百二十一話 ライvsモバーレズ・決着
「……さて、もう残兵は居ないのか?」
パンパンと手を払い、兵士達の山を眺めながら話すエマ。
そこに居た兵士達は全員が気絶していた。
「っぽいな。……まあ、部下達の強さならこの程度だろう……」
「うん……」
エマの言葉に同調するように頷いて返すフォンセとリヤン。エマの作った残党の山とは別に、此方の二人も二人で残党兵の山を築いていた。
「……ぅ……ん……?」
「「「…………!」」」
そして次の瞬間意識せぬ方向から声が聞こえる。その方向に居たのはキュリテ。つまりキュリテの意識が戻ったようだ。
小さく声を上げ、ゆっくりと目を開けるキュリテ。
「キュリテ。どうやら目覚めたようだな。ふむ、良かった。長いこと気絶すると外傷は無くとも身体に影響を来すそうだからな。だが、人間はそうらしいが魔族はどうか知らないな……まあ、取り敢えず人間と身体の構造が似ているから何か影響は出るかもしれないだろう。私は経験した事が無いが……。兎にも角にも無事で良かった」
要するに、長時間気を失うと身体に不調を来す。
なのでエマは、キュリテにも似たような事が起こるかもしれないと危惧していたのだ。
「ふふ……ありがと……エマお姉さま……」
「ふむ、"お姉様"という言い回しにはまだ抵抗があるが……今はそんな事を言っている場合では無いな……」
お姉様と呼ばれたくないエマだが、取り敢えずキュリテの無事を確認したのでその事は置いておくようだ。
「ふむ。取り敢えず身体に異常は無いんだな?」
「……大丈夫……?」
エマに続き、キュリテに尋ねるフォンセとリヤン。二人は心配そうな面持ちでキュリテを見ており、身体の事を本当に心配しているようだ。
キュリテはそんな二人に向け、笑って返した。
「うん……大丈夫だよ……フォンセちゃんリヤンちゃん……」
まだ目が覚めたばかりでボーッとしているのか、少し弱々しく話すキュリテ。
依然としてその肌は晒されたままだが外傷は全てフォンセとリヤンが治療した為、恐らく怪我によって元気が無いという訳ではないだろう。
「そうか。……そしてキュリテ。目覚めたばかりで……しかも先程まで大怪我をしていたお前に頼むのは少々気が引けるのだが……」
「……ん?」
そして、そんなキュリテに向けて話しにくそうな言い方をしながら頭を掻いて聞くエマ。
キュリテは"?"を浮かべ、訝しげな表情をしていた。
エマは掻く位置を頭から頬に変え、言葉を続ける。
「……いや、城の様子を"テレパシー"で読み取ってくれないかな……とな?」
「……。……へえ?」
エマは城の様子が気になっていた為、キュリテに内部の様子を探ってくれないかと頼む。
そんなエマに対し、キュリテは悪戯っぽい笑みを浮かべて話す。
「もう、お姉さまったら~。遠慮しなくても良いのにそれくらい♪」
「……」
快く了承したキュリテは早速"テレパシー"や"透視"を使って城の内部を見る事にした。
その近くではエマが何かを言いたそうだったが、取り敢えず今は堪えている様子だ。
「……!?」
ピクリとキュリテが急に動いて反応する。その様子は穏やかそうでは無く、何かがあったかのようだった。
「……どうしたんだ?」
そんなキュリテに訝しげな表情で尋ねるエマ。
後ろではフォンセとリヤンも息を飲み、キュリテの返答を待っていた。
「ライ君はザラームさん……いえ、モバーレズさんと戦っているけど……レイちゃんが結構重症な感じで……」
「「…………!」」
「……成る程」
キュリテの言葉を聞いたフォンセとリヤンが反応し、エマが納得したように頷いた。
元々普通の人間であるレイ。確かに剣の腕は立ち、特別な剣を持っているが人間という事実には変わり無い。
なので、戦いの最中にダメージを負ってしまったのだろうと推測したのだ。
「……ライ、レイとモバーレズとやらの位置は……?」
次いでキュリテに尋ねたのはフォンセ。その位置を知る事で起こせる行動もある。
なのでキュリテはフォンセの方を一瞥し、言葉を続けて話す。
「えーと……ライ君とモバーレズさんはお城の外で戦っていて……レイちゃんはもう一人の側近と最上階に……周りには気を失っている兵士達も居るから……多分ライ君とレイちゃんは側近と兵士達を倒したみたいだね……で、多分モバーレズさんにレイちゃんが負けちゃった……」
淡々と推測を綴るキュリテ。
エマやキュリテたちは知らないが、その推測は殆どあっていた。
エマたちもキュリテも城の様子を見ていなかったのだが、ここまで正確に推測できるのはキュリテの力? 女の勘? ってやつなのだろうか、それか"サイコメトリー"や"未来予知"などの時間に干渉する超能力を使えるので、ある程度詳しく予想できるのかもしれない。
それはさておき、取り敢えずレイに何か被害が及びそうな気配も無い為故に少しだけ安堵するエマ、フォンセ、リヤン。
だが、一人の側近。ファーレスと兵士達が何時起きるのか分からない為、エマたちの思考は一致していた。
「じゃあ、取り敢えず……レイと……ついでに他の者達の救出に向かうとするか……」
「「うん」」
「ああ」
エマの言葉に頷いて返すリヤン、キュリテとフォンセ。
次の瞬間にはキュリテに掴まり、四人は城の中へ"テレポート"した。
*****
「オラァ!!」
「ダラッ!!」
本日何度か分からぬ程の数。ライの拳とモバーレズの刀が激突し、粉塵を巻き上げて大地を粉砕する。
それと同時に二人は跳躍した。それによってクレーターが造り出され、新たな粉塵が天へと舞い上がる。
天に上がった粉塵は日の光に照らされても尚ライとモバーレズの視界を悪くしている状態だ。
「「オラァ!!」」
その刹那にライとモバーレズが空中に上がり、その空中で再びぶつかり合う。そして舞い上がった粉塵を互いの衝撃と風圧で吹き飛ばした。
「……!」
「……!」
二人は二人によって弾き飛ばされ、ライは地面へ、モバーレズは城その物の方へ吹き飛んで激突する。
「オ────」
「ダ────」
「「────ラァ!!」」
地面と城にぶつかったライとモバーレズは直ぐに立ち上がり、再び二人は激突する。
その衝撃が揺らすのは城のみならず、舞台となっていない"シャハル・カラズ"の街まで届いた。
「たまには使ってみるか……」
「…………?」
拳を構えるライが呟くように言い、その言葉に訝しげな表情をするモバーレズ。ライは数メートルだけ距離を取り、両手を前に突き出した。
「これをな……"炎"!!」
「ンだと!?」
──次の刹那、ライの両手から魔力で創られた灼熱の轟炎が放出され、数メートル先のモバーレズが炎に包まれた。何時か使った魔術である。
「……お、前より威力が上がっているな」
そして、そんな魔術を見たライが前よりもパワーアップしていると実感した。
前使った時もそれなりの威力はあったが、今回の魔術は以前の魔術を凌駕する程の威力だったのだ。
【たりめーよ! 何も上がりつつある能力が物理的な力な訳ねーだろ! ハッハッハ! テメェもラスボスの格が上がって来てらァ!】
(何の話だよラスボスって……)
その呟きを聞いた魔王(元)が話、その事にライが突っ込む。
ラスボスどうこうは兎も角、魔術の精度も上がっている事は確かなようだ。
「テメェ……魔術も使えたのかよ……」
そして炎を切り裂いて出てくるのはモバーレズ。
確かに威力は上がっているがライは魔術を使う機会が殆ど無い。なので、熟練者にはあまり通じないのだろう。
「まあな。……まあ、お察しの通り俺は物理主体の戦闘法……。……要するに、アンタを怯ませるくらいしか役に立たないって事だな」
モバーレズの質問にライは答えた。
魔術は専門じゃないという事も伝え、改めて構えるライ。
「ハッ、その力に謎の無効能力……そして雑魚よりは強い魔術……十分過ぎるじゃねェか……」
構えるライを一瞥して、モバーレズは二本の刀を握り直す。
モバーレズは一方の刀を頭上付近へ、もう一本の刀を下半身付近へ、先端をライの方に向けて構えていた。
「ハハ、まあもう少し練習しなきゃ巧みに扱えないからなぁ……本当に、フォンセやリヤンは凄いものだ……」
自分の魔術は実力不足と言いつつ、フォンセとリヤンに感心するよう褒めるライ。
リヤンに至ってはライよりも後に魔術を使えるようになったのだが、それでも全てのエレメントを使えるのが凄いとライは感心しているのだろう。
「ハッ、良い仲間を持ってるじゃねェか! だが、互いに互いの仲間をやられたんだ。容赦はしねェぞ!」
「此方の台詞だ!!」
ライとモバーレズが再び激突した。もう何度も行われている事である。
激突する度に周りには瓦礫が生み出され、クレーターが造られる。それと同時に城が崩れていった。
「ダラァ!!」
次いでモバーレズは二本の刀を振るい、空気を切り裂きながらライへ斬り掛かる。
「もう動きは読めてるぜ……!」
その刀を全て避けるライ。
その太刀筋から一見は当たりそうに見えるが、ライは全てを見切り全てを紙一重で避けていた。
「ククク……そうか。全て読めるか……なら……」
「……?」
モバーレズがそう言った次の瞬間、モバーレズは刀を地面に突き立てる。
そして、
「……読めない攻撃ならどうだ?」
「……!」
そのまま刀を引き抜き、大地の一部ごとその土を天高く巻き上げた。
「読めない攻撃……成る程。動きが読めないんじゃなくて見えにくいって事か……」
その意図に直ぐ気付いたライ。
読めないというのは軌道が読めなかったり動きが読めないという事では無く、大量の土によって視界が悪くなり攻撃が見えにくくなる──即ち読めないという事だ。
「なら、纏めて吹き飛ばせば問題無い!」
そして拳を振るい、その爆風で全ての土を消し飛ばした。
「一瞬の隙が命取りだぜ?」
「……!」
次の瞬間、ライの前にモバーレズの刀が二本迫っていた。
咄嗟にその刀を避けるライだが、本当に咄嗟だった為身体を少し斬り付けられてしまう。
「……土もフェイクか……(……また油断しちゃったな……)」
自分が砕き、空から降り注ぐ土を眺めながら小さな切り傷が出来た頬を撫でるライ。
出血の量は少なく、大きなダメージも無いがまた油断してしまった事を内心で反省する。
「そこォ!!」
「……!」
ヒュンッと刀を突き刺すモバーレズにそれをかわすライ。
(先ずは此方だな……)
反省よりも前にモバーレズに集中し直す。
避けたライは横に倒れて地面に片手を着き、片手を軸に回転してモバーレズから距離を取る。
「ドラァ!」
「……」
ヒュッとライが避けた先に刀を斬り込むモバーレズ。ライはそれを予想して軽く躱した。
「ほらよっ!」
「……!」
ライはそのまま刀を蹴り上げ、弾くようにモバーレズの手から刀を一本離させる。
「チィ……! 小賢しい奴だ……!」
もう一本の刀を振るい、モバーレズは大地ごとライを切り裂こうと仕掛ける。
「スピードとパワーにはそれなりに自信があるんでね……」
身を捻り、斬撃をいなすライ。
斬撃は真っ直ぐ進み、遠方の山を切断した。そしてライはそのまま回転し──
「ほらっ!」
「……!」
──回し蹴りを放つ。
モバーレズは咄嗟に防ごうとするが刀一本では防ぎ切れず、鈍い音を立てて吹き飛ばされた。
「……お?」
その感覚は先程までと違い、手応えという物があった。
それを好機と見たライは、追撃を仕掛ける為にモバーレズを追う。
「オラァ!!」
「ガッ……!!」
吹き飛ぶモバーレズに追い付いたライはモバーレズに向けて拳を放つ。
それを受けたモバーレズは大地にめり込み、地面に大きなクレーターを造り出す。
「オ──」
「……させるかァ!!」
さらに仕掛けようとしたライ。しかしモバーレズが倒れた状態でライの足を蹴り、ライはバランスが崩れる。
「ダラァ!!」
「……ッ!」
そして仕掛けられたモバーレズの刀を受けたライは出血した。
今回は斬り付けられたのでは無く肩を突き刺されたのだ。その衝撃で広がっていたクレーターが更に巨大化する。
「────ラァ!!」
「……ッ!! テメ……突き刺さった状態で……!!」
刀で突き刺されたことにより地面に固定されたライは……『その状態で身体を捻るように動いて蹴りを放った』。
貫かれた箇所は切り裂かれ、下手したら腕と胴が離れてしまうのではと錯覚する程大きな傷口が開いていた。
そしてその蹴りを受けたモバーレズはライから強制的に離され、城に激突して粉塵を巻き上げる。
「……ッ! (……やっぱ痛いな……腕はくっ付いているのか……これ……)」
モバーレズが激突したのを確認したライは立ち上がり、自分の傷を見ていた。
物理耐性が上がっていても尚、激痛は奔るものである。
何度か片腕を負傷した事があり、興奮状態で痛みを普通よりも感じない状態のライだからこそ耐えられたものの、通常ならば動くことすら儘ならない状態だろう。
「痛ェな……マジで痛ェや……つか、これって俺の頭は付いてンのか……? スゲェ激痛が続いてらァ……それにクラクラする……」
モバーレズは激突した城の瓦礫から立ち上がった。
頭の出血は更に広がっており、何故意識があるのかが分からない状態だ。
「オイオイ……何で起き上がれるんだよ……俺はもう結構限界に近いぞ……腕が」
そんなモバーレズを見たライは呆れたように怪我していない方の手で頭を掻き、苦笑を浮かべて話す。
「……あ? ……それってテメェが言える事かァ……? その腕……何でくっ付いてンだってレベルでプラプラしてンじゃねェか……」
そんなライの言葉に、血に塗れていながらも呆れた表情で返すモバーレズ。ライとモバーレズは、何故相手が立てるのか不思議だった。
「……まあでも──」
「──立ってンなら仕方ねェ……」
そんな疑問を思考から消し去るライとモバーレズはザッと両者へ構える。
ライは怪我していない方の腕をモバーレズに向け、モバーレズは薄れ行く意識の中刃毀れが激しい刀を向けた。
「「じゃあさっさとアンタ(テメェ)を仕留めるか……!!」」
刹那、ライとモバーレズは同時に駆け出した。
(魔王。もしかしたら……いや、もしかしなくてもやり過ぎるかもしれないが……お前の力を四割に上げるぞ!)
【ククク……オーケー……。あの幹部……スゲータフだからな……。サムライって奴の強さは分かった……。俺の頃に居れば……いや、居たかも知れねェが……取り敢えず俺は世界征服に苦戦していただろうな……】
サムライに称賛を上げつつライの言葉に了承する魔王(元)。
そしてライの身体により暗く黒い漆黒の渦が纏わり付く。
「何だァ!! また何か色が濃くなっているぞォ!!」
「取り敢えずアンタにはこれくらいはなしゃなと思ってなァ!! 精々死なないように耐えてくれ!!」
モバーレズはライの変化に気付き、口角を上げながらライに尋ねる。そしてそれに応えるライ。
その間はコンマ一秒も経過していない。一瞬、刹那、そのどれよりも速く早く会話をしたのだ。
「オ────」
ライは拳へ握力と共に力を込め、今使える力を集中させていた。
「ダ────」
モバーレズも刀の剣先にまで集中し、周りに視線を向けずライにのみ意識を向ける。
「「──────ラァ!!!」」
────次の瞬間モバーレズの城が……『消し去った』。
ライとモバーレズの激突により音も無く、瞬間移動したのではと錯覚する速度? で消滅したのだ。
──その瞬間、消し去った後に激突音が響き渡り、数万人が入れそうな程の大きさを誇っていた城があった場所には塵一つ残っていなかった。
*****
「……あーあ……俺の……城……が……消え……ち……まっ……たよ……」
──そんな城に視線をやり、心底ガックリしたように身体全体から倒れ込むモバーレズ。
「……そう……かい。それは……中々……御苦労なこったい……まあ……後で……再……生を……手伝って……やる……」
そしてそれに返すライも片手を地に着け、そのまま倒れ込む。
「……だが……俺は……まだその気になれば戦える……」
「…………」
しかしフラつきながらも何とか立ち上がり、今にももげそうな片腕をモバーレズへ向けて突き出すライ。
意識を失ったモバーレズは返す言葉も無い様子だ。
そして、互いに大ダメージを受けたがライは勝利した。
──こうして、ライ一行vs"シャハル・カラズ"メンバー&ザラーム(弟)の戦いは"シャハル・カラズ"メンバーの大将、ザラーム・モバーレズを倒した事によってライたち一行が勝利を収めた。




