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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百七話 百鬼夜行の目的

 ヒュウと風が吹き、再び夜桜の花弁が舞い落ちる時、モバーレズと河童は同時に駆け出した。


「ダラァ!」


 先ずはモバーレズは刀を振るい、それによって生じた斬撃が河童目掛けて直進するように吹き飛ぶ。


『あらよっと』


 それを一瞥し、チャプンと水溜まりに飛び込んでそれを避ける河童。それによって水飛沫が上がり、辺りに水滴が飛び散った。

 それを見たモバーレズは疑問に思った事を口にする。


「この水溜まり……飛び込める程深かったかァ……?」


 そう、氾濫はんらんした川の水は精々足元レベル。

 子供程度の大きさしかない河童とはいえ、飛び込める筈が無いのだ。


『ざんねーん! 僕はほんの少しでも水があれば自分の場所だけを川や沼のように出来るのさ!』


「……! 何っ!?」


 そんな事を呟いていると、モバーレズの後ろに河童が飛び出した。ほんのちょっとの水溜まり。そこは河童にとって川や沼と大差無いようだ。

 河童が飛び出ると同時に再び水飛沫が上がり、辺りをほんのりと濡らす。


『そら!』

「……!」


 飛び出した河童はモバーレズを羽交はごめの形で押さえ込み、モバーレズを動けなくする。

 いきなり飛び掛かって来た為、普通なら倒れ込むだろうがモバーレズは倒れないように踏み込んでいた。


「邪魔だ、離せよ……!」


 そしてそのまま背中から倒れ、河童を押し潰す形を取る。


『言っただろ? 僕の足元は川や沼のように出来る。その方法じゃ僕は無傷さ!』


 モバーレズが倒れると同時にモバーレズから離れて水の中に潜る河童。

 確かに一筋縄ではいかないようだ。直ぐ様モバーレズは飛び跳ね起きの要領で起き上がり、辺りを見渡して河童の居場所を確認する。


「成る程……全てが水……か。……そうか。……ククク……なら……」


 河童の言葉を聞いたモバーレズは何かを思い付き、二本の刀を鞘に納めた。

 そして納めた刀のうち一つを仕舞い込み、もう一つを腰に当て、その一つで"居合い切り"の体勢に入る。

 耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ませ、全身に集中して河童の気配を探るモバーレズ。


『無駄だってのが……』


 河童は地面の川を泳ぎ、ゆっくりとモバーレズに近付いていく。


『……分かんないのかな……!』


 常人には聞こえない声で言い、河童はモバーレズの背後から飛び出した。


「……!」

『……ッ!?』


 そしてその刹那、河童はモバーレズの"居合い切り"によって切り裂かれた。河童からは鮮血が漏れ、モバーレズの背後に落ちる。


『……な、何で……!?』


 斬られた河童は顔を上げ、モバーレズを睨み付けながら話す。

 モバーレズはほとんど動かずに河童を切り裂いたのだ。何処から来るかも分からない筈の事。それを見切って切り裂いた事へ驚愕する。


「何故って? ハッ、簡単だ。……テメェにとっちゃ此所は川や沼……なら、水の音が聞き取れる筈だろ? その水の音が少しでも変だった場合、そこにテメェが居る。ガキでも分かる簡単な事だよ」


 軽薄な笑みを浮かべながら河童の方を一瞥して話すモバーレズ。

 かすかな水の音を聞き、そこから河童の居場所を突き止めたという。


『水の音……。ハハ、そうか。……でも、僕だって伊達に長生きしていない。急所は外れたよ。……さあ、続きと行こうか?』


 河童はゆっくり起き上がり、モバーレズの前で水掻きのある手を広げて話す。

 急所を外させたらしく、致命傷に成りうる程の怪我は無かった。


「ハッ、そうかいそうかい。そうこなくちゃ面白く無ェ……。テメェがその程度じゃつまらねェからな」


 クッと笑い、刀を振るい血を払いつつ改めてその刀を構えるモバーレズ。

 河童も構えるように立ち上がり──



『そこまでだ。……河童よ……』



「『…………?』」


 ──刹那、一つの声によって河童の動きが止まる。

 それにつられてこちらも立ち止まるモバーレズ。


「誰だ? テメェ……戦いの邪魔をするたァ随分とムカつく野郎だな……。その見た目から……天狗か?」


 モバーレズは戦いを中断された事で若干のイラつきを見せてその者に尋ねる。

 その者は赤い顔をしており、高い鼻を持つ。まさしく天狗と呼ばれる妖怪の容姿だった。


『ああ、天狗といえば天狗だ。……まあ、普通の天狗とは大幅に違うけどな……。私は大天狗。貴様の話は酒呑童子しゅてんどうじから聞いている』


 そう言い、まだ会っていなかったモバーレズへ挨拶をする大天狗。

 そしてモバーレズだが、モバーレズは先程現れた天狗を見ていないにもかかわらず天狗を知っていたようだ。


「……そうかい、大天狗さン。酒呑童子しゅてんどうじと知り合いって事は……まあ、百鬼夜行の一員でそれなりの地位に立っていそうだな。……"大"って付く位だからな。うん」


 大天狗の名を繰り返し、普通の天狗よりも上の存在だと考えるモバーレズ。

 その口振りは飄々としており、かなり適当な雰囲気だったがその目は油断などしていなかった。


「それにその威圧感……。まあ、普通じゃ無ェわな。感覚で分かる。神に近い妖怪ってのがな……」


 そう無論、モバーレズとて伊達に幹部をやっていないからである。その気配と感覚で相手の力量は理解できるのだ。


『そうか。……まあ、私が河童たちを連れ戻しに来たのは貴様には関係の無い事だ。準備が整ったからな』


「……準備?」


 大天狗が説明するようにモバーレズ達へ言い、倒れている鬼と天狗を抱え込んだ。


『フッ、あと数分で分かる。貴様らとはまた一戦交えてみたい。死なぬように逃げるのが吉だ』


「オイ、答えになって……」


 "無ェぞ"と続く前に大天狗、河童、鬼、天狗の姿は消え去る。


「数分後に俺が死ぬレベルの敵が来るって事かァ……? ……ハッ、上等じゃねェか……」


 大天狗の言葉について推測すように呟き、ファーレス、サリーア、ロムフ、ラサースの元に戻るモバーレズだった。



*****



 エマ、フォンセに加え、ザラーム。そしてついでにキュリテが参戦して九尾の狐との攻防を繰り広げる。


「"サンダー"!!」

「それ!」


 フォンセの雷魔術とキュリテの"ヴォルトキネシス"が九尾の狐に向けて突き進む。神獣を相手にするなら雷。もとい、"神"鳴りという事だ。


『効かぬ、効かぬぞ娘達よッ……!』


 それらの攻撃に対して妖力の壁を張り、二つの雷撃を防ぐ九尾の狐。二つの雷撃は意図も容易く消え去り、辺りに魔力が散り散りになって瞬いた。


「遠距離が駄目なら……」

「近距離だな?」


 雷撃を防いだのも束の間、間髪入れずにエマとザラームが九尾の狐へ飛び掛かる。

 エマはヴァンパイア持ち前の怪力を、ザラームは切れ味の良い刀を振るい九尾の狐へ迫り行く。


『無論、わらわには無意味じゃ……』


 そんな九尾の狐は妖力を辺りに放ち、エマとザラームを吹き飛ばした。


「遠距離も……」

「近距離も駄目か……」


 フォンセが話してエマが続ける。相手が四人に増えたからか、九尾の狐も本気では無いにせよそれなりの力を解放したのだ。


『食らうが良い!』


 次の刹那、九尾の狐は周りの妖力を纏めてエマ、フォンセ、キュリテ。そしてザラームに放った。


「「「「…………!!!」」」」


 それを受けた四人は吹き飛び、吐血して倒れる。


「オ、オイオイ……本当に俺が行かなくても良いのかよ……。確かにレイとリヤンが心配だが……回復魔法・魔術を使えない俺じゃ応急措置も出来ないし……フォンセとキュリテに任せて俺も行きたい……」


 ライはエマとフォンセに言われた為、手を出す事をしていなかったが、やはり軽傷にしても仲間が傷付くのは見ていられなかった。

 そして、先程九尾の狐が放った技は軽傷程度の怪我ではないだろう。

 しかし、レイとリヤンも心配なので迂闊うかつに動く事も出来ないライは歯を噛み締め、手を着いている地面は力を込めて握った拳によって砕けていた。


「……ライ……私たちは……大丈夫……」

「う……うん……」


 そして、悩んでいるライに向けて話し掛けるレイとリヤン。

 ダメージを負った腹部を押さえながらムクリと起き上がり、苦痛に歪みながらも笑顔を浮かべて話す。


「レイ……! リヤン……! 目が覚めたのか……。良かった……けど、起き上がらない方が……」


 ライはレイとリヤンに近付き、二人の様子を確認する。

 やはり九尾の狐が本気じゃ無かった為、ダメージはあれど命に別状は無さそうである。

 取り敢えず無事だった事に安堵するが、それでも尚レイたちを心配して二人の肩を掴むライ。


「……大丈……夫。……今はエマたちを優先した方が……」


 まだ痛むのか、依然として腹部を押さえているレイ。その苦痛に耐えながらも、レイはライへ向けて言葉を続ける。


「……だから……だからエマたちの元に……!」


 ライは手を出すなと言われた事を知らないレイ。だがしかし、そんなレイのその目は本気だった。


「……ああ、分かった。エマとフォンセとの約束の次はレイからの約束だ」


 刹那、そう返したライはレイとリヤンの前から雲散うんさん霧消むしょうした。

 レイたちを置いて行くのは少々心苦しかったが、レイたちの目を見てしまえばそんな事を考える方が失礼だろう。


『やれやれ……この程度か……。まあ、ある程度は楽しめたし……これで良しとするかのぉ……』


「「くっ……」」

「うぅ……」

「クソ……確かに強ェが……これ程とはな……」


 先程の技を受けたエマ、フォンセ、キュリテ、ザラームの四人。三人は倒れ、治癒能力の高いエマのみが三人を庇うように立っていた。


『いや、どうせなら最後に、これを受けてみるが良い。これを受けても生きている事が出来たら主らの勝ちじゃ……』


 その瞬間、九尾の狐の周りに大きな妖力の塊が囲う。

 それによって大地は振動し、桜の木は花弁を散らす。ヒラヒラ揺れ落ち、赤い月に照らされるそれは幻想的な光景。だが、そんなモノを見る程余裕がある訳では無かった。



『"狐火(フー・ホォ)"!!』



 ──刹那、九尾の狐を囲うように、灼熱の火炎が鮮やかな赤を散らして燃え盛る。それによって花弁は焼け落ち、瓦礫も燃える。



 赤い月に黄金の炎は中々乙なモノではあるが、その威力を目の当たりにしてそれを思う余裕のある者など限り無く少ない事だろう。


『さあ、耐えてみるのじゃ!』


 そして、その炎をエマたちに向けて一気に解放する九尾の狐。

 炎は前のみならず、四方八方、彼方此方に燃え移ってエマたちを燃やそうと放出された。


「くっ……!」

「ウ、"ウォーター"!」

「ハァァ……!」


 エマは熱に押され、炎を消そうとフォンセが水魔術を放ち、キュリテがアクアキネシスを放つ。

 しかし、その程度の水では蒸発してしまい、無慈悲にエマたちへ──


「オラァ!!」


 ──向かったの刹那、魔王を纏ったライの拳が九尾の狐が放出した炎を殴り消し、そのまま炎を砕いた。

 実体が無い筈の妖力で創られた炎は砕かれ、ガラスのように地面に落ちる。


『ほう。……防いだか……主が……』


 それを見た九尾の狐は前足で口元を押さえ、フフフと笑う。

 ライが魔法・魔術・妖術が無効なのを知っているが、実際目の当たりにすると長生きの九尾の狐にとっては面白い事なのだろう。


「……ああ、選手交替だ。次の相手は俺さ」


 九尾の狐に返すよう呟いたライは挑発するようにてのひらをクイッと向け、フッと笑って言葉を続ける。


「まあ、アンタの強さは大体分かった。取り敢えず妖術を主体とした戦い方だ。なら、仮にアンタが本気でも俺は互角以上に渡り合える筈だ」


 軽薄な笑みを浮かべて話すライ。九尾の狐は大国を滅ぼしたが、星そのものを破壊した訳ではない。

 なので、惑星破壊の攻撃すらほぼ無効。一応大きなダメージを受けるが、兎にも角にもある程度無効に出来るようになった魔王ライにとって、九尾の狐を抑えるのは容易では無いにせよ出来るだろう。


『ふふ……互角以上か……。……まあ、主の潜在能力を見ればそれが単なるおごりでは無い事も分かるの……。面白い……受けて立とうぞよ……』


 九尾の狐は再び妖力の壁を展開させた。それによって魔法・魔術をほぼ無効化出来る。

 ライは一応魔術も使えるが、物理主体の戦い方なので妖力の壁などほぼ無意味なのだ。

 恐らく九尾の狐が妖力の壁を張る事によって、九尾の狐自身の力を高める事が出来るのだろう。


「ハッ、言われなくてもな……!」


 ザッと構えるようにライと九尾の狐が向かい合い、桜と共に風が舞う。

 そして、ライと九尾の狐は同時に──



『そこで終わりだ。戻るぞ。玉藻たまもまえよ……』



「『…………』」


 ライと九尾の狐──玉藻たまもまえが動き出そうとしたとき、刀身が折れた刀を持った者が立ち塞がる。


『なんじゃ。もう準備が出来たのか……酒呑童子しゅてんどうじよ……』


 立ち塞がった者──酒呑童子しゅてんどうじ

 酒呑童子しゅてんどうじの姿を確認した九尾の狐は玉藻たまもまえの姿に戻り、何処からか扇子を取り出して口元を覆う。

 本当に何処から出したのだろうか気になるところだ。


「……何だ。終わりか? 俺が行こうとした時に終わるとは……まあ、仲間も心配だったしどちらかといえばツイている方だな」


 警戒はしつつも構えを解き、酒呑童子しゅてんどうじ玉藻たまもまえの前に向き直るライ。

 取り敢えず余計な被害を生まずに戦闘が終わった事へ安堵の意を示す。


『ふむ。貴様も中々の実力者と見た。……が、今は関係の無い事だ。行くぞ玉藻たまもまえ


 酒呑童子しゅてんどうじはライを見、その立ち振舞いからかなりの実力者と推測する。

 しかし、特に大きな反応を示す事無く玉藻たまもまえに話した。


『うむ、仕方あるまい……。我々の目的は悪魔で世界全てを支配する事……。"奴"を復活させるのが本来の目的じゃからな……』


 酒呑童子しゅてんどうじの方を一瞥し、何処かに移動する体勢に入る玉藻たまもまえ


「……"()"? それに"貴様も(・・・)中々の(・・・)実力者と(・・・・)見た(・・)"……ねえ? ハハ、結構気になる事言ってくれんじゃねえか……。このまま帰す訳には行かねえぞ? ……まあ、貴様"も"ってのはこの街の幹部と一戦交えたとかだろうが……"奴"ってのが気になる」


 酒呑童子しゅてんどうじ玉藻たまもまえの会話を聞いていたライは、気になるワードを話している事に疑問を覚える。


『ふむ、そうか。……言える事は特に無いが……死にたく無かったら何処かに逃げる事だな。我々はとある怪物を目覚めさせようと考えている。……そして準備は整った。その怪物は自然災害その物だ。その巨躯と力……これがあれば世界征服も容易くは無いにせよ……というか、むしろ割りと直ぐに封印されるかもしれないが……結果的には我々が手を出さなくても良い戦いが増える』


 淡々と言葉をつづ酒呑童子しゅてんどうじ。それはその怪物ならば小さな国を支配する程度の事なら簡単に行えるとの事。

 大きな場所ならば支配者という最高戦力が居るので怪物も容易く封じられる事だろう。しかし、余計な疲労を減らせる事に対して話していた。

 此処まで怪物とやらの事を詳しく話すという事は、もう隠す必要が無い段階まで行っているのだろう。


「そうか。心に留めておくよ……。……けど、そっちが切り札を使うなら俺にも考えがある」


『『…………?』』


 酒呑童子しゅてんどうじの説明を聞いて頷くライ。

 そんなライに怪訝そうな表情を浮かべる酒呑童子しゅてんどうじ玉藻たまもまえ

 そんな二人を気にせず、ライは言葉を続けた。


「俺にも世界を制圧出来る魔王(切り札)があるって事だ」


『『…………』』


 ライの言葉に無言で返す酒呑童子しゅてんどうじ玉藻たまもまえ

 その表情から何を考えているのか定かでは無いが、ある程度の事を察しているのかもしれない。

 ライが魔王(元)を宿している事を知らずとも、その態度から本当に何かがあると分かったようだ。


『そうか。ならば精々抗うが良い。もし生きていたらまた再び我らと出会う事があるやも知れぬからな……』


 最後に言葉を返した酒呑童子しゅてんどうじ

 その後、二人は何時も通り桜舞い散る闇夜の漆黒に消えていく。


「……。さて……」


 そしてそれを見送ったライは振り返り──


「……皆大丈夫か?」


 ──九尾の狐に技を食らったエマたちの方を見て話す。

 少し離れたところに居るレイとリヤン。エマ、フォンセ、キュリテ。そしてついでにザラームと、この場に七人を揃えた。


「ああ、私は治癒能力が高いからもう傷は癒えたが……レイとリヤン。フォンセとキュリテ。あとはついでにザラームが心配だ」


「ついでって何だよついでって……」


 ライの言葉に返すエマ。エマの言いように思わずツッコミを入れるザラーム。

 何はともあれ、九尾の狐と戦闘したにも拘わらず全員が軽傷で済んだようである。


「……ハハ、まあ良かったよ。大事に至らなくてな」


 そんなやり取りを見て苦笑を浮かべるライ。

 それからフォンセとキュリテにより、ある程度の応急措置も済ませていた。


「"ヒーリング"に"回復魔術"か……便利なもんだな……」


 治療を受けたザラームは塞がれた傷を一瞥してキュリテの超能力とフォンセの魔術を体感し、感心するように呟く。


「まあ、フォンセとキュリテは能力が高いからな。この程度の傷なら軽く防げるだろうさ」


 ザラームの言葉を聞き、軽く返すライ。

 全員が集まっており、改めてその無事を確認したところでライは言葉を続ける。


「……で、これからどうするか……だな。何かの怪物が目覚めるとか言っていたが……」


 頃合いを見たライは傷の治療を終えたレイたちに酒呑童子しゅてんどうじの言っていた事を話す。

 怪物のヒントといえば"自然災害その物"という事と"巨躯の体を持つ"。くらいである。


「まあ、ただ者ではないのは確かだな」


 ライの言葉に返すエマ。

 エマの言葉に頷いて返すレイたち。エマやレイたちも危険な生き物が居ると考えているのだろう。事実、百鬼夜行が引き返すレベルの怪物という事だ。


「考えても仕方無いな……。その怪物が目覚める前に出来るだけ準備を────」




 ────"しておくか"とは続かなかった。




「「「「な、何だ……!?」」」」

「「「…………!?」」」


 ライ、エマ、フォンセ、ザラームが同時に言い、レイ、リヤン、キュリテも焦っている様子だ。

 それもその筈。突然大地が大きく振動したのだから。


「地震……なんて生易しい物じゃないな……! 怪物か……!」


 ゴゴゴゴゴと低い音を立てるその揺れから自然現象を想像するライだが、その程度で済むものでは無い事を即座に理解した。

 星が地盤によって揺れたような、そんな揺れでは無く、生き物の上に乗っているような、そんな揺れなのだ。




『ギイィィィャアアアァァァァァァッッッッ!!!』




 間髪入れず、耳をつんざく程の咆哮が────『足元から聞こえて来る』。

 近くの建物からは悲鳴のようは声が聞こえ、街の方からも悲鳴が上がっていた。

 それに続き、怪物が発したであろう同じような声が遠方の山々──七、八つ程の山からも聞こえて来る。


「ま、まさか……! 怪物は複数……いや、たった一匹……なら……今俺たちが居る……"シャハル・カラズ"────魔族の国の大部分が怪物だったのか!?」



 ────そう、ライたちは……『魔族の国に来た時から既に怪物の背に乗っていたのだ』。



 そうなればその大きさはあのレヴィアタンやベヒモスを遥かに凌駕する。

 遠方の山々から聞こえた声を合わせてざっと推測した結果、その八倍だ。


「皆! とにかく安全な場所に……」




『グギャアアアァァァァァッッッ!!!』




 ライが指示を出す前に爆音のような声を上げる怪物。その音によってライの声は掻き消される。

 その騒がしさはちょっとした爆弾を遥かに越える程の音で、鼓膜が破れるかと錯覚する程だ。

 実際、その声によってライたちから見える建物が粉砕していく。



 ────今この時この瞬間、百鬼夜行の本当の目的である怪物が目覚めてしまった。




『グルギャアアアァァァァァッッッッ!!!!!』




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