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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第八章 王の街“マレカ・アースィマ”
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百五十八話 vsバロール

「"反射インイカース"!」


「「「…………!?」」」


 次の瞬間、"ハルブ・アドゥ・マウラカ"の兵士達が放った矢に銃弾、魔法・魔術が幹部の側近であるシターによって跳ね返された。それらは反射し、兵士達に自分が放った技を食らわせる。


「……さて、一体全体あと何人と何体居るのかしら……」


「「「………………」」」

『『『………………』』』


 それによって数人の兵士を仕留めたシターは、奥からやって来る兵士達と生物兵器達に視線を向けた。


「先は長そうね……"盾の打撃(デルゥ・ヤドレブ)"!"」


「「「グッハアアアアアア!!」」」

『『『………………!!』』』


 刹那、シターの前に現れた兵士達と生物兵器達はシターの盾によって物理的な攻撃を受けて吹き飛んだ。

 吹き飛ばされた兵士達と生物兵器達は木々や岩を砕き、あちこちに散乱する。


「……まだまだね……」


 そして兵士達では無く厄介そうな生物兵器達の元へ向かうシター。取り敢えずそれらを相手にするつもりのシター。


「ふむ。我ながら不死身というのは厄介な能力だ……」


「「「…………」」」

『『『…………』』』


 そして、こちらも兵士達と生物兵器達を相手にしていたエマ。

 エマは肉の塊と化した生物兵器の上に座り、艶やかな金髪をなびかせ、美麗な白い脚を組みながら呟いた。

 不死身という能力の厄介さはエマ自身が良く理解している為、面倒臭そうに呟いたのだ。


「……まあ、死んでも死なない生物というのは私の練習相手にピッタリだ。取り敢えず向こうが全て終わるまでは楽しませてもらおう」


 エマは高さ数メートルの肉塊から飛び降り、地に足を着けて先程まで自分が座っていた肉塊を一瞥する。


『『『…………』』』


 肉塊だった生物兵器は形を再構成し、再びエマの前に立ち上がった。


「ふふ……そうこなくてはな。同じ不死身の生き物だ……私を落胆させないでくれよ?」


『『『………………!!』』』


 その瞬間、生物兵器達が一気に加速して駆け出した。

 エマはフッと笑い、


「それでいい」


『『『………………!』』』


 再び生物兵器達をバラバラに砕く。

 またもや肉塊と化す生物兵器達。エマの周りにはそれによる臓物や骨に眼球、諸々の内部に存在する物体や身体の一部が散らばる。

 血生臭い事に慣れているエマじゃない、そこら辺の常人ならば吐き気を催したり気分が悪くなるだろう。


「……さて、まだまだ再生出来る筈だ。さっさと再生して戦力を私の方に寄越せ……同じ不死身の私なら大数を相手にしても問題ないからな」


 エマは自分が少しでも多くの生物兵器達を相手にする事で、他の者たちへの負担が減ると考えて行動しているのだ。

 実際、フォンセたちの元には生物兵器達が行っておらずバロールに集中できている。

 エマ、ブラック、ラビア、シターが兵士達と生物兵器達を相手取る事で戦況が有利になっているのは事実。

 戦況を更に有利にする為、エマは兵士達と生物兵器達を相手にして行く。



*****



「"サンダー"!!」

「えーと……えい!」


『……!』


 フォンセとリヤンはバロールへ向け、二つの雷魔術を放った。

 その雷撃によってバロールは感電し、その動きが一瞬停止する。

 雷ならば巨躯のバロールにも少量の電圧で怯ませる事が出来るのだ。


「今だ!」

「うん……!」


 フォンセの合図を聞いたリヤンは頷いて返し、バロールに向けて駆け出す。

 その速度はフェンリルのもので、常人には終えない速度である。

 そしてフォンセは風魔術を足から放出して加速していた。


「やあ……!」

『……!?』


 先ずリヤンが大蜘蛛の糸を再び巻き付け、バロールの自由を奪う。

 その糸には雷魔術の電流が流れており、それに巻かれたバロールは感電している。


「"ウォーター"!」

『……!』


 続いてフォンセが不自由なバロールへ向けて水魔術を放つ。

 その水は水なのに大砲のような威力を誇っており、束縛されたバロールを吹き飛ばした。


「……水は電気を良く通す……」


『…………!!』


 水が掛かった少し後、バロールの身体が目映く発光する。

 それと同時に辺りの木々や岩に電気が走り、それらを焦がして粉砕した。


『……』


 それを受けたバロールも焦げ、身体中から煙を発して微動だにしない。

 傍から見れば仕留めたように見えるが、


『……! ウオオオォォォォォ!!!』


 無論、バロールが相手だとそんなに甘い訳が無い。


『……!!』


 バロールは大蜘蛛の糸を引き千切り、大地を踏み砕いて加速する。

 その速度は巨人の割りにかなり速く、一瞬にしてフォンセ、リヤンとの距離を詰めた。


『ウオオオォォォォォ!!!』


 次いでバロールは巨大な腕を振るい、フォンセとリヤンに攻撃を放つ。


「"土の壁(ランド・ウォール)"!」


 フォンセは咄嗟に壁を造り出すが、バロールの拳を防ぐ事が出来る訳も無くあっさりと砕かれてしまう。


『……?』


 そして、壁の向こう側にフォンセはいなかった。


「此方だ! 木偶でくの棒!」


『……!』


 一つの甲高い声に反応し、そちらを振り向くバロールは──


「"雷の雨(サンダー・レイン)"!!」


『……!?』


 ──天から降り注ぐ雷によって身体中を貫かれた。雷雨では無い。雷その物が降ったのだ。

 そのいかづち一つ一つは的確にバロールの巨躯を撃ち抜き、数億ボルトの電流がバロールに流れる。

 巨人とは、言わば巨大な人。人間は雷に打たれた時、多くの場合は一瞬にして絶命する。

 その倍以上の雷に打たれても尚、絶命どころか気絶すらしないバロールは流石だろう。


「全く……こちらからすれば良い迷惑だな……」


『ウオオォォ……』


 そんなバロールを見て呆れたように肩を落とすフォンセ。

 バロールはフォンセの方を向いており、その目には殺気が籠っていた。


『……!』


「……な!?」


 刹那、バロールは大地を踏み砕いて跳躍し、瞬く間にフォンセの前へ現れた。


『ウオオオォォォォォ!!!』


「…………ッ! "守護ガード"……」


 フォンセが詠唱する隙も無く、バロールの巨腕によって吹き飛ばされる。

 殴り飛ばされたフォンセは勢い良く地面に激突し、大きな砂埃を上げて地面の奥深くに沈む。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


 そんなフォンセに向け、畳み掛けるようのし掛かるバロール。

 フォンセが激突した際に生じた穴へ踏み込み、再び巨大な砂埃を舞い上げる。


「や、止めて!」


 それを見ていたリヤンはフォンセを救出するべく加速して進む。

 リヤンはフォンセが吹き飛ばされた瞬間に移動したのだが、バロールの方が少し早かったようだ。


「やあ……!!」


 リヤンは自分が使える幻獣・魔物のうち、力の強いヴァンパイアやフェンリル、鬼などの力を纏ってバロールへ突撃する。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


「……………………え?」



 ──そして、リヤンの全力はバロールの一薙ぎによって容易く防がれた。



 今リヤンが使った力は岩程度なら軽く砕く事が出来、一挙一動で辺りを破壊する事のできる力だった。

 その力をバロールは、意図も簡単に防いだのだ。


「しま……っ!」


『ウオオオオォォォォォ!!!』


 気付いた時には既に遅し、バロールに掴まれたリヤンは投げ飛ばされ、木々を突き破りながら吹き飛んだ。

 そして遠方にある大きな何かにぶつかったのか、遠方から土煙が上がる。


『ウオオオオオオオォォォォォォォッッッ!!!!!』


 フォンセとリヤン、この二人を静めたバロールは咆哮のような声を上げる。これは勝利を確信した声か、それとも──



*****



(……此処は……)


 ──そして、変な体勢で目が覚めるフォンセ。

 フォンセはバロールに吹き飛ばされ、地中深くに居た。


「……ッ!!」


 動いて上へ行こうとするフォンセだが、ズキッと走るような脇腹や腕、脚に伝わる痛みを感じて動きが止まった。


(……ッ。これは……折れてるな……)


 そしてそれらが動かないのを確認し、その激痛から骨が折れてしまっていると考える。

 フォンセは頭からも血を流しており、その血によって片目が見えなくなっていた。


(……ッ! 早く……早く行かなければリヤンが……!)


 フォンセは自分が土の中に居ると理解し、自分がターゲットじゃなくなっていれば一人残ったリヤンが狙われると思い、激痛が走る身体を動かそうとしていた。


「……ッ! ああ……ッ!」


 しかし、動かそうにも自分の身体が動こうとしない。

 その代わりに痛みが伝わり思わず声が漏れてしまう。

 そんなフォンセの目には、自然と涙が溢れる。


(……クソッ、この程度の痛みで泣くな! 私!! 闘技場に居た時はこんな事日常茶飯事……! …………!ッ!)


 そして、フォンセは自分が泣いている理由を理解した。

 フォンセは元奴隷。その時に貰い手がおらずほとんど闘技場で幻獣・魔物。そして人工的に創られた生物と戦闘を行っていた。

 なので、骨が折れる程度の痛みなど泣く程の事じゃないのだが、しかし、


(ああ……私は弱いんだな……)


 フォンセが泣きそうになった理由、それは己の弱さ故。

 フォンセは闘技場時代から負け知らず。ライたちの仲間になってからもただの一度足りとも負けていない。

 実力的にはフォンセ以上の者も沢山いたのだが、それはライたちが何とかしてくれたからである。

 フォンセが戦った相手もフォンセと互角レベルはあったが、フォンセ自身で乗り越えた。

 しかしこの瞬間、今この時、フォンセはバロールに敗北したのだ。

 自分が負けた事により、大切な仲間を危険な目に合わせてしまうかもしれない。

 フォンセは、その事が悔しくて涙を流しそうになったのだ。


(──ッ!! だったら……だったら尚更じゃないか!! 私が仲間を助けなければ……バロールを倒さなければ……!! 私にはかつて世界を支配していた魔王の血が流れているんだから……!!)


 フォンセはだからこそと奮起し、身体を無理矢理にでも動かそうとする。

 少し動くだけで身体に痛みが走り、魔力を込めて回復する事すら出来ない状態だ。

 しかし動く度に骨が擦れようと、動く度に出血しようと、フォンセは動こうとする意思を止めなかった。


「…………!!」


 そして、そんなフォンセの前に光が射し込んだ。

 その光は目映まばゆく、とても暖かい光。


(……これは……見えない……けど……誰かが? リヤンかライか……レイたちか……)


 恐らく誰かが自分の位置を理解して自分を助けようとしているのだろう。

 そう考えるフォンセ。ならばもう気絶しているうちに戦争は終わったのか、終わっていないにしてもある程度は片付いたのか、そんな希望を考えるフォンセの幻想は────



『ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!』



「……!!」



 ────木っ端微塵に砕かれた。



「……ッ。……バロー……ル……!」


 フォンセを掘り当てたのはバロール。そしてフォンセは理解した。

 バロールは獲物にトドメを刺す為、自分が開けた穴を掘り進んだのだと…。


『…………』


「……ッ! 離……せ……! 木偶の……棒……!!」


 バロールは穴の底に居たフォンセを引き上げ、その身体を観察する。

 バロールに掴まれるフォンセの身体には激痛が走り、話すのも儘ならない状態だった。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


「…………!! ああ……ッ!!」


 瞬間バロールは再びフォンセを投げ捨て、別の地面に叩き付ける。

 それによって辺りには粉塵が舞い上がり、それを受けたその痛みによって声を上げるフォンセ。骨の位置がズレ、今にも皮膚から骨が突き出そうとしていた。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


 そして次の瞬間、バロールは高らかと足を上げ、フォンセにトドメを刺そうと動き出す。


「……!」


 フォンセは咄嗟に目を瞑り、殺されそうになっている現実から逃げようと──


「……フォンセ!!」


「……!!」


 ──した瞬間、空から誰かが名前を呼んでフォンセの前に降り立った。


「……リ……ヤン……!」


「…………ッ!」


 リヤンはヴァンパイアの怪力を使い、バロールの足をフォンセから反らした。

 そんなリヤンを見て名を呼ぶフォンセ。名を呼んだ瞬間、辺りには砂埃が舞い上がり視界を悪くしていた。


「……無事……だったか……」


「フォンセ……しっかり……! 私がフォンセを……護る……!」


 フォンセは次に狙われたのでは無いかと思っていたリヤンが無事で安堵する。

 恐らくヴァンパイアの再生力も使える為、多少のダメージなら動く分には問題ないのだろう。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


「「…………!!」」


 フォンセの安堵も束の間、再びバロールが大きな咆哮のような声を上げた。

 フォンセとリヤンは意識をバロールの方へ向け、リヤンは構えを取る。


「リ……ヤン……! 逃げ……ろ……! 此処は……私が……!」


 そんなリヤンに話すフォンセ。話す度に激痛が走っているのだろうが、今はリヤン優先だった。

 恐らくリヤンでは勝てない。フォンセでも勝てない。

 なので、フォンセは一人でも多く助かる為にリヤンを逃がそうとしたのだ。


「……大丈夫……私は大丈夫だよ……フォンセ……」


「…………!!」


 そんなフォンセに向け、リヤンは不慣れな笑顔で話した。

 大丈夫な訳が無い。リヤンもバロールによってダメージを受け、バロールの恐怖を植え付けられたのだから。


「……!」


 そんなバロールに向け、リヤンは加速して駆け出した。


「止めろ……止めてくれリヤン……! 私は……私は……」


 決死の覚悟でバロールに向かうリヤン。

 フォンセは必死にリヤンを止めようとしていた。


「私は……失う怖さを知らないんだ……!」


 フォンセが止めようとしている理由は、フォンセ自身が大切なモノを失った事が無いから。

 旅に出て数ヵ月。リヤンとの付き合いはそれよりも短いが……失う怖さを知らないフォンセは大切な仲間が消えそうな姿を見たくは無いのだ。

 ──そう、フォンセにとって仲間とは、産まれて初めて心を開ける存在だったのだから。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


「……!」


 バロールは向かって来るリヤンに向けて腕を振り落とす。

 それによって大きなクレーターが出来上がるがリヤンはそれをかわした。


「はあ……!!」

『……!』


 そして、近距離が危険と判断したリヤンは遠方から魔術を放って攻撃を仕掛ける。

 しかしバロールには微塵も効いておらず、直ぐ様リヤンに反撃していた。


「…………私は……! 私は……!」


 リヤンの戦闘を見ている事しか出来ないフォンセ。

 フォンセは悔しさのあまり、『地面を殴った』。


「……! 動く……身体が動くぞ……! ……ッ! ま、まだ結構痛むが……しかし……!」


 そして、地面を殴る事が出来た事からある一つの事が思い付いた。


「……そうか、リヤンが触れてくれたのか……ほんの一瞬、私も気付かない……いや、リヤンすら気付いていないかもな……」


 フォンセは立ち上がり、バロールに向けて腕を突き出した。


「攻撃できるなら……"ファイア"!」


『…………!!』


「……フォンセ……!?」


 そしてフォンセは炎魔術を放ち、バロールの巨躯を焼く。

 リヤンの反応を見る限り、やはりリヤン自身も回復させた事に気付いていなかったのだろう。


『ウオオオオォォォォォ!!!』


「「…………!! 」」



 ────その刹那、バロールが余所見をしていたフォンセとの距離を一気に縮めた。



「……!? フォンセ──────!!」


 それを見たリヤンは目を見開き、フォンセに向けて駆け出し……。


「……………………え?」


『…………!!!』


 フォンセが気付いた時、バロールの拳はフォンセの眼前まで来ていた。

 そして直ぐに理解する。この拳に打ち抜かれて殺される様を────



*****



「だ、大丈……夫……? フォン……セ……」


「………………………………リヤン……?」



 ────そしてフォンセの前には、フォンセを庇い、バロールの拳を受けて片手片足の消え去ったリヤンが立っていた。


「…………」


「…………!!?」


 フラ、とリヤンは力が抜けたように倒れ、フォンセの前で動かなくなる。


「……リヤン……まさか……オイ、リヤン!」


 フォンセはリヤンを揺するが、リヤンは動かない。

 肌の感覚からまだ生きてはいるのだろうが、しかし。


(まさか……私が動かなければ……私が動いたばかりに……私が……)


 フォンセは数秒前の自分の行動に後悔の念を高める。

 つまり先程フォンセが動かなければリヤンはバロールの攻撃を避け続け、ライたちの誰かが来てバロールを倒してくれたかもしれないという事。

 両方死ぬ確率と両方生き延びる確率。そして片方だけ死ぬ確率。

 フォンセが動かなければ、もしかすればリヤンもフォンセも、両方助かっていたかもしれないのだ。


「……ッ!」


 そこまで思考を走らせたフォンセはリヤンの服を破り、リヤンの身体に手を添えた。

 回復魔術を使用したのだ。回復魔術を使ってリヤンを回復させようとしているのである。

 普通は服を脱がす必要は無いのだが、手っ取り早く回復させるには身体だけを回復させるのが効率的だ。

 そしてリヤンの両手足は再生する。が、


『ウオオオオォォォォォ!!!』


 それをさせまいと、バロールがフォンセの腹部に蹴りを放った。


「……ッ!」


 それを受けたフォンセは吐血し、大量の血を撒き散らす。

 身体中から嫌な鈍い音が鳴り響き、フォンセの痛みが増していく。

 そしてフォンセはふと肩を見た。すると、白い何かがフォンセの視界に映り込んだ。

 それはフォンセの骨。衝撃によって骨が飛び出したのだ。


(……全身の……骨が……)


 それだけではなく、フォンセの骨は全て砕けただろう。

 そしてその瞬間、フォンセは急激に意識が遠退いた。

 その脳裏には奴隷時代からライたちとの出会い、様々な景色が映り込む。


(これは……走馬灯という奴か……。……ふふ……リヤンを助けるどころか……リヤンに助けられ……仕舞いにはリヤン自身を……助けて貰ったこの命を……)


 フォンセの周りには時間がゆっくりと流れているような錯覚を覚える。

 生物が死の淵に立った時、今までの記憶が流れ、周りが遅く感じると謂われているが……フォンセが今この状況になったのだろう。


(……全く……かつて世界をしていた魔王の子孫が……とんだお笑いだ……私は弱い。ライやリヤンに護られ、リヤンを護れず……私は弱い……)



 何度も同じ言葉をリピートし、自分の弱さに失望するフォンセ。

 更に意識は遠退き、辺りの景色が黒く染まる。



(……もしも……もしも叶うなら……こんな弱い私に……リヤンを……他の者を護れる力を……)




 その黒は深く、深く染まって行く。

 それはさながら、真っ黒なキャンパスの世界に入り込んだような。そんな……。




(私はリヤンの……ライたちの力になりたい。……そんな……そんな力を……)





 ────その瞬間、フォンセの身体を黒よりも深い……『得たいの知れない漆黒の渦が包み込んだ』。





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