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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第八章 王の街“マレカ・アースィマ”
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百四十六話 王

 ──"マレカ・アースィマ"、王の住む城。


 捕らえられた? ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は、幹部のブラックに案内されて王の住んでいる城に招かれた。

 抵抗すれば軽く逃げる事も出来たが、ライは王の姿を見てみたいから敢えて抵抗せずに捕まったのだ。


「ようこそ。君が侵略者という少年か……いやいや、その歳にして大きな目標を持っているようじゃな……」


 その部屋には一人の老人が居た。

 その者が王なのだろうか。そしてその容姿は派手な服に王冠と、王の想像図を絵に描いたような王である。


「……」


 案内されたその部屋は豪華絢爛ごうかけんらんな装備品があり、視界が見えにくくなるほど眩しく輝いていた。

 その美しさからとてもこの国に敵対する侵略者を相手にしている風には見えない。どちらかと言えば、ライたちを歓迎しているようである。


「まあ、座りなされ。立ち話もなんだろう」


 取り敢えずライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は王に言われて椅子に座った。そして少し王を観察したライは王に向けて言葉を発する。


「これはこれは……この部屋……随分とまあ、手厚い御歓迎を……アンタが王様? 俺のような客にこんな部屋を用意するなんて……ハハ、羨ましいねぇ裕福な国は」


「き、貴様……! 誰に向かってそんな口を聞いているんだ……!」


 ライは椅子に座りながら、挑発するように軽薄な笑みを浮かべて王へ話す。そんなライに向けて割って入るのは、少しばかり声に幼さを感じる一人の兵士。


「おっと、失礼致しました。……兵士殿。ご無礼を働きまして申し訳無い……」


 そんな兵士に腰の低い敬語を使って返すライ。

 今この場に兵士は三人おり、一人がブラック。そして二人がその付き添いである。

 付き添いは居るが、今のところ幹部の次に実力を持っているであろう側近の姿は見えない。


「ハッハッハ! 構わん構わんよ!」


 そしてそんなライの言動に笑う王。

 ライの椅子よりも豪華な椅子ふんぞり返っている王は笑い続け、ライに向けて言葉を続けるように話す。


「まあ、若さと言うモノはそう言うモノじゃ……──ちぃとばかし主の首をねるからの……それでも生きていれば許してやろう……」


「「「「…………!!」」」」


 ガタガタと、その言葉を聞いたレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は立ち上がり、王に向けて構えを取る。

 この王は遠回しに死刑宣告をしたのだ。ライの首が切断できるかはさておき、首と胴体が離れれば不死生物を除く大抵の生物が死に至るだろう。

 因みにキュリテはというと、ブラックの提案によって外で待機していた。

 今はライたちの仲間とはいえ、幹部の側近が侵略者を荷担するのはどうかという事である。

 それもさておき、王の言葉を聞いたライは軽快に笑いながら言葉を続ける。


「ハハハ、そんな権力がアンタにあるのかよ? そんな勝手で人……いや、魔族一人を殺せるとでも?」


「何ぃ……?」


 短気な王に笑って話すライ。王はピクリを片眉を動かして苛立ちを表現する。

 苛立ちを交えながら、王はライに向けて言葉を続けるように話す。


「どのみち貴様らは侵略者だ……! 他の街の者共は知らぬが、我々は既に貴様らの行動を理解しておる! 貴様らが通った街は必ず何かしらの問題ごとを負うらしいな……! "レイル・マディーナ"のマンティコアや側近の裏切りも、"イルム・アスリー"崩壊も、"タウィーザ・バラド"のベヒモス騒動も、"シャハル・カラズ"の百鬼夜行騒動も、"ウェフダー・マカーン"の周辺破壊も……全て貴様らが仕組んだ事なのだろう!? 侵略者が、図に乗るでない!!」


 半ば早口で話をし、ライたちに罪をなすり付ける王。

 ライはそのような事どうでも良さそうに笑いながら話す。


「ハハハ、アンタの言う事件、騒動……殆どは言い掛かりだぜ? むしろ、俺たちが通らなかったら俺たちが征服する前に崩壊しているさ。まあ、流石に支配者が名乗り出るだろうけどな」


 王の言った事は事実だが、ライが言うのも事実。

 実際、ベヒモス騒動や百鬼夜行騒動はライたちが居た場合とライたち抜きの場合では大分変わっていただろう。

 その二つの街の幹部──ザラーム・モバーレズとアスワドもかなりの実力者だが、それらを相手取るには身体の一部を持っていかれていたかもしれない。


「貴様!! 冒涜ぼうとくも大概にしろ!! この方はこの街の王だぞ!!」


 そして、そんなライを止める兵士。

 その兵士は先程ライに忠告した兵士と同じである。


「いえ……すみません、兵士殿。此方も熱くなってしまいました」


 再び敬語になるライ。

 王に敬語を使わず、兵士に敬語を使うと言うのは、まるでその兵士を揶揄からかっているようである。


「やはり貴様は死刑だ!! 首をねても死ななければ許してやろうと思ったが、もう我慢ならん!! それでも死ななければ毒殺、絞殺、刺殺、溺殺、焼殺、あらゆる死刑法で殺してやる!!」


 それを聞いた王は激怒し、ライに指を差しながら怒鳴り付けるように話した。

 自分には敬語を使わず、自分より立場の低い兵士に敬語を使った事が王の逆鱗に触れたのだろう。


「ライを傷付けるというなら……」

「私たちも容赦はしないよ……!」

「同意……!」

「ああ、しかし……何やら違和感が……」


 そんな王に向けて構えるフォンセ、レイ、リヤンにエマ。

 エマは何かの違和感を覚えていたが、ライの身が危険という事でそれに関する違和感だろうと割り切る。


「……いや、いい。レイたちは動かなくても大丈夫だ」


「「「「…………!?」」」」


 そして、そんな四人に手を突き出して問題無いと告げるライ。

 四人は怪訝そうな表情だったが、ライに言われたので食い下がる。


「何だ。やらねェのか? 楽しそうだったのに、残念だな……」


 腰の剣に手を掛けていたブラックは、ライの行動を見て残念そうにチラリと見えた刃を納める。

 言動は好戦的な幹部と大きく違い、しっかりと騎士としての任務を行っているのだが、やはり魔族。戦闘は楽しいのだろう。


「……ほう? わざわざ仲間の行動を止めるとは……ブラックに勝てない事が分かっているからか……それとも私に何か言いたい事でもあるのか?」


 ライの動きを見ていた王は座り直し、ライに向けて不敵な笑みを浮かべながら話す。

 そんな王に向け、ライはニヤリと笑って言葉を続ける。


「何かも何も……アンタ……『本当の王じゃねえだろ』?」


「……!」


「「「…………!」」」


「え、王様じゃないの?」

「違和感の正体はこれか……」

「……違かったのか……?」

「気付かなかった……」


 王、ブラックに兵士三人、そしてレイ、エマ、フォンセ、リヤンの順で驚きの反応を示す。

 周りの様子を見たライは椅子から立ち上がり、一人の兵士へ向けて歩みを進める。


「……アナタが本当の王ですよね? 鎧を纏って顔や身体を隠している様子ですが……昔からレベルの高い教育を受けたのでしょう……たたずまいに余裕があり、それでいて風格がある……」


 その兵士はライへ向けて二度注意した兵士だ。

 ライはその兵士が本当の王が変装した者だと気付いていたらしい。


「何を言っている!! ぼ……お、俺は何処にでもいる普通の兵士だ!! 寝言は寝て言え!!」


 無論、その兵士はライの言葉を否定するように怒鳴る。

 そんな兵士を横目に、ライはもう一人の兵士の元へ向かう。


「……で、さっきから動きを見せていないアナタは女性のようだ……。さしずめ王妃様か王様の血縁者……魔族とは言え、男性用の鎧は重いでしょう?」


 そしてその兵士を女性と推測し、本物の王と何か関係のある者だと予想した。


「な、何を言っている!? 確かに私は女だけど、それとこれは関係無い事だろう! 女が兵士になってはいけないのか!!?」


 女性という事は当たっていたらしく、甲高い声で怒鳴るもう一人の兵士。


「まあ、それも……「無視するな!」……あ、お構い無く。……置いといて」


 ライはゆっくりと歩みを進め、王? の元へ近付いて行く。

 一歩、一歩、ゆっくりと、ただゆっくりと向かい、話ながら歩く。


「だから俺は始めから喧嘩腰で言ったのさ……偽物のアンタを暴く為にな。本当の王は評判が良いらしい……だったらちょっと生意気な話し方をしてもキレないだろ? まあ、俺も言い過ぎていたし……キレてもおかしくは無いけどな……。それに、暴くっていうには語弊ごへいがあるな……どちらかと言えば王様一同が俺を試していたっぽいし……」


「…………ッ」


 そしてライは、王? の前にやって来る。

 王? は嫌な汗を掻いており、その身体に何かがのし掛かる感覚に包まれていた。


「取り敢えずアンタの答えを聞きたい。嘘じゃなく本当の答えをな? アンタは王か? 違うだろ? アンタは王じゃない筈だ。……嘘は吐くなよ?」


 そのまま王? の前で立ち止まったライは両手を広げ、王? へ問い掛けの答えを促す。

 よわい十四、五の少年とは思えない程の威圧は辺りに緊張を走らせ、重い空間を創り出した。


「……あ。……ああいや、今更だけど……アンタはただ変装しているだけだし、少しキツイ言い方をしちゃったな……。そこは謝るよ。……兎に角アンタは偽物かどうか、それだけを聞きたいんだ」


 その空気を察したライは表情を柔らかくし、おどけるような笑顔を作る。

 傍から見ればふざけているようにも見えるが、先程の威圧感からこの笑顔に移った表情はある意味恐怖だろう。


「さあ、答えてくれ」

「…………」


 ドクン、ドクン。と、緊張によって早くなっている王? の心臓からなる鼓動がライの耳に聞こえる。

 少し王? に恐怖心を植え付け過ぎたようだ。


「アッハッハッハッハ!!」

「…………ッ!?」

「…………?」

「「「「………………?」」」」



 ──その刹那、緊張が高まり続けて王? が限界になったその時、一人の兵士から高らかな笑い声が聞こえてきた。



 王? は、ビクリと肩を震わせ、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は"?"を浮かべてそちらの方向を見やる。

 そこには、兜を外して笑い続ける兵士の姿があった。


「どうやら俺……いや、私の推測は当たったようですね。……貴方がこの街の王様ですね?」


 それを見たライは自身の疑惑を確信に変化させ、兵士……もとい、王の方へ視線を向ける。

 本当の王は笑いながら言葉を続けてライへ返した。


「はい、お見事です。これ以上嘘を通すと王(仮)の精神が持たそうですからね。改めまして、僕が街の王を勤めている者です。よろしくお願いします。……結構練習したのに、直ぐにバレてしまいましたね」


 ペコリ、頭を下げて挨拶する王(真)。


「え? あ、はい。こちらこそ……」


 一つの街を治める王とは思えない程の腰の低さと兵士の役をやっていた時の性格との違いに戸惑うライは、取り敢えず返しつつ自分の名を名乗った。


「王……!! 貴方様が庶民に腰を低くする必要など……!!」


 そして、王(仮)はそんな王(真)に向かって焦りながら話す。

 王(仮)の口振りを聞く限り、王(仮)は王(真)の側近的な立場かもしれないという事が分かる。

 そして王がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。


「いや、庶民とか庶民じゃないとかの身分差は関係無いさ。この人が僕を王と暴いたのは事実だからね。素直に敬意を表さなくちゃいけない」


 そんな王(仮)に話す王(真)。王(真)は話ながらライの元に歩み寄り、ライとの距離を数メートル埋めた。


「君が例の征服を目論む侵略者ですか……とてもそうは思えない……僕と同じくらいの年齢でそんな目標を思い付くなど……余程の事があったのでしょう……」


 王はライに向けて言葉を続けた。

 それはライが世界征服を企んでいるとは思えないとの事。

 確かによわい十四、五ではそんな事を思っても行動に移す事は無いだろう。

 そんな王に向け、ライはフッと笑って話す。


「いえ、それを言うのなら私の方もですよ。貴方は私と同じくらいの年齢と言いました……。では、貴方も魔族では生まれたばかりの赤子同然の年齢で王という、圧倒的にくらいの高い地位に居るという事です。……とてもそうは思えません。通常ならば正式な継承の儀式が行われ……そして初めて一つの街を治める王となれる筈……貴方の身に何があったのですか?」


 王が話したのは、ライのような年齢で掲げた目標を実行するのは考えられないという事。

 対してライが話したのは王の年齢で正式な王位を継いでいるのが考えられないという事。

 二人は互いに対して似たような疑問を覚えたのだ。


「……」

「……」


 ライと王、二人の少年の間に妙な静寂が生まれる。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、王の側近にブラック、王の血縁者? はその光景を眺め、その静寂が消え去るのを黙って待つ。


「どうやらお互いに色々な事情があるようですね……」


 そして、その静寂を破ったのは王。

 王は、ふう……とため息を吐いて「お互いに苦労していますね……」と言い、ライに向けて言葉を続ける。


「では話しましょう。僕たち兄妹に何があったのか。そして、貴方からも色々とお聞きしたい」


「ちょっと! お兄……兄上!! 私の事も突然明かさないでよ!!」


 王はライに向けてこの街の事情を話すと言う。

 そしてもう一人の兵士が妹という事を知らず知らずのうちに話してしまった王。

 その事に対して王の妹がツッコミを入れる。どうやら王は天然のようだ。


「そうですか。そしてやはりもう一人の兵士は妹様と……。分かりました、その話を伺いましょう……俺たちも聞きたい事がありますので……」


 そんなやり取りを横目に話すライ。

 ライは王の言葉に了承し、頷いて返した。ライも王たちの事が気になっているので丁度良かったのだ。

 ライの言葉を聞いた王は軽く頷き、更に言葉を続ける。


「有難う御座います」


 そして、王はライに礼を言った。

 聞いてくれる事と教えてくれる事に対してだろう。


「……あ、そういえば」

「……あ!」


 それから、王と王の妹はハッとした。

 慌ててライの方向を見、ライたちに向けて一言発する。


「おっと、言い忘れていました。僕の名前は『マルス・セイブル』。この街"マレカ・アースィマ"の王を勤めている者です」


「同じくこの街の王妹の『ヴィネラ・セイブル』です。よろしく!」


 そして、笑顔で自分の名前を言うマルスとヴィネラ。


「……………………………………は?」


「「なにっ……!?」」

「「…………え……!?」」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンはそれを聞き、驚愕の表情を見せながら何処かに既視感を覚える。

 こうしてマルス・セイブルとライ・セイブルの話し合い? が、今開かれようとしていた。

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