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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第七章 暗い街“ウェフダー・マカーン”
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百二十五話 街の探索

 シーンと、静まり返っている街──"ウェフダー・マカーン"。

 魔族の国にある街なので朝が静かなのは分からない事も無いが、それにしても静か過ぎるくらいである。


「何と言うか……何て言おう……うん、静かだな……」


 その様子を見たライは言葉が浮かばず、腕を組みながら黙ってしまう。

 因みに、今回は街の雰囲気が怪しい? 異常? なので、ライたちは全員で行動を取っているが取り敢えず雰囲気はあれだが、治安が悪いという感じでも無さそうである。


「うむ。……まあ、ライが言いたい事は分かる。確かに静か過ぎるな……生き物の気配はするが……この街の者達は外に出たがらないのか?」


 そんなライに返すエマ。

 住人の気配はライたちも感じているのだが、外に出ている住人が居ないのだ。

 まだ数分だが、"ウェフダー・マカーン"に来てから話した者はこの街の幹部というシャドウくらいである。


「そういや、シャドウは仕事があるからって言っていたが……幹部って何か仕事とかをしているのか?」


 そのような事を話していたライはふと思った事をキュリテに尋ねる。

 いつぞやのアスワドも忙しいからと持ち場を抜け出して祭典に居たが、幹部たちはどのような仕事をしているのか気になったのだ。


「うーん……そうだねぇ……。まあ、街に攻めてくる幻獣・魔物の撃退とか……これからこの街をどのようにして発展させていくか側近たちと話合いするとか……こんなところかなぁ?」


 ライの質問に答えるキュリテ。

 幹部という者たちの仕事は、何も国や街の護衛だけではない。

 国があってその国の街を発展させる必要がある為、金銭的な事情を動かさなければならない事もあるのだ。

 それについて側近たちとどのようにして発展させていくかを話し合うと言う。


「へえ……。やっぱ国や街を仕切るのって大変だよなぁ……。その街の住人だけじゃ出来ない事もあるし……その為には観光客的な者達も必要ねぇ……」


 キュリテの話を聞いたライは、大小問わず街を動かすのは大変な事だなと思う。

 世界征服を達成した場合には金銭の巡りをどうするか考える必要があるだろう。

 それを考えると、奴隷制度というものは大きな貨幣が動く商売という事が分かる。

 その奴隷によって裕福層や一般層の労働が減るのだ。

 奴隷制度を撤廃したとして、その穴を如何にして埋めるか考えなければならない。


「うーん……やっぱ経験の少ない俺じゃ社会を動かすのは無理か……? ……いや、それは経験豊富な者達から教えて貰えば良いとして……奴隷制度を無くして奴隷が減ったら人間・魔族の平均寿命も延びるからその為の施設も必要かもな……。あ、でもそれなら子供も増えるかもしれないから将来的な労働の心配は無さそうか……? いやでも出生率が悪くなったら大変だ……それに平等を目標としているから貧困の差を無くした方が……でも全ての利益が平等だったら全員が怠けそうだな……その時は……労働……利益……貨幣……世界……征服……うーん……」


 キュリテの言葉を聞いてからブツブツと呟くように考え込むライ。

 仮にライの理想郷を実現させたとしてその時の世界の巡りを考える。

 支配者などの権力者がその気になれば軽く砕ける世界だが、その歯車は複雑で一つを無くす事で新たな問題が生じてしまう。

 種族的に馬が合わない者達も居るので小さないざこざや争いが起こるかもしれない。

 つまり要するに、世界征服後の世界を動かすのは想像を遥かに超越する程難しい事なのだ。

 意見が食い違えばそれだけで世界の軸が大きく歪むからである。


「国を治める者達を増やす……元々現在の形を少し変えるだけであわよくば支配者とその幹部を率入れるつもりだし……いや、でも……そうなれば……そして……それから……成る程……うーむ……うーん……えー? マジかよ……ブツブツ……………………」


「オイ、大丈夫か?」


 歩きながら物事を考えるライ。

 そんなライを見たエマは心配そうにライへ尋ねる。


「……え? ……ああ成る程、いや……大丈夫だ……多分。ちょっと考えててな……取り敢えず俺の目的とする事は大変って事が分かった。……まあ、何とかするつもりだけど」


 エマの言葉を聞いたライは現実世界に戻り、訝しげな表情をしているエマに返す。

 その近くではレイ、フォンセ、リヤン、キュリテも心配そうに眺めていた。


「ハハ、そういえば今優先すべき事はこの街を調べる事だったな。悪い悪い」


 そしてそんな五人に対し、ライは飄々とした態度で返す。

 その態度には何か裏があるのでは? と思うところだが、特にそんな様子も無い。

 ライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの五人に向けて言葉を続ける。


「……で、取り敢えず他の魔族が居ない理由も考えたんだけど……」


「「……!」」

「「……!」」

「……ほう?」


 唐突に言うライ。

 ライとて征服後の事だけを考えていた訳ではなく、ちゃんとこの街の事情を推測していたのだ。

 それについてレイ、フォンセ、リヤン、キュリテが反応し、エマがクッと笑いながら小首を傾げる。


「けど、取り敢えずこれは悪魔で推測の範囲だ。本気にしてもらわなくても構わない。もしもの可能性を考えただけだからな」


 そして、ライは悪魔で予想に過ぎないと強調して話す。そうじゃなければこの街の住人に失礼だと考えたからである。


「先ず思いついた事はレイとエマとリヤンの存在かな……。レイは人間。リヤンは……特別な血縁だけど人間かどうかは分からない……魔族でも無い。そしてエマはヴァンパイア。この街の人達にとっては珍しいのかもしれない」


 先ず始めに思い付いたのはレイ、エマ、リヤンの存在。

 人間にとっての魔族は敵のような役割を持っている事もあり、魔族にとっての人間も敵のような役割を持っている。

 そしてヴァンパイアはその二つの敵と思われてもおかしくない。

 リヤンに至っては魔族ではなさそうだが人間と呼べるのかも分からない。なので曖昧に話した。


「「……!」」

「成る程……いや、確かにそうかもしれないな……。その線はありえる」


 その事に反応するレイとリヤンに納得するエマ。彼女らを横目に、ライは言葉を続けて話す。


「で、もう一つはキュリテの存在かな? キュリテはこの街"ウェフダー・マカーン"とは違う国"レイル・マディーナ"幹部の側近……悪人ではないにしろ別の街の側近とあっちゃ……まあ中には怯える者も居るかもな……」


 次に示したのはキュリテの存在。

 魔族の国ではキュリテは味方だが、ゾフルや一応ジュヌード。のように何かしらの野望を抱いている者かもしれないも考えた可能性もある。


「確かにありえるかも……。同じ国でも全ての街が仲良しって訳じゃないし……」


 そしてその事に納得するキュリテ。

 ジュヌードは兎も角、完全に裏切りダークを殺害しようとしたゾフルはキュリテの住む街の側近だったからである。


「……で、まだあるけどキリがないから最後にしよう。……その最後だけど最後は俺……俺たちのようなこの街にやって来る観光客が苦手……とかだな。まあ他にも幻獣・魔物によって動けないとか自然災害によって動けないとかあるけど……荒らされた形跡も街に無いし……というか既にボロボロだったし……それは無いかなと思ったんだ」


 ライが推測した最後の要因はライたちの存在。つまり観光客が苦手という事である。

 他にも幻獣・魔物や自然災害も思い付いていた様子だが血痕なども見えない為それは無いと思うライ。


「いやー……凄い推測だなァ……。その年齢にしてあらゆる可能性を考慮して考えられるのは凄い事だ」


「「「……!」」」

「「「……!」」」


 ライが話していた時、何者かがライたちへ向けて話し掛け、ライたちは然程驚かずピクリと反応する。その声質からシャドウでは無いという事が分かった。


「やっと姿を見せてくれたか……。アンタしか外に出ていないみたいだからな……」


 ライたちが然程さほど驚かなかった理由は既にその存在を理解していたから。つまりその者に気付いていたからである。


「……で、アンタは何者だ? まあ……その威圧? から幹部の側近って事は分かるな……」


 ライが予想したのはこの者は幹部の側近であるという事。

 その側近はどういう訳か理由があってその姿を見せたのだと考える。


「成る程。気配や威圧から推測するか……まあ、当たり前だな。……正解、俺はシャドウさんの側近だ。名乗った方が良いか……名は『ジャバル』」


 そしてその者はライの質問に答えた。やはり側近を勤めている者らしく、その名をジャバルというらしい。


「そうかいジャバル。なんか"シャハル・カラズ"のシャハルって部分に似ているな……」


 その名を聞いたライは聞き覚えのある言葉を聞いて訝しげな表情をする。

 接点の無い言葉であるが、そうだとしても似たような言葉があるのだ。


「ハッ、似てる言葉は多いからな。……まあそれはさておき……ガキにしては中々の考察力と観察力を持っていやがる……。つか、"シャハル・カラズ"に行った事があるんだな。……取り敢えず何かを企んでいる的な事を言っていたが……根は悪い奴らって訳じゃ無さそうだ。企んでいる事は何か知らねェがな……」


 ジャバルはライたちの様子を確認し、ライの頭の回転の早さに感心していた。そしてその様子を見て何かを企んでいると暴く。


「まあ取り敢えず……何で俺が来たのかっつーと……滅多に来ねェお客さんであるテメェらの姿を確認したかっただけだ。……だからこの街の奴らは外に出ない。珍しいからな。何故か"レイル・マディーナ"のキュリテの奴もいるし、あまり外との関わりを持ちたがらない奴らなのさ。……んじゃま、何も面白そうな物が無い街だが……暇潰しくらいにはなるさ。じゃな」


 それだけ告げたジャバルはライたちの前からその姿を消した。


「この街の人達は姿をヒョイヒョイと消すなぁ……」


 そんなジャバルを見ていたライは苦笑を浮かべて呟く。

 何はともあれ、やはり街の者達は人見知り? という奴で閉鎖的な性格なのだろう。


「まあ、シャドウにもジャバルにも見て回ってくれって言われたし……適当な店に入ってみるかぁ……」


「ああ、それが良いかもな。こんな雰囲気の街だ……店には何か面白そうな物があるかもしれない……」


 取り敢えず目標も無い為、ライは店に入る事を提案してエマは頷いて返す。

 他の四人も同意するように頷いており、ライたちは適当な店に入って行く。



*****



「──で、来てみたけど……何だ? この店……」


 そして目についた適当な店に入ったライたち六人。その店からも外のような雰囲気が漂っていた。

 壁の近くにある棚には蛇や蜥蜴トカゲ、蛙のホルマリン漬けが置いてあり、辺りには矢鱈やたらと分厚い本もある。

 そして壁には魔方陣が描かれた布が壁に飾られていた。

 

「まあ、こういう物を扱う店ってのは見て分かるな……。魔法・魔術の専門店……っていうのか? ……まあ、この街自体が怪しいけどな」


 その壁にある魔方陣や棚にある生物のホルマリン漬けを見たライは一瞬でこの店が何なのかを理解する。

 まあ、これを見れば大体の者は何なのかを理解出来るのだろう。


「魔法か……私は魔術専門だが……此処には参考になりそうな物は無いな……」

「うぅ……気持ち悪い……」

「可哀想……」

「ふむ、私にも全く関係の無い店だな……」

「同じく関係無いかなぁ……」


 フォンセ、レイ、リヤン、エマ、キュリテがそこに並べられている品々を眺め、自分には関係の無い物だと全員の意見が一致する。

 リヤンはホルマリン漬けにされた蛇、蜥蜴トカゲ、蛙に同情している様子だった。


「ヒヒヒヒヒヒ……可愛い子達だ……興味が無いのならもっと他の物を見せてやろうかぁ……?」


「「「…………!」」」

「「「…………!」」」


 ゾクッ。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの身体が小さく震える。

 これは"怯え"や"恐怖"に対する震えではなく、不気味な話し方や容姿への嫌悪感に対する震えだった。

 その者の姿は全身を黒いローブで纏っており、うっすらと見える顔にはニキビや汚れが付いている。

 喋る度にネチャネチャと唾液が絡まる音がし、生理的に嫌悪感を示すものだった。


「い、いえ……この店は良い店ですけど……俺たちには関係の無い物がほとんどで……」


「……何故私とライの後ろに隠れる」


 レイ、フォンセ、リヤン、キュリテはライとエマの背後へ移動し、その者から距離を取っていた。

 そんな中、ライは何か気持ち悪い物を見せられるかもしれないと苦笑を浮かべて断る。


「いえいえ……遠慮しなさんな……お客さんなんか私の店には来なくてねぇ……それもこんな若い者達何て……ヒヒヒヒヒヒ……」


 ライの言葉を聞き、それでもライたちを引き留める者。

 その者は自分の経営する店に来るものが少ないと言うが、この景観や不気味さからすれば納得の出来るものだ。


「えーと……どうする……?」

「な、何か悪いし……」

「見て……見るか?」


 断るに断れない状況の為、ライは助けを求める表情でレイたちを見る。レイとフォンセは店員に対した仕方無いと諦め、嫌そうに頷く。


「じ、じゃあ見るだけで……」


「ヒヒヒ……そうかいそうかい。それは良かったよ……。じゃあ、今から持ってくるよ~」


 ヒヒヒヒヒヒ……と不気味に笑いながら店の奥へ入っていく者。そしてその者は暫くしてから戻って来た。


「これは"賢者の石"って言ってねぇ……嘘か誠か金を永遠に生み出し続ける石らしいのよ……」


「賢者の石……だと……?」


 その者が持ってきた物は、血のように真っ赤な石。曰く、"賢者の石"というらしい。



 ──"賢者の石"とは、先程の説明通り金を無限に生み出す石ころだ。


 その石は錬金術によって創り出されると謂われている。


 一説では不老不死になれる薬物エリクサーと同一視されるが、詳しいことは知られていない。


 これがあれば一生何もせずに生活できる石それが賢者の石である。



「賢者の石がこんなところに……?」


 それを見たライは驚愕の表情を浮かべる。ライが今まで読んできた文献には数多の錬金術師が賢者の石を製作しようとして失敗しているからだ。


「ヒヒ……どうやら少しは驚いた様だね……私は他人を驚かせるのが好きでね……だからこんな見た目をしているんだよ……お陰で客が来ないけどね……」


 そんなライを見た者は楽しそうに笑っていた。

 この者の言葉からするに、魔法・魔術のいずれかで容姿を変え、この姿にしているのだろう。


「それに賢者の石の使い方も分からないと来た。……そういえば、アンタ達は私の姿を見ただけじゃ帰りたそうな表情をしても帰らなかった。優しいんだね」


「あ、いや……」


 皮肉そうに笑いながら話す者。

 ライは何か言葉を返そうとするが帰りたがったのは事実なので何も言えなかった。

 その者は不敵に笑い、言葉を続ける。


「ヒヒヒ……冗談さ……。しかし帰らなかったのは事実だ……。お礼に賢者の石の欠片をやろう……」


「え? ……あ、はい」


 そう言い、その者はライへ赤い欠片を手渡した。

 突然渡された事に思わず素っ頓狂な声を上げるライは、何となく受け取ってしまう。


「じゃあ、受け取ったらさっさと帰んな。『この店はアンタたちが来る場所じゃないよ』」


「……え?」

「わ、わわわ……」

「ちょ……」

「……ふむ」

「……そうか」

「……えーと……私も?」


 賢者の石の欠片を受け取ったら途端、態度が変わってライたちを追い出そうとするその者。

 あまりの変化に店の外へ追いやられたライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人。

 そしてライはその者が言った言葉に疑問を浮かべていた。


「それってどういう……?」


 そしてライがその店の方を振り向いた時──


「…………!?」



 ──その店が……『消えていた』。



「オイオイ……。何か前にも見た光景だぞ……」


 店を出たら店が消えている。

 その光景は前にも見た事があるような光景だが、その時と似ているだけで相違点の方が多いレベルだろう。


「お店が……」

「……ふむ。奇怪だな……」

「ああ、大きな魔法・魔術を使ったのか……」

「「…………」」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテもその光景に目を丸くしていた。

 目を丸くする中、レイとキュリテはライのようにデジャヴを感じている。


「……ん?」


 そして、ふと下を見ればそこに先程まで無かった看板があり──


『警告"魔女の館"


この街には度々魔女の館現れる為、魔女に対抗できる手段を持っている者以外は相手にしないでください。


魔女の館に入り、魔女に会った場合は"ウェフダー・マカーン"幹部またはその側近へ』


 ──と書かれていた。

 此処は魔女の店だったらしく、この看板は魔女の魔法によって消されていたのだろう。

 しかし、仮に何かが起こったったとしても魔王ライが居るので問題無さそうである。


「賢者の石……ねぇ……」


 そしてライは、その手に握られている賢者の石の欠片を見つめていた。

 金を無限に生み出せる賢者の石。この石があれば旅の費用に困らないだろう。

 しかし魔女が扱えなかったこの石をライたちが扱えるかが悩みどころである。

 それはさておき、魔女の館? を後にしたライたちは他にも何か無いか散策を続けていた。

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