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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第七章 暗い街“ウェフダー・マカーン”
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百四十一話 ライvsシャドウ・決着

「……また……行き止まり……」


 「はぁはぁ……」と肩で息をし、疲労を感じながら歩いている人影がそこにあった。

 相手は蹴りしか使わなかったのだが、その人影──レイは大きなダメージを受けていた。


「……さっきも何か爆発があったし……私が早くゴールに行かなきゃ……ライ……は大丈夫として……他の皆が…………多分大丈夫かな……?」


 身体はボロボロで歩く度に激痛が走り、まだ出血しているのだが、それでもレイは進んでいた。

 恐らく骨も何本か折れているだろう。動く事もままならない状態の筈だが、何故かレイは動けていた。

 まるで、人間なのに人間じゃないような。レイは人間の限界を何段階も飛び越えているのかもしれない。

 それはさておき、他のメンバーの事は大して心配していない。それ程仲間を信頼しているのだ。


「…………。……きゃ……!?」


 すると、突然レイは床に空いた穴に落ちる。

 この宮殿は一応迷路や迷宮というたぐいらしいので、そういった戦闘面以外の罠もあるのだろう。


「…………此処は?」


 そこは割りと上の方らしく、先程までレイが居た場所が下に見えた。

 落ちたというのに上に居るというのはどういう事か、よく分からないレイだったが取り敢えず進んでいるらしい。


「…………。まあ良いかな? 進んでいるならそれで……」


 レイは剣を杖のように使っており、立ち止まっている状態でも痛むので余計な事を考えず進む事を優先する。


「早く行こう……他の皆もゴールを目指している筈だし……!」


 グッと、痛む身体で小さな握り拳を作るレイは、ゴールを目指す為に迷宮の奥を目指す。



*****



 ──刹那、その影はどんどん巨大化し、その大きさを増していく。やがてその影は人形ひとがたを形成し、完全に実態を持った。


【おお!? このシルエット!! いや、シルエットしかねェが……それは兎も角! 懐かしいじゃねェか!!】


(……やっぱアレってお前なの?)


 その影を見た魔王(元)は笑い。笑ったような口調で話、ライはそれに聞き返す。

 ライの言葉を聞いた魔王は(元)は言葉を続ける。


【ククク……ああ。……アレはまあ影らしいからよ……厳密に言や違うがな。だが、顔とかは見えねえが形は俺だ】


(へえ?)


 魔王(元)曰く、本当にあの影はかつての魔王を催したモノらしい。

 恐らく形だけで顔などが形成されていないのはシャドウが魔王を見た事無いから。というのが一番考えられる線である。


「そいつの強さは本物の魔王とどれくらいの差があるんだ?」


 そして何時ものように、戦闘中に魔王(元)と交わす会話はライと魔王(元)のみの空間となっており、然程時間は掛かっていない。

 なのでライは、シャドウに影の強さを尋ねる。


「ハッハー! 良いぜ、教えてやる! 実を言うと本物の魔王には足元にも及ばねえ! 俺の分身よりは強いだろうが、コイツに全宇宙を破壊する力は無えからな! そして、俺はコイツと戦った事が無いから俺より強いのか弱いのか分からん! だが、それなりにやるってのは確かだ!」


 ライの質問にあっさりと答えるシャドウ。しかしシャドウ自身も魔王の影という奴の強さは分からないらしい。


「……そうかい。【なら……】」


 シャドウの言葉を聞いたライはその影とシャドウに向けて構え直し、言葉を続けて話す。


「【……さっさとアンタ(テメェ)と影を倒して、決着を付けるとしようかね……】」


 刹那、ライは魔王(影)に向けて駆け出した。

 ライが魔王(影)の前に辿り着くと同時に先程までライが居た場所の床が砕ける。


「どっちが本物か……! 確かめてやる!」

『…………!!』


 次の瞬間にはライの拳が魔王(影)に突き刺さり、魔王(影)を遠方に吹き飛ばす。

 しかし手応え的にまだ消えていないというのが分かった。


「俺も忘れるなよ!」


 その瞬間、ライに向けて幾つかの影が放たれる。

 その影は蛇のようにうねり、波のように形を変えてライを狙う。


「邪魔!」


 そしてその影は、魔王を纏ったライの蹴りによる爆風で消滅する。

 それと同時にライはシャドウへ狙いを定める。


「そらっ!」


 近付いても良いが、取り敢えず牽制の意味を込めて投石するライ。

 瓦礫の破片から造られた石ころは音速を越え、大気によって燃えながらシャドウへ迫る。


「石ころなら砕かれねえ筈だ! "影の壁(ディッル・マウジ)"!!」


 そして、直進して来る石ころに前に壁を創り出すシャドウ。

 その石ころは影の壁にぶつかって砕け散る。


「今のうち!」

「あ、待ちやがれ!」


 シャドウの姿が影の壁に隠れた瞬間、ライは隙を見て魔王(影)の後を追う。

 先に魔王(影)を倒してからシャドウと戦おうとしている為、ライはシャドウを無視したのだ。

 ライの耳にシャドウの言葉が届くよりも早く、速く、疾く……ライは進んで行く。



*****



「そこか!」

『……!!』


 魔王(影)に追い付いたライは、魔王(影)に向けて拳を放った。

 しかし魔王(影)も咄嗟に腕を出してライの拳を防ぐ。


「反射神経はそこそこか……! 音速を越える一撃を見てから防いだからな……!」


【ハッハッハ! 影でも俺って事かァ!! ま、俺にとっちゃ光も遅いくらいだけどな!】


 魔王(影)を見たライは魔王(影)の身体能力を確認して推測し、本物の魔王は高らかに笑うような声を上げていた。


『……!!』


 そして魔王(影)は腕を振るい、ライに攻撃を仕掛ける。


「遅いな……。やっぱり影は影……所詮偽物か……!」


 その手を避けたライはその場で身を捻り、魔王(影)の片腕を掴んで受け止める。


「なら、とっとと……偽物は消え失せな!」

『……!?』


 その瞬間、ライは巨大な魔王(影)を一本背負いの要領で投げ飛ばした。

 投げ飛ばされた魔王(影)は驚いたような動きを見せ、そのまま吹き飛ぶ。


【オイオイ……ガッカリだぜ……この俺ならテメェ一人でも十分じゃねえのか?】


 その様子を見た? 魔王(元)は肩を落としたように話、ライ一人でも良いんじゃね? 的な事を言う。

 そんな魔王(元)に対し、ライはフッと笑って応える。


(オイオイ……さっきは"影でも俺って事か"! とか言っていたのに急に変わるな……。まだ二回しか直撃はしてないんだぜ?)


 ライが話したのはまだそんなに攻撃を食らわせていないから分からないとの事。

 実際、魔王(影)直撃したのは最初の拳と先程の一本背負いだけである。


【けどなー……俺の一割でも力がありゃ……それなりに良い勝負は出来ると思うんだよなぁ……試しにおれの一撃食らって見ろよ。大した事無いって分かるから】


 魔王(元)はライに向けて攻撃を受ければ分かると告げる。

 確かに影の攻撃なら受けても平気そうではあるが、果たして本当にそうなのか疑問に思うところだ。


『……!!』


 そんな事を話していた刹那、投げ飛ばされた魔王(影)がライの方目掛けて勢いよく突進してくる。


「じゃあ、受けてみるか……」

『……!!』


 その瞬間、ライが居た場所は魔王(影)によって砕かれる。

 大きな玉が勢いよく激突しても砕けない床は粉砕し、クレーターを造り出した。


「成る程。確かに大した事無いな……。常人なら致命傷を受けてただろうが、俺には関係無い……」

『……!?』


 そして、魔王(影)の手の下からは無傷のライが出て来る。

 ライは瓦礫の破片やその他の影響で汚れているが、ライ自身はかすり傷すら無い状態だ。


「そら!」

『……!!』


 ライは魔王(影)の顔に拳を放ち、それを受けた魔王(影)は吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされた魔王(影)だが、ライが思ったよりは飛ばずに留まっている。


「耐久力はそこそこあるな……。まあ、そこそこ程度だけど……」


 そんな魔王(影)を見たライは、山を軽く砕ける拳を受けてもなお無事でいられる事からそれなりの耐久力は持っていると推測した。

 山を砕く拳というのは、ある程度の幻獣・魔物ならば消し去れる破壊力なのだから。


『……!!』


 そして魔王(影)は遠方から腕を伸ばし、ライを捕らえようと動き出す。

 伸びた手は柱や瓦礫を掻い潜って真っ直ぐ進み、的確にライの位置を捉える。


【オイ、俺は手を伸ばせねえぞ?】

(知らねえよ。影に言え、影に)


 そんな魔王(影)に向け、自分が使える技じゃないと突っ込む魔王(元)

 恐らく影なので伸び縮みも自由なのだろう。


『……!!』


 そして、その伸ばした腕をくねらせて不規則に動かす魔王(影)。それも中々の威力を誇っており、宮殿の柱や壁が砕ける。


「……」


 ライはその腕を殆ど動かず、軽く身体を反らせたり捻るだけで避ける。

 ライに当たらず空を切ったその腕は、ライの向こう側に行った。


『……!!』


 腕をかわされた魔王(影)は腕を戻し、ライの背後からその腕で攻撃を試みる。

 戻された腕は方向転換し、一直線にライの方へ──


「その程度、読めているんだよ!」


 ──無論、ライはその動きも読んでおり、前屈まえかがみになって背後から来る腕を避けた。


「……!」


 ライは前屈まえかがみになると同時に床を蹴り、そのまま砕いて加速する。


『……!!』


 魔王(影)は向かって来るライを捕らえようと手を振り下ろした。


「……」

『……!?』


 そしてその腕が完全に振り下ろされる前にライが更に加速し、魔王(影)の腹部にライの拳が突き刺さる。

 魔王(影)の顔は見えないが、仮に顔が見えたら苦痛に歪んでるのは動きで分かるだろう。


【ハッハ、オイオイ、仮に俺がコレだとして、苦しむのは中々にレアだぞ? 勇者の野郎に封印させられた時はそりゃもうスゲェ苦しかったが、苦しみだけじゃねえ……それと同時に別の何かを感じたなぁ……】


 そんな魔王(影)を見た魔王(元)。

 魔王(元)からすると、自分に似ている影でも苦しんでいるのは珍しい事だと言う。

 その口調は何処か遠くを見つめながら話している様子だった。


「……」


 そんな魔王(元)を見た? 聞いたライは、特に何も返さずに目の前の魔王(影)に構える。


『……!!』


 そして先程の苦しみを乗り越えた魔王(影)は、再び動き出す。魔王(影)は両手を上げ、ライに狙いを定めて振り下ろしたのだ。


「まあ、今はコイツか……」


 魔王(影)の攻撃をかわすライは左右に揺れて避け、そのまま体勢を低くする。


「そらよ!」

『……!!』


 そしてそのまま飛び蹴りを放ち、魔王(影)の顎? に一撃を入れた。

 それによって魔王(影)は揺れる。


「そこォ!」

『……!!』


 そのまま空中で身体を回転し、滞空時間数秒の間に二発の蹴りを入れるライ。

 魔王(影)の全体的なバランスが崩れ、少しライから離れた。


「今!!」

『……!!!』


 魔王(影)がライから離れた瞬間、ライは着地すると同時に床を蹴り砕いて加速して、魔王(影)に向けて蹴りを入れた。

 宮殿内には鈍い音が響き渡り、魔王(影)に蹴りを入れた衝撃で宮殿内が振動する。

 その衝撃を受けた魔王(影)は床に倒れる。


「"影の刃(ディッル・セイフ)"!!」

「……!」


 その瞬間、ようやくライの元に辿り着いたシャドウが影の刃をライに向けて放った。

 ライは咄嗟の事で反応が少し遅れたが、直ぐ様対応して影を砕く。


「ハッハッハ……テメェ……よくも無視してくれたな? 結構(へこ)んだぞこの野郎」


 シャドウは奥から歩み寄り、ライに向けて言葉を続けながらやって来た。この様子を見ると、結構のんびりしていたのが分かる。


「まあ、どうせ直ぐに追い付くんだろ? 実際、現在進行形で追い付いたし」


 そんなシャドウに返すライは、適当にあしらうように話した。

 実際、シャドウがのんびりやって来たという事は特に無視した事にはそれほど怒りが無いという事だろう。


「そうだな。……取り敢えず、今から二vs一だ。"影の爪(ディッル・ミスマール)"!!」


 そしてシャドウが話した刹那、シャドウは鋭利な影を五つ放った。


『……!!』


 それに続くように魔王(影)も起き上がり、ライへ向けて急接近する。


(魔王、三割使う……!)

【ハッハッハー! オーケー! 任せな!】


 ライはその二つを見て魔王の力を三割にすると決めた。

 魔王の影だけならば二割。もしかしたら一割でも良いかもしれないが、シャドウも参戦とあれば話は別だ。

 幹部に大きな差は無く、それぞれが相応の力を秘めていると聞いたのでダークの時と同じように三割使うのだ。


「行くぞ……!」

『……!?』


 刹那、ライは魔王(影)の身体を砕き、拳で貫通させた。

 この魔王は元々影から創られた魔術の一種なので、ライからしたら砕けない方がおかしいのだ。


『……!!』

「"影の拳(ディッル・カブダ)"!!」


 そして魔王(影)の身体は再生し、腕を伸ばしてライに放つ。

 シャドウの方も影から拳を創り出し、それをライに向けて放った。


「……」


 そして、その全てをかわすライ。

 かわすと同時に影の拳を砕き、先ず魔王(影)の元に近寄った。


「最初はお前だ……!」

『……』



 ──刹那、魔王(影)の姿が消し飛んだ。



 いくら再生能力が高かろうと、一瞬にして全てを消し去ってしまえば再生出来なくなる。

 細胞一つでもあれば復活出来る不死身や不老不死なら再生するが、シャドウが創り出した魔王は影。

 影というものは不死身や不老不死とは違うモノで特殊な魔術から成るモノ。

 つまり、一撃で全てを消し飛ばせば問題無いのだ。


「ハハ……奥の手がこうもあっさりと破られちゃあ……結構悲しいな……"影の機銃(ディッル・マドファア)"!!」


 魔王(影)が消えた瞬間、シャドウは大量の影をライに向けて放った。

 その影は弾丸のように壁を砕きながらライに向けて突き進む。


「奥の手っていうならもう少し強い影を出さなきゃな。あれじゃ星を砕く事すら出来ないぞ?」


 ライはその影を避けながらシャドウに話す。

 星を破壊するレベルの力と推測していたが、大きく外れたからだ。


「ハッ! 悪いな! 詫びと言っちゃ何だが……今度は俺自身の奥の手を使ってやるよ!」


「……へえ?」


 そしてシャドウは、両手をフリーにして構えた。

 それを見たライは軽く口角をつり上げ、シャドウに向けて構える。


「つまるところ……俗に言う必殺技って奴だ。"必"ず"殺"す"技"……ってな?」


 シャドウはそう呟き、自分の周りに影を放出する。

 先程から何度も周りに影を放出しているが、それとは比にならない程の影がそこにはあった。


「じゃあ、さっさと決めてくれないか? 時間的にもそろそろゲーム終了が近付いてきているからな……」


 そして、何かをしようとしているシャドウに向けて軽い態度で話すライ。

 実際時間がほぼ無いのでライもさっさと勝負を決めたいのだろう。


「「…………」」


 二人は黙り込み、自分の技に集中力を高める。

 そして次の瞬間、シャドウは必殺技とやらを口走った。



「"影の大嵐ディッル・キビーラ・アーセファ"!!!」



 刹那、シャドウの影が大きく大きく、先程の魔王(影)よりも大きく巨大化し、最終的には一つの大きな雲のような渦を形成した。


「この影は全て破壊力抜群だ!! 山程度なら軽く砕ける影が一秒間に数百発当たる!! これだけで星を破壊するのは無理そうだが、下手な惑星破壊攻撃よりは威力があると思うぜ!!」


 自信満々に己の技を説明するシャドウ。それ程自信に満ち溢れているのは見て分かった。

 そして星を破壊する事は出来ないらしいが、星を砕く技よりも威力が高いと言う。

 つまり要するに、直接星を破壊するような技ではなく、最小で最強の力で星を貫通する。的なものだろう。


「ハハ……これは中々……。なら俺も……(魔王、五割出すぞ……! 星破壊に匹敵する力なら大変そうだからな……!)」


【ハッハッハ!! 良いぜ!! やっぱ幹部レベルが最大の技を使うなら俺の力を五割くらいは使えなきゃな!!】


 それだけの会話を終え、ライはシャドウが創り出した大きな渦に向けて正面から迎え撃つ体勢に入る。


「そういや、幹部レベルが全員星を破壊できる力を持つってのは……その気になれば文明維持出来なくなるんじゃね?」


 目の前のの大渦を見たライは、そんなにヒョイヒョイ星を破壊するレベルの技を使っても良いのか考えていた。

 シュヴァルツを筆頭に、ゼッルやシャドウ。と、誰でも星を破壊できるのは如何なモノかと思うところである。


「まあ良いか……」


 ライはそう呟き、拳に力を入れた。全握力を込め、身体を捻って集中し、迎え撃つ体勢を維持する。

 構えている間にも大渦はライへ迫り、床を巻き上げ壁を砕く。


「────」


 そしてライは床を踏み砕く勢いで踏み込み、


「オ────」


 その大渦に向けて……。



「────ラァ!!!」



 ────魔王の力を纏った拳を放った。



 ライが放った拳の爆風は真っ直ぐ進み、宮殿の壁を破壊する。そしてその勢いは収まらず、宮殿の外に放たれた。

 遠方の山を砕いたように見えたのは錯覚では無いだろう。

 そして、辺りは何も見えなくなった。



*****



「…………」


 シャドウの目には、"ウェフダー・マカーン"にしては珍しい快晴の青空が見えていた。

 その近くには巨大な建物がある。それはシャドウの仲間が造り出した宮殿だ。


「……成る程な……」


 シャドウは目を瞑り、みずからの敗北を確信して奥歯を噛み締める。この瞬間、ライの勝利が確定したのだった。


「……さて、早くゴールを目指さなきゃな……」


 シャドウを倒したライは動き出し、改めてゴールを目指す事にした。

 このゲームは幹部とその側近を倒してもクリアではない。ゴールして始めてゲームクリアとなるのだ。


「壁も無いし……早くゴールしなきゃならないな……間に合うか?」


 呟いたライは駆け足でゴールに向かう。此処でゴール出来なくては元も子も無い。

 しかし、残り時間は数分も無く、間に合うかどうか分からない状態だ。


「此処に壁は無いけど……奥には壁が見えるな……」


 幸い壁が無いので真っ直ぐ行けば間に合いそうだが、問題はライたちが戦っていない場所だ。

 ライたちが戦闘を行っていないという事はまだ壁や道、その他諸々の障害が残っているのである。


《…………残り、一分です》


「……!? こんなアナウンスあったのか!? いや、そうじゃない。もう一分か……!」


 アナウンスがあったなら五分前とかでも教えて良さそうだったが、ライがアナウンスを聞くのは初耳だ。

 それはさておき、もう一分しか無いらしい。ライは慌てて加速する。


「ヤバイな……! リヤン、キュリテ、エマ……あとは分からないけど俺しかいない筈だ……!」


 慌てて駆けるライは目の前の壁を砕きつつ更に走る。

 しかし、無情にもゴールが見える様子ではなかった。


《残り……三十秒》


「……!!」


 淡々と残り秒数を告げる、先程まで聞こえなかったアナウンス。本当にアナウンスがあったのなら始めから教えて欲しかったものだ。


《二十秒》


「……」


 アナウンスを聞きながら壁を砕いて進むライ。

 時間は待ってくれず、そのまま流れていく。


《十秒……九……八……七……》


「だぁ! クソッ!」


 時が経ち、焦りを感じたのかイラつき混じりに正面の壁を数キロ砕くライ。

 しかしその先に、それらしい階段が見えた。


「……!? あれか!!」


 ライは階段を見つけるや否や、第三宇宙速度で階段に向かう。

 第三宇宙速度は秒速16.7㎞。一秒もあれば階段の上に行ける速度だ。


《五……四……三……》


「よし。間に合──」


 そして、ライは階段の上には──


「……ま、まさか……」


 ──『何もなかった』。


 あったのは"無"。何も無く、何も無く、何も無く。


《……二、一……》


 そしてその瞬間、ライたちが居た宮殿は、跡形も無く消え去った。そして、消え去ると同時にアナウンスが言葉を発した。



*****



《ゲーム終了。"ウェフダー・マカーン"メンバーと参加者のゲームは、『参加者側が勝利を収めました』》


「…………………………え?」


「「「「………………」」」」


 宮殿が消え去り、その場所から移されたライ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの前には──


「……えーと……これで終わり?」


 ──旗を持ったレイが立っていた。



 この瞬間、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテvsシャドウ、ジャバル、ルミエ、アルフ、バハルのゲームは、ライたち一行が勝利を収めた。



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