぜ?」
「……はぁ……しょうがないな」
ため息を吐き、小さく呟いてライは動き出す。
それに続き、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテも動き出した。
誤魔化せないと観念したライたちは、その扉を開けて牢獄の中へと入って行く。




