十二話 街へ向かう道での出来事
道中、幻獣の群れに襲われた。
しかし、"群れ"というには少々数が少なく、二、三匹だけだろう。
しかしその幻獣は、『とにかくデカかった』。
「おいおい。何で、"ロック鳥"が此処にいるんだ?」
──"ロック鳥"とは、一言で言えば、とてつもなく巨大な鳥である。
その大きさは、約四〇メートル。羽毛一枚の長さで二.四メートルはあると謂われる。
像などを爪で掴み、上昇して地面に叩きつけ、殺してからそれを食すという。
しかしこのロック鳥はライたちをただの餌としか見ていない。
たまたま通り掛かった三人を食べる為に襲っているのだ。
ライたちに挑戦するために攻撃を仕掛けているのでは無い為、ライは気絶だけさせようと考えていた。
(魔王。腕と足にお前を纏うぞ)
【また一部だけかよ。確かに全身に纏ったら世界が危ういけどよ……。どのみち本気じゃねえんだし良くねえか?】
魔王(元)は、毎回腕と足にしか自分を纏わないライに文句を言う。魔王(元)的にはその力を思う存分振るいたいのだろう。
それを聞いたライはため息を吐き、軽く流すように魔王(元)へと返す。
(悪いな。けど、支配者や、それなりに強大な敵と戦う機会もあるだろうし、その時に今までの分を使えば良いじゃねえか)
【ケッ、はいはい。分かったよ。けど、本当にそいつらの時は本気出せよ? 星どころか宇宙を砕くつもりで行け。多分出来るから】
そんなライの言葉に魔王(元)は渋々承諾し、ライの腕と足に自分を纏わせる。
それと同時に漆黒の渦がライを包み込んだ。
(さて、行くか……!)
それと同時に向き直り、大地を砕きながら跳躍したライはロック鳥を『叩き落とした』。空中に置いて、四〇メートルはある巨体を軽々と墜落させたのだ。
(まず一匹……)
ライは、そのまま空中で方向を変え、空気を蹴り残りの二匹を同時に叩き落とす。
重い衝撃で地面に叩き付けられたロック鳥は三匹とも目を回して気絶していた。
「よし……と」
一仕事終えたライは背伸びをし、魔王の力を消し去りながら一息吐く。
そんなライの方へ向け、レイとエマも駆け寄った。
「流石だね。ライ」
「フフフ……私の……出番が……無くなって……しまう……な」
何時も通りフラフラのエマと、何時も通り素直なレイ。そんな二人の言葉に対し、ライも頷いて返す。
「ああ、けど……本当にヤバい奴が狙ってくる可能性があるんだ。油断は出来ないさ」
「うん、そうだね。油断は出来ない……!」
ライはロック鳥を倒したのは自分の力では無い為、褒められても素直に喜べなかった。
しかしこの力のお陰でレイやエマと言う仲間に出会えたのだ。感謝しなくてはならないだろう。
「あ、そうだ。ライ」
そしてその時、唐突にレイがライへと尋ねる。
「ん? どうした?」
それに対するライも聞かれた事は応えようとレイの言葉に耳を貸し、レイは言葉を続ける。
「戦う時にさ……『ライから出ている黒い、オーラ』……? ……ってなに?」
「……ッ!!」
──ピシャン。と、雷に撃たれたかのような衝撃がライに奔る。
レイからそのような問いが来ると思わず、まさか魔王の力を使うときにオーラらしきモノが出ているとは知らなかったからだ。
確かに何かに包まれる感覚はライにあったが、本当に具現化しているとは考えてもいなかったのである。
黙り込んだライを見て、レイは"?"を浮かべて尋ねるように質問した。
「……あれ……? もしかして、聞いちゃダメだった?」
「あ、いや。そういう訳じゃないんだ……」
その質問に対し、ライは何とか冷静さを取り戻し頭の中で整理する。
ライはまだ、魔王(元)の事をレイとエマに教えていなかった。教えるにも教え難いのが現状。仕方無い事だろう。
しかし仲間に秘密は厳禁。そう考えたライが何かを言おうとした時、
「…………」
バタッ。と、ライとレイの前でエマが倒れ込んだ。
「「…………え?」」
その音を聞き、同時にそちらを振り向くライとレイ。
見ると、ヴァンパイアであるエマの身体からは白い煙らしきモノが出ていた。
そしてその顔色は悪く、地面に流れた汗が即座に蒸発する。
「「………………」」
その状況を飲み込む為、暫く黙って思考するライとレイ。
そして──
「や、ヤバい!! エマが倒れた!! いや、見れば分かるか……。いや違う!! どうする!? レイ!?」
「ええーっ!? ど、どうするって言われても……どうしよう!!?」
──二人は焦り、ワタワタと忙しなく動く。何か無いかとライは辺りを見回す。周りに日除けが出来そうな物でもあれば良いのだ。そして、見つけた。
「あ、彼処の森だ!! 彼処にエマを運ぼう!!」
「う、うん! 分かった!!」
その視界に映ったのは木々が生い茂った森。ライとレイは取り敢えず、近くの森にエマを連れて行くことにした。
恐らくエマが倒れた理由は日光に長時間当たった事だろう。
昨日と今日で、通常よりも多く日光を浴びたので身体が著しく弱ってしまったのである。
エマを運び森に着いたライとレイと、エマ。そして二人は日差しが当たらない場所を見つけ、そこにエマを寝かせる。
「ふう……。何とかエマは無事だったか……」
「そ、そうだね……」
二人はハアハアと息を荒くし、疲労している様子だった。慌てて運んだので焦りによって疲労が起こったのだろう。
それから一息吐き、深呼吸をしたライが頃合いを見て言う。
「さっき運ぶ時に思ったんだけど、エマの身体が熱くなってる。ちょっと行って冷やす為の水を探してくる」
まずはエマの身体を冷やす為に、ライは川か何かを探しに行くという。日光による熱は、普通はそれ程でも無い。
しかしヴァンパイアの場合、その程度の熱でも太陽の光という理由だけで激しく焼けるような体感温度になるのだろう。
「うん。気を付けてね」
そんなライの言葉にレイも承諾し、ライが言葉を続ける。
「ああ、レイもな。直ぐに戻る。幻獣や魔物に襲われたら声を上げてくれ。直ぐ様駆け付けるから」
一先ずエマの身体に触れるレイが頷き、ライは森の奥へと向かう事にした。
*****
【水を探すって言ったけどよ、川とかあったか?】
(それを今から探すんだろ? 魔族の五感をフル活用すれば音を聞き取れるかもしれないしな)
冷やす物を探して森を歩くライに向けて魔王(元)が聞き、ライが応える。森の中には高確率で川が存在する。その音を聞き分け、何とか探そうと言う魂胆なのだろう。
「…………(…………)」
【…………】
耳と肌に集中し、川の音を探すライが黙り込み、魔王(元)も空気を読んで黙る。
鳥の囀りと暖かな風によって揺れる草木、穏やかでゆったりとしている空間。
暫く此処に居たい気持ちになるが、エマが心配なので川の音を聞くことだけに集中する。
「……!」
そして、ライが持つ五感の二つである聴覚と触覚は確かな水音を捉えた。
耳に入り込みながら川の流れる音を聞き、そこへ向かうライ。
(あった……。……さて、どうやって運ぶか……)
そして開けた場所に辿り着き、ライは透明に透き通る川を確認した。その川の水は澄んでおり、綺麗な水だという事が窺えた。取り敢えず川は見つけたので、あとはどうやって運ぶかだけである。
流れる川を前に少し考えたあと、ライは閃く。
(そうだ。エマとレイを此処に連れてくれば良いじゃん)
あっさりと解決策を思い付き、それを実行すべく行動に移すライ。
取り敢えず見失わぬよう、来た道の木に傷を付けて目印にした後レイとエマの元に戻るライだった。
*****
「……良し、魔物とかには襲われていないな……!」
ライが森の入り口付近に戻ると、そこには無事な様子のレイとエマが居た。
離れた時間はほんの数分だが、それでも危険そうな場所なので二人の無事を見て一安心するライ。
「あ、ライ……。どうだった……?」
そんなライに向け、訝しげな表情でレイは尋ねる。冷やす物が無ければエマは長時間苦しんでしまうだろう。レイはその事が不安だったのだ。
それを聞いたライはニッと笑い、言葉を発した。
「大丈夫だ。川を見つけた。……けど、水を運ぶ道具がないから俺がエマを運ぶ」
「うん。分かった!」
そんなライの言葉に一安心し、早速エマを運ぼうとしたその時、そこに向けられその会話の中心となっている人物が話し掛ける。
「……何を言っておる。此処に来て少し休んだから一人でも歩ける」
横になっていたエマが、少しフラつきながら立ち上がったのだ。
「……大丈夫なのか?」
「うむ……。まあ、身体が熱いのと頭が痛むのは治っていないが、歩くくらいならば問題あるまい」
そんなエマを見たライは心配そうに尋ねるが、本人曰く大丈夫らしい。
しかし、それでもまだ身体に不調をきたしているので一応川へと向かう。エマの足取りも覚束無く、若干の不安が残るものだった。
そんなエマを気に掛けながら、緑に囲まれた森を進むライたち。川への方向にはライが予め傷を付けていた木があったので直ぐに辿り着いた。
「取り敢えずここだな。この川の水は結構綺麗だ。エマは流水に近寄れないから俺が葉っぱか何かに水を汲んで持ってくるよ」
「そ、そうか。……余計なことを」
エマは、数百年間孤独で暮らしてきた為、"親切"、というものを受けた事がなかった。
その為、ライの優しさに困惑を覚えている様子だ。しかしそんなエマを見たライとレイは、敢えてそれに何も言わなかった。
そして水を葉に汲み終えたライはエマに近寄る。
「良し。じゃあ身体を冷やすから服を脱いでくれ。直に掛けても良さそうだけど、服が濡れるのって何か嫌だろ?」
「ふう。面倒だな……。仕方ない……」
ライは身体を冷やす為に、エマへ服を脱ぐよう指示する。そしてエマは言われた通り服を脱ぎ始める。服の上からでも良いが、濡れている状態で歩くのは少々気に掛かるものだろう。
そしてレイはその光景を見、思わず叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って二人とも!!」
「「…………?」」
ライとエマは一旦止めて、何かおかしい事でもしたか? 的な表情でレイを見る。
そんな表情を横に、レイは何故か赤面しながら言葉を続ける。
「だ、だって……その……異性の裸を見て、何も思わないの……?」
レイが気になった事、それはライとエマに羞恥心は無いのかという事だ。
ライは相変わらず"?"を浮かべているが、エマは「ああ、なるほど」と頷いて応える。
「そういうことか。しかし、羞恥心なんて餌を誘き寄せるのには不必要だからな。いちいち恥ずかしがっていたらキリが無い」
エマ的には、他人に裸を見せるのはどうってこと無いらしい。それは餌である人間を誘き寄せるのに不必要だからとか。
それを聞いたレイは口を紡ぎ、尋ねるように聞き返す。
「でも……好きな人とか出来たら……?」
エマの恋愛について、だ。
長生きしているのならそれなりに経験も豊富だろうとレイが考えたからであり、そのような事情も気になったのだろう。
「ふむ。そんなものは生まれてこの方考えたことも無かったな」
エマは即答で返す。
レイからしたら以外だった。エマ程の美人であれば言い寄ってくる者も沢山居ただろうに。
その表情からレイの心情を読み取り、エマは更に続ける。
「ああ、確かに私を異性として欲しがった者は数多と居た。が、私に釣り合うものは居なかった。ただそれだけよ。……顔自慢、力自慢、金持ち……。と、そういった者たちでも私の興味を引くことは出来なかった」
へえ。と、頷いて返すレイ。
エマにそういった経験が無いのは以外だったが、エマの話は興味深い。
そこに、今まで黙っていた。というか入る隙が無く、黙らざるを得なかったライが言葉を発する。
「えーと……。で、どうするんだ?」
話に夢中になってすっかり水の事を忘れていたレイ。ライの手には水を汲んだ葉が持たれたままだった。
それを見てハッと思い出し、ライに言う。
「ああ、じゃあ私がエマの身体を冷やすよ。ライも女性に向けて、服を脱げ。なんて軽々しく言っちゃダメだからね?」
「……? ああ、分かった」
その言葉はレイがエマの身体を冷やすという事と、女性に向けて服を脱ぐよう促す事は軽々しく言わないようにという事だった。
相変わらずよく分からないが、取り敢えず頷くライは水の入った葉をレイに手渡しし、少し森を探索する。
「じゃ、エマが元気になる夕方くらいまで森を探索してくる」
「分かった。気を付けてね」
「ああ」
そしてライは探索の為に森の奥に向かう。
今のところ幻獣や魔物は、ロック鳥くらいしか出会っていない。だがしかし、他にもいる筈なので辺りを警戒しレイとエマから離れ過ぎないようにする。
森を歩くと、爽やかな風が吹き抜け、葉の隙間からは光が覗き込む。そこは心地の好い空間であり、環境が全体的に良いようだ。だからこそ幻獣や魔物も、この場所を好むのだろう。
暫く散策したライだったが、特に何も得るものは無くレイとエマの元へ戻る。気が付けば太陽は真上に昇っていた。
そんな昼刻の川辺ではライ、レイ、エマの三人がのんびりとしている。
「考えてみれば、この二、三日は戦いの連続だったからな。早いとこ世界を征服したい気持ちもあるけど、休憩も必要なんだな……」
「そうだね……。気持ち良くて眠くなってきた……」
「二人とも眠れば良いさ。私の為に夜行動を取るのなら、少しでも二人を休めたい気持ちもある」
幻獣や魔物が襲ってくる気配も無く、穏やかで平穏な時が続くそんな空間。ライとレイは小さく欠伸をして言い、それを見たエマが休むように促した。
その言葉を聞き、エマの体調も戻りつつあるので言葉に甘えて少しだけ昼寝をすることにした。
(二人を休めたい……か……。私も甘くなったものだな……)
二人の寝息が聞こえる中、エマは自分の発言を思い出して、フッと笑う。
*****
「ああ……良く寝た……」
「おはよー……? こんばんはー……?」
「起きたか二人共」
昼寝してから数時間が経過し、日が傾き始めた頃にライとレイが目覚めた。
エマはすっかり体調を戻しており、元気そうだった。
辺りを見回すと、争った後も無いので恐らく幻獣や魔物が襲ってきたという事もないのだろう。
少し身体を動かしてから起き上がるライとレイ。
夕日に染まった森は薄暗く、人によっては不気味という感想も出そうだ。しかし、ヴァンパイアであるエマにとってはさぞ快適な空間だろう。
起きるや否や、三人は薄暗い森の中を歩いて進む。その訳は目的の街まで森を通った方が近道だと考えたからだ。
ザアザアと、風によって揺れる木々の様子を見てライが言う。
「そういや、幻獣や魔物にあまり出会わないな……。あの男の言葉は嘘だったのか? ……それとも、種類によっては夜の方が活発になる奴もいるらしいから、夜に襲ってくるのか?」
「フフ……ヴァンパイアとかな?」
「アハハ、他にもいると思うけど……。そういえばエマ以外のヴァンパイアっていないの?」
ライが気になったのは襲ってくるかもしれないと言われた幻獣・魔物について。その言葉に対し、悪戯っぽい笑みで返すエマ。
エマの言葉に苦笑を浮かべ、一つの事が気に掛かり、問うレイ。その問いにエマは少し考え、レイの質問に応える。
「うーむ……すまない。実は知らぬのだ。暇潰しに色んな街へ出向くが、同業者に出会ったことはない。なんせ世界は広いからな。ヴァンパイアの数もそれほど多くないのだろう」
エマの言葉にへえ。と、頷きながら返すライとレイ。古来より人間の天敵として描かれたヴァンパイア。その数が減っているというのも強ち間違っていないのかもしれない。
話しながら歩いているうちに日も落ち、夕焼けから暗い夜空に変わる。
幻獣か魔物か、至るところから獣の鳴き声も聞こえてくる。
鳴き声以外の音がしない、静かな夜道を歩き続けるライたち。
──そこへ、ある生き物が近付いていた。
「……! レイ、エマ……来るぞ……!」
「うん。私も感じた……!」
「フフフ……面白い。夜の私を見せてやろうじゃないか……」
始めにライが気配を感じたあと、レイとエマも気配に反応する。
集中すれば、ガサガサと木や草の影から物音が響き渡る。
どうやら数がかなり居るようだ。ライたちは三人で背中合わせに構えを取った瞬間、気配の主が姿を現した。
『グルオォォォォォ!!!』
怒鳴るように、荒々しく未発達な言葉の叫び声が聞こえる。その轟音によって大地が揺れた。
それは──
「「「"オーク"!!」」」
──"オーク"とは、野蛮で凶暴で、不潔な種族である。
その姿は、豚や猪のような頭を持ち、人間サイズの大きさをしている。
その性欲は凄まじく、繁殖能力も高い。
基本的な戦闘方法は、武器を使用したり、数に物を言わせた力押しである。
ライが出てきたオークを流し目で数えると、ざっと百体以上はいる。
それを見たライが苦笑を浮かべて言う。
「面倒だな……」
「ああ、同感だ」
「なんか嫌だな……」
ライの言葉に共感するよう頷くエマと、多数のオークに若干引いている様子のレイ。
不潔な生き物と謂われている事から、女性であるレイはあまり近寄りたくないのだろう。
『グルオォォォォ!!!』
そんなオークは鼻息を荒くし、一気にライたちへ駆け寄る。
「よし、やるかァ……。(行くぞ、魔王……!)」
【はいはい。オークは雑魚だから腕と脚にだけ纏うんだな】
(良く分かってるな)
そして漆黒の渦がライの両手両足にまと纏わり付いた。それと同時にレイも腰から剣を抜いて構え、エマも戦闘体勢に入る。
「オラァ!」
ライは地面を砕き、掛け声と共にオークを殴り飛ばした。
本気じゃないため破裂することはないが、オークは木々や岩を砕きながら大分遠くへ吹き飛ぶ。運が良くても、全身複雑骨折は免れないだろう。
『グルオォォォォ!!!』
しかし、その力を見てもオーク達の動きが止まるという事はなく、逆に怒気を上げていた。
「ハハハハハハ! その程度か!!」
エマは持ち前の翼で空を飛びながら、鋭い爪でオークを殺さない程度に切り裂いていく。
「ハァ!」
レイは剣でオークを『殴る』。
実をいうと、レイの剣は振るうだけで森を切断してしまうので、鞘に納めた状態で戦っているのだ。
ライ、レイ、エマが次々とオークを気絶させるがしかし、そんなオークの進行は止まらない。
数が多い分、多少の犠牲は問わない戦い方なのだ。それに加え、繁殖力が高いので、数匹残れば問題ないのだろう。
オーク達の様子を見て思考を回すライは、オークを殴り飛ばしながら仕方がないと思い、レイとエマに伝える。
「レイ! エマ! 数が多過ぎてキリが無い! だから、ある程度は殺すぞ!」
「うむ。その方が面白い!」
「え……うん……分かった!」
エマはノリノリで了承し、レイも仕方なく了承する。次の瞬間ライたちは、『殺さないようにする為の手加減』をやめた。
【お、遂に殺るか?】
(本当に楽しそうだな……魔王は……)
殺害を解禁したライの言葉を聞き、喜ぶ魔王(元)の様子に呆れながら再び構えるライ。
そして、
「ラァッ!」
地面にクレーターを作りながら跳躍し、空気を蹴ってオークとの距離を詰めて拳を叩き付けた。
『グルオォ!?』
それはさながら、隕石の如く速度で落下する。そんなライが地面に着いた瞬間、
──爆撃でも起こったかのような轟音と共に大地や木々が粉々に砕け、周りに居たオークを吹き飛ばした。
その衝撃は森を揺らし、森の一部を荒野と化させる。
因みにエマはレイを持ち上げて空へと避難していたので、レイとエマは無事である。
「フフフ。本当に規格外の強さだな……ライは」
「うん。確かに……ライだけで世界征服出来そうだし……私たちって必要かな?」
ライの強さを改めて実感し、感嘆のため息を漏らすレイとエマ。己の身一つで起こす一挙一動で森を更地に変える力は驚異的だろう。
土煙が収まったのを確認し、二人はライの元に戻る。
『グ……ル……』
『オ……オ……ォォォ』
『………………』
その場所に居るオークの殆どが虫の息で、ボロボロだった。しかし、数十匹はまだ元気である。
恐らく、ライが力を抜いた為、精々数百メートルを消し飛ばすくらいしか威力が出なかったのだろう。
しかしオークはまだ満身創痍していない。
『グルオォォォォ!!!』
吠えるオーク。直ぐ様体勢を整えたライは再びオークに向かい、それに合わせてレイとエマもオークへ駆け寄る。
「オラァ!」
「ハァ!」
「ハッ!」
軽く山を粉砕する拳を正面の群れに、森を断つ剣を左の群れに放ち、残りの群れにエマが持ち前の怪力で岩などをオークに向けて投げつけた。
『グルオォォォォ!!!』
そしてオーク達は、殆どが吹き飛ばされ、残った者達も戦意喪失して逃げ去った。
*****
先程とは打って変わり、シーンと静まり返り、閑静な空間が生まれる。
その光景を横にまずライが一言。
「……ふう。静かになったな」
ライの言葉に続くように、レイとエマも言う。
「うん……」
「またあっさりと終わってしまったな……」
まあ、拍子抜けだったということだ。オークが攻撃をする暇も無かったのだから。
そして森の一部を吹き飛ばした為、目指していた出口があっさりと見つかる。遠方には光が見えていたので、その事から街へ近付いている事が窺えた。
昼前にこの森に入ったライだったが、少し長居しすぎたようである。
そしてオークを追い払ったライたちは旅に戻り、目的の街まで向かうのだった。