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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百十八話 エマvsサリーア・決着

「オ──ラァ!!」

「……ッ!」


 ライの拳がファーレスに命中し、ファーレスの身体は城の壁を幾重にも突き破って貫通しながら吹き飛んで行く。


「……つ……強ェ……。これ、俺なんか相手になんのか?」


 ライとファーレスはまだ戦い始めて間も無い。だが、それでもファーレスはライとの力量に差を感じていた。

 しかし弱気な事を言いつつも直ぐに起き上がってライの様子を確認するファーレス。

 ライはまだ来ていない──


「オラァ!!」


「…………グッ……!?」


 ──訳も無く、背後を取られたファーレスは咄嗟に刀で防ぐが弾き飛ばされてしまった。


「そんなに殴って……俺はサンドバッグじゃねェぞッ!!」


 城の床を砕かない為、軽く床を蹴って加速するファーレス。


「そらそらそらそらそらァ!!」

「…………」


 ヒュヒュンと空気を切り裂き、相手を狙う刀がライに向かって突き刺さりそうになる。しかし、ライはそれが刺さる前に紙一重で避けていた。


「ラァ!!」

「……っと……!」


 そのまま刀を横に薙ぐファーレス。ライは仰け反ってそれを避け、そのまま手を床に着けてバク転の要領で距離を取る。


「そこっ!」

「……ッ!」


 ライが避けようと関係無く畳み掛けるファーレス。足を踏み込みライに向けて仕掛ける。ライは突き刺してきた刀を避けるが、頬を掠ってしまう。


「まだだッ!!」

「うわっと……!」


 ファーレスはそのままの勢いで刀を横に薙ぎ、ライの首を的確に狙う。そしてライはしゃがみ込んでそれを避けた。


「そらっ!」

「ほいっと……」


 刀の向きを横から縦に変えたファーレスは刀を振り下ろし、しゃがみ込んだライに向けて刃を向ける。ライはその動きを読んでいたかのように避け、跳躍して離れた。


「ほーらァ!!」

「何の!」


 ファーレスは再び刀をライに突き刺す体勢に入り、ライは刀の刃が無い刀身。みねてのひらで押して軌道を反らす。


「……あ」


 刀が虚無を切り、勢い余ってバランスが崩れたファーレス。

 ファーレスは何かを察し、小さく声を上げた。


「オラァ!!」


「…………ガッ……!!」


 無論、ライである。

 ライはファーレスのふところに向かい、そのまま拳を上に降ってファーレスの顎にアッパーを決めた。

 それを受けたファーレスは天井を突き破り、天高く飛んでいく。


「まだだ……!」


 それを一瞥したライは自分も跳躍してファーレスの後を追う。


「……? 此処は……」


 そして、そこにあったのは畳が敷き詰められた広い部屋だった。壁に飾りなどは無く、シンプルな景観。

 特に飾りも無い為、一つの事に集中する為の空間。例えば剣術などを練習したりする場所だろうか。


「此処は道場……俺たちは此処で日々鍛錬している……。素振りをしたり組手を取ったり……だ……」


「…………」


 そこにある畳の上にはファーレスが座っており、というより半ば強制的に座らせられたのだがそれはさておき、ライへ説明するように話した。


「そして幹部やその側近クラスが練習するって事は……それなりに頑丈な建物って訳だ」


 ファーレスが言った言葉を聞き、それを要約すると──『ある程度暴れても問題無い』と言っているような感じだった。


「成る程な……それは良いや。……つまり、この場所なら容赦無くアンタを叩けるって訳だ……」


 それを聞いたライは構え、魔王の力は使わずに力を込める。


「寝言は寝て言え……。テメェの場合は寝言も言えねェくらいにしてやるがな……」


 そんなライの様子を一瞥して不敵に笑うファーレス。

 ファーレスは立ち上がり、刀を改めて構えていた。


「……さて、第二戦目だ……」


 互いに敵意を剥き出しにして向かい合い、互いが互いをうかがう。ライとファーレスの戦いは、まだ続く。



*****



「やあッ!」

「遅ェぞ!」


 レイが剣を振るい、モバーレズがその斬撃を刀でいなす。

 斬撃はモバーレズの背後に向かって行き、モバーレズの城を切断した。


「ハッ、テメェらは俺の城を何だと思ってンだよ。……まあ、此処は戦場見てェなもンだし……ちょっとやそっとの被害は覚悟して置かなくちゃァな……」


 モバーレズはレイの斬撃では無く城の心配をしており、レイには興味関心が無い様子だった。


「取り敢えず……テメェも少しはこらえてくれよ?」


「……ッ!!」


 次の刹那、レイの正面に立っていたモバーレズはレイの背後に移動しており──


「……!? 痛ッ……!?」


 ──レイの身体に小さな切り傷が多数付けられていた。

 小さな傷でも無数にあれば鋭い痛みが奔り、痛みに気付いてから数秒経ったあと鮮血が流れる。


「駄目だな……。全然遅ェ……純粋な身体能力は俺の部下……ファーレスたちよりも下の部下よりも弱ェな……なのにそいつらを片付ける事が出来た……成る程、強さの秘密はその剣……か」


 そんなレイを眺めるモバーレズはレイの強さを推測し、レイの持つ剣に秘密があると直ぐに見破った。

 レイの身体能力は高くない。身体能力だけで言えば下っぱクラスの兵士よりも劣るだろう。

 にもかかわらず部下兵士を多く薙ぎ倒せた。つまり、強さの秘密はレイの持つ武器と着目したのだ。


「……」


 レイは無言で何も言わず、モバーレズに向けてその剣を構えている。

 そんなレイの様子を見たモバーレズはクッと笑った──


「ハッ、まあどうでも良いか……どのみち全滅させるのには変わらねェから……な!」


 ──次の刹那、モバーレズが急加速しレイの目の前を通り抜けた。


「……!」


 それを見、何とか剣を出せたレイはモバーレズの刀を防ぐ。だがしかし、その重さに押されて吹き飛んでしまう。


「……ッ!」


 そのまま城の壁に激突し、その衝撃で吐血するレイ。

 レイはその後、壁から崩れるようになだれ落ちて床に倒れ込む。


「やっぱ頑丈だな……その剣。普通とは違う"何か"を感じる……。"オリハルコン"か"ミスリル"が材料に使われているって線もあるが……何か違ェ……何だろうな?」


 レイの握っている剣を見て話すモバーレズ。

 剣と同じような金属の刃物。刀の使い手だからか、モバーレズはレイの剣が普通じゃないことを見抜いた。


「……」


 レイは痛む身体を押さえ、うっすらと痛みによる涙を浮かべながら立ち上がる。

 身体は普通の人間と大差無い。鍛えているので動体視力はあるが、モバーレズの動きを見抜くまでは行かない。痛みによる涙も仕方の無い事だろう。


「おー、立ち上がンのか……。その根性は流石だぜ。……今まで倒した人間は直ぐに降参していたからなァ。少しは骨があるみてェじゃねェか……よ!」


 次の瞬間、モバーレズは床を踏み砕いて加速し、レイとの距離を一気に詰めた。


「……!」


 刹那に二つの金属がぶつかり合って火花が散る。だがレイは、モバーレズの刀を受け止めた。

 しかし小さな切り傷から出血し、それに加えて先程受けた大きなダメージもある為押さえるだけで苦しそうである。


「ほう……。俺の刀を受け止める……か……ハッ! 人間にしちゃァ結構上出来じゃねェか!!」


「うぐ……!」


 剣と刀がぶつかり合ったとは思えない程の鈍い音を出し、モバーレズはレイを弾き飛ばした。

 弾き飛ばされたレイは背後の壁を更に突き破り、幾つもの部屋を渡って太い柱にぶつかる。

 勢い良く激突したレイは脳震盪のうしんとうのような症状を起こし、一瞬だけ気絶した。

 ダメージは受けたが、その柱のお陰でレイの勢いが止まったのだ。

 だがしかし、か弱い少女のその華奢きゃしゃな身体はボロボロになっていた。


「何だァ? もう終わりなのかよ……」


 レイの後を追い掛けてきたモバーレズ。

 モバーレズは脳震盪のうしんとうを起こして気絶しているレイを眺め、残念そうに呟いた。


「…………まだ……」


「……あン?」


 そして、そんなモバーレズは聞き取れない程の小さな声を聞き、訝しげな表情になる。


「……終わって……無い!!」

「……ッ!!」


 その時に放たれた、何とか剣を振るったレイの攻撃。

 それを受けたモバーレズは脇腹を抉られ、そこから激しく出血する。


「……ククク……ハハハッ! やっぱそうこなくちゃ面白くねェ!!」


「────ッ!!」


 その血液を眺めたモバーレズは笑みを浮かべ、レイの身体を蹴り抜いた。

 負傷した身体を魔族の力で蹴られたレイは嘔吐感と共に吐血し、城の戸を砕きながら吹き飛ばされる。


「……」


「ククク……まだ気ィ失って無ェだろ? 立てよ。続きと行こうぜ……?」


 数メートル吹き飛ばされたレイ。モバーレズは直ぐに追い付き、うつぶせの状態で倒れているレイに向かって話す。


「……」


 グッて力を込めつつ満身創痍の状態でも尚、レイは立ち上がった。

 ゆっくりと起き上がり、フラフラしているが目から闘志は消えていない。

 レイも身体は普通の少女。今にも泣きたい程だろう。しかし、レイは痛みと涙をこらえて立ち上がったのだ。

 その様子を見たモバーレズは目を見開き、息を飲み込んだ。


「その目……やっぱテメェは紛れも無ェ強者だな……。さっきはガッカリしたが……そのガッカリした俺を数分前に戻って切り捨ててェくれェには楽しめそうな相手だったぜ……!! 面白ェ!! 強者は喜びッ!! テメェには敬意を払って切り捨てる!!」


 何かを感じたのか、モバーレズは先程とは真逆の事を言った。

 自身の刀を改めて握り締め、レイの強さを認めたように敬意を払う。


「……わ……わたしは……私は……貴方に負けない!!」


 レイもモバーレズへ集中し、身体を高速で巡る激痛に耐えながら力強く話した。

 レイvsモバーレズの戦いは、終盤へと向かって行くのだった。



*****



 ヒュウと一筋の風が駆けるのは城の前にある門。そこでの戦いは静まり返っていた。


「……クッ……我々では……」

「あの戦いには……」

「着いて行け……」


 駆け付けた兵士達は全員気を失い、催眠状態だった兵士達も動けない様子である。

 門は砕かれており、あちこちに抉れた大地や焼けた大地、浸水した大地に地形が変わった大地が広がっていた。

 そんな天変地異でも起こったかの現象は。


「"雷遁らいとんの術"!!」

「効かぬわァ!!」


 エマとサリーアの二人によって起こされた事だった。

 サリーアは再び忍術を使い、いかづちを操ってエマへと仕向ける。そしてそのいかづちを受けても尚無事な状態のエマ。


「次は此方から行くぞ!!」


 エマは日差しで完全な力が出なくとも霧になり、姿をサリーアの前からかすませる。

 持っている傘も霧になっている為、身に付けている物は全てエマの一部と見なされるのだろう。


「また……なら私も……"影分身の術"……!」


 霧状になって姿が見えにくくなったエマに対し、サリーアは分身して迎え撃つ体勢に入る。


「ふふふ……また分身か……。だが、その分身はあまり意味を成さないって分かっただろ? 一つ一つを仕留めても私は疲れないからな……」


 ふふふふふ……と、超音波の要領で自分の声を反響させてサリーアの不安を煽るエマ。

 霧の状態から一瞬だけ姿を現し、現れては消え、現れては消えを繰り返す。


「「「なら、その前に貴女を倒せば良いだけの事よ!」」」


 刹那、サリーアは辺り全体にクナイや手裏剣を投げ、霧のエマに向けて狙いを定めず放ちまくる。


「……ほう? 確かに分身を含めて数十人居る貴様なら当てる事が出来るかもな……それに、一個でも当たればダメージは無いにしても血痕から私の居場所を探る事も出来る筈だ……」


 カカッと何かが刺さる音。それはクナイや手裏剣が霧を通り抜けて地面に刺さったから。

 そんなサリーアの様子を何処からか眺めて話すエマ。

 それに、0と1で大きく変わるのも事実である。


「しかしだな……。霧状の私にはダメージという概念が無いんだ……」


「……!!」


 次の瞬間、霧から戻ったエマは三人のサリーアを消し去った。ボンッという音と共にサリーアの分身が消え、その数が減る。


「そして、貴様程度の速度なら貴様の攻撃を受けず、一方的に葬る事も可能だ……!」


 サリーア達の背後に回り込んだエマは淡々と言葉をつづった。


「!!」


 サリーアは慌てた様子で後ろを振り向くが、そこにエマの姿は無く霧のみが広がっていた。


「……なら、全てを消し去れば良いのよ! "火遁かとんの術"!!」


 次の忍術を使い、それによってボウッと辺りから炎が広がり霧を蒸発させていく。


「それくらい読めぬと思っていたのか?」


 次の瞬間、エマがサリーアの死角に現れる。霧の一部が蒸発したくらいでは無傷に等しいヴァンパイアの不死身性。死角に現れるのは容易い事である。


「勿論、読むのを読んでいたわよ!」

「ふふ、そうだろうな」


 サリーアは直ぐに反応し、エマに向けてクナイを突き刺した。

 クナイを刺されたエマからは出血し、鮮血が地面を赤く染めさせる。


「……で、どうするんだ? 互いの距離は数センチ……。そして分身も先程の"火遁かとんの術"とやらで消え去った。多くの魔力を消費したのだろうな……」


 そう、何時か述べたようにサリーアの忍術は魔力を消費する。いわば勝手の違う魔術。

 多くの魔力を消費してしまった場合、自動的に魔力で創られた分身も消えてしまうのだ。


「ふふ……これを見ても余裕の表情を消さずにいられるかしら……?」


「……? ……なっ!?」


 次の瞬間、エマの身体に悪寒が駆け巡る。それと同時にサリーアは……『銀色に輝くクナイ』をエマの脇腹へと突き刺した。


「……こ、これは……銀……!」


 ──銀。ヴァンパイアであるエマが持つ弱点の一つ。

 それはヴァンパイアのエマが触れるだけで火傷する代物で、それを使えばヴァンパイアを仕留める事が出来る物だ。

 驚愕するエマを横目に、サリーアは言葉を続ける。


「ふふ、ええ。吸血鬼アナタの弱点である銀。それで造られたクナイよ……。特注品だからちょっと高かったし、飾り付け用の物だったけど……思わぬところで役に立ったわ……」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて話すサリーア。

 恐らく確実に当てる事が出来るこの機会を狙う為にずっと隠し持っていたのだろう。

 影分身やその他の術は銀のクナイを隠す為のフェイク。

 あわよくば銀のクナイを使わずにヴァンパイアの弱点である炎を操る"火遁かとんの術"で倒す事を考えていたのかもしれないが、エマの不死性を見たから銀のクナイを使ったのだろう。


「ふふ……火傷してるわね……。普通だったら"火遁かとんの術"よりも威力が低い筈なのにね……?」


 銀のクナイを受けたエマの身体が赤くなり、クナイが刺さった場所に火傷したような傷が出来上がる。


「ああ、銀はちと苦手でな……。買い物する時も銀貨は使えず、金貨や銭貨しか触れない始末だ……」


「……!」


 火傷を負いながらも突き刺したサリーアの手首を掴むエマ。

 サリーアは手をほどこうとするが、ヴァンパイアの怪力に押さえ付けられた為に動かす事は出来なかった。


「だが、貴様の攻撃方法は忍術を除けば接近戦……! それは私が得意とする方法でもある……!」


「…!?」


 ザァっと、エマの言葉にサリーアの身体が揺らいだ。

 サリーアは得体の知れぬ恐怖を感じ、思わず手をクナイごとエマから引き抜く。


「ふふ……やっと抜いてくれたか……いやはや……中々痛かったぞ? 中々治らない傷を負ったのは何百年振りだろうな……?」


 フッと笑いながらサリーアの様子を眺めるエマ。

 エマは刺されていなかったのでは無いかと錯覚する程余裕の表情をしていた。


「最悪、貴女を殺す事になるかもしれないわね……。貴女を行動不能にするにはそれしか無いから……! ……『だから貴女の心臓に銀のクナイを刺す』わ!!」


 サリーアは銀のクナイを構え、怯えたような表情でエマを見やる。

 忍びは本来、精神面や肉体面に置いての耐性が高い。捕らえられた時、拷問を受ける時などに仲間の情報を漏らしてしまわぬようにそう鍛えられているからだ。

 だがしかし、今回サリーアが体感したモノは拷問などとは比べ物にならない程の恐怖。それを感じ、先程は狩られる側の立場だったと理解する。


「ふふ……面白い。……それくらいの意気込みで来てくれなければ私も戦い甲斐が無いという事だ……」


 サリーアの言葉を聞いても尚、余裕の笑みを消さないエマ。

 銀のクナイで刺された箇所は癒えず、今も鮮血が流れているのだが、それすらも意に介してしない様子だった。

 突き刺された箇所が火傷するというのもあり、出血した傷口が焼けているのだ。その痛みは常人なら耐えられないだろう。


「……」

「……」


 冷や汗を流しながらエマの出方をうかがっているサリーアに対し、余裕の態度を崩さずにサリーアの出方をうかがうエマ。


「「「…………」」」


 二人の間には沈黙が広がり、周りに居るであろう兵士達も何も言わずに見守っていた。


「「……」」


 ツ━━っと傷付いたエマの脇腹から鮮血がこぼれ、流れるようにピチャッと垂れた──その刹那、


「……!!」

「……!!」


 サリーアは大地を蹴って跳躍し、上空からエマへと狙いを定める。エマはその後を追うように跳躍し、『サリーアの首筋』に狙いを定めた。


「貰っ────」


 サリーアはエマよりも少しだけ早く動いた為、隙だらけのエマの胸に向けてクナイを放つ体勢に入る。

 目の前に居たヴァンパイアは隙があった。恐怖に押されてしまい、慌てて銀のクナイをエマの胸へ──


「残念だが……貴様の方が遅い……」

「……!?」


 ──その瞬間、エマは持っていた傘をサリーアへ向けて放った。

 それによってサリーアは怯み、動きが一瞬だけ停止する。

 そしてその一瞬がサリーアの命取りとなった。空を飛ぶ事も可能なエマがサリーアの後ろに回り込み、サリーアを押さえ付けたのだ。


「……ッ! ヴァンパイア……!!」


 サリーアは振り向くが、ヴァンパイアの怪力に抵抗できる訳も無く重力に伴って落下する。エマとサリーアが大地に落ち、辺りには砂埃が舞い上がった。


「ヴァンパイアの知識がそれなりにあるようだが……ならばヴァンパイアは何を糧にして生きているのか分かるよな……?」


「……!!」


 サリーアに纏わり付くエマ。

 エマの言葉にサリーアは、これから何が起こるのかを理解してしまった。


「そんな……嘘……や、やめて……!」


「おやおや……どうした? 急に大人しくなって……ふふ……誰かと同じような反応を示すのだな……」


 弱気になり、涙を浮かべるサリーア。

 そんなサリーアを見たエマは既視感を感じ、可笑しくなったのか思わず笑みが溢れる。


「……安心しろ……。痛くは無い。この世のモノとは思えぬ快楽が貴様を襲うだけだ……」


「……ゃ……い、いやぁ!!」


 誘うような声と共にサリーアの首筋に口を付け、牙を刺し込んでサリーアの皮膚を突き破る。

 そこから真っ赤な鮮血が零れ、サリーアの首筋から背を伝う。


「……では(へあ)いはは()()よう()……」


 モゴモゴと聞き取れないような声で話つつ、エマはその首筋から真っ赤な液体をすすっていく。

 暖かな血液は緩やかに吸われ、得も言えぬ快楽がサリーアの身体をむしばんだ。


「ぁ……い、いや……あぁ……ぁ……」


 最初こそ血を吸われまいと抵抗していたサリーアだったが、徐々に力が弱まって行き最後にはエマに身を任せていた。

 抵抗したくても抵抗出来ない、脳や身体が抵抗しようとしなくなる快楽。


「……ご馳走さま……ふふ、中々美味い血だった。これは誇れる事だ。穢れ無き美しい身体と血液だ……」


「……」


 そしてペロリと舌舐めずりをして頬の血を拭き取り、満足そうに笑うエマ。

 快楽のあまりサリーアの腰は抜けており、立つ事すらままならない状態となっていた。

 光を失った目からは涙が溢れており、頬は赤く染まって口元から唾液が流れているサリーア。


「まあ、安心しろ。前にも血を吸った幹部の側近が居たが、今も元気にやっている。私に隷属れいぞくさせる気が無ければヴァンパイアにもグーラにもならないからな……」


 そう呟き、ライとレイが乗り込んだ城を見上げるエマ。

 こうして、エマvsサリーアの戦いはサリーアの戦意喪失によりエマが勝利を収めた。

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