百三十五話 ライvsアルフ&バハル・決着
「"建造"!!」
「行け……!」
『グルオオオン!!!』
アルフが床と壁を再構成してライへ放ち、バハルが新たな魔物を召喚してライへ放つ。
アルフが再構成させた物質は四角い蛇のような形となり、うねりながら周りを砕いて突き進む。
そしてバハルが召喚した魔物は鳴き声を上げてライとの距離を詰める。
「オラァ!」
ドガァン! その物質を片手で砕くライ。しかし物質は砕けてもまだ魔物が残っている。
「……コイツは……"キリム"か……!!」
──"キリム"とは、森に棲む怪物だ。
その姿は七つの目に七つの頭、そして七つの角を持っている。
その口には犬のような牙があり、後ろには鷲の尾が生えている。
性格は他の魔物に比べれば比較的大人しいのだが、腹が減ると森を抜け出し人里に降りて人を補食すると謂う。
そしてキリムに食われてしまった場合、食われた者は消化されず、死なずにキリムの腹の中で行き続けると謂われている。
七つの頭それぞれに一つの目があり、犬の歯と鷲の尾をを持つ七つの角がある魔物、それがキリムだ。
「だが、所詮は偽物だ!」
『ギャ……!!』
ズガァン!! 近付いてきていたキリムに向かって拳を放ち、キリムを消し去るライ。
消えたのは気化したとかでは無く、バハルの魔力がライの拳に耐え切れなかったのだろう。
「俺の錬金術は本物だけどな!」
そして次の瞬間、動きを見たアルフ物質を身体に纏って飛び出し、それと同時に壁や床を変形させて嗾ける。
「本物も効かねえよ!」
そして、変形した壁を砕くライ。
しかしそこにアルフの姿は無くなっていた。
「んな事とっくに理解してらァ!!」
そして、背後から全身錬金術で造り出した鉄や岩のような鉱物で覆ったアルフが飛び掛かる。
「だろうな……!」
「…………ッ!」
ドガァ! ライは近付いてきていたアルフに気付いており、振り向き様に蹴りを放ってアルフの腹部を蹴り抜いた。
「クク……ああ、その通りだ……!」
「…………!」
ヒュッ! アルフは物質の欠片を一瞬で鋭利な凶器に形成してライに放つ。
近距離まで近寄ったアルフは、全身を物質で固めていた……つまり、ライの蹴りによる衝撃はあるが大ダメージを受ける程ではなかったのだ。
そして鎧の役割を果たしていた物質は砕けたが、その欠片から凶器を造り出したのである。
それはライの頬を掠り、物理耐性も上がりつつあるライの薄皮を剥ぐ。
「チッ、頑丈な身体だな……!」
「良く言われるよ……」
ライとアルフはすれ違い、互いに足を踏み込んで同時に振り向く。
振り向きながら跳躍し、ライとアルフは向かい合った。
「俺の事も忘れないでくれよ? これは二vs一の戦いなんだからさ……! そして、俺は俺が出せる最大級の魔物をお前に繰り出す!」
そしてライの後ろにはバハルがおり、バハルは新たな幻獣・魔物を召喚しようとしていた。
曰く、最大級の魔物を出すという。つまり幻獣では無いらしい。
バハルはライに向けて片手の掌を突き出し──
「"レヴィアタン"!!」
『キュルオオオォォォォ!!!』
──不死身の最強生物……レヴィアタンを召喚させた。
「……ッ! やっぱり来たかレヴィアタン……!!」
そのレヴィアタンを一瞥したライは、やはりか。と一層警戒を高める。
バハルの魔力から生み出された生物なので、本物よりも遥かに劣ると分かっているのだがレヴィアタンというだけで警戒してしまう。
「……だが、随分と小さいな……本物はこの宮殿よりも大きい筈だが……」
そして、ライはレヴィアタンの大きさが気になった。
先程のキリムやミノタウロス。ワームにアンフィスバエナ、グリフォン、ペガサスは相応の大きさだったが、動くだけで海が荒れる程のレヴィアタンにしては小さ過ぎるのだ。
「……当たり前だ。本物のレヴィアタンサイズを創ったらこの宮殿が持たねえ……」
バハルは笑いながら、本物の大きさがあるレヴィアタンを創った場合宮殿が壊れてしまう。……と返した。
それを聞いたライはフッと笑い……。
「本当は?」
そう告げた。
バハルは本物のサイズのレヴィアタンを創り出さないのではなく、創り出せないと理解していたからだ。
さしずめレヴィアタン(偽)……といったところだろう。
「ハッ、これが俺の魔力の限界って事だな」
それを聞いたバハルは自嘲するように笑ってライの言葉に返した。
「だが、動きや技は本物に近いぞ?」
『キュルオオオォォォォ!!!』
刹那、バハルが言い終えると同時にレヴィアタン(偽)がライ目掛けてうねりながら進んでくる。
「よっしゃ! 俺も行くぜ!」
そしてレヴィアタン(偽)に便乗するよう、アルフも物質を錬成してライへ向かう。
アルフとレヴィアタン(偽)が前後から向かって来るこの状況、ライにとって分が悪いのは明らかだ。
「……まあ、纏めて片付けるけどな……!」
その瞬間、ライは床を踏み砕き、一番厄介であろうレヴィアタン(偽)の元へ駆け寄った。
「オ──」
ライは構えを取り、頑丈な身体を持つレヴィアタン(偽)へ狙いを定める。
『キュルオォ!!!』
そしてレヴィアタン(偽)は口を大きく開き、口内に炎を出現させて炎を散らしながらライへと突き進んで行く。
「──ラァ!!」
『キュルオ……!!』
次の瞬間──ライの拳はレヴィアタン(偽)の腹部に命中し、本物よりは小さいがそれでもレヴィアタンが誇る巨躯を浮かせた。
「後ろががら空きだぜ!!」
そしてその時、ライとの距離を詰めていたアルフが床に手を当て、一瞬で床を変形させてライへ放つ。
「後ろも死角じゃねえよ!」
ライは振り向き様に後ろ回し蹴りを放ち、攻め来ていた鈍器のような床を蹴り砕く。
欠片は高速で飛び散り、周りの壁や床に小さな穴を開ける。
『キュルリラララァ!!』
ライがアルフの術に対処したあと、吹き飛ばしたレヴィアタン(偽)が大口を開けてライに飛び掛かる。
偽物でもレヴィアタン。それなりなタフなのだろう。
「お前も……!!」
ライは床を踏み砕いてクレーターを造りながら跳躍し、天井に身体が当たるくらいまで近付く。
「大人しくしてろッ!!」
『キュルォ!?』
その刹那──天井が砕けた。
それと同時に、ライは加速してレヴィアタンの頭を撃ち抜いた。
貫通したレヴィアタンからは偽物にも拘わらず出血し、床に倒れ込む。
その衝撃によって床が大きく凹み、レヴィアタンは床下の奥へ沈んで行く。その向こうで弾けるのが見えた。
砕けた天井は辺りに降り注ぎ、アルフも手を出しにくい状態になる。
「チッ、面倒だ……!」
アルフは手を突き出し、降り注ぐ瓦礫に掌を当てた。
その動作と同じタイミングで降り注でいた瓦礫が再構成され、槍のようになってライへ放たれる。
「それも邪魔だ!!」
ライは裏拳を放ち、その風圧で槍の瓦礫を全て防いだ。
「レヴィアタンは始末した……次はアンタか。……なら行くぞ!」
悪役っぽい事を言うと同時に駆け出し、一瞬にして自身の速度を音速に到達させるライ。
「ハッ、テメェの番だろ?」
そんなライの言葉に返すアルフ。しかしライは音速、その言葉が届く前にライはアルフに到達した。
「あ、ゴメン。何て言ったか分からなかった」
「ああ、知ってる」
──刹那、ライとアルフが激突した。
「レヴィアタンで大分使ってしまったが……俺も忘れるなよ……!」
そして、二人の激突に横槍を入れるのはバハル。
バハルは残った魔力を絞り出し、数匹の毒蟲を放出する。
「邪魔だ!」
ライは毒蟲を蹴散らし、その全てを消し飛ばした。
「魔力の塊も言わば物質だぜ! 俺の魔力も合わせりゃ……!!」
そしてアルフは残った毒蟲を分解し、新たに魔物を構成した。
『シャアアァァァ!!』
「……"バジリスク"……!」
毒系列の生き物を錬成し、自分の魔力と合わせる事で新たな魔物を創り出したのだ。
『シャアアァァァ!!』
「…………。このバジリスクは見たら死ぬ感じじゃないな……」
ライはバジリスクを見ても死なないアルフのバハルを一瞥し、このバジリスクに見ただけで死ぬ能力は無いと推測する。
「……? テメェ……バジリスクを見たことあんのか?」
そんなライの様子を見たアルフは訝しげな表情でライへ尋ねる。
ライがバジリスクの事を知っているような様子だったからだ。
「……ああ、ちょっとな。……ついでに、レヴィアタンも見た事あるぜ?」
アルフの言葉に返すライは、バジリスクをレヴィアタンが見た事あると返す。
実際にそうなのだから嘘は言っていない。
「……ほう? ククク……見た事があるって事は……テメェの魔法・魔術その他諸々が無効ってのはバジリスクの性質すら無効化するのか……ますますヤバい能力だな……。それに、レヴィアタンも見た事あるか……」
それを聞いたアルフは楽しそうに笑い、ライに向かって話した。
嘘だと疑っている様子は無く、信じてくれたようだ。
「まあ、そんな事は心底どうでも良いだろ? 俺はアンタらを倒して迷宮の奥に進むだけだ……!」
そんなアルフに対し、勝負の続きを促すように話すライ。
事実、ずっと此処でのんびりしている訳にもいかない。
「ククク……良いぜ、俺もテメェらを妨害するのが仕事だからな。負けたら素直に認めるが、すんなり街を明け渡す程腰抜けじゃねェ!!」
『シャアアァァァ!!』
ライの言葉に返したアルフは、再び床を錬成して攻撃用の武器を造り出す。
アルフの行動に乗るバジリスクは毒を撒き散らし、ライへと身体をうねらせて向かい寄る。
「そうかい!」
『ギャ……!?』
そして、アルフが錬成した物質ごとバジリスクを殴り飛ばすライ。
バジリスクは吹き飛び、そのまま光となって消え去った。
「そらよォ!」
「……っと……」
そしてアルフは床に手を当て、床を盛り上げる。
それによってライのバランスが崩れ、少しだけライが傾いた。
「そこォ!!」
刹那、錬成された床は上下左右にうねり、そのままライ目掛けて突き進む。
その一つ一つの威力はそれなりで、宮殿の壁を砕いてライを狙う。
先端の部分が平らになっており、ライを押し潰す形だった。
「そんな物!!」
ズガァン!! ライは正面に拳を放ち、正面から壁を砕いた。
砕かれた壁にはクレーターが出来たように盛り上がり、そのまま大きく凹ませて錬成された壁を砕く。
砕かれた壁はヒビによって形を保つ事が出来なくなり、次の瞬間には粉微塵に粉砕して消滅した。
「まだまだ! 最終的には埃に空気……この世の万物は物質だ!!」
そしてアルフは──『空気を物質に変換した』。
氷点下なら空気が凍る事もあるが、触れただけで空気を物質に変えたのだ。
「つまり、テメェは見えない攻撃を受ける事になる……!!」
その瞬間、アルフはライに向けて固めた空気を放った。
元・空気の物質はライの視界から消え、見えない弾丸と化してライに向かう。
「……成る程……見えない攻撃か……」
ライはその攻撃を感じ、空気の気配を読み取った。
見えない攻撃とあればライも対処するのに苦労するだろう。
「関係無いな……!」
なのでライは床を蹴り砕いて壁を造り、壁と爆風でその攻撃を防いだ。
もう何度も床や壁を分解して再構成し、それをライが砕いているので既に原型はとどめておらず、迷路とは名ばかりの状態になっていた。
「……ったくよォ……この宮殿も随分とボロボロになっちまったなァ……。建物を造り上げる錬金術も結構疲れんだぜ?」
そんな宮殿の迷路を見たアルフは呆れたような表情でライへ話す。
錬金術には魔法・魔術よりも細かい過程が必要である。
そのお陰で魔法・魔術より繊細な建物や物質を造り出す事が出来るのだが、その分魔力の疲労も多いのだ。
召喚士に錬金術師……これらは体力の使う術なのだろう。
「……だが、宮殿はまた直ぐに再生させりゃ良い……。その為には、さっさとテメェを葬ってやるかァ……!!」
その瞬間、アルフはライとの距離を詰めて行く。
アルフは足元を分解して再構成し、形を変えた床に乗って近寄っているのだ。
「ハハ、さっきから葬るとか、倒すとか……それって、俺の台詞なんだよな?」
ドガァン! 床に乗って近寄るアルフに対し、床を踏み砕いてか加速するライ。
二人の距離は一瞬にして縮まり、
「オラァ!!」
「"鉄の拳"!!」
──素材は違うが同時に拳を放ち、二つの拳が激突した。
その衝撃によって宮殿は大きく振動し、瓦礫を更に消し飛ばして強烈な爆風が吹き荒れる。
そのまま粉塵が舞い上がり、次の瞬間には粉塵が消え去って視界が開ける。
「ハハ、こりゃ近付けないわ……」
それを見て苦笑を浮かべているバハル。
事実、バハルはもう既に魔力が底を尽いており、戦いに参加できない状態となっているのだ。
「……だが、手助けはするか……!」
『ギャアアアァァァァ!!!』
「…………!!」
そして、最後の力を振り絞ってライに幻獣・魔物──グリフォンを放つバハル。
グリフォンは空気を蹴って加速し、ライは一瞬だけバハルに気を取られてしまった。
「今だ……! "鉄の檻"!」
「……な!」
その隙を突いたアルフは片手を突き出し、その片手でライを鋼鉄の檻に閉じ込めてライから離れる。
何故片手なのかというと、もう片方の手はライとの衝突によって使い物にならなかなったからだ。
「行けェ!!」
「俺もだァ!!」
『ギャラオオオ!!』
そして、檻に入っているライに向けて飛び掛かるアルフとバハルとグリフォン。
バハルも魔族。普通の兵士よりは力が強いからである。
「……ハッ、良いぜ! だったら纏めて相手してやるよ幹部の側近さん方!!」
ライは檻の中で構え、檻ごとアルフ、バハル、グリフォンを吹き飛ばす体勢に入いる。
「"鉱物の巨大剣"!!」
「…………行くぞ……!!」
『ガラギャアアアァァァ!!!』
アルフはライに近付きながら巨大な剣を錬成し、それをライに向けて振るう。
バハルも拳を握り締め、グリフォンは加速しながらその速度をグンと上げる。
神の乗り物を引いていたその力は凄まじく、偽物でも音速を越える速度を出していた。
「…………」
ライは握力を込め、力強く握った拳を腰に当てて構える。
魔王の力は纏っていないが、ライ自身が出せる力を使うつもりなのだ。
「オ────」
「「『………………!!』」」
ライは腰を捻り、アルフ、バハル、グリフォンは今行っている行動を続けて突き進む。
「────ラァ!!!」
──刹那、ライとアルフ、バハル、グリフォンが激突し、その熱と衝撃で宮殿の内部が大きく歪み、爆風によって瓦礫に埋もれた床ごと周りが吹き飛んだ。
全てを吹き飛ばす破壊力の攻撃は宮殿の一部を粉々にし、その衝撃の余波だけで宮殿を消し飛ばした。
「…………ふう……」
そしてその場には、ライと壁が無くなって広くなった空間のみが残っていた。
アルフ、バハル、グリフォンの姿はその場から無くなっていたのだ。
*****
「……ケッ、負けちまったなァ……」
「…………ああ、まだ戦えるが……俺たち主催側は……いや、主催側も参加側も外に出た瞬間に参加券を失うからな……」
そして、宮殿の外に吹き飛ばされたアルフとバハルは寝転がっており、グリフォンの姿は無くなっていた。
ライたちに説明していなかった方のルール、"宮殿の外に出たら敗北"。
ライたちは外に出なさそうだから言わなかった……という訳ではなく、ただ単にシャドウが面倒だから言わなかっただけだろう。
「……さて、次の俺たちは観客として楽しむか……」
「ああ、そうだな」
それだけ言いながら空を見上げ、気を失うアルフとバハル。
パサリ……と、アルフの頭から山高帽子が落ちる。
こうしてライvsアルフ&バハルの戦いはライが勝利したのだった。
「……さて、ゴールを目指すかぁ……」
しかし、まだ戦いは続いている。
ゴールに辿り着くまで今の戦いは終わらない。
ライは広くなった道を進み、ゴールを目指すのだった。




