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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第七章 暗い街“ウェフダー・マカーン”
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百二十七話 姓名

「……ちらほら他の魔族もその姿を見せてきたな……。やはりこの街の者でもずっと籠っているのは無理そうなのか……」


 道行く魔族達を眺めるエマは、ライたちのように話し掛けないようにしていた。

 何故ならこのパーティは人間のレイ、ヴァンパイアのエマ。そして"レイル・マディーナ"幹部の側近キュリテ。という、魔族の国に住むものなら誰しも異質と感じるパーティだからである。

 つまり知り合いでも無い限り警戒されてしまうという事だ。


「……で、何処に行くのー? レイちゃんにエマお姉さまぁ?」


 魔族達を眺めるエマとレイに話し掛けるのはキュリテ。

 取り敢えず街を見て回ると決めたのだが、その目的も決めずに彷徨うろついている為、キュリテは気にしたのだろう。


「うーん……じゃあ、やっぱりお店に入るのが良いのかなぁ? 流石に店員は話し掛けても大丈夫そうだし……」


 そんなキュリテの疑問に返したのは意外にもレイだった。

 レイの考えはこうだ。そこに勤める店員ならば、道を歩いている一般魔族のように警戒せず話せる。という事だろう。

 レイはそう思ったような表情で提案した。


「ああ、確かにそれが良さそうだ。……だが、適当に選んだらまた変な店に迷い込みそうだな……店選びは慎重に行こう」


 レイの提案に同調しつつ、先程の魔女のような者みたいな奴がいるかもしれない店は止めようと話すエマ。レイとキュリテはエマの言葉に頷いて返した。


「うん、私もそれが言いたかった。だってさっきのお店は……」


「うんうん。……分かるよ、レイちゃん。あのお婆さん? 魔女? 不気味だったからねぇ……」


 しかしまあ、この二人が最も同意した部分と言うのは先程の魔女らしき者が不気味だったとの事で、店云々(うんぬん)はレイも考えていたらしい。


「まあ、魔女っぽかった者の不気味どうこうは良いとして……どのような店に入るかだな」


 そしてエマは魔女? については特に突っ込まず、レイとキュリテへどの店に入るかを促す。


「うーん……やっぱりメインが情報収集だからね……。だけど情報収集って言っても結局は自分の足で探さなきゃだし……。ある意味の情報収集ならキュリテも知らないこの街の文化……かなあ?」


 レイが考える店はこの街の文化──例えば"シャハル・カラズ"で見た衣服のような独自の物である。

 それを知る事によって何かが分かるかもしれないと思ったのだろう。


「文化……か……。ふむ、確かに良いかもしれないな」


「それならついでに買い物も出来るかもねー。旅に必要な物を買ったりとか……必要ないかもしれないけど」


 レイの提案に賛成する口振りのエマとキュリテ。

 これならもう決まったも同然だろう。


「じゃあ……行ってみよっか?」


「ああ」

「うん♪」


 こうしてレイの提案に乗ったエマとキュリテ。

 レイ、エマ、キュリテの三人は情報収集の為に文化を知る事の出来る店を探すのだった。



*****



「……ど、どうかしたのか……? もしかして私……何か変な事……気に食わない事でも言ってしまったか……? それか私が幹部の側近だからか? 幹部の側近と言っても知っての通り害は無いぞ……」


 一方のライ、フォンセ、リヤンたち。そんな三人の反応を見たルミエ・アステリ。

 ルミエは客であるライたちに幹部の側近と言ったので、恐怖的な意味で絶句していると思っているようだ。


「……あ、いや……幹部の側近ってのは別に問題無いんだ……けど……」


 そんなルミエに返すライは、気に食わない事を言ったから絶句した訳じゃないと弁解する。

 しかし言いたい言葉が見つからず、手探りで言語を探している状態だった。


「そうか? それならば良いのだけれども……」


 そんなライの言葉を聞いたルミエは相変わらずキョトンとしていたが、何とか納得? してくれたようだ。


「俺が気になったのは……いや……」


 ライは言葉を続けて話そうとしたが、フォンセの事。いや、フォンセがかつて世界を支配していた魔王の子孫であるという事を話すべきか迷って言葉を止める。

 ルミエ・アステリの"アステリ"はただの同姓という可能性もある。というかその可能性の方が高い。

 そもそも、ぬらりひょんが言っていた魔王の名前──"エラトマ"が姓名のどちらなのか分からない。

 名の方ならば魔王(元)の名字がアステリでも問題無いが、姓の方だった場合はフォンセとルミエの姓に対して魔王(元)の名がアステリとなってしまう。

 フォンセ・アステリにルミエ・アステリ。それに対しアステリ・エラトマでは大分違う。

 なのでライはルミエにフォンセの事を教えるべきか分からなかったのだ。

 まあ最悪、魔王(元)の事は伏せて"偶然ですね。同姓なんです。"と言えば済む話であるが、そう簡単に言って良い事では無いと懸念しているのだ。


【──何か色々考えている様子だが……俺の名前であるエラトマってのは姓の方じゃなくて名の方だぞ? 俺の名はエラトマってんだ】


(何っ?)


 そして、ライが話すべきか話さないでおくかを考えていた時、魔王(元)は唐突にライへ話した。

 思わず驚くライ。だがしかし、声には出さなかった。そんなライへ向け、魔王(元)は言葉を続ける。


【……そうだな。まだ名前を教えてなかったし、ついでに俺の名前を教えておこう。前に話そうとした時は邪魔が入ったからな。それに、元々教えるつもりだったんだ。隠す程の事じゃねえだろ】


 それは魔王(元)が持つ本当の名をライへ教えてくれると言う。

 前に聞いた時は百鬼夜行の邪魔が入った為に聞きそびれてしまったが、今回は邪魔も入らなそうなので魔王(元)が持つ本当の名前を聞けそうである。


(……そうか。なら教えて貰おうか……魔王おまえの名前をな……)


 その言葉を聞いたライは目の前に居るルミエから意識がそれ、魔王(元)の言葉に耳を傾ける。


【ハッ、良いぜ。俺の持つ、魔王以外の名を教えてやるよ……俺の名前は……】


 魔王(元)は己の名を、今────




【『ヴェリテ・エラトマ』だ】




 ────つづり終えた。


(ヴェリテ・エラトマ……)


 その名を反覆させて話すライ。

 そして魔王(元)の名を聞いたライは、魔王(元)についてもう一つの事が気にかかる。


(……なあ、何で今回は聞いていないのに名前を名乗ろうと思ったんだ?)


 それは魔王(元)が名を名乗った事についてである。

 ライも教えて貰おうと言ったが、魔王(元)がエラトマについて話すまでその事を聞こうとも思っていなかった。

 なのに魔王(元)はみずから名を名乗ろうとしたのだ。そこが疑問のライ。


【クク……ただの気紛れだ。まだ数週間、数ヵ月くらいしか経っていねえが……名前を知らないのはどうかと思ってな……】


 そして魔王(元)は気紛れだと言う。

 まあ、邪魔が入らなければ"シャハル・カラズ"で聞こうとしていた事なので、特に突っ込む点は無さそうである。


「どうしたんだ? ……さっきから黙り込んで……やっぱり私が変な事でも言ったんじゃないか?」


 そして魔王(元)の名を聞き終えた時、訝しげな表情をしたルミエがライに尋ねる。

 傍から見ればライが黙っているようにしか見えない。

 魔王(元)の事を知っているフォンセとリヤンは特に突っ込まないが初対面のルミエは気になったのだろう。


「いや、本当に何でも無いんだ。……ただ……」


「ただ?」


 ルミエに返しつつ、名の事を聞こうか考えるライ。

 ルミエはライの言葉を復唱する。間接的な言い回しが気になるのだろう。


「……」

「……」


 そしてライはフォンセを一瞥して確認を取る。ライの視線を感じたフォンセは無言で頷き、それを確認したライは言葉を続けた。


「ルミエさんが俺の仲間と同じ名字なのに驚いたんだ」


「……!」


 そしてライはフォンセを示し、ルミエにフォンセの姓を話す。

 それを言われたルミエは一瞬だけ肩を竦ませ、フォンセの方を見る。

 それは何に反応したのだろう、ただ同姓が居た事へ小さなの驚きか、それとも魔王(元)何か関係があるのか。


「……へえ……貴女もアステリと言うのか……奇遇だな……。名は何と言うんだ……?」


 ルミエはフォンセの方に向き直り、その名を尋ねる。

 アステリと言うのが姓と分かったのでフォンセの名を尋ねたのだろう。


「フォンセ・アステリだ……」


 そしてフォンセは名を名乗った。

 ルミエは名前を知っただけで何か出来る可能性もあるが、取り敢えず問題無いと考えて名を名乗ったのだろう。


「そうか、フォンセと言うのだな……。まあ、同じ姓を持つよしみだ。よろしくな」


 それを聞いたルミエはフォンセに手を差し伸べる。

 ルミエは特に悪い奴という者でも無さそうだ。そして今思うと、ルミエの口振りもフォンセに近いような気がした。


「あ、ああ……」


 突然の握手に対応仕切れなかったフォンセだが、取り敢えずその手を取った。

 幹部の側近と言っていた為、いずれ戦う事になるだろうが今は違うので問題無い筈である。


「……で、何故ルミエさんは俺たちに話し掛けて来たんだ? まあ、厳密に言えば俺たちと言うかリヤンにだけど……」


 その後、フォンセとルミエが握手を交わしたところでライがルミエに尋ねる。

 初対面なので一応"さん"を付けるが、警戒しているので敬語は使わない。

 ルミエは悪い者では無さそうだが、ライは自分たちに話し掛けた事自体が気になったのだ。


「まあ、シャドウかジャバルに話を聞いて……久々の客人を見に来た。……って線が一番それっぽいけどな……」


 一応警戒はしているライだが、何故ルミエが来たのか推測は出来る。

 この街は観光に来る者が少ないのでライたちのような客に興味を持った。──という線が考えられた。


「ふふ……まあ、そんなところだ。私が来たのはお前達がこの街に来た久々の客人だからだな。だからどのような者なのかを確認したかったんだ。街を歩いていたら噂の客人の姿が目に入ったから。……あと、ルミエ"さん"と言うのは何だか歯痒はがゆい……ルミエ。だけで十分だ。お前は元々敬語じゃなかったし」


 そしてその通りだったらしく、ルミエはフッと笑ってライの言葉に返す。

 さん付けは良いと言われたが、それはさておきやはり話し方がフォンセに似ている。

 ルミエ本人がフォンセへ何も言わないので、フォンセと関係あるのかどうかは分からない状態だ。


「…………けど、フォンセはただの同姓で、特に関係性は無いのか?」


 なのでライは、おかしな気もするがルミエにフォンセと関わりは無いのかを尋ねた。

 それに対し、ルミエは再び口角を軽く上げて笑いながら話す。


「ふふ……関わりを気にするところを見ると……そのフォンセとやらは何か特別な事情があるのか? 例えば……血縁関係……とかな?」


「「……!」」


「……へえ?」


 ルミエの言葉に肩を竦ませるフォンセとリヤン。ライはそれを聞いて薄ら笑いを浮かべていた。

 流石に此処まで言われれば気付くだろう。ライは実際のところどうなのか気になっ為、ルミエに尋ねたのだ。

 無論、関係性が気になったので何の考えも無く尋ねた訳では無い。ライはそれなりの考えは持ち合わせている。


「ふふ……その様子を見ると本当に血縁関係の事らしいな……。特にフォンセともう一人の女……お前達の反応は分かりやす過ぎるくらいだぞ……。男の方は何を企んでいるのか……表情には出していないがな……」


 ルミエは肩を竦ませたフォンセとリヤンを見てフッと笑い、ライの方は感心したような目で見る。

 そしてルミエはライ、フォンセ、リヤンに向けて言葉を続ける。


「単刀直入に言おう……答えは秘密だ。この街へ来る珍しい客人で……それなりに頭も回るようだが……出会って間もない者にそう易々と教える程チョロい女じゃないぞ。私は」


 ルミエがライたちへ告げた答えは秘密との事。

 しかし当たり前だろう。本人も言うように出会って間もない者に自分の情報を話すのは──争いの無い平和な世界ならまだしも、四つの勢力が争っているこの世界では危険だ。

 ルミエからすればライたちは得体の知れない客人だからである。


「そうか。まあ、仕方無い。むしろ素性を知らない方が俺たちにとっても都合が良いからな」


 ルミエの言葉を聞いたライは、それなら仕方無いと深追いは止める。

 そして、ルミエはライの言葉へ疑問を浮かべていた。


「お前達に都合が良い……? ……それは一体どういう事だ?」


 それはライが言った"俺たちにとっても都合が良いからな"。という部分。

 ライたちにとって都合が良いのも事実である。何故なら素性を知ってフォンセの血縁などだった場合、この街を征服するときに情が湧いてしまって戦いに集中出来なくなってしまうからだ。

 まだ物理的な戦闘かは分からないが、その可能性は十分にある。


「それはアンタが言う素性を明かせないってのと同じさ。俺たちにのみ関係のある事だ」


 無論、ライがその事を伝える筈も無い。一応まだ征服する事は黙っているつもりだからだ。


「ふむ、そうか。……ならそれも仕方の無い事だな……」


 ルミエはその事を理解したらしく、薄ら笑いを浮かべてライに返す。

 ライたちが侵略者という事も知らない筈なので、まだルミエには敵意が無い様子だ。


「しかし、折角此処まで客を見に来たのにこのまま帰るのは早い気がする。……私も少しの間居ても良いか?」


 その後、ルミエは椅子に座っているライたちへ向けて自分も輪の中に入って良いかを尋ねる。

 立ち話をしていたので、その辺りが気になっていたのだろう。


「ああ、別に構わないさ。この街について詳しく知らないからな。是非とも教えて欲しいな」


 そしてライは別に良いとこころよく返した。

 元は話し合いでもするつもりでこの店に入ったのだが、特にする事も無かったのでこの街の情報を持っていそうなルミエが話し合いの輪に入ってくれればこのまま何もしないよりは情報が掴めそうだから了承したのだ。


「そうか、すまない。感謝する……あと、くどい……というのもおかしいな。取り敢えず面倒かもしれないが……お前達の名前を聞かせてくれないか?」


 それから、ルミエはライとリヤンに名を尋ねた。別に面倒では無いが、一応断りを入れるルミエ。


「……ああ、俺はライ。ライ・セイブルだ」

「私は……リヤン・フロマ……」


 そんなルミエに対し、ライとリヤンは質問に答えた。


「……何っ? セイブル……?」

「……? ああ、そうだけど……」


 そして、ライの姓を聞いたルミエは怪訝そうな表情を浮かべて眉を顰めた。

 ライはその反応を見てキョトンとする。しかし、この反応はライたちがルミエの姓を聞いた時と似たような反応だ。


「……ふうん? ……何かあるようだけど……まあ、それは俺がアンタに対する反応と同じだ……。俺は特に指摘しない」


 ライはルミエの反応から何かあると分かったが、敢えてその事に突っ込まず会話を戻す。


「そうか……そうだな。私も気にしないでおこう。……まあ、いずれは色々分かるだろう。私の人違いかもしれないからな……」


 ライの言葉に返すルミエ。

 ルミエもライに何かを聞きたそうだったが、自分で素性を明かせないと言ったのでそれ以上は話さない。

 何はともあれ、これは話し合いなのでルミエからこの街の事を聞けそうである。

 そうしてライ、フォンセ、リヤンにルミエが加わり、カフェ的な店で話し合いの続きをするライたちだった。

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