百十四話 リヤンの力・フォンセvsロムフ・キュリテvsザラーム
「止めろォ!! 何としてもこの者達を止めるんだァ!!」
「無理ですッ!! 我々のみでは勝てません!!」
「クソォッ!!」
"シャハル・カラズ"の兵士達は次々と口に出し、"シャハル・カラズ"へ攻め込む侵略者。
「オラァ!!」
「ハアッ!!」
「やあっ……!!」
「「「グワアアアァァァァァ!!」」」
──ライ、レイ、リヤンの三人へ向けて銃・矢・魔法・魔術を放って攻撃を仕掛ける。
それら全てはライによって防がれ、一瞬の隙でレイとリヤンが兵士達を打ち崩していく。
「ほーら……」
次いでライは小石を拾って片手に持ち──
「……よっと!」
「「「ギャアアアァァァァ!!」」」
──投石して兵士達を纏めて吹き飛ばした。
投石された小石は直ぐに気化するが、ほんの一欠片でも触れればたちまち粉塵と共に轟音を立てて大地は砕け散る。
無論、ライはまだ魔王の力を指一本にすら使っていない状態だ。
(……また威力が上がっている……)
そして、そんなライは自身の力が日々高まりつつある事に自分自身が驚いていた。
まだ旅立ってから数ヵ月も経っていない今現在。にも拘わらず、ライの力は向上し続けているのだ。
【ククク……強い力ってのは扱い難い物だ……それは何故か……自分でそれを理解していないからだ。お前も世界征服を望むなら、一々自分の変化に驚いてんじゃねえよ……】
困惑しているライに話す魔王(元)。
今ではもうライの保護者みたくなっている魔王(元)だが、フォンセが居るという事は魔王(元)にも子供が居たという事。
それは数百、数千年前に遡るが子供を育てた事もあるのだろう。
無論、適当な異性と作って面倒を見なかった子供という可能性もあるが。
(一々驚くな……か。確かにそうだな。それが良い……!)
ライは魔王(元)に励まされ? 再び兵士達と向き合う。
「……! 急に止まったと思ったら突然動き出したぞ……!」
兵士達はライの様子を窺っているだけだった。
ライと魔王(元)の会話は普通に話したり脳内で話すというよりも、二人の空間で話すという感覚なので時間の流れが違う。
それでもライは自身の力に驚いて数秒だけ停止していたのだ。
「取り敢えず……」
タンッとライは地面を蹴り──
「「「…………!!」」」
「力を試してみるか……!」
──有無を言わさずに兵士達を吹き飛ばし、そのまま行動不能にした。
「やあ!」
「「「……カハ……ッ!」」」
ライに続くよう、ザンッ。とレイは剣を振るい、的確に兵士達を討ち取る。
無論の事、殺しては居ないが森を消し去る剣だ。兵士達は暫くの間動く事が儘ならないだろう。
「……ハア……!」
リヤンは幻獣の技を使い、兵士達を攻撃する。
「これは……幻獣・魔物の力か……!」
「だ……だが、幻獣・魔物なら何度か倒した事もある……!」
「応ともよ!」
だが、規格外の破壊力を生み出す技や伝説が使っていた武器などでは無い為、リヤンの技は効いていても兵士達は怯まなかった。
「"炎"!!」
「"風"!!」
「ドリャァ」
魔法・魔術、そして刀でリヤンに攻撃する兵士達。
「……! ……この程度なら……!」
その攻撃を──野生の勘や動体視力、運動能力を持つリヤンはそれを見極め、完璧に避け切った。
「避けられたか……!」
「だが、奴には広範囲に影響を与える技は無いようだ……!」
「つまり、俺たちがバラバラに攻めれば……!」
リヤンの動きを見た兵士達は、行動パターンを変更した。
正面からでも勝てると思っていた様子だが、それが無駄だと理解して三方から攻め込む。
「……!」
それを聞いたリヤンは三人の兵士を一瞥し、焦った様子で辺りを見渡す。
「……広範囲……?」
そして、リヤンは兵士達が言った言葉を呟くように言った。
広範囲を狙える攻撃があれば戦闘の幅が広がり、戦闘経験が数回しか無いリヤンでも工夫して経験者に勝利できるだろう。
「何か……何か……」
リヤンは広範囲を狙える幻獣・魔物の技が無いか必死に思い出そうとする。
一番近いのはイフリートの魔術だが、魔術師じゃないリヤンは前方以外を狙うのに練習が必要だろう。
「「「吹き飛べェ!!」」」
「纏めて攻撃……広範囲……幻獣・魔物・妖怪…………え? ……妖……怪……?」
兵士達は同時に声を上げてリヤンを狙い撃った。
リヤンは思考を巡らせており、どう出るかを考え、一つの言葉がヒントになる。
「……! させるか……!」
それを見たライはリヤンの方を向き、大地を踏みつけリヤンの方へ向かおうとする。
「……!」
「やあ……!!」
──が、その行動は無駄な物だったと言う事を、リヤンの技によって即座に知らされた。
「"蜘蛛の糸"……! これは大蜘蛛の糸か……!」
「グ……!」
「う……!」
「動……けん……!」
──リヤンは……『一度見ただけの、大蜘蛛が使った技を使用した』のだ。
その粘着力の高い糸によってリヤンへ攻めようとしていた兵士達は絡み取られ、身動きが取れなくなった。
「……! これは……私が……?」
咄嗟に出た事なのか、蜘蛛の糸を放出したリヤン本人ですら理解していなかった。
当然だろう。一度見た事はあるが、身に付けた覚えの無い蜘蛛の糸を扱えたのだから。
「だが、糸は炎によって焼き切れる! ……"炎"!!」
そして次の瞬間には兵士が炎魔術を放ち、蜘蛛の糸を焼き捨てた。
蜘蛛の糸は炎に弱い。だからこそ炎魔術を使われると直ぐに焼き切れてしまうのだ。
「良し、俺たちのも頼む!」
「任せろ!」
その兵士が仲間の糸も焼き切り、解放した兵士と共にリヤンへ向かって飛び掛かる。
「「「ウオラァ!!」」」
「……! 全員同じ位置……!」
兵士達は真っ直ぐリヤンに向かう。正面から来る兵士達は隙だらけだった。
「……えいっ!」
「「「ギャアアアァァァァ!! しくじったァ!!」」」
イフリートの魔術により、纏まった兵士が吹き飛ぶ。
広範囲の拘束技を使えるようになったリヤンは兵士達を片付ける。
ライ、レイも次々と兵士達を倒していき、数十人居た兵士達は全員気を失った。
「良し……と。これで……全部だな」
兵士達を仕留めたところでライ、レイ、リヤンの三人は集まる。
ライはレイとリヤンの顔を確認し、言葉を発する。
「凄いな、リヤン! 何時の間に大蜘蛛の技を使えるようになったんだ?」
先ずライはリヤンに蜘蛛の糸の事について尋ねる。
神の子孫であるリヤンならば使えても何ら不思議では無いが、リヤンが神の子孫だと最近知ったばかりのライは気になったのだ。
「……あ、うん……。じゃあ説明するね……?」
リヤンはライに聞かれ、それに頷いて返す。
そして自分は、貰い受ければ幻獣・魔物の力を使えるという事を話した。
「へえ。成る程ねえ……。それで急に魔術を使えるようになったり、人間離れした身体能力を……かぁ。……まあ、リヤンの種族は人間なのか分からないけどな」
「うん……。……でも……」
しかし、リヤンには大蜘蛛に思い当たる事が無く、何故"蜘蛛の糸"が使えるようになったのか理解できなかった。
「……」
そんな風に悩むリヤンの様子を見たライが、少し考えて話す。
「……もしかして……『リヤンが見た幻獣・魔物の技ならすべて使える』んじゃないのか?」
「…………え?」
ライが言った事。それは幻獣・魔物の技を見ただけで使えるようになってしまうという事。
つまり、幻獣・魔物が炎を吐けばそれを見たリヤンにも炎を使えるようになり、幻獣・魔物が音速で動けばそれを見たリヤンが音速で動けるようになるという、生物を超越した力が宿るとの事である。
「まあ、悪魔で推測の一つだけどな。その可能性はあると思う。……なんたって神の子孫だからな」
「……」
「リヤン……」
そんな事を話すライの横で、困惑した表情を浮かべているリヤンと、そんなリヤンを心配そうに眺めるレイだった。
*****
次の刹那、大地が粉砕し、砕けた大地が燃え上がる。
「ウオラァ!!」
「"炎爆発"!!」
ロムフとフォンセの二人によって。
ロムフが粉砕した粉塵はその粒一つ一つにフォンセの炎が燃え移り、連鎖して爆発のような炎を巻き起こす。俗に言う粉塵爆発だ。
通常の地面は燃えにくい為、砂埃程度で粉塵爆発は起こらない。そして密封空間以外では起こりにくいのだが、フォンセの魔術は炎の爆発──つまり炎魔術と爆破魔術を組み合わせた技の為に爆発が連鎖して粉塵爆発を引き起こしたのだ。
爆発の衝撃で辺りは廃墟と化し、ロムフが連れてきた兵士達も殆どの者が戦意喪失していた。
「ほう……まさか屋外で粉塵爆発を起こすとはな……」
「馬鹿か? 起こる訳無いだろう。……まさか、粉塵爆発を本当の爆発と勘違いしているのか? 大きな爆発を一つと小さな爆発を多数起こしてそれっぽく見せただけだ。……まあ、始めの大きな爆発で貴様らの兵士は満身創痍だぞ?」
ロムフが話、フォンセが挑発するように即答で返す。
とまあそんな感じで、結局は爆破魔術の一つと言うことである。
「ふん。悪いな、俺は魔法・魔術には疎いんだ……よッ!」
その瞬間、ロムフは再び槍を振るって大地を抉った。
それによって大地が割れ、空中に投げ出されたフォンセ。
「その力があれば魔法・魔術に疎くともやっていけそうだな……事実やっているか……"浮遊風"……」
フォンセは足から風魔術を放出し、空中で立ち止まった。
「ああ、実際そうだからな……!」
空中のフォンセを一瞥したロムフは大地を踏み砕き、クレーターを造り出して跳躍する。
「ハッ!!」
そしてそのまま空中に居るフォンセの元に近付いたロムフは槍を突き、
「"土壁"!」
その槍を見たフォンセは土魔術で壁を創り出して防いだ。
無論、その壁は一瞬にして粒子になる。
「……!?」
そして壁が消えた時、目の前にフォンセの姿が無くなっている事へ目を見開くロムフ。
ロムフは集中していたからこそ、フォンセが突然消えたように錯覚したのだ。
「上だ……"重力風"!!」
フォンセは風魔術を重くし、ロムフ地面に叩きつける。
実際に重力が掛かった訳ではなく、上から協力な風を放出する事で叩き落としたのだ。
「全く……頑丈な奴だな……」
「……ああ、身体は丈夫だからな」
フォンセは空から降り立ち、高速で落下したにも拘わらずに立ち上がったロムフを一瞥して話した。
ロムフはゴキッと首を鳴らし、
「地に降りたなら俺の方が有利な筈だ……行くぞ!」
大地を蹴ってフォンセへ向かうロムフ。
その衝撃で土煙が舞い上がるが、ライが戦っている時の方が激しいので気にしない。
「フッ……良いだろう。私も迎え撃つ……」
猪突猛進、一直線に向かってくるロムフへ向けて掌を翳すフォンセ。
「ウオオオ!!」
「"強風"!」
そして二つの衝撃は激突し、更に激しさを増す。大地は振動して砕け散り、天が大きく揺れる。
「お、俺たちも行くぞ……!」
「「お、おお!」」
それを見ていた戦意喪失した兵士達も立ち上がり、戦いに参戦する。此方の戦いはまだ始まったばかりである。
*****
「はあ!」
「だらァ!!」
キュリテが"エアロキネシス"で創り出した鎌鼬とザラームの持つ刀が放った斬撃が激突する。そして周りは切断された。
もう既に超能力と斬撃が何度かぶつかっており、辺りには砕かれて亀裂が入った大地が広がっていた。
「ダラァ!!」
「はあ!!」
そしてまた斬撃と念力がぶつかり合い、亀裂を大きく広げる。
「オラッ!」
ザラームは大地を蹴り、キュリテに向かって刀を向けながら突き進む。
「そんな物……!」
ザラームに向けて"サイコキネシス"を放ち、ザラームの動きを停止させた。
「チィッ!」
ザラームは身体を捻り、キュリテの"サイコキネシス"から抜け出した。
そしてキュリテの方を見て話す。
「ハッ! テメェは相変わらず超能力に頼りっきりだな! 少しは自分自身を鍛えたらどうだ?」
それはザラームが超能力に頼った戦い方をするキュリテに向かって言った事だった。
超能力しか使わず戦闘を行わないキュリテ。ザラームはそこを突くように話したのだ。
「私の超能力は生まれつき! 鍛えるも何も、鍛えるのは私自身の超能力だよ!」
そんな言葉にキュリテは反論を言う。生まれつきの力の為、そんな事を言われても困るのだ。
「ハッ、そいつァ良いな! 前から思っていたが、たまたま強い力を持って産まれただけで幹部の側近になれたんだ! 幸運以外の何者でも無ェ!!」
そして、そんな超能力のお陰で強くなれたと皮肉を話すザラーム。
その言葉は以前、キュリテを妬む一人の側近言われたような事だった。運が良かったから努力せず力を得られたと。
「強い力だけじゃ意味無いよ! その力を鍛えて工夫して……それでやっと改めて真価を発揮するんだから!」
そんなザラームに自分もそれなりの努力をしていると話すキュリテ。
そして二人はぶつかり合い、条例通り周りが細かく砕けて切断される。
「違うな! テメェの力は天に与えられたモノ! 超能力があるからちやほやされている! テメェは何もしちゃいねェんだよ!!」
「……ッ!」
気迫ある表情で迫り来るザラームは、再び刀を振るった。
そして天空の雲が切断される。キュリテは何とか堪えるが少し押され、背後の瓦礫に激突して瓦礫を砕く。
「努力……ねぇ……」
前述したように、前にも自分を嫌っている者から──努力せずに強大な力を持っている事が妬ましいと言われた気がした。
そしてキュリテはフッと笑い、
「アハハハハ♪ ……私なんかが努力しても絶対に勝てない相手を知っているけどね♪ 支配者や幹部以外の子供で♪」
──刹那、キュリテの周りに念力の渦が創られた。
それによって瓦礫は浮き上がり、仕舞いにはキュリテとザラームが居た大地も浮き上がる。
「クハハ……! やっとそこそこ本気になってくれたか……。挑発ってのはどうも苦手でいけねェな……」
そして、先程の言葉はザラームの考えだったらしく、滅多に本気を見せないキュリテの奥底に眠る力を見てみたかったとの事。
実際ザラームはキュリテの超能力以外の部分も認めており、幹部の側近として必要な存在だと認識しているのだ。
「ハッハッハー!! 良いぜ、最高だキュリテ!! テメェの超能力!! 俺の刀で破れるか楽しみだ!!」
「……なーんだ。……全て演技だったんだね ……けど、私もたまには力をフル活用するのも悪くないかなー?」
────次の瞬間、大地が……『天に舞った』。
キュリテの超能力によって浮き上がった地面はそのまま上空に浮かび、とてつもない高さまで来ていた。
「ククク……成る程な……。此処なら邪魔が入らねェか……」
昼間にも拘わらず星が見える位置まで来たザラームは大変楽しそうな笑みを浮かべて話す。
この場所は空気も薄くなっており、気温も低下していた。
「そうだよ♪ さあ、決着をつけましょう? 私と貴方、どちらが"レイル・マディーナ"の最高幹部なのかを……!」
"どちらが最高幹部なのかを"という事は、オスクロやゾフルは既に眼中に無い様子だった。
それともこの場の状況に合わせて言っているのだろうか。
そのどれかなのか定かでは無いがそれはさておき、キュリテとザラームの戦いも続く。




