百三十四話 レイvsジャバル・フォンセvsルミエ
「オラァ!!」
「……! 見えた!」
ジャバルの足が床に突き刺さり、宮殿内を大きく振動させて床と壁が砕け散る。その動きを読んだレイは避け、ジャバルの死角に回り込んだ。
「やあッ!」
「俺も見えてるぜ!」
レイは勇者の剣を振るい、斬撃を飛ばす。
それによって天井は切断され、宮殿内に瓦礫を落とした。
それを読んだジャバルも斬撃と瓦礫を躱し、レイの近くに寄っていた。
「やあッ!」
「ダラッ!」
それと同時にレイが剣を振るい、ジャバルが蹴りを放つ。
二つの攻撃はぶつかり合い、その衝撃によって砕けていた瓦礫が舞い上がった。
「足で剣を……!」
そして、レイはジャバルがその足を使って自分の剣を止めた事に驚く。
当然だろう、リヤンの持つ勇者の剣は森を断つ力を秘めているのだから。
森を断つといっても、数本の木を同時に切り裂く程度じゃない。森そのものを消し去ってしまう程だ。まだそれでもかつての勇者が使っていた時に比べれば遥かに劣るがそれはさておき、それでも森を断つ力があるのだ。それを足だけで止めたのだからこの上無い。
「オラァ!」
「……ッ!」
そしてジャバルはそのまま剣ごとレイを蹴り飛ばす。
その蹴りを受けたレイは何とか堪えるが、またダメージを負ってしまう。
「ダラァ!」
「……!」
それを気に掛けず、堪えたレイに向けて再び蹴りを放つジャバル。
しかし今度のレイはその蹴りを避け、ジャバルの脚は勢いよく壁に嵌まる。
「ゴラァ!」
「……ッ!」
ジャバルはそのまま片脚を軸にして回転し、嵌まった脚を抜くと同時に壁の瓦礫をレイ目掛けて弾丸のように飛ばす。
レイの身体に少し掠るが、それは小さな傷を付けるだけであり、レイに大きなダメージを与えそうな物は勇者の剣で防いでいた。
「やあッ!」
防ぐと同時に剣を横に薙ぎ、ジャバルへ向けて斬撃を飛ばすレイ。
その斬撃は突き進み、宮殿の壁に亀裂を入れてジャバルへ向かう。
「食らうかよ!」
そしてジャバルは床を踏み砕いて跳躍し、そのまま壁を蹴って天井へ足を付き、その勢いでレイとの距離を詰めつつ斬撃をかわした。
「……! 壁を巧みに……!」
それはさながら忍のよう、壁を足場にしてヒョイヒョイと斬撃を掻い潜るジャバル。
「ハッ! 俺にとっちゃ壁に天井、全てが行動範囲だ!」
「──ッ!」
飛び回りながら蹴りを放ったジャバル。レイはその蹴りを剣の鎬で防ぐ。
それによって火花が散り、金属音が辺りに響いた。力は負けたが、直接ダメージは受けずに済んだ。
「たあッ!」
そしてジャバルを払うよう、レイは剣を横に薙いで振り抜いた。
「……! 重っ……!」
それと同時にジャバルの姿が消え、レイの剣には人一人分の体重さが加わったように重くなる。
「ククク……俺が乗ってもへし折れねェか……」
「……!」
その瞬間、レイの背後から声が掛かる。突然重くなった剣に掛かった声、レイは直ぐに理解した。
「……あ……剣が……!」
カシャンと、腕力が無く重さに耐え切れなくなったレイは剣を落としてしまう。
「おっと……やっぱり俺の重さも持て無ェか……。まあ、身体は普通の人間の女だから仕方無ェか……」
それを確認したジャバルは跳躍し、再びレイとの距離を取る。
「剣……!」
そんなジャバルは無視し、慌てて剣を拾おうとするレイ。
実際、剣が無ければジャバルの攻撃も防げず、こちらから仕掛ける事も出来ないので大変なのだ。
「ハッハー! 何もたついてやがる!? これはチャンスじゃねェか!」
そして直ぐ様距離を詰め、ジャバルは剣を拾おうとしているレイ目掛けて蹴りを放つ体勢になり、そのままの勢いで突っ込んで行く。
「はッ!」
「……!」
そんなジャバルに向け、レイは剣を拾うと同時に横に薙ぐ。
敢えて拾うのに時間を掛け、ジャバルが近付いて来るのを待っていたのだ。
「成る程、こういう事か……!」
「……!」
その状態から体勢を変えて距離を取り、様子を窺っていたジャバルには剣が当たらなかった。
「だが、その程度を見抜け無ェと思ったかァ!?」
様子を窺いつつ、距離を取ったジャバルは言葉を続けて再びレイの元へ近付く。
ジャバルは既にレイの作戦に気付いていたらしく、それ故に剣が当たらなかったのだろう。
「ゴラァ!」
「……!」
一瞬にしてレイとの距離を詰め寄りそのまま蹴りを放つジャバル。
レイは咄嗟のガードは出来なかったが、ジャバルの蹴りを避ける事は出来た。
ジャバルが蹴りを入れた場所には小さなクレーターが出来上がり、それと同時に床が大きく歪んで凹んだ。その衝撃によって辺りには小さな瓦礫の埃が舞い上がる。
「やあッ!!」
そして埃によって視界が悪い中、レイは勇者の剣をジャバルが居るであろう場所目掛けて振るう。
斬撃は飛び、軌道がズレる事無く進んで行く。
「テメェの剣、確かに中々の威力だが、正面にしか進まねェって弱点があるな?」
「……!!」
そして、レイの背後からジャバルの声が掛かる。
確かにレイの持つ──勇者の剣は正面にしか進まない。ジャバル程の者になれば避けるのは簡単だろう。
しかし、問題はそこでは無い。
ジャバルは埃が舞い上がってから、ほんの数秒でレイの後ろへ回り込んだのだ。
「ハァ!」
一瞬停止したレイだったが直ぐ様体勢を立て直して振り向き、それと同時に剣を振るった。
その剣はレイの背後にある壁を切り崩し、辺りには粉塵が散る。
だが、斬ったのは壁のみだった。
「ダラァ!」
「……ッ!」
天井から降ってきたジャバルの蹴りを剣で受け止めるレイ。
しかしその重さに押され、レイの身体はバランスが崩れてしまう。
「そこォ!!」
「──ッ!!」
そのままもう片方の脚を振るい、レイの脇腹を捉えるジャバル。鎧の無い脇腹を蹴られたレイは吐血し、その勢いで吹き飛んだ。
幾重にも迷宮の壁を突き破り、多くの道がある迷宮にも拘わらず一本の道が出来上がる。
「……」
床を踏み抜いて加速するジャバルはレイが吹き飛んだ方向へ向かう。
そして、レイが吹き飛んだ筈の場所には何も無かった。
「成る程。迷路の構造を利用して隠れたのか……。ククク……さっきの蹴りで動くのもやっとの筈だろうが……中々根性あるな……」
そう、此処は迷路・迷宮。
隠し扉に隠し通路、様々な道が多く存在しているのだ。
レイはその一つに隠れたのだろう。その事を理解しているジャバルも辺りを見渡す。
「しゃーねー……片っ端から砕いていくかァ……!!」
刹那、ジャバルは闇雲に壁や床、仕舞いには天井を蹴り砕いてレイの姿を探す。
それは一見滅茶苦茶に見えるが、余計な破壊はしておらず隠し通路などを的確に狙っていた。
ジャバルは宮殿内全てを理解している訳では無いが、元々直感力が高いのでこのような破壊行為を行えるのだろう。
「今……!」
「……! 何っ?」
そして、ジャバルが破壊している時、物陰に潜んでいたレイがジャバルに向けて剣を振るった。
ジャバルは、何故自分がレイの存在に気付かなかったのかと思っているような表情だった。
「グ……!」
そんな事を考えている様子のジャバルに向けて斬撃を飛ばしたレイ。
斬撃は見事ジャバルへ命中し、ジャバルの身体を切り裂いた。
それによってジャバルは出血するが、ジャバルにとってはそこそこのダメージで致命傷ではない。
「テメェ……何時から潜んでいた……?」
「さっきから……!」
──先程から潜んで待っていた。つまりレイは、意識せずに気配を消していたのだ。
恐らくそれは勇者の使う技なのだろうが、どのような技か分からない。
「ハッ、まあ良い……俺が油断しなけりゃ済んだ話だ……!」
「……そう!」
二人は同時に動き出し、剣と足が激突して宮殿を砕く。
その斬撃と重さによって生じた衝撃によって辺りは崩壊するが、関係の無い事だろう。
「ハッハッハァ!! 面白ェ!! 俺も久々に本気でやってみっかァ!?」
「……ッ! まだ本気じゃなかったの……!? 私は結構限界だったのに……!」
ジャバルの言葉に驚愕するレイ。
レイの身体はもうボロボロで、動けるのが不思議なくらいだ。
にも拘わらず、ジャバルは本気じゃなかったと言う。
「じゃあ、やるとすっかァ……!!」
力を込め、本気を出す体勢に入るジャバル。
レイは勇者の剣を構え直し、それに対抗すべく構えを取る。
レイvsジャバルの戦いは、お互いに本気を出すように力を込めた。
*****
「"大噴火"!!」
「"大噴火"!!」
フォンセとルミエは、土魔術と炎魔術を組み合わせた強大な魔術を放った。
そしてその衝撃により、宮殿の大部分が砕けた。
砕かれた宮殿は大きく揺らぎ、既にボロボロだった周りが更に細かく粉砕する。
「"雷"!!」
「"雷"!!」
その刹那の時に放たれた閃光と共に辺りは揺れ、轟音と共に電気が奔る。その衝撃によって瓦礫の粉塵は気化した。
「"光線"!!」
「"光線"!!」
次の刹那に二人は熱を持った光の線を放ち、二つの光線がぶつかって縦横無尽に飛び回る。
「「"鏡"!!」」
その瞬間、フォンセとルミエが造り出した鏡を光線に当て、飛び回る光線は更に加速した。
「「…………」」
そして二人は当たらない光線を消し去る。
この攻防は僅か数秒の間に行われたものだ。常人なら何もしていないように見えるかもしれない。
「やはり互角。私もお前も同じような魔力を使っているな……」
「同じような魔力……? 何の事か分からないが……確かに互角のようだ……」
二人は動きを止め、始めにルミエが話してそのあとフォンセが返す。
同じような魔力というのは恐らく、魔術の強さ的意味だろう。
つまり要するに、ルミエが始めの時に言ったようにフォンセとルミエは互角の力を持っているという事である。
「だが、互角でも戦い方次第では有利に運べる……!」
刹那、フォンセは跳躍してルミエから離れる。
そしてそのまま両手を天井に突き出したフォンセ。
次の刹那、
「"爆発"!!」
爆発と共に天井を砕いた。
砕かれた天井は重力に伴って落下し、下に居るルミエを巻き込んでいく。
「成る程。そういう事か……!」
そしてルミエは、フォンセの意図を理解した。
それと同時にルミエも跳躍して瓦礫に向けて両手を突き出す。
「そう簡単に成功させるか! "強風"!!」
そして瓦礫を吹き飛ばした。その瓦礫は宙を舞い、竜巻のように回って消し飛ぶ。
フォンセのしようとしていた事、それは天井から降り注ぐ瓦礫でルミエの視界を悪くし、死角から攻撃するという事。フォンセの視界も悪くなるのだが、まあそれは別としよう。
ルミエはそれに気付いて視界が悪くなる前に根源を吹き飛ばしたのである。
「ふふ、お前が気付く事に私が気付かないと思ったか?」
「……! 何っ!?」
その瞬間、フォンセはルミエの背後に回り込んでいた。
先程天井を崩したばかりなのだが、一瞬にしてルミエの背後に移動したのだ。
「"水の矢"!!」
それと同時に水魔術を矢のように細め、フォンセはルミエへそれを放った。
前にも述べたように、水は高圧で噴出すれば鉄をも貫通する凶器と化す。
「くっ……! "土の"……!」
ルミエが土魔術でそれを防ごうとする。が、咄嗟の攻撃に防ぎきれず壁を造り出す前にルミエの肩を射抜いた。
「……ッ!」
肩を射抜かれたルミエは苦痛に顔を歪め、宙から落下する。
ルミエは勢いよく落ちた為、その衝撃で瓦礫が舞い上がった。
「"炎"!!」
ルミエは落下したが、ルミエが埋もれた瓦礫から炎が放出される。
つまりまだピンピンしているという事だ。
「"水"!」
そしてその炎を水魔術で消し去るフォンセ。因みにフォンセは風魔術で浮遊している。
「全く……いつ回り込んだんだか……少しは効いたぞ……」
消し去ったと同じタイミングで瓦礫からルミエが現れた。
パンパンと、ルミエは身体に付いた汚れを払って立ち上がる。肩からは出血しているが特に気にしていない様子だ。
「ふふ……悪いな。こうでもしなければダメージを与える事も出来なさそうだったからな……まあ、勘弁してくれよ」
悪戯っぽく笑いながらルミエへ告げるフォンセ。
しかし死角を突かなくては互いにダメージを与える事も出来ないは事実だ。
「なら……私は敢えて正面から攻めてみるか……"連鎖爆発"!!」
その瞬間、宮殿内を轟音と共に爆発が連鎖して駆け巡り、床に壁に天井を爆破しながら一気に宮殿を崩していく。
「随分と派手に爆発させるな……。私の仲間は問題無いと思うが……お前の仲間は大丈夫なのか?」
その様子を宙から眺めていたフォンセはルミエの仲間。つまり幹部とその側近の事を話す。
ライたちは信頼しているので問題無いが、ルミエの仲間を詳しく知らないフォンセは心配。という意味ではなく、侮っているという意味で挑発するように言ったのだ。
「ふふ……私の仲間も問題無い。……寧ろ……お前の仲間には人間が居たからな……その方が心配だ……」
ルミエの仲間を心配するフォンセに対し、逆に挑発するよう不敵な笑みを浮かべて告げるルミエ。
「ふふ……言っただろ……? 私の仲間は問題無いってな? 取り敢えずこれ以上破壊されてゴールを見付けにくくなったら大変だ……。さっさと片付けて先に行くとしよう……」
そんなルミエに向けて再び挑発するように話すフォンセ。
その言葉と同時に先程の風魔術の名残がザァと響き、フォンセとルミエの髪を揺らした。
「片付ける? それは私の台詞だろ……」
その言葉に返しつつ、魔力を込めて改めて構えるルミエ。
互いに互いを挑発し、互いは互いに向けて魔術を放出する。
このゲームの目標は悪魔でゴールを目指す事なのだが、まだゴールに進んでいないにも拘わらず戦いが続いていく。
しかし敵を倒さなければゴールを目指せない。
ゴールを目指す為、征服を成功させる為、戦いは続くのだった。




