百四十五話 魔族の国、六番目の街の探索・六人目の幹部
──"マレカ・アースィマ"。
それから少し進み、ライたちは六番目の街となる"マレカ・アースィマ"に辿り着いた。
その街は世界的によく見る街並みで、明るい色の煉瓦を使った建物が多く、道は石畳である。
街には品が漂っていながらも活気に溢れており、道行く人々は中々に豪華な衣服を身に纏って優雅に道を歩いていた。
街路樹には緑の葉が生い茂っており、その事から魔法・魔術で夏の気候にしている事が分かる。
そして道の横にある店には可憐な花々が置いてあり、街全体に甘い匂いが広がっていた。
「へえ、全体的に裕福な街なんだな。奴隷的な姿も見えないし、裏路地に屯って居るチンピラ風の人々も街の魔族に比べたら素朴だけど、結構良い感じの服装だな……治安はそれほど悪く無さそうだ」
辺りを見渡したライは、その人々の服装からこの街全体に裕福層が多いと考える。
実際にこの街は発展しており、見た事の無い飲食物があったり衣服があったりと、魔族の国外での貿易が盛んというのも見て取れた。
世界は大きく分けて四つに分担されているが、自分の国のみにある資源は量が限られている。
なので普段争いが行われそうな国同士でも互いの物資を分けあっているのだ。
「その産物がこれらって事か……」
ライは誰に言う訳でも無いような声で呟き、近くの店にあった物を見やる。
因みに、今現在ライたちが着ている衣服は"シャハル・カラズ"で購入した服で、ほぼ新品の状態だ。
なので、全体的に高級そうな服を着用しているこの街でもライたちの服装が浮くという事は先ず無いだろう。
「さて、取り敢えず何時ものように街を見て回るか……」
そして、このままこの場で留まっていても意味が無い。
なので、ライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテに何時もの事を提案する。
それに対し、何時ものように頷いて返すレイたち五人。
取り敢えず歩き、"マレカ・アースィマ"を探索するライたちだった。
「…………」
そして、そんなライたちを遠く離れた場所から双眼鏡で見ている騎士風の男に、果たしてライたちは気付いたのだろうか。
*****
「さて、幹部の街も最後だし……最後くらいは全員で行動した方が良いな」
辺りが賑やかな石造りの道を歩くライたち六人。
ライは最後だからと、今回は六人全員で行動する事を提案した。
「うん、それが良いかもね。最終的には六人行動が多くなっているし」
「……意義なし……」
そして、始めに乗るのはレイとリヤン。
"タウィーザ・バラド"や"シャハル・カラズ"のように、最終的に六人で行動を取っているからと言う。
「私も特に異論は無い。それに、キュリテがこの街の幹部は堅い雰囲気と言っていたからな。本当に堅いなら融通も効かなそうだし、それなら纏まって行動した方が良さそうだ」
そして次に応えたのはエマ。
エマが言った"幹部が堅い性格だから融通が効かなそう"というのは、散策している時に幹部達の集団が襲ってくる可能性があるかもしれないという事である。
着けられているのなら気配で分かるが、幹部達の実力者は幹部を含め、少なくとも五人は居る。それに加え、手下が111人。
つまり、少数で居るところに攻められたら苦戦を強いられるのは間違いないという事だ。
「ああ、私もライの……ライ、レイ、エマの意見に賛成だな」
「私も私もー♪」
フォンセとキュリテもライ、レイ、エマの意見に賛成し、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテは六人で行動を取る事になった。
「さて、そうと決まれば早速行動に移すべきなんだけど……特に気になる事は無いな。魔術があれば傷薬も要らないし……火を起こすのも容易だ……闇を歩く為の光も生み出せる……というか創り出せる……。旅に必要な事は魔法・魔術で出来ちゃうからな……」
歩きながら辺りを見渡し、小道具などを取り扱っている雑貨屋を眺めて話すライ。
仲間に魔法使い・魔女・魔術師がおらず、自身も魔法・魔術の類いが使えない冒険家や旅人は雑貨屋で火を起こす道具や光を放つ道具、肉や野菜を切る刃物などを購入する。
後は護身用に剣や銃、弓矢などだ。
差し当たるところ、ライたちはそれらが必要ない。
つまり要するに、旅の準備をする為に飲食物以外の物を買う必要も無く、そのような店に寄る必要も無いのである。
「食料を購入しようにも……魔族の国は結構街同士が近いからな。無駄になってしまう可能性が高い……けど、保存食を取って置くなら良いんじゃないか? 幻獣・魔物の国は自然そのものらしいからな。ある意味魔族の国より無法地帯かもしれない」
そんなライの言葉に返すフォンセ。
特に用事も無いのなら、人間や魔族の国のように整備された道が少ないであろう幻獣・魔物の国に備えた食料を購入しておくのが良いと言う。
「そうか、なら保存食と……何か必要な物があったらそれを購入すれば良いか……」
フォンセの提案に乗ったライは、それらを取り扱っているであろう店に向かう事にした。
例え今は必要無くとも、旅は長いので何れ必要になるだろうからである。
「……で、到着……っと……」
そして、ライたち六人は煉瓦造りで中々の大きさを誇る建物の前に居た。
見た目は普通の家と然程変わらないが、大きさと人通りからそれなりに繁盛している店だという事が分かる。
看板には雑貨屋と言う意味の文字が書かれており、入り口の両脇には美麗な緑色の葉を着けた植木があった。
「外観は城のような造りだな……内装は此方から見える限りじゃ普通のショップだ……」
その店を見たライは感想を言う。
しかし外観だけで全てが分かる筈も無く、早速中に入る事にしたライたち六人。
その建物の中は外よりも賑わっており、裕福そうな者達が行き交っていた。
「取り敢えず保存食……後は何かしら必要な物……か。……店の中での行動はどうする? 店の中で襲ってくる可能性は少なそうだけど……」
人々を眺めて歩きながら適当にブラつくライ。
ライはレイたちに店での行動をどうするか尋ねた。全員で行動をする理由は幹部達が襲ってくる可能性があったからである。
このように賑わう店の中では街の者達を巻き込んでしまう可能性があるので、幹部達も動きにくいだろう。
「そうだな……まあ、この店なら広くとも高が知れている……騒ぎがあれば直ぐに気付けるだろうし……各々で行動しても良さそうだな……」
ライの言葉に返したのは何時ものようにエマ。
ライの質問には大抵エマとフォンセが応える。それはさておき、エマの言い分は確かなモノで店の中なら仲間が襲撃を受けても直ぐに気付けるだろう。
「よし、じゃあ適当に動くか……。俺は食品売り場で保存食を探してくるから、エマたちはエマたちで行動していてくれ!」
テクテクと、一人で進むライ。内心、ライはワクワクしていた。
ライは好奇心が旺盛なので、あらゆる物を見て回りたいのだろう。
「ふう、しょうがないな……」
そして、エマたちもそれを理解している。
なのでエマは特に呼び止めず、言葉を続ける。
「じゃあ、私たちも……」
行くか……とは、続かなかった。
「キュリテがフォンセとリヤンを拉致して行っちゃったよ……」
「………………」
ライが向かった瞬間、キュリテも直ぐに行動を起こしたようだ。
レイは苦笑を浮かべてエマに告げ、エマは「ふう……」とため息を吐く。
「なら、消去法で私たちが組むとしよう。私は特に欲しい物が無いけどな……」
「ハハハ……」
ライとキュリテの勝手な行動に呆れたエマはレイを誘う。
ライとキュリテの好奇心が旺盛というのは理解しているが、齢十四、五のライは兎も角、エマの次に年上のキュリテは子供っぽい。レイはただ苦笑を浮かべているしか無かった。
*****
一人行動しているライは、周囲を興味深そうに見て回っていた。
回っているというのは移動しているという意味では無く、辺りの品々に目移りし、物理的に回っているという意味である。
「へえ……ふむ……成る程……やはりか……」
保存食を買いに向かった筈のライは何故か本屋におり、魔族の国の歴史を読んでいた。
最初に感心し、その次説明文を読み、そしてそれを見て納得する。最後に自分の予想が当たったと喜んでいる。
軽くパラパラと読み終えたライは速読をマスターしているらしい。
歴史書を置いたライはキョロキョロと見渡し、再び物理的に回りだした。
「……ちょっと……」
「……あの子供……」
そして、そんなライを不審に思った国の者達はライを見てヒソヒソと何かを言っている。
多分幹部に報告しようとかそんな感じだろう。
(おっと……いけない……興奮し過ぎた……)
そんな様子を見てハッとしたライは正気に戻り、落ち着きを取り戻した。
そして寄り道を止め、当初の目的を達成する為に食品売り場へ向かう。
「新聞か……」
しかしそれでも辺りを見渡すのは止めず、雑誌? コーナーの方を見て一つの新聞を手に取るライ。
ライは小さな声でその新聞の文字を読み上げた。
「"幻獣の国襲撃、主犯者は不明……近隣に位置する魔物の国の対策は……二つの国の支配者たちはどう動く"。……か……物騒だな……今のご時世で国を襲撃するなんて……とんだ悪党だ」
その新聞を見たライは自分の事を棚にあげて主犯者を批判する。
しかし自分のような目的を持つ者が居るのは不思議では無い。
この世界は広く、支配者ですら敵わない者も居る。前にも聞いた事である。
支配者という者はその種族で優れており、凄まじい力を宿しているがこの世界で一番では無い。
それでも確実に上位に入る実力者だが、それより強い者が居るだろう。
国と国の均衡を守る為にその種族で強い者が名乗り出たに過ぎないのだ。
(まあ、考えても仕方無いな……今は魔族の国優先だ……新聞を見る限り幻獣の国の支配者もまだ動いていないらしいし、多分直ぐに収まるだろうさ……)
そして新聞を戻したライは、さっさと食品売り場に向かうのだった。
*****
「……で、何故お前は私とリヤンの手を引いた……。突然引っ張るな……!」
「…………」
一方のフォンセ、リヤン、キュリテ。三人は店の中を歩いており、フォンセは文句を言い、リヤンは無言で訴える。
「アハハ♪ たまたま近くに居たからねぇ♪ エマお姉さまかレイちゃんが居たらその二人を引っ張っていたよ♪」
全く悪びれる態度を見せないキュリテは、近くに居たからフォンセをリヤンを引いたらしい。
取り敢えず楽しみたいキュリテは楽しめれば誰でも良いのだろう。
「ふう……つまり私たちの運が悪かっただけか……」
「…………うん……」
「ちょっとー! 酷くなーい?」
やれやれと、ため息を吐いて話すフォンセとそれに同意するリヤン。
キュリテに連れられた事を不幸だと言われ、本人は頬を膨らませて言う。
「まあ、それはどうでも良いとして……「良くないよ!」……良いとして、どうするんだ? 特に買いたい物も無いんだろ?」
フォンセが言葉を続け、キュリテが何かを話すがフォンセはそれを無視し、これからどうするか尋ねた。
「やっぱりアクセサリーとか買おうよ! このお店は雰囲気が良いし!」
そしてそれに対し、キュリテは返す。
それと同時に飾り付けられた店に向け、半ば強引にフォンセとリヤンを連れて行く。
「ほら! こんなに可愛い物が沢山! フォンセちゃんもリヤンちゃんも可愛いんだからお洒落しなきゃ!」
「「…………」」
キュリテは笑顔で鮮やかな彩りの髪飾りやネックレス、イヤリングにブレスレットなどを持ってきた。
試着? は自由らしい。
「ふむ……」
「うん……」
慣れない雰囲気に気圧されているフォンセとリヤン。
二人は苦々しい笑みを浮かべつつそれを着けてみる。
「ただの飾りじゃないのか……? 着けたからと力が強くなる訳でもあるまい……」
「…………。………………」
着けたフォンセは感想を言い、リヤンは鏡でそれを確認している。
因みにフォンセが着けたのはブレスレットで、リヤンが着けているのは髪飾りだ。
「もう……二人ともぉ……。なら、私が二人を着飾って魅せるよ!」
アクセサリーに関心が無いフォンセとリヤン。
そんな二人を見たキュリテは二人の肩を掴み、顔を近付けて話した。
「え? いや、別に……」
「うん……うん……」
そんなキュリテに押されながら、別に良いと断るフォンセとリヤン。
息が掛かる程近くに来ており、ポーカーフェイスのフォンセもたどたどしくなっていた。
「問答無用! 何で皆可愛いのにレイちゃん以外お洒落に関心が無いの!?」
「ちょ、待──」
「──!」
そしてフォンセ、リヤンはキュリテの三人はキュリテによって改造される。
*****
「ライは保存食や小道具……フォンセとリヤンとキュリテは……何だろう?」
「さあな、まあ……キュリテがフォンセとリヤンを引っ掻き回しているのを想像するのは容易だ」
そしてレイとエマの二人も辺りの品々を眺めて歩いていた。
レイはライたち四人が取った行動をおさらいし、エマはキュリテの行動を推測する。
「あ、花屋があるよ。入ってみようか?」
「本当だな。……ふむ、良いかもしれない。私たちも自由に行動できるのだからな」
それから、レイは一件の花屋に注目してエマに話す。
エマもそちらを見やり、エマの言葉に同意して頷いた。
そしてレイとエマは花屋に入って行くのだった。
「わあ……やっぱり花は綺麗だねぇ……」
「ああ、そうだな。確かに花は嫌いじゃない……」
花屋に入ったレイとエマ。
二人は中腰になって花々を眺めていた。
赤、黄、白、ピンク、青。様々な花があり、レイとエマの目を優しく包み込む。
「"薔薇"に"ガーベラ"……"菊"に"ローダンセ"、"プリムラ"……他にもまだまだある。ふふ……良いものだな……」
「そうだねぇ……」
その花の名を言い、フッと笑うエマ。レイも穏やかそうな表情で眺めており、ゆっくりと時間が流れていく。
「そうだ。見ているだけなのもあれだし……何本か買っていこうよ!」
そして暫く眺めていたレイは、エマに提案するように言った。
エマはレイの方に目をやり、
「……ふむ、良いかもな」
快く了承した。
断る理由も無い。なので特に何も言わなかったのだ。
「しかし、そうなると問題は花を何処にしまって置くかだな……しっかりと育てていれば数年は持つ花だが……世話が出来なくては直ぐに枯れてしまう」
「……あ、そっか……」
了承はしたのだが、エマには一つ気になる事があった。それが花を入れる場所だ。
折角購入しても枯らしてしまったら一つの命を終わらせたと同義だからである。
その事を思ったレイは肩を落としてハッとした。
「あのー……何かお困りですか? 花を枯らすとか枯らさないとか、入れ物が無いとか……」
そして、そこにやって来たのは花屋の女性店員。
レイとエマの会話を聞き、購入する気があると知ったので近付いてきたのだろう。
「丁度良い。枯らさない為の入れ物とか無いか? あまり幅を取らない物で花が数本入る奴だ」
そんな店員を見たエマはナイスタイミングだ。と尋ねる。
店員は売るのが仕事、それを買って貰えるのが商売となる。要するに、この店員なら何か解決策があると思ったのだ。
「そうですね。なら、此方に案内致したします!」
パンッと、待ってましたと言わんばかりに手を叩き、店員はエマの質問に応える。
これ程分かりやすい店員には逆に好感が持てるものだ。
そしてレイとエマは店員に着いていき、店の奥へと向かうのだった。
*****
──"数時間後"。
「……お、これで皆揃ったな」
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテが行動を起こしてから数時間、ライたち六人はフォンセ、リヤン、キュリテが揃って全員が集まった。
「遅れてゴメーン! フォンセちゃんとリヤンを着飾ったら可愛くって!」
「「…………」」
両手を合わせ、謝罪するキュリテ。
その後ろでは少し疲れ気味のフォンセとリヤンが居た。
「ハハ、別に時間を決めていた訳じゃないから構わないさ。……けど、後ろのお二方は随分とまあ……お疲れのご様子で……」
キュリテの言葉に笑って返すライ。
そんなライはぐったりとしたフォンセとリヤンの姿を見て笑みを苦笑いに変える。
「……ああ……まあ、うん。問題無いさ。確かに疲れたが……」
「…………。………………」
そんなライに返すフォンセ。リヤンは無言で頷いていた。
その様子を見たライは苦笑を浮かべながら言葉を続ける。
「……じ、じゃあ……皆は何か買ったのか? 特にレイとエマは結構充実したショッピングだったみたいだが……」
ライが尋ねたのはレイたちとフォンセたちが購入した物である。
その表情を見てレイとエマは中々有意義な時間を過ごせたと考えたのだ。
「ああ、まずまずだ。それなりに良い物だとは思うぞ」
「うん」
そんなライの言葉に返すレイとエマ。それを聞いたライは更に言葉を続けて話す。
「じゃあ、全員で何を買ったか見せようか? 皆が何を買ったか気になるし」
その内容は購入した物を見せ合うという事。気になるというのは事実だろう。
「「うん」」
「「ああ」」
「オーケー♪」
レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテはライの言葉に頷いて返し、反論は上がらなかった。
「じゃ、先ず俺から。俺は当初の目的通り保存食と調理したり木を切る為の刃物だ。……まあ、木とかは物理的に切ることが出来るから、主に調理用だな」
「へえ……。刃物かぁ……私の剣じゃ駄目なの?」
「当然だろ……」
そして、ライは自分が購入した物を見せるように前に出した。
ライが買った物は旅に使う物のみで、自分が使うような物は無かった。
レイは勇者の剣を見ながらライの刃物を見、エマがそれにツッコミを入れる。
「じゃあ、次は私たちね!」
「……!」
「わっ……」
ドンッ。ライが説明を終えると同時にキュリテがフォンセとリヤンの肩を押して突き出す。
「ほらほらー♪ ライ君たちに見せなよ。私たちが買った物はフォンセちゃんとリヤンちゃんのアクセサリーだよ!」
「あまり見るな……。こういうのは慣れなくて……」
「…………。…………」
キュリテがフォンセとリヤンの身体を出し、購入したアクセサリーをライたちに見せる。
二人はキュリテに嬉々として説明されているのが恥ずかしいからか、その顔を赤面させて俯いていた。特にフォンセはお洒落をした事が無いので慣れていないのだろう。
因みに、キュリテはフォンセとリヤンに沢山のアクセサリーを着けていたのだが、本人の意思で少しだけになっていた。
そして二人が身に付けたアクセサリーはというと、フォンセは腕に黒く輝くブレスレットとショートヘアの前髪を支える髪留め、リヤンは長髪を纏める為の髪飾りと白いネックレスだ。
その色も二人に合わせており、アクセサリーの見た目も良くて中々のセンスと窺える。
「へえ……。まあ、取り敢えず心機一転……とは違うけど、こういうのも良いんじゃないか? うん。似合ってる似合ってる」
そんな二人を見て苦笑を浮かべるライは似合ってるとフォンセとリヤンに向けて話す。
実際似合っているのは間違いないので、嘘を言った訳じゃない。
「……じゃあ、次は私たちだね」
そして、そんなやり取りを終えたのを確認したレイは名乗り出る。
それと同時にライ、フォンセ、リヤン、キュリテはそちらに目をやる。
「私たちは花を買ったが……その入れ物が中々使えそうな奴だ」
そう言い、エマは懐から小さな入れ物を取り出した。
「「「…………?」」」
その入れ物を訝しげな表情で見るライ、フォンセ、リヤン。
キュリテはそれが何か知っている様子だが、ライ、フォンセ、リヤンはそれを知らない。
それに加え、そんな小さな入れ物に花が入っていなさそうに見える。
「キュリテは知っているようだな……。まあ簡単に説明すれば、錬金術を応用した入れ物だ。造られた時に特殊な錬金術と魔術を組み合わせられ、物を仕舞う際に物を分解して小さくし、取り出す時に再構成する……人や魔族、幻獣・魔物などは分解されないが植物や金属、その他諸々の物質は分解される。……とまあ、こんな感じの特殊な入れ物……便利そうだから購入した。花はこの中に入っているぞ」
「……成る程」
要約すると、この大きさなのにも拘わらず、大小問わずあらゆる物が何でも入る入れ物という事だ。
無限では無いが、多くの物が入れられるだろう。
「……じゃあ、これで全員の購入した物は終わりか……。ハハ、確かに充実した買い物だったらしいな」
「ああ、それと……花は後で見せるさ」
こうしてエマの説明が終わった。そして購入した花はというと、宿で取り出すと言う。
「オーケー分かった。じゃあ、花は……見つける事が出来れば見つけた宿で見るとして……」
そして、買い物を終えたライたち六人は店の外に出る。
そこでライは辺りを見渡し──
「…………あと……はコイツらの相手をする……のか?」
──建物の隅に身を隠しているであろう者達の方に視線をやった。
それと同時にレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテも警戒を高める。
「流石だな、中々の洞察力だ。……いや、この程度分からなければ征服なんて出来ないだろうからな……」
それと同時に、屋根の上から一人の男が飛び降りて来る。
その衝撃で石畳の道が砕けたが、関係の無い事だろう。
「アンタは……その佇まいから推測するに……この街の幹部だな?」
その者に話すライ。その者は鎧を纏っており、腰には剣が備えられていた。その様子と雰囲気から力量を測り、この者は幹部と推測する。
「ああ、名乗ろう。……俺は『ブラック』 。"マレカ・アースィマ"の幹部を勤めている者だ。……王がお前達に会いたがっている……同行願おうか? 因みに拒否権は無い」
ブラックと名乗った者は、名乗ると同時に片手を上げて合図をする。
その瞬間、物陰に隠れていた数十人の兵士達が槍を構えてライたち六人を囲い込んだ。
「……へえ? 王様自らが俺たちをご指名かい?」
ブラックの率いる兵士達に囲まれても尚、ライは飄々とした態度を崩さずに軽薄な笑みを浮かべていた。
ライの言葉を聞いたブラックは頷いて言葉を続ける。
「ああ、"NO"とは言わせない。さっきも言ったように拒否権は無しだ。うちの王がわざわざご指名してくださったんだからな」
兵士達はブラックの合図により、陣形を崩さないまま武器を降ろして槍の先端を天に掲げた。
「ああ、是非とも見てみたいね……」
そして、その事に了承するライ。
ライの後ろにいるレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの静かに頷いていた。
こうして、ライたち六人は王が居るという城に向かって行く事にした。