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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百三話 モバーレズvs酒呑童子・ライvs大天狗

 二つの刀がぶつかり合い、飛び交う斬撃が"シャハル・カラズ"の道に巨大な亀裂を入れる。


「やるな……! 流石大妖怪! 楽しくなってきたァ!!」


『貴様もな、侍! 礼儀は知らぬが剣の腕は確かなモノだ! やはり侍は期待を裏切らない、こうなればとことん楽しませて貰おうぞッ!!』


 互いに歓喜の笑みを浮かべ、山河を切り崩す刀をぶつけ合うモバーレズと酒呑童子しゅてんどうじ

 互いはさらに加速し、二人が立つ大地には次々と亀裂が入っていく。


「ハッ、やっぱ面白ェわ、お前!」


 そしてぶつかり弾かれて、弾かれたモバーレズは家を蹴り、反動を付けて酒呑童子しゅてんどうじの元へと向かう。


『戦いを楽しむ侍……そんな奴もいるのだな……! しかし、強者は喜び、我が力の前でも屈しない侍が喜びと言わず何と言うッ!!』


 そんなモバーレズに向け、みずからの刀で応戦する酒呑童子しゅてんどうじ

 キィンと金属の奏でる快音を上げながら火花を散らす二つの刀。モバーレズと酒呑童子しゅてんどうじの周りには、二つの刀が出した威力とは思えない程の衝撃で新たに巨大な亀裂が入る。それはさながら、巨大生物が大地を爪で切り裂いたかのようだ。


「強者は喜び? ハッ、大きく同感だ! 雑魚に用は無ェ! 酒呑童子しゅてんどうじ、お前とはとことン気が合うじゃねェか!!」


 キィンと再び二つの金属音が鳴り響き、


「ラァ!!」

『フッ!!』



 一瞬にして辺りの建物が崩れ去った 。



「オイオイ。俺の方にやらねェでくれよ」


 それと同時に瓦礫が辺り一体に吹き飛び、その瓦礫を面倒臭そうに悪態を吐きながら切断していくザラーム。


「悪ィな! テメェを楽しませてやるンだからそれくらいの処理はしてくれや!」


 一瞬だけザラームに一瞥をやったモバーレズは直ぐ様酒呑童子(しゅてんどうじ)に向き直り、再び刀を構える。


『ふふふ……。戦いの最中に別の方向へ意識を向けるとは……。随分と余裕があったものだな?』


「……!」


 スッとすり抜けるように、酒呑童子しゅてんどうじはザラームへ話していたモバーレズの頬を切る。


「速いな……」


 モバーレズがザラームへ一瞥したのは一瞬、瞬く間も無い程の時間だった。

 それにもかかわらず、酒呑童子しゅてんどうじは油断していないモバーレズへ小さくとはいえ傷を負わせたのだ。

 これ即ち酒呑童子しゅてんどうじの刀速は、ただの鬼を遥かに凌駕したものだったという事。


『ああ、侍との決闘は瞬く間も無い一瞬の勝負。奴等はそれ程の強者だ。……しかし、貴様はいささか隙が多い。自分では警戒しているつもりだろうが、今の間で三回は上半身と下半身が切り離されているぞ?』


「……何っ?」


 酒呑童子しゅてんどうじの言葉に対し、少しイラつくモバーレズ。

 今の間でモバーレズを三回は殺せると言う。つまり、これが意味する事は……『モバーレズを殺してしまわぬよう、手加減した』という事。


「ハッ、随分と舐められたものだな? テメェにとって俺はその程度か?」


 眉間にしわを寄せ、青筋を立たせて酒呑童子しゅてんどうじへ問いただすモバーレズ。

 酒呑童子しゅてんどうじは首を振って返した。


『いや、怒らせてしまったならすまない。謝罪申そう。……我が言いたいのは、一瞬でも気を緩ませると貴様は死に至る……という事だ。今までこの国では見掛け無かった侍よ。貴様程の強者サムライとはこの国で出会う事がそうそう無かろう。強者は居ても侍は居ない。要するに我ら鬼の天敵よ……我をガッカリさせないでくれたまえという所存……!』


 モバーレズの言葉に返しつつ、挑発を交えてつづ酒呑童子しゅてんどうじ。それを聞いたモバーレズは喉を鳴らし、クッと笑いながら──


「ハッ、つー事は俺が悪ィってか? そいつァすまなかったな! だったらもう余所見よそみはしねェよ!!」


 ──草履ぞうりで踏み込み、腰からもう一本の刀を取り出して酒呑童子しゅてんどうじの元へと向かった。


『ほう? 二刀流……それが貴様の本質か……?』


 酒呑童子しゅてんどうじはモバーレズが構えた二本の刀を一瞥し、興味深そうにモバーレズへ告げた。


「ああ、そうだぜ! 遊びや雑魚相手には使わ無ェが、本物の強者との対決では使ってやるぜ!」


 モバーレズは酒呑童子しゅてんどうじへ向かいつつ、二本の刀を構えて話す。

 ライの時は遊び、小物妖怪の時は小物妖怪が弱者だから。これらの理由により使わなかったモバーレズの本質が今明らかになる。


『面白い! ならば我も……四天王を率いた侍と戦った時以来の本気を出そう! 実に久々だ!』


「ハッハッハー! テメェも本気か!! やっぱ手加減した戦いなンかつまらねェよなァ!?」


 歓喜の声を上げて酒呑童子しゅてんどうじに向かうモバーレズ。

 酒呑童子しゅてんどうじは本気を出そうと動き出す。

 モバーレズvs酒呑童子しゅてんどうじの戦いは互いが本気になろうとしていた。



*****



「……それにしてもせねえな……何故アンタ程の大妖怪がぬらりひょんに使えているんだ? 確かに強力な妖怪の一つだが……強さ的には互角かそれ以上だろ?」


 大天狗との攻防を繰り広げていたライ。

 ライと大天狗の辺りには数分で造られたとは思えない程の瓦礫の山が築かれていた。そんなライは大天狗に向けて気になった事を告げる。


『……突然何を言い出すんだ?』


 その事について聞かれた大天狗は、困惑の表情を浮かべてライへ聞き返す。それは何故大天狗程の大物がぬらりひょんに仕えているのかという事。

 ライは警戒しつつ構えを解き、両手を広げて言葉を続ける。


「何をも何も……ただ単に俺が気になっただけだ。アンタはその気になれば世界を滅ぼす力を持つ。……けど、何故かぬらりひょんの下に付いてみずからの行動を制限している……それに違和感を覚えてな?」


 ライは大天狗程の大妖怪がぬらりひょん下に付き、ぬらりひょんの命令で動いている事が気になっていた。

 逸話による強さ的には、伝承がほとんど無いぬらりひょんよりも大天狗の方が人々へ起こす驚異が多いからである。


『ふむ……『考えた事も無かった』。確かにぬらりひょん殿が戦闘を行っているところを見た事はほぼ無い……。なのに私はぬらりひょん殿の何処を気に入って下に付いたのか……。……まあ、別に良かろう。事実、今私はぬらりひょん殿の下に居るのだからな』


「成る程な……」


 大天狗の言葉を聞き、ライは何故大天狗がぬらりひょんの下に付いているのかを理解した。

 ぬらりひょんは、他人の家に上がり込んでお茶を飲み、食物を頂いて帰る妖怪。そして──『その時その家の者はぬらりひょんを我が家の主だと思い込む』。──つまりぬらりひょんは、存在するだけでライのような術無効の者以外のあるじと成る事が出来るのだ。

 レイたちが直ぐに戻ったのはぬらりひょんの術に掛かっていた期間が極端短かったから。だからこそ、昔から術に掛かっているであろう大天狗は中々戻らないのだろう。


『何が成る程だ? 行かぬのなら、私から行くぞ!』


 刹那、大天狗は宙を舞い、空中で停止しておうぎを持っている手を天に掲げる。


『食らうが良いッ!』


 そして、大天狗はそのおうぎを振るった。

 それと同時にとてつもない強風が吹き荒れ、多くの建物を巻き込みながらライたちへ向けて直線上に進む。


「食らうかよッ!」

『……! ……ほう?』


 ライはそんな風に向けて拳を放ち、拳が生み出した風圧で大天狗のおうぎが放った強風を相殺した。

 その事に一瞬だけ反応する大天狗だが、直ぐに称賛するような声を上げる。


『成る程。主はこのような風などの類い……大まかに言えば術を無効化する事が出来るのだな……。その力は先天性せんてんせいか?』


 称賛したのはライの力では無く、魔王(元)が持つ術系列の技全てを無効化する体質の事。それは先天性の力なのかが気に掛かっていた。

 通常の者なら驚愕し慌てふためく力だが、その様子は無い大天狗。やはり踏んできた場数により、大抵の事では驚かないのだろう。


「……いや、どちらかと言えば後天性こうてんせいだな……。どういう訳かある日突然目覚めた……ってのもおかしいな……」


 聞かれたライは、一応大天狗の質問に応えた。

 無論、嘘では無い。ある日突然魔王の力が宿って目覚めたのは本当だからである。


「ふふふ……そうか。ある日突然目覚めたのか……。ならば元々主にその力があったという事では無いのかね?」


「元々? ……いや、それは無いな」


 大天狗は笑い、ライへ向けて質問するように言葉を続ける。そしてそれに返すライ。

 魔王(元)は魔族の中で上位の実力を持つからライに宿った。

 なので、元々魔王の力は無い。ライが持つ先天性せんてんせいの力といえば、まだ不完全だが剣や銃、手と足などの物理無効だろう。


「力がどうとかはどうでも良いだろ? まあ、アンタは修行か何かで力を手に入れたって聞くが……その事について俺は質問しない。今はどちらが倒れるか、それだけが重要だろ?」


 刹那、ライは力を込め、脚を踏み込みながら大地を大きく凹ませて大天狗へ加速する。


『……ふむ、それもそうだな。野暮な事を聞いた』


 大天狗はそれだけ述べて横へ避ける。ライとライの拳は虚空を突き抜いて遠方に吹き飛んだ。


「だろ? 今は侵略者との対決が優先だ! ……まあ、俺もだけどな?」


 遠くへ飛んだライは"シャハル・カラズ"の建物を足場にし、建物を蹴って大天狗へ再び向かう。

 ライが踏み込んだその衝撃で建物は大きな音を立てて崩れ落ちた。


『真っ直ぐ突っ込むだけじゃ無駄だと何度言えば……「ああ、知ってるよ!」……なに?』


 大天狗が何かを言おうとしたその時、ライは空気を蹴って大天狗の前で停止し、


「だからこうして止まったんだろ?」

『……ッ!』


 大天狗の腹部に山を砕く重い拳が突き刺すよつに打ち付けた。

 それを直接受けても尚、吹き飛んだり腹部を貫通しないというのは流石の耐久力だろう。


『そうか……主程の脚力ならば数秒だけ空中で停止する事も可能……か……。だが、私のように飛び続ける事は……不可能に近い!』


「……!」


 その刹那に大天狗はライの頭におうぎを叩き付け、ライを地面に叩き落とした。叩き落とされたライが地面に激突した衝撃により、大きな土煙と砂埃が舞い上がる。

 それと同時に、おうぎによって巻き起こった強風が土煙と砂埃を消し去り、ライが落ちた場所へ突き進む。

 これ程の強風だ。常人ならば息も出来ず身体は圧迫され、内蔵破裂を起こすだろう。



 ──次の刹那、ライがぶつかった場所から何かが飛び出し、大天狗へ向けて進む。



「飛び続ける事が無理なら、跳躍した時の加速力を上げれば良いだけだ!!」


 無論、ライだ。元々耐久力が高いライは魔王によって更に強化されている。

 天界を一瞬で焼き払う事が出来る大天狗といえど、ライはそう簡単に倒せる相手では無いのだろう。


「オラァ!!」

『……!? 更に速く……!!』


 雷速を超越した第四宇宙速度で大天狗へ向かったライは、そのままの勢いで大天狗を殴り付ける。


『……ぐ……ぬうぅぅ……!!』


 第四宇宙速度で殴られた大天狗は第四宇宙速度で舞い上がり、一瞬にして上空高く吹き飛んだ。


「……まだだ……!!」


 そしてライは、『第五宇宙速度(秒速1000㎞)』に加速した。

 ゼッルと戦った時以来、久々に魔王の力を五割使ったのだ。

 本来ならば大天狗を相手にするのが五割では圧倒的に足りない。

 しかし、大天狗は素質のある子供を見ると親心。というのだろうか、それに目覚める。なので、今の大天狗なら五割でも行けそうなのである。


「大天狗!!」

『主……! 此処まで一瞬で……!』


 ライは第五宇宙速度で大天狗を追い、第四宇宙速度で吹き飛ぶ大天狗へ一瞬で追い付いた。

 大気圏は既に突破しており、魔王を纏っているライと神通力を扱える大天狗じゃなければ一瞬にして窒息する宇宙空間まで来ていた。


「これで決める!!」


『ふふふ……そうか! ならば私もそれなりの力を使おうではないか!!』


 ライは身体の力を片手に込め、大天狗は妖力に力を込める。


『行くぞ!!』

「オラァ!!」



 ──そして二つの力は激突し、その衝撃がライたちの住む星へ降り注いだ。



 今頃地上では様々な天変地異が巻き起こっているだろう。まあそれは、支配者が居ない場所限定だが。

 そして恐ろしいのは、これ程の力を使っても尚、ライと大天狗は全力の半分程度という事だ。


「『オオオオオオオオオオオ!!!』」


 魔王の力と大天狗の妖力が巨大な衝撃を巻き起こす。

 そして次の瞬間、ライと大天狗が互いの力に吹き飛ばされた。そのまま大気圏へ突入し、ライと大天狗の身体は燃え上がる。


『お主! 一体何者だ!? これ程の力を持つ者は支配者というやからくらいしか知らぬぞ!?』


 大天狗は目を見開き、驚愕した表情で規格外の力を誇るライの方へ見やる。

 ライはクッと軽く笑い──


「……ライ・セイブル。しがない魔族だよ……」


 ──自分の名を名乗り、大天狗へ笑顔を向けた。

 そのまま二人は落下し、再び"シャハル・カラズ"の街に辿り着く。


「「「「「…………………………」」」」」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテは今目の前で起こった出来事が飲み込めず、ポカンと口を開けて燃えながら落下してきたライと大天狗を見やる。

 そう、この出来事は既に音速を越えた世界の出来事。全てが一瞬で起こった事なのだ。


「……取り敢えず、どちらが勝ったんだ?」


 そして、苦笑を浮かべながら口を開いたエマはライへ尋ねる。

 ライと大天狗は既に起き上がっており、互いが互いを睨み合っていた。

 驚くべき事は二人がほぼ無傷だという事。ライと大天狗に見える傷は互いが互いを攻撃したときに生じた物で、宇宙空間に入った事や大気圏にて燃え上がって出来た傷は無かった。

 強いて言えばライの猛攻により大天狗の骨に少しヒビが入っている事くらいだろう。


『この勝負……主の勝ちだな』


「……!」


 そして、大天狗はみずからの負けを認める。傍から見ればまだまだ戦えそうなのにもかかわらず。だ。


「……一体どういう事だ? アンタもまだ戦えんだろ?」


 無論、ライにはそんな事がこころよく了承できる訳が無い。現在なままならばライよりも大天狗の方が力も強いのだから当然だ。

 そのように納得できない様子のライへ向け、大天狗は言葉を続ける。


『……なに。私の目的は……『死骸の回収』と『主らの足止め』だからな。結果的に長くても数分しか稼げ無かったが……。小物妖怪達も回収出来たし、ぬらりひょん殿なら大まかな準備を済ませただろう』


「……へえ? 俺たちの足止め……ねえ?」


 大天狗はライたちを数分でも足止めする事が目的だった。

 何が狙いなのかは分からないが、ぬらりひょんが"シャハル・カラズ"を征服する以外にも何か目的があるのは確かだ。


『悪かったな。……だが、この役割も悪くは無かった。将来有望な者を見る事が出来たからな……。ふふ……じゃあ、ここいらで御暇おいとまさせて貰うぞ……』


「オイ、待て!」


 姿を消そうとする大天狗。

 ライはそんな大天狗を呼び止める。呼び止められた大天狗はライの言葉に反応し──


『……ふむ、そうだな。置き土産に暇潰しを置いておくとしよう。まあ、精々楽しむが良い……』


 ──それだけ言ってこの場から闇に紛れて消え去った。

 置き土産というモノが気になるが、少し落ち着いてから話し合っても良いだろう。

 こうして、ライと大天狗の戦いはライが勝利を収めた。

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