百三十一話 一人vs二人
「……ふう、大分破壊したかな……。特に注意も入らないし壁を壊して進むのはルール違反じゃないのか……」
数十枚の壁を砕いたライは、少し進んだところから歩き出していた。
全ての壁を砕くのも良いのだが、先ずはゴールを目指すのが先決だからだ。
なのである程度障害が無くなったところで歩き出したのである。
「さて……と……」
そしてライは顔を上げ……。
『グルルルル……』
『ガルルルル……』
「コイツらは……"アンフィスバエナ"と"ワーム"だっけか……」
一匹の幻獣と一匹の魔物の姿を確認した。
──"アンフィスバエナ"とは、長い身体の両端に頭を持つ蛇の仲間である幻獣だ。
その容姿は四本の足があり背中には蝙蝠のような翼が生えているものだ。
そしてアンフィスバエナは他の蛇より寒さに強く、砂漠に棲んでいると謂われている。
その口からは猛毒を吐き出し、その毒で獲物を仕留める幻獣である。
──そして"ワーム"とは、手足が無い龍の一種だ。
その容姿は蛇のような細長い身体に龍の顔があり、身体の半分以上の長さがある牙を持っている。
そして地を這うように進む。
性格は極めて凶暴で、炎や毒を吐き、その長い身体で巻き付いて締め殺すとも謂われている。
龍と蛇を足して割ったような魔物、それがワームだ。
アンフィスバエナとワーム。二匹の生物がライを阻むように現れる。
二匹の共通点はどちらも猛毒を持つという事だ。
この二匹は恐らく道を通らせない為に配置された罠の役割を果たしている筈である。
「アンフィスバエナにワーム……結構強い位置に立っている生物じゃなかったっけ……」
この二匹を相手取るのは少々骨が折れるだろう。
なのでライは、
「まあ、この程度ならマンティコアや大天狗、八岐大蛇の方が遥かに強かったな……。いや、マンティコアは違うか?」
『『…………ッッ!!?』』
アンフィスバエナとワームの間を呟きながら通り過ぎ、二匹の細い身体を引き裂いた。
二匹は反応する間も無く絶命し、それと同時に先程までライが立っていた場所には遅れてクレーターが造り出される。
「さて、さっさと進むか……」
ライは二匹の亡骸を一瞥し、迷路の奥へ進もうとする──
──その刹那、
「っと……!」
ライは床を踏み抜いて跳躍した。
それと同時にライが居た場所は崩れ落ち、大きな穴が空く。
ライが跳躍したのは"それ"を避ける為、そしてライは安全? な床に移動し、その者"達"へ告げる。
「オイオイ……いきなり攻撃かよ……アンタら……結構酷いんじゃないか?」
「"製造"……!」
次の瞬間、一人がライの言葉を返さずに『崩れた床を再構成させて』、鋭利な武器にした。
「……! 物質を分解して再構成する技……まさか……!」
そして、それを見たライの脳裏に一つの術師が過る。
物体を破壊、創造させる術師の存在が。
「"建造"……!」
ライがそう考えている時、その者は床をハンマーのように変え、ライを潰す為にそれを仕掛ける。
「聞く耳無し……か……」
攻撃を仕掛け続ける者の様子を確認し、話す事は無理だと決断を下したライはそのハンマーのような形をした床を殴り付けて粉微塵に砕いた。
「……!」
その者は目を見開いて驚き、ライの方へ視線をやる。
「何処見てんだ? 俺はこっちだぜ?」
「「…………な!?」」
そして、その者達の背後に回り込んだライ。
二人は目で終えなかったらしく、思わず声を上げて振り向──
「残念、俺はこっちだ」
「「…………!?」」
──く暇も無く、再びライに回り込まれていた。
相手がその気ならライもからかってやろうという、負けず嫌いな性格から来るものだろう。
「「…………」」
その二人はゆっくりとライの方へ視線をやり、今度は移動しなかったライに焦点を合わせた。
それを確認したライは、フッと笑って言葉を続ける。
「俺はただ話をしたいだけなんだ……。まあ、聞きたい事を話終えたら幹部の側近だし倒すけど……」
「「…………」」
ライは二人に向けて話したいだけだと告げる。そのあと物騒な事を口走ったが、まあ、別に良い事だろう。
「アンタらが幹部の側近ってのは見て分かる。……で、俺が気になったのは仕掛けてきたアンタが使った技……いや、術だ。……これに見覚えが無いか……?」
「……!? これは……! まさか……!!」
そして、ライはその一人へ向けてポケットからある物を取り出す。
それを見た瞬間その者は見て分かるように驚愕し、黙っていた口を開いた。それを確認したライはその者へ取り出した物を見せる。
「"賢者の石"……金を無限に生み出すと言われている石……その欠片さ。アンタなら何か分かるんじゃないかって思ってね……そう、物質の分解、再構成を行う……"錬金術師"のアンタならね……」
ライが一連の流れを見てその者に思った事。それはその者が分解、再構成を行い、熟練者になると巨万の富を築く金塊を生み出せると謂われる術師──錬金術師。
錬金術師はクッと笑ってライに返した。
「ほう……。少しは頭が回るようだな……いや、かなり……か……。……答えよう、ああそうだ。俺は錬金術師。名は『アルフ』っていうんだ。以後お見知りおきを……」
錬金術師、名をアルフ。
その者はそう名乗った。因みに言い忘れていたが、アルフは山高帽子を被っており、絵に描いたような術師のようは格好だった。
「ああ、よろしくなアルフ。で、"賢者の石"を見て大きく表情を変えたが……やっぱりこれは本物なんだな?」
そして山高帽子はさておき、ライは"賢者の石"を前に出してアルフともう一人に見える位置へ持ってくる。
それを見ていたアルフは頷いて返す。
「ああ、先ず間違い無ェな……それは紛れもない"賢者の石"で違いない。……何処で手に入れた?」
"賢者の石"に興味津々なアルフはライに尋ねる。
そんなアルフに対し、ライは悪戯っぽい笑みを浮かべ、
「それを知りたいなら……さっさと通してくれないか? 通してくれれば教えてやろう……」
「……あ?」
挑発するように返した。
ゲームをクリアする為にはこの迷宮を抜けなくてはならない。
なのでライは、情報提供と等価交換で道を開けてくれと言ったのだ。
「ハッ、そういう事なら却下だ。それなら俺はお前から"賢者の石"の欠片を奪って自分で調べてやるよ! 元々テメェらをゴールへ近付けさせないのが俺たちの役目だからな!!」
その刹那、床が大きく変形し、ライ目掛けて凶器と化した床が攻め来る。
蛇のようにうねり、分裂して一つ一つの鋭利な床だった物が迫り──
「オラァ!!」
──ライによって砕かれた。
「ハッ、確かに幹部の街々を征服する為の力は備え付けられているようだな! オイ! 『バハル』! テメェも戦え!」
それを見たアルフは笑い、ライを狙ったもう一人──バハルに話した。
「オイオイ……俺はまだ名乗って無いのに……何で先に言っちゃうかな……」
バハルはアルフの行動に呆れ、ため息を吐いて返す。それを見るに、バハルは自分から名乗りたかったのだろう。
そしてライの方を一瞥し、ライに向かって話す。
「まあ、俺もお前を倒すつもりだから余計な事はいいか……。改めて、俺はバハル。そして俺の使える術は……」
『ヒヒィィィン!!』
『ガラギャアアァ!!』
「……!」
その瞬間、バハルの合図と同時に"ペガサス"と"グリフォン"が姿を現した。
何もなかった空間から、突如として二匹の幻獣が姿を現したのだ。
「幻獣を召喚する事……つまり俺は……召喚士だ……」
召喚士。幻獣・魔物を召喚して嗾ける魔術師の一つ。
──そして"ペガサス"とは、羽の生えた馬である。
その羽を巧みに操り、空を飛ぶ事が出来る。
性格は温厚で、こちらから仕掛けなければ問題無い。
能力的にも飛行能力以外は普通の馬と変わらない。
──続いて"グリフォン"とは、獅子の身体と鷲の羽を持つ幻獣である。
獅子の身体は白く、鷲の羽は金色と謂われている。
そしてグリフォンは黄金を護る事から"知識"の象徴と呼ばれ、陸の王と空の王の身体を持つ事から王家の象徴とも謂われる。
グリフォンの役目は二つあると謂われ、それは神々の車を引く事と黄金を護る事だ。
"知識"と"王家"の象徴を持つ獅子と鷲の身体を持つ幻獣、それがグリフォンである。
「召喚士か……。なら、このペガサスとグリフォンはアンタが今、この瞬間に召喚した……って事だな……。恐らく……さっきのアンフィスバエナとワームもアンタが召喚したものだろ?」
ライはペガサスとグリフォンを一瞥したあと、バハルの方へ視線を向けてアンフィスバエナ・ワーム・ペガサス・グリフォンは召喚された生き物だと推測する。いや、推測するまでも無く召喚された幻獣だろう。
「ご名答……。だが、これらは本物じゃない。言わば俺が魔力から創り出したエネルギーの集合体さ……」
その推測を聞いたバハルはペガサスとグリフォンを消し去り、自身の魔力で創った生き物と説明する。
命を創り出す事は並大抵の者では出来ない。
そして本物を別の場所から連れてくるとしても、先程のアンフィスバエナやワーム、ペガサスにグリフォンのように静かに待つ訳が無い。
突然別の空間に移動させられたのなら戸惑ってしまうだろう。なので、バハルが創り出した幻獣・魔物は全てバハルの魔力なのである。
「へえ、偽物の幻獣・魔物を魔力から創り出す……ねえ? じゃあ、この宮殿はアンタらの錬金術師と召喚術……その二つを上手い具合に使って造り出したってところか……成る程ねえ……」
その説明を聞いたライは、この宮殿の秘密を推測した。
シャドウはエレメントを使えず、この宮殿は側近の誰かが造ったと述べた。
アルフとバハル、この二人の術を組み合わせれば宮殿くらいなら造り出せそうである。
「ハッ、全体的に曖昧だな。上手い具合にってどんな具合だよ。悪魔で推測って事か? ……まあどうでも良い。取り敢えず俺たちはテメェをこの場で仕留めなきゃならねェからな!」
「……って事だ……悪く思わないでくれ。俺たちの使命って奴だ」
アルフとバハル、錬金術師と召喚士。
宮殿に入ってようやくそれなりの力を持つ者と一戦交えそうになりそうである。
「当初の無口っ振りは何だったんだ? 随分と饒舌になったじゃねえか……。まあ、俺もアンタらを倒して先に進むだけさ……!」
ザッと改めてアルフとバハルに向き直り、構えを取るライ。
そして白亜の宮殿内部にて、ライvsアルフ&バハルの戦いが今始まる。
*****
「まさか……大外れだったなんてね……」
「……うん……」
右側に進んだリヤンとキュリテ。こちらの二人は右と左、どちらに行こうか悩んだ結果右側に進んだ。
そんな二人の言葉からするに、どうやら外れの道を選んでしまったようだ。
「ハッハッハ! まさかお前達と出会うはな! "レイル・マディーナ"幹部、ダークの野郎んとこに居た側近とカフェで話した奴じゃねえか! 割りと接点がある奴が相手で良かったぜ! 知り合いなら容赦なく倒す事が出来る!!」
そう言い、外れの存在。つまり幹部であるシャドウは両手を広げてリヤンとキュリテに向き直った。
「どうやら避ける事は出来ないみたいだね……!」
「……うん……!」
そんなシャドウへ構えるキュリテとリヤン。
キュリテは魔力を溜め、超能力に集中する。そしてリヤンはフェンリルたちの力を宿し、何時でも動ける体勢になる。
「ハッハッハ! 良いじゃねえか! 他の街に住む幹部の側近と戦う機会は無えからな! それに加えて中々やりそうな奴も居ると来た! テメェらァ! 精々俺を楽しませてくれよ!!」
「「…………!!」」
その刹那、シャドウの姿がゆらりと揺らいだ。
それはさながら日の光に照らされた影のように、その姿が揺れているのだ。
「"影の刃"……!」
そして揺れに気を取られていたリヤンとキュリテ。
「「……ッッ!!」」
二人が気付いた時にはシャドウが背後に回り込んでおり、それと同時にリヤンとキュリテの脇腹が切り裂かれていた。
「これが俺の使える技……いや、術の方が正しいか……?」
リヤンとキュリテが床に倒れ込み、二人の脇腹からは真っ赤な鮮血が流れる。
シャドウは一瞬にして二人の背後に移動し、通り過ぎる瞬間に二人を切り裂いたのだ。
「い、一体……」
「何を……?」
何をされたのか分からないリヤンとキュリテは伏せながら困惑していた。
その様子を見たシャドウは腕を組み、その口を開く。
「そうだな。別に説明しても対策される訳じゃねえし、教えても良さそうだ……。俺は影を操れるのさ。そして俺自身も影になれる」
「影……」
シャドウの言葉を聞いたリヤンはその言葉を復唱する。
影の術などあまり聞かないが、シャドウはそれを扱えると言う。
「まあ、詳しい情報は戦いながら見つけりゃ良いだろ? 取り敢えず影が実体を持っているって考えりゃ良い。……テメェら……まだやれんだろ? さあ、続きと行こうじゃねえか……折角の戦闘だ!」
リヤンの言葉に返すよう、淡々と言葉を綴ってリヤンとキュリテへ戦闘を促すシャドウ。
「うん、戦いはこれからだね……!」
「……うん……!」
リヤンとキュリテも立ち上がり、二人と一人は互いに睨み合う。
リヤンは自身の回復の力、そしてキュリテは"ヒーリング"で傷を癒して起き上がったのだ。
「ハッハッハ! まだまだやる気か! ……最高だ! 俺もまだまだやる気だぜ!」
「今度はそう簡単に食らわないよ!」
リヤンとキュリテの周りをキュリテの"サイコキネシス"が囲い、二人は咄嗟の攻撃にも対応出来る体勢となる。
「ああ! あっさり終わったらつまらねえからな!」
それに合わせるよう、シャドウも影を周りに創り出して影で自身を覆った。
"サイコキネシス"と影の集合体。その二つは激突し、宮殿内を大きく振動させる。
ライvsアルフ&バハルの戦いと、リヤン&キュリテvsシャドウの戦いが、今始まった。