百四十二話 五つ目の街・征服完了
ゲームが終了し、ライたちは消えた宮殿があった場所に居た。
その場にはライとほぼ満身創痍のレイ、フォンセと、気絶しているリヤンとキュリテ、シャドウ、ジャバル、ルミエ、アルフ、バハルそして睡眠中のエマ。と、全員が揃っていた。
そして辺りには、この街"ウェフダー・マカーン"の人々も居る状態だ。
その人々はざわついており、有り得ない物を見たかのような表情だった。
しかし、それは当然の事だろう。街の人にとっては絶対的な信頼を持っている実力者の幹部とその側近が、齢十四、五の少年と齢十六、七、八の少女やられたのだから。
「さて、取り敢えずレイのお陰で終わったけど……どうすりゃいいんだ?」
その様子を一瞥したライは観客を無視し、それなりのダメージを受けているエマたちよりは話せそうなレイとフォンセに向けて尋ねる。
「そうだな……先ずは私の回復魔術でリヤンとキュリテを治療して、それから全員を治療すれば良いんじゃないか?」
「あ、それ良いかもね。……私はもうフォンセに治療してもらったけど……」
ライの質問に応えたのはフォンセ。
フォンセはリヤンとキュリテ。回復能力を持つ二人を回復させて他のメンバーを治療すれば良いと言う。レイもその事に頷いていた。
そしてレイは既に治療を受けたらしい。
因みにエマは既に傷が無くなっており、ただ寝ているだけである。
「ああ、それが良いな。なら、早いとこ治療してやらなくちゃ」
フォンセの提案に賛成するライ。
先ず話せる状況を作り、それから征服宣言をすれば良いと考えたのだ。
それから、ライたちはリヤン、キュリテとシャドウ、ジャバル、ルミエ、アルフ、バハルの七人を治療した。
*****
「いやー! ハッハ! 参った参ったぁ! やるじゃねえか! そりゃ他の幹部も勝てねえ筈だな!」
それから数分後、治療を終えたライたち六人とシャドウたち五人は観客達の目が届かない場所におり、シャドウはライに向けて笑いながら話していた。
「アレだろ? ダークにゼッル、アスワド、ザラームの街を征服した! そして俺と来た! つまり、もう残る街は一つって事だな!」
シャドウはライたちが今までに倒した幹部の名前を上げ、残る幹部は一人。と、征服される事にはそれ程思っていない表情と口振りで話す。
いくら他の魔族がいないからとはいえ、側近の前で嬉々としながら話しても良いのか疑問に思うところである。
「あー、一応聞くけど……俺たちはアンタらに勝利した。つまりアンタらは征服された訳なんだが……良いのか?」
そしてその疑問をシャドウにぶつけるライ。
今までの幹部たちも征服される事に対して快く了承してくれたが、シャドウの場合はその明るさから得体の知れない不気味さがあった。
もう戦うつもりは無く、素直に負けを認めている様子のシャドウだが、やはり底抜けの明るさがおかしいのだ。
「ハッハッハ! そうだな! だが、この街の大まかな巡りとか風貌は変えたりするつもりと、奴隷とかのようにコキ使うつもりもねえんだろ? だったら問題無えさ! 一番大事なのは街の奴らで、この街じゃねえ! 住人の住み家を奪ったり住人を苦しめるってんなら負けても抗うつもりだが、テメェらには悪意の欠片も感じらねえ! ま、要するに……俺たちにデメリット何か無えんだ! 強いて言えば負けた事実! つまりプライドだ! だが、それは単なる実力の差。俺の力不足だ! だから街を征服しようが、住人が被害を受けねえなら問題無えのさ!」
ライの表情からそれを読み取ったであろうシャドウは、ライの質問に返しつつその事についても話した。
シャドウ曰く、"ウェフダー・マカーン"の住人が無事なら良いとの事。
シャドウは自分の街を心の底から好いているのだろう。
「そうかい。……なら、特に大きな問題は無い……か。じゃあ良いんだ。了承してくれるってんなら俺たちも突っ込まないさ」
シャドウの話を聞いたライ。
ライの心情的な意味で、シャドウが放っていた得体の知れない不気味さが無くなり、ライは普通に接する事が出来るようになっていた。
一通り話を終えたシャドウはシメの言葉を続けて話す。
「じゃあ、これにて終了。あとは住人への説明だが……それなりに時間もある。この街が誇るリラックススポットを紹介するからそこで休んでいてくれ! ジャバルにルミエ、アルフとバハルもな!」
それはライたちを疲れの取れる場所に案内すると言う。
ついでにジャバルたちへも告げ、シャドウは場を整える為にその場を後にした。
「つー事だ。来い、案内してやる。"ウェフダー・マカーン"が誇るリラックススポットをな……」
半ば呆れた表情のジャバルは苦笑を浮かべ、場所を案内してくれるらしい。
実際のところ、ライたちも特にする事は無いのでお言葉に甘える事にした。
*****
──"ウェフダー・マカーン"、リラックススポット?
「で、これは何なんだ? 温かいが……魔力は感じない。……湿度が異常に高いし、周りの温度も高い。……風呂の一種?」
そしてジャバルたちに案内されたライは、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、ルミエの女性陣と別れて服を脱ぎ、暖かい個室に案内された。
その場所は温かく、というより暑く感じる場所で、魔法・魔術の類いでも無い場所だった。
興味深そうにジャバルたちへ尋ねるライはに対し、ジャバルはクッと笑って応える。
「これは"サウナ"って言ってな……少量の水でも全身温まれる優れ物だ。蒸し風呂とも言う。つまるところ、風呂の一種で間違い無ェ」
曰く、サウナと言う風呂との事。
少量の水で全身を温められる風呂らしく、木材の個室に煉瓦で造った竈が置いてあり、その竈にそれなりの大きさを誇る石を乗せて火を焚き、頃合いを見て杓子で水を掬う。そしてその水を石に掛けて水蒸気を充満させて気温を上げる仕組みだ。
「サウナか……少量の水で風呂に近い効果を得られるのは凄いんじゃないか?」
ジャバルの説明を聞いたライは興味を深めてサウナを見渡す。
それを見たジャバルは笑って返す。
「ククク……まあそうかもな。それに、風呂と違って顔も直ぐに温まるからな。冬には重宝していらァ」
そう言い、熱された石に水を掛けるジャバル。
ジュウ。と水が一瞬にして蒸発し、辺りを水蒸気で包み込む。
心地好い熱に包まれ、もう少しのんびりするライ、ジャバル、アルフ、バハルだった。
*****
「へえサウナって言うんだ……」
「ああ、そうだ。キュリテは知っているだろうが……やはり他の者たちは知らなかったか」
一方の女性陣サイド。此方でもサウナについて話していた。身体にタオルを巻き、座りながら会話する。サウナについて説明していたのはルミエ。
そして魔族の国出身のキュリテは立場上、幹部の街々に行くので何度かこの街にも来た事があるのだ。
ルミエの言葉を聞き、フォンセが始めに応える。
「ああ、私は魔族でありながら人間の国で育ったからな。……まあ、一人で育ったようなモノだけどな」
それだけ言い、フォンセはルミエに改めて向き直り、真剣な眼差しで見ながら言葉を続ける。
「……さて、そんな事よりルミエ。私とお前は何か関わりがあるんだろ? その関わりを教えて貰おうか?」
「……」
フォンセが気になったのは同じ姓を持つ事だけじゃなく、何か別の意味があるかもしれない事。
実際に宮殿ではそれっぽい事を言っていた。
「そういえば。確かに気になるね……」
「ああ、フォンセが言うにはお前も何かあるらしいからな?」
「うん……」
「同じ側近同士、隠し事は駄目だよルミエちゃん♪」
フォンセを魔王の子孫と分かっており、ルミエの事が気になるレイ、エマ、リヤン、キュリテもそちらを見ていた。というより距離を詰めていた。
特にキュリテはぐぐっと近付いた為、キュリテの胸とルミエの胸が当たる。
「……分かった。教えるから離れてくれ」
ルミエは鬱陶しく思ったのか、両手を突き出してキュリテを筆頭に自分の周りを囲んでいる者を遠ざける。
「アハハ……キュリテはスキンシップを大事にするからね……」
「……まあ、フォンセも近付くのは意外だったな」
「…………皆大きい……」
レイとエマとリヤンは近付いておらず、そのやり取りを見ていたレイとエマは笑っており、リヤンは別の事に注目していた。
そして、キュリテとフォンセを離したルミエは言葉を続ける。
「そうだな。先ず確認したいんだが……フォンセと言ったな? ……お前……先祖は誰だ?」
「かつての魔王だ」
ルミエはフォンセに先祖を尋ね、フォンセは即答で返す。
それを聞いたルミエはピクリと片眉を動かし、更に続けて話す。
「そうか。それはお前の仲間たち全員が知っているのか?」
「ああ、知ってる。仲間たちは普通に受け入れてくれたよ」
その質問にも即答で返すフォンセ。
ルミエはフッと笑い、ならば良いかと呟き、フォンセたちに自分の素性を明かす。
「そうだな。私はお前たちの予想通り、かつての魔王と繋がりがある。勿論魔王自身には会った事も見た事も無いがな」
先ず話したのはフォンセ同様、かつての魔王と何かしらの関わりがあると言う事。それはフォンセたちも推測していた事である。
「だが、私以外に魔王と関係している者に会うのは初めてでな……最初に同じ姓を持つ者と会った時は正直心がざわついた。もしやと思ったが、本当にそうだったと知ったときは嬉しかった」
「……」
笑みを浮かべながら言葉を綴るルミエ。フォンセはルミエの話を黙って聞いており、レイ、エマ、リヤン、キュリテも集中して聞いていた。
しかし血の近い者が居たという事に対し、ルミエは心底嬉しそうだ。
「その様子だと……かつての魔王の先祖は居ない……と言う事なのか?」
そして、黙って聞いていたフォンセは口を開き、自分が気になった事をルミエに尋ねる。
魔王に関係している者と会った事が無い。つまり、高確率で魔王の血縁はこの世には存在していないかもしれないのだ。
そもそも、フォンセとルミエ以外に魔王と近しい者すら存在していない可能性が高いのである。
ルミエは表情を曇らせて言葉を続けて話す。
「ああ、多分知っているだろう……いや、表に出なかった事から知らないかもしれないな……。……兎も角、かつての魔王は未来永劫語り継がれる大悪党だ。そんな悪党の血筋が残っていたらまた新たな魔王が誕生し、かつての世界よりも最悪の未来が待っているかもしれない……」
「……」
曇った表情で話続けるルミエ。フォンセは既にルミエが言いたい事を理解していた。
「だから、魔王と関わりがある者達は……魔王が倒された千年前から殺されている……」
「「「…………!!」」」
「「……」」
レイ、リヤン、キュリテの三人が息を飲み、エマとフォンセの二人が眉を顰めてピクリと反応を示す。
「まあ、隠れて生き延びている魔王関係者も居るかもしれないが……私が今まで見た事あるのは僅か数人……後日にはその者達も処刑されている。だから私はお前を見た時嬉しかったんだ……」
危険分子を見つけ次第、物理的に消し去るというのは一見理不尽だが致し方無い事である。
かつての魔王が魔王である所以は悪逆非道、残忍冷酷。と、生き物の理を越えた何かがあった。
その子孫が居れば、確かに問答無用で消されるだろう。
今ではただの戦いたがり屋だが、かつては国の統制なども行っており、弱肉強食の世界を組み立てていた。
死んだ奴は死んだのが悪い。自然界なら至極真っ当なルールだが、知能のある種族からしたら理不尽極まりない事だったのである。
「……まあ、他にも色々やらかしていたらしいが、子孫である私たちにとってはいい迷惑だ」
魔王の子孫であるが故に迎えるであろう最期は、子孫でしか無いルミエとフォンセにとって迷惑でしかない。
それを言い終えたルミエは、更に言葉を続けてフォンセに言う。
「……だが、魔王と一番近い血縁はフォンセ、恐らくお前だけだ。私にも魔王の血が流れているには流れているだろうが……名字以外の共通点は少ない。一番古い魔王の子孫である夫婦の姓がアステリで、その二人から産まれた子供が新たな子供を創って血を薄くする。私は薄い方から産まれ、フォンセは濃い方から産まれた……。……血縁的にはフォンセの方が濃いだろう、感覚で分かる。私とフォンセの関係を表すなら……従姉妹……と言ったところだな」
そしてルミエの話が終わる。
純粋な血の濃さで言うならルミエの方が薄く、フォンセの方が濃い。
そして他の子孫は何処で何をしているのか、もう一人も居ないのかは分からない状態。これがルミエの綴った内容だ。
「従姉妹……か。……ふむ、悪くは無いな。両親が居ない私は血縁者なんか居ない天涯孤独の存在だと思っていた。……ふふ、血が近い者が一人でも居るのは良い事だな」
ルミエの話を聞いたフォンセは、ルミエに笑って返す。
血縁者という感覚がよく分からないフォンセだが、何となく思った事を返したのだ。
「……でも、フォンセ的にはこれで良いのかな……」
「……さあな。……しかし、同じ種族すらあまり見た事の無い私からすれば……。いや、何でもない」
「…………。………………」
「……へえー……それはそれは……」
そして、その話を聞いていたレイ、エマ、リヤン、キュリテの四人も頷いて返していた。
血縁者の居ない感覚は、エマとリヤンなら分かるだろう。
エマは長い生を独りで生きており、リヤンが持つものは夢で見た記憶のみ……二人は何かを思う表情だった。
「…………」
──バタン。
「「「「「…………………………え?」」」」」
その刹那、リヤンが倒れた。それに反応するレイ、エマ、フォンセ、キュリテ、ルミエの五人。
先程まで普通にしていた者が唐突に倒れたのだ。当然だろう。
「し、しまった……。サウナは長時間居ると身体の水分を多く取られ、常人は逆上せてしまう可能性があるんだ……!」
「「ええ!?」」
「「何ィ!?」」
そして、それを見たルミエはリヤンが逆上せたと言い、レイとキュリテ、エマとフォンセが叫ぶように返す。
「だ、だったら早く外に連れていかないと!」
レイは慌ててリヤンを起こし、肩に手を乗せて外への扉を開く。
それに続いてエマ、フォンセ、キュリテ、ルミエの四人も続く。
それによってハラハラと巻いていたタオルが落ちたが、五人は落ちたタオルを巻く暇も無く、一直線でリヤンを冷やす為に駆け出した。
「リ、リヤン!? 大丈夫!?」
「ふむ、何とか身体は冷えてきたようだな……」
「どうする? "クリオキネシス"使う?」
「貴様はリヤンを殺すつもりか?」
「ふむ、大事には至らなそうだな」
「皆……揺れてる……エマ以外……」
レイ、フォンセ、キュリテ、エマルミエの順で話、リヤンはその肉体を見て呟く。
思考は回りにくくなっている様子だが、何とか意識は保っているようだ。
何やかんやあり、女性陣は全員サウナから外に出たのだった。
*****
「何か、女性陣の方が騒がしいな……」
ワーワーと、女性陣が入っているサウナから声が聞こえる。
その事を気になったライは訝しげな表情で呟いた。
「へェ? じゃ、覗いて見ようぜー?」
「アホか。ルミエが居るし、他の者たちも居る。一生錬金術が使えなくなる身体にされるかもしれないぞ?」
そんなライに返すアルフは、バハルによって突っ込みを入れられる。
実際、女性陣にも強者が多いので、アルフが一人で挑んだらフルボッコにされるだろう。
「まあ、多分あちらのメンバーはサウナから外に出たんだろうな。俺たちもそろそろ上がるとするか」
声を聞いたジャバルはスッと立ち上がり、それに続いてアルフとバハルそしてライもサウナの外に出た。
「そうだ。サウナから出たら水風呂に入るってのも醍醐味だ。……が、今は冬だし大丈夫そうだな」
そして、ふと思い付いたように話すジャバル。
ジャバル曰く、サウナから出たら身体を冷やすのと健康的な面を兼ねて水風呂に入るらしい。
しかしジャバル本人は自分で話、自己完結した。
「へえ? ……まあ、それはまた何時かで良いな」
自己完結したが、一応返すライはそのまま外に向かう。
ジャバル、アルフ、バハルの三人もライに続く。
こうしてライ、ジャバル、アルフ、バハルの四人とレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、ルミエの六人の……計十人はサウナを後にする。
シャドウも既に住人へ細かい話を終えているだろう。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人とジャバル、ルミエ、アルフ、バハルの四人はシャドウの元へ向かうのだった。
*****
──"ウェフダー・マカーン"、宮殿跡地。
ライたち六人とジャバルたち四人は、ゲーム中に宮殿があった場所に辿り着く。
その場には相変わらず暗そうな人々がおり、ライたちを待っていた。
観客達はずっと居たのか定かでは無いが、取り敢えずシャドウはある程度の説明を終えたらしい。
「……お、来たか。どうだった? この街自慢のリラックススポット、サウナは?」
そして、ライたちの姿を確認したシャドウはライたちに感想を尋ねる。
先程のサウナはシャドウの自慢らしい。
「ああ、温かくて気持ち良かった……のかは分からないが、取り敢えず冬には持ってこいだな。長居すると逆上せそうだが……」
「実際、リヤンは逆上せちゃったけどねぇ……」
シャドウの言葉に返すライと、続くレイ。取り敢えず悪くはなかったという事だ。
「ハッハッハ! それは良かった! まあ、ある程度リラックスも出来たようだし、住人へ何か宣言? 宣伝? 説明? ……をしてくれや。適当に言えば理解するだろうよ」
──それから、ライは"ウェフダー・マカーン"の住人に向けて演説的な事をした。
今までの街と同じよう、征服した事と魔族の国その物を手に入れようと企んでいる事。そして特に束縛するような事はしない。などを説明する。
途中でシャドウも入り、詳しい説明に荷担して説明し、この街の住人は幹部のシャドウが言うならと、納得した。
「いやー……やっぱり事が済むとあっさり征服出来るんだな……寧ろ良いのか?」
そして結果的に征服出来たのだが、あまりにも簡単過ぎる事に対し呆気に取られるライ。
それもその筈。いくら幹部が荷担したとはいえ、あっさり行き過ぎているのだ。
"ウェフダー・マカーン"のみならず、今までの街も簡単に敗北を認めていた。
ライたちが相手だったから負けを認めたと言っていた者も居たが、それにしても簡単過ぎるのだ。
「……。まあ良いか……」
「……? 何がだ?」
「「「「「………………?」」」」」
「「「「…………?」」」」
ライはそこまで思考をして呟く。
それを聞いた者はシャドウを含め、レイたちとジャバルたちも訝しげな表情をした。
「いや、何でもない。……征服も終えたし、早く次の街へ向かおうかな……って思ってな」
その事は個人の感想なので、ライは適当に誤魔化して次の行動に出るかを考えていた。
「何だ? もう行くのか?」
そして、先に進もうと言うライに向けてシャドウが尋ねた。
このやり取りも、魔族の国に来てからもう四回はやっている。これで五回目である。
「ああ、知っての通り? 残る街は一つだからな。それを終えたら魔族の国全体……時間は無駄に出来ないからな」
その慣れたやり取りに返すライ。残る街が一つという事もあり、先を急ぐ事優先なのだ。
「そうか、なら仕方無えな。……次の街って事は……成る程。大変そうだな」
「……?」
シャドウは苦笑を浮かべ、仕方無いと言ったあと小さく呟いた。
その事に対して怪訝そうな表情をするライだが、特に気にしなくても何れ分かる事なので突っ込まない。
それから、ライたち六人は"ウェフダー・マカーン"の出入口へ向かった。
*****
出入口に案内されたライたちは、先ず宿から私物を持って来て準備を終えてから来る。
「じゃ、此処までだな。この街の外まで着いて行っても良いが……一応幹部なんでね」
そして現在、シャドウ、ジャバル、ルミエ、アルフ、バハルはライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテを見送る体勢に入っていた。
「ああ、見送ってくれるだけでもありがたいさ。幹部の方々は全員真面目なんだな。この街に来るまで四回……全ての街で幹部が見送ってくれたからな」
案内されたライは軽薄な笑みを浮かべながらシャドウの言葉に返す。
今までの幹部も全員見送ってくれる事から、魔族の国の者たちは人? 柄が良いという事が分かる。
「じゃあ、目的を達成した暁にはまた来るから、それまでこの不気味な風貌を何とかしていてくれよ?」
ザッ、大地を踏み込み、歩みを進めるライ。
目的を達成した時と言うのは、世界征服を終えた時の事だ。
そして、歩みを進めようとしているライたちに向け、シャドウは口を開く。
「そうだ。テメェ、"ライ・セイブル"って言ったよな?」
「……?」
それはライのフルネームについてである。
突然フルネームを言われたライは訝しげな表情をするが、シャドウは気にせず言葉を続ける。
「次の街……テメェに関係ある奴が居るかもな」
「……!?」
シャドウの言葉に対し、見て分かるように動揺していた。
シャドウの言葉が意味する事は、恐らくフォンセとルミエのような関係。という事だろう。
「……。……そうか。覚えておくよ……」
しかしその事に深く言ったところで特に意味は無いので、ライはその街に着いてから詳しく調べようと考えているのだ。
「いや、ハハ……中々良い事を聞いた。心に留めておこう」
そして、今度こそライたちは"ウェフダー・マカーン"を後にし、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの六人は次の街を目指す。
残る街は支配者の街を除いて一つ。
魔族の国、完全征服完了まで直ぐそこに近付いたライは更に本腰を入れて取り組む。
僅かに迫った征服達成へ向け、改めて気合いを入れ直すライたちは目的を達成させる為、次の街を目指して進んでいくのだった。