百二十九話 突然の報告
「よう。レイ、エマ、キュリテ。そっちはどうだった?」
──数時間経ち、話し合いを終えたライ、フォンセ、リヤンのチームとレイ、エマ、キュリテのチームが合流した。
合流するや否やライは、レイたちに情報収集の成果を尋ねる。
「うん、楽しかったよ!」
「……え?」
それに対してレイは、楽しかった。と告げる。それに対して素っ頓狂な声を上げつつレイの方を見やるライ。
その手には袋を持っており、エマとキュリテも何かを持っている。
「……成る程」
そして、それを見たライは全てを理解した。
「まあ、それは別に良いか……。三人とも楽しそうだし……あーそれと……」
──がしかし野暮な突っ込みはせず、ライは自身の言葉を続けて話していた。
「「「……?」」」
そんなライの言葉に訝しげな表情で返すレイ、エマ、キュリテの三人。
ライは頭を掻きながら物事を誤魔化す子供のような笑みを浮かべ、口を開く。
「……悪い。あまり情報的な物も集まっていないけど……明日戦う事になったから」
「「……え!?」」
「……ふむ」
それは、ライたち一行と"ウェフダー・マカーン"メンバーの戦闘が明日行う事になったとの事。レイとキュリテは声を上げ、エマはフッと笑っていた。
*****
──数時間前・"ウェフダー・マカーン"カフェ。
「……で、何を話していたんだ? 結構重要そうな事ってのは分かるぜ?」
ライとルミエの会話に入り込むシャドウは、不敵な笑みを浮かべてライとルミエへ問う。
「……別に何も? ……まあ、アンタの側近さんが俺たちの目的を知りたいんだとさ」
そんなシャドウへ向け、ライも不敵な笑みを浮かべて返した。
然り気無く自分の方からルミエの方へシャドウの意思を逸らそうとしているのが窺える様子だ。
「へえ? お客さんの目的ねえ……」
シャドウはチラリとフォンセ、リヤンを一瞥し、再びライとルミエへ向き直る。
そして、クッと喉を鳴らして笑いながら言葉を続けた。
「それは……『この街を征服する』……とかじゃねえのか?」
「……」
「「「……!?」」」
シャドウが告げた言葉は正にライたちが目的としている事。
それを聞いたフォンセ、リヤン、ルミエは目を見開き、ライは無言で笑みを浮かべていた。
「へえ? また物騒な事を言いなさって……一体どういう根拠があって?」
軽薄な笑みを浮かべながらシャドウへ尋ねるライ。
勿論ふざけている訳ではなく、目的を明かない為に敢えて飄々とした態度を取っているのだ。
しかし、シャドウはもう既に気付いているだろう。ルミエとさっき出会ったジャバルは気付いて無さそうだ。
「オイオイ……根拠だあ? ハハ、お前の態度こそが核心を突く根拠だろうよ。違うなら違うと即答で返しゃ良い……だが、お前はわざわざ疑問をぶつけた。……まあ、それだけじゃ断言出来ねぇがな」
シャドウはライの様子からライたちが征服を目標にしていると推測した。
無論、それだけでは決める事の出来る訳が無いのでシャドウは言葉を綴って説明をする。
「……"レイル・マディーナ"のマンティコア騒動、そして幹部の側近が一人減ったという報告がある。つまりその側近は何か問題を起こして消えたと推測できる。次に唯一征服されたという報告がある"イルム・アスリー"に……ベヒモス騒動があったにも拘わらず直ぐに復興した"タウィーザ・バラド"。一番近場では城が消えたという"シャハル・カラズ"……まあ、要するに……だ。つい数ヵ月前まで何の変哲も無かった魔族の国に、何かが起こっている。そしてそれと同時に幹部の側近を連れた旅人が必ず騒動が起きた街に居る……もう確定だろ」
シャドウの根拠は幹部の街々で起こった騒動を調べ、その騒動に加わっていた人物を洗い出して推測するという入念に手を施された確かなる根拠だった。
「成る程な。それらの事柄を繋ぎ合わせる事によって一番それに該当する者たちが侵略者。そしてそれに最も近いのがこの街へ入った俺たち……って事か」
シャドウの推測を聞いたライは紅茶を一口飲み、そのコップを置いてシャドウを一瞥する。
「オーケー、当たり。俺は侵略者で今は情報収集をしている最中だ……。まあ、見ての通り収穫はゼロ……では無いにしてもまだそんなに集まっていない……」
「……!?」
「ハハハ……随分と正直になったじゃねえかよ……」
観念したライはフッと笑い、自分の目的を淡々と綴っていく。
それを聞いたルミエは目を丸くして驚き、シャドウは愉快そうに笑っていた。
シャドウは笑いながらもライに尋ねる。
「……で、どうするんだ? このままこの街も征服するのか?」
「ああ、そのつもりだ。……情報収集も出来て無いし……まだこの街の事もよく分かって無いが……取り敢えず征服する予定さ」
そしてその問いに即答で返すライ。
ライは否定する事無く自分たちが侵略者でこの街"ウェフダー・マカーン"を征服すると告げた。
「そうか。なら、俺もこの街の幹部にして護衛やらも担当している……そう簡単に明け渡す訳にはいかねぇな……」
その言葉を聞いたシャドウはライたちが囲んでいるテーブルの上に座り、腕と脚を組んで話した。
「……オイオイ……それは兎も角、テーブルの上に座るのは行儀が悪いんじゃないか?」
そんなシャドウに向け、ふざけるように話すライ。
実際テーブルに座るのは行儀の悪い事だろうが、如何せんライ、フォンセ、リヤン、ルミエが椅子に座っている為、空きが無いのだ。
他のテーブルから椅子を取ってくれば良いが、この会話の中ではそんな行動を起こしにくいだろう。
「……ハッ、悪いな。生憎だが俺の席が無いようだからな……それに、侵略者の前で隙を作る訳無えだろ?」
その事を説明しながら笑うシャドウ。
ライ、フォンセ、リヤンの三人も警戒を高めており、シャドウとルミエの"ウェフダー・マカーン"の二人も警戒している様子で何時でも戦闘を行える状態だった。
「じゃあ、取り敢えず問題は俺からの挑戦を受けるかどうか……だ。俺は当初の目標通りこの街を征服する。……が、別に戦いたくないのなら戦わなくても良い。征服するどうこう依然に俺たちは、出来るだけ反感を買わない征服をしているからな。相手が最も得意とする方法で征服する、それが俺のやり方だ。そして街の方は俺の目的を完全に達成するまで普段通り幹部たちに任せる。無論、奴隷にしようという気も毛頭無い」
「……ほう?」
そんなライはシャドウへ向け、他の街の幹部たちに言ったように戦いたくないなら構わない。この街をどうこうしようという気は無いと告げ、ケーキを食べ終えた。
それを聞いたシャドウは再び口角をつり上げて笑い、
「じゃあ……受けて立つぜ? この街を活発にさせる為にゃあ、派手なイベントは必要だからな。"侵略者と街を護る幹部たちの戦い"……ハッハッハ! これは盛り上がるぜ!」
そう言い終えた。
シャドウが"ウェフダー・マカーン"を不気味な風貌に仕立て上げたのは観光客を呼ぶため。だがしかし、不気味過ぎて逆に人が近寄らなくなってしまった。
なのでシャドウは、ライとの勝負を受ける事によって人々に活気を与えようという考えなのだ。
元々魔族は戦闘好きな種族、この街の者達は戦闘どころか他人との関わり合いを否定している。そんな者達でも白熱した戦いを見れば何かをやろうという気持ちになるかもしれない。
それに加え、ライは金銭やこの街の者を要求するつもりが無いという。
そう聞けばシャドウ達へのデメリットはプライドが邪魔する事か征服された事実が残るのみだ。
全て被害も何も無い、プライドの問題で決める事が出来る要求。
それだけで街を賑やかに出来るならば安いものだろう。
「どんな戦闘を行うとかは俺たちが決めて良いんだろ?」
「ああ。それを乗り越える事によって俺は目的に近付けるからな」
そして、シャドウは戦闘法などは自由にして良いと言われた為、その事について言葉を続ける。
「じゃ……時刻は明日の朝方、この街で一番大きな広場にて待つ。そこでルールを決めようや……」
先ずは時刻と場所を決めたシャドウ。朝方を選んだのは魔族にとっても、人間にとっても互いにハンデが無くそれなりの行動が出来るから。それについての詳しい説明は明日行うらしい。
「オーケー、分かった。明日だな? どんなルールでも受けて立つさ……」
シャドウの言葉を聞いたライは紅茶を飲み干して立ち上がり、カフェ的な店から外に出た。
それに続くフォンセとリヤン。フォンセとリヤンは話に入れなかったが、特に文句も無い為了承してくれたのだろう。
ライ、フォンセ、リヤンの三人は店を後にし、レイ、エマ、キュリテの居る場所へ向かう。
*****
──そして現在、ライはレイ、エマ、キュリテの三人に戦闘を行う事になった経緯を説明し終えた。
「へえ、それで。……でも、私たちも準備は出来ているよ!」
「うん♪ ライ君たちが何時戦いに行くとしても私たちは問題無いよ♪ まあ、私は普通なら魔族の国側なんだけどねー」
「私も問題ない。それに、さっさと目的を達成できるならそれが良いだろう」
ライの話を聞いたレイ、エマ、キュリテの三人は了承するように頷いて返した。
三人とも既に覚悟は出来てきたらしく、ライの言葉に否定は無い様子だ。
「……じゃあ、まだ昼時だけど……これからどうする?」
そしてレイたちに報告したあと、ライはこれからについてレイ、エマ、キュリテへ尋ねた。
この街に着いたのが朝、なので今は昼時である。
つまり要するに、明日まではまだまだ時間があるという事。
「うーん……俺的には人も増えて来たし取り敢えず立ち話もなんだからな……何処か話しやすい店に入るってのもいいけど、うーん。この話し合い、うーん……この街を征服する話だからな……。今は聞いてる魔族がいないけど……これから更に増えそうだな。……うーん、どうするか……」
ライは辺りを見渡し、魔族が増えてきた事もあるので何処かに入って話し合うかを考える。が、物騒な事を話すので店で話そうか迷っている様子だ。
「取り敢えず"うーん"が多いな。少し落ち着くと良い」
そんなライの様子を見たエマは、苦笑を浮かべながら一つの言語が多いとライへ指摘した。
それを聞いたライはハッとし、言葉を続ける。
「よし、じゃあ一旦宿に帰るか……。元々宿を探し当てたのは拠点にする為だし、どうやって宣戦布告するかとかを話し合うつもりだったけど……シャドウ達とバッタリ出くわしてもう解決したからな。明日に備えるのが一番良いかもしれない……」
そして、ライは準備を整える為に宿へ戻る事を提案した。
準備を整えるといっても休んで体力を温存するくらいだが、まあそれはどうでも良いだろう。
「ああ、それが良さそうだ……。ただでさえここ数日はベヒモスやら幹部やら、あらゆるモノ達と戦闘を行ったからな。疲れが取れたようでまだ残っているだろうさ……」
ライの提案に賛成するエマ。
エマはライたちの疲労を心配していた。ライたちの表面上の怪我などはエマ、フォンセ、リヤン、キュリテによって完治しているが精神的な面での疲弊は取れていないと予想したからだ。
「……じゃあ、今日は宿に帰って作戦や疲れを取る作業を中心とするか……」
「「うん」」
「ああ」
「そうだね」
エマに続いてライの提案に賛成したレイ、リヤン、フォンセ、キュリテは、宿へ戻る事となった。
*****
「さて、と。……今日は何だか気分が良いな」
──朝、珍しく眠気無く起きる事の出来たライは同じ部屋のフォンセとリヤンに向かって一言話した。
「ああ、この街の雰囲気はアレだが……宿は中々の泊まり心地だったな」
「うん、眠さももう無いや……」
フォンセとリヤンも起きており、今朝は眠い目を擦っていない。ライと同様スッキリとした目覚めだったらしい様子だ。
「……さて、昨日はライたちがこの部屋に来たが……今日は私たちがライたちの部屋に向かうとしよう」
「うん、分かった」
「さんせーい」
一方のレイ、エマ、キュリテの三人。
レイとキュリテも目覚めており、顔を洗ったりなどの下準備を終わらせていた。
「よし、全員揃ったし……行くとするか。確か広場だっけ?」
そう言い、全員揃ったライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人はシャドウに言われた場所へ向かった。
その道中では、相変わらず不気味な景観漂う場所が広がっていたが今回は他の魔族が多い様子だ。
恐らく"タウィーザ・バラド"のホウキレースのようにライたちとシャドウ達が行う戦闘を利用して活気を上げようとする考えなのだろう。
事実、昨日は暗い雰囲気だった街にはほんの少しだけ明るい空気が漂っていた。ほんの少しだけ。
「よう、来たか……」
「昨日振りだな」
「貴様らが侵略者だったとはな……」
"ウェフダー・マカーン"の広場という場所に行った事が無かったライたちだが、人だかりとその中心に仁王立ちしているシャドウとジャバル、ルミエの姿を確認してその場所が広場だと一瞬で分かった。
「ああ、来たぜ。約束通りな……。この様子を見れば……この街の住人は全てを知っているんだな……」
そんなシャドウに向けて話すライ。
ライは住人が集まっているのを眺め、既に街中へ広がっていると推測した。
これなら他の街へ報告されそうだが、残った街はこの街と支配者の街を合わせて残り三つ。
ライはもう殆ど魔族の国を征服したのであまり問題が無さそうだ。
「さて、御託はもういいだろ。……さあ、ルールを説明してくれないか? 今の俺は観光客じゃなく侵略者だからな……アンタら的にもほったらかしには出来ない筈さ……」
「ハッハッハ……言うじゃねえか……。だが、一理ある。さっさとやった方が良さそうだな。ギャラリーも待っている」
挑発するように話したライへ向け、不敵な笑いを浮かべるシャドウ。ライも軽薄な笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ハハ……じゃあ、ルールは何だ? 民衆が待っているぞ?」
「ああ……ルールは……!」
そして次の瞬間、シャドウの口から"ウェフダー・マカーン"で行われるルールが発せられた。
「"迷路"だ!」
戦闘は迷路で行われる。響きだけなら危険が無さそうだが、そんな訳が無い。
そして、シャドウの合図と共に大きな建物が一瞬で造り出された。これが舞台となる場所だろう。
今、街の住人に囲まれた"ウェフダー・マカーン"で迷路を利用した戦闘が始まろうとしていた。