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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百八話 山容水態の怪物

「……ンだァ? さっきから騒がしいな……それに揺れてやがる……。大天狗が言っていたのはこの事か……?」


 揺れを感じ、声を聞いたモバーレズ。

 モバーレズは大天狗の言葉を思い出し、この揺れと声を起こしているのは大天狗が言っていたモノが目覚めたと推測する。


「ザラームさん。そんな事言っている場合じゃねェでしょ……取り敢えずこの城は結構頑丈だし、妖怪達の群れも去ったしで……街に残った住人を避難させるのが優先じゃないか?」


 モバーレズの様子を一瞥したファーレスは、そんなモバーレズに向けて言った。城は頑丈らしく、それならば安全な城に住人を避難させるとの事。


「だな。目覚めたのは怪物か何かだと考えると……とてつもねェデカさだ。この街も無傷じゃ済まねェだろうな。……まあ、もう無傷じゃ無ェけど……」


 ファーレスの言葉に返しつつその提案に賛成するモバーレズ。

 幹部は自分のやりたい事を自由にするのでは無く、住人を救助。つまり護る事が優先すべき事なのである。


「じゃあ取り敢えず……」



 ──刹那、モバーレズは刀を振るい、振動によって崩れていた建物を切り裂いた。



「まあ、これである程度の住人が通る道は確保されたろ……。あとは街の方に行くか……それとも怪物を先に倒すか……」


 チャキンと刀を納めたモバーレズは、どういう風に行動するか考える。先に住人を避難させた方が良さそうだが、そういう訳にも行かないのだ。

 例えば、住人達を先に避難させたとする。それによって比較的安全な城に移動できたとしよう。

 その場合、怪物の居場所は何処に移動しているのか……だ。

 怪物とて動かない訳が無い。もしも城付近に近付いて来ていた場合、怪物を倒さなければ城が破壊され、多大なる死者を出すだろう。

 この怪物がとてつもない巨躯だという事は聞いていないモバーレズでも理解できる事だ。

 倒すのに時間が掛かってしまえば城が砕かれ、避難した住人のほとんどが死してしまう。

 なので先に怪物を倒す。もしくは動きを止めれば安全に避難させる事が出来、ダメージをあらかじめ与えて置けば後々倒すのも楽になる。

 だがしかし、先に避難させなかった場合も住人が被害を受ける可能性があり、どちらを選んでも相応のリスクがあるのだ。


「なら、ザラームさんが行けば良い。正直、俺たちじゃ力不足だからな。俺たちは住人優先、ザラームさんは怪物……。これで良いんじゃねェか? ……まあ、ザラーム一人ってのもアレだが……」


 モバーレズの様子を眺めたファーレスはその心境を読み取り、モバーレズへ行くように促す。

 怪物が如何程のモノか定かでは無いが、先程の妖怪達の言葉からするに怪物はかなりの強敵。ならば幹部であるモバーレズが向かった方が良いと思案したのだろう。


「そうか? ……此処を開けるのは少々不安なンだけどなァ……。まあ、ファーレスがそう言うンじゃしょうがねェな!」


 口振りだけ聞けば仕方無さそうな言い方のモバーレズ。だが、その口元が緩み笑みを浮かべている様子を見るとやはり戦闘の方が嬉しいのだろう。


「まあ、この異変にはほとんどの奴が気付いているだろうし……アイツらも来るかもな……」


 笑みを浮かべながら呟き、ある者たちを思っている様子のモバーレズ。


「アイツら? ……他の街の幹部ッスかァ?」


 そんな言葉を聞いたファーレスは訝しげな表情でモバーレズへ尋ねる。何者かという事は推測出来たが、初耳なので気になったのだ。

 そんなファーレスに向けてモバーレズはクッと喉を鳴らして笑い、


「さぁ……どうだろうな? まあ、幹部レベルなのには違いねェけど……」


 ほのめかすように話した。

 何はともあれ、"シャハル・カラズ"幹部のモバーレズは怪物退治へ、その側近は住人達の避難をさせる為に向かう事にした。



*****



「声はするし……身体も多分俺の足元だが……顔が見えないな……」


 ライは辺りを見渡し、怪物の"顔"を探した。

 顔は大抵の生き物の急所と成りうる。それに加え、その生物がなんなのか顔を見れば分かる。つまり、全貌が見えない生物の正体を知るには顔を見るのが一番良いのだ。


「このレベルの大きさじゃ私の超能力でも思考を読めないし……"アニマルトーキング"を使っても話せないだろうねぇ……」


 ライの言葉を聞き、この大きさが相手では相手の思考を読む"テレパシー"や動物との会話を可能にする"アニマルトーキング"も効かないと考えるキュリテ。


「となると……。物理的にダメージを与えて引きずり出すのが一番手っ取り早いか……。この街じゃ被害が及びそうだし……山の方に向かうのが一番だな」


「「「ああ……」」」

「うん」


 ライの言葉に頷いて返すエマ、フォンセ、キュリテ、ザラーム。しかしレイ、リヤンはあまり乗り気では無い様子だった。


「けど、この大きさの相手なら……ライが……」

「うん……」


 それはライに危険が及ばないかの心配である。その言葉にリヤンも頷く。

 恐らくライは無茶をするだろう。事実、今までも二回程片腕を負傷している。


「……ああ、その心配なら無用だ」

「「……?」」


 そんなレイたちに対し、不敵な笑みを浮かべるライ。

 その言動に対してレイとリヤンは訝しげな表情で"?"を浮かべる。


「俺は俺一人じゃないからな!」


 それは魔王(元)が居るからとの事。特別な作戦などがあるという訳でも無く、ただ単に魔王(元)を信頼しているから。

 しかし、今居るメンバーの中なら確かに一番強いのが魔王(元)だろう。

 根拠というものが無い自信だが、魔王(元)の力には根拠が必要ない説得力があった。


「分かった。でも、怪我には気を付けてね……」

「うん……怪我したら私が治療する……」


 レイとリヤンもライの意見に乗る。

 こうしてライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、ザラームに見送られて山の方へ行く事にした。


「じゃ、この街は兄貴の街なんで、俺は住人の避難をさせる」


 そしてライの背中を見送ったあと、ザラームが街の方に向けて歩き出した。

 街の幹部の弟。この街に縁が無いという訳では無いので街の手助けへ向かうらしい。


「そうか。まだ街には魔族達が残って居るのか……」


 ザラームの言葉を聞いたエマは街の方に向き、まだ魔族達が居るという事が気になった。

 多少の避難はされているだろうが、確かに街には逃げ遅れた者たちも少なからず居るだろう。


「なら、私たちも各々(それぞれ)に分かれて行動しない? ザラームはもう一人で行っちゃったから、この五人でチーム分けしてさ!」


 そんなエマの呟きを聞いたキュリテはレイ、エマ、フォンセ、リヤンの方に向き直って一つの事を提案した。

 確かにやる事が無いのなら手分けして住人達を助けるのが良いだろう。


「……そうか……。なら──」



 ──そして、こちらはチーム分けを済ませた。



 "テレパシー"で他人の考えが読めるキュリテのチームと、五感が他人よりも優れているエマのチームとなる。

 キュリテのチームにはフォンセが。エマのチームにはレイとリヤンが加わる。

 回復術を使える二人が集まったキュリテのチームはこれだけで事足りる。

 感覚は優れておれど、万能では無いエマのチームは人を多くしてそれらを補うように三人にしたのだ。

 エマチームの回復役は治療効果のある血を持つエマと、対象に触れただけで治療することが出来るリヤンである。

 レイは大きな瓦礫を細かくする為に勇者の剣を持っている。

 何はともあれ、ライとザラーム、エマたちとフォンセたちは四手に別れた。



*****



「さーて……何処に居るのか……いや、見えてる物全てが身体だろうけどな」


 誰に言う訳でもなく呟き、建物や木々の上を飛び交いながら怪物を探すライ。

 周りに被害を出さない為、かなり速度を落として音速に近い速度で移動しているライは既に街を抜けていた。

 怪物は既に見えているのだろうが、何処を狙えば被害を最小限に出来るのかを探っているのだ。


【ククク……簡単な事だ。街や山ごと全てを纏めて(却下だ)吹き飛ば……ケッ、そうかい】


 怪物を探しながら建物から建物、木から木へ飛び回るライに向けて話そうとした魔王(元)は、ライによって即答で却下される。


【全く……世界征服が聞いて呆れるぜ。いずれにせよ世界を支配するってなら場合によっちゃ"甘さ"ってのを捨てた方が良いぜ?】


 そんなライの言葉を聞いた魔王(元)は呆れたような声音でそう言う。

 ライの目標は世界征服。しかし、ライ自身は全くと言っていい程己の力を振りかざそうとしない。

 魔王(元)は世界征服を目的とするに当たって、その力を非情な事にも使わなければならないと告げたのだ。


(甘さ……か……)


 しかし魔王(元)の言うことにも一理あり、ライは少し思うところがある様子だ。


(なら、魔王。……魔王の威圧を周囲に散らす事が出来るか?)


【……ククク……御安い御用だ】



 ──刹那、何時も纏っている漆黒の渦とは違う渦がライを包み込んだ。



(……よし、これなら)


 ライは街の外にある山の方に来ており、そのまま山に向けて魔王の威圧を放つ。

 それと同時に、山に棲む動物達は恐れおののいて魔王ライから逃げ出した。


「そーら……」


 山の奥に入ったライは軽く足を上げ──


「……よっと!」


 ──山を砕いた。

 足踏みをする要領で、大きな山を軽く砕いたのだ。野生動物は逃げ出した為、動物や生き物への被害は無い。木々は再生させる事が出来る為、普通に砕いた。


【まだまだ甘いな。一刻を争う時だったら動物どもが逃げる暇も無いだろうよ】


 魔王(元)はいちいち動物を逃がしたあとに山を砕いたライに向けて話す。

 山を砕いた事は何度かあるライ。そのたびに動物を逃がしている為、もしもの時には間に合わなくなる可能性もある。その事について魔王(元)は言ったのだ。


(……まあ、その時はその時さ……。今は……コイツを何とかしなくちゃならねえからな)


 そんな魔王(元)に返すライ。ライが砕いた山は大当たりで、一つの頭が姿を現した。

 そこに頭があるという事は、この生物の前方がこの場所という事だからである。


「これは……龍……? いや……」


 ライがその頭を眺めて推測していた──その刹那、


『ギャアアアァァァァァッ!!!』

『グルアアアァァァァァッ!!!』

『グルギャアアアァァァッ!!!』

『グルオオオォォォォッッ!!!』

『ギィャアアァァァッッッ!!!』

『グオオオォォォォォッッ!!!』

『グルルアアアァァァァッ!!!』


 『七つの頭』がライの背後から襲い掛かってきた。


「……! 全部同じ見た目……! この足元にある頭と合わせて八つ……! 成る程……そうか!」


 計八つの頭を確認したライは、この怪物の正体が分かった。


「この怪物は……"八岐大蛇ヤマタノオロチ"だ!」



 ──"八岐大蛇ヤマタノオロチ"とは、八つの頭と八つの尾を持つ巨大な水神であり山神である妖怪だ。


 その大きさは八つの山の八つの谷をまたぐ程だと謂われている。

 つまり小さく見積もっても全長数千㎞は下らないという事だ。


 一説では大雨、洪水や地震、土砂崩れの化身と謂われ、そういった自然災害が意思を持った姿だと謂われている。


 自然現象が意思を持った巨躯の神に等しい怪物……それが八岐大蛇ヤマタノオロチだ。



『グルルル……』


 もう一つの首も起き上がり、ライを睨み付ける八岐大蛇ヤマタノオロチ

 その頭には威圧感があり、それが八つもあるので常人ならば目の前に現れるだけで失神してしまうかもしれない程だ。


「さて……取り敢えず全ての頭が俺の方に向いているのは有り難いな。レイたちに被害が及ばなくて済む」


 そんな八つの頭を眺めているライはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテ、ザラーム? に、被害が及ばなさそうな事に一安心する。


「なら、そうと決まれば遊んでやるよ。八岐大蛇ヤマタノオロチ……!」


 パキっと拳を鳴らし、八岐大蛇ヤマタノオロチを見上げるライは体勢を立て直し、何時でも仕掛けられる体勢と変わる。


【ククク……仲間が危なそうな時は容赦なく敵を叩く……。だから飽きは来ねェ……!】


 そんなライを楽しそうに眺める? 魔王(元)。元々魔王(元)は戦えるならそれで良いのだろう。


『『『『『『『『グギャアアアァァァァァッッッッ!!!』』』』』』』』


 八岐大蛇ヤマタノオロチの八つの頭が同時に吼え、ライを威嚇する。

 ライじゃなければこの音だけで鼓膜は破れ、吹き飛ばされるだろう。


「……少し……」


 そんな八岐大蛇ヤマタノオロチの声を聞いたライは大地を踏み砕き──


「……五月蝿うるさいから黙れッ!」


『『『…………!?』』』


 ──回し蹴りの要領で一つの頭を蹴飛ばし、頭に頭をぶつけて八岐大蛇ヤマタノオロチの頭を数個だけ吹き飛ばした。


「……まあ、精々三つが精一杯か……」


『『『『『ギャアァァァッ!!』』』』』

『『『ギャラララララ……!!』』』


 残った五つの頭が吼え、消し飛んだ三つの頭が再生する。


「再生……。全てを同時に消さなきゃならないようだな……」


 八岐大蛇ヤマタノオロチの弱点は頭。

 そして、その全ての頭を同時に消し飛ばさなければ八岐大蛇ヤマタノオロチは再生してしまうのだ。


「取り敢えず……足止めしているうちに纏まるのを待つか……」


『ガルルギィャアァァッッ!!!』

『グルアアアァァァァァッ!!!』

『ギャアアアァァァァァッ!!!』

『ギィャアアァァァッッッ!!!』

『グオオオォォォォォッッ!!!』

『グルギャアアアァァァッ!!!』

『グルオオオォォォォッッ!!!』

『グルルアアアァァァァッ!!!』


 八つの頭がライを睨み付け、八つの頭が同時に吼える。

 その声によって山々。つまり八岐大蛇ヤマタノオロチの身体に生えた木々が大きく揺れた。


「そっちも本気……では無いか……。レヴィアタンと言い、ベヒモスと言い、目覚めたばかりの時は大抵本調子じゃないし……」


 八岐大蛇ヤマタノオロチの様子を眺め、大きさは本来だろうがその力は本来の力じゃないと推測する。


「まあ、うだうだ考えていても仕方無いか……」


 そう呟き、肩を落とすライは八岐大蛇ヤマタノオロチを見て薄い笑いを浮かべる。

 そして両手を広げ、フッと薄く笑って一言。


「……さあ、やろうか……」


 ザァ、と八岐大蛇ヤマタノオロチに生えた木々が大きく揺らぎ、鮮やかな色の木の葉が舞い上がる。

 その風は自然の物か、八岐大蛇ヤマタノオロチの物か、はたまたライの物か誰の風かは定かではないがライと八岐大蛇ヤマタノオロチの間を吹き抜けた。


『『『『『『『『ギャアアアァァァァァッ!!!』』』』』』』』


「……さて……行【殺るか……】……勝手に言うなよ……」


 横から入り込む魔王(元)。

 そして目覚めた怪物八岐大蛇ヤマタノオロチ魔王ライの戦いが始まった。



「行くぞ! 八岐大蛇ヤマタノオロチッ!!」



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