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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百二話 百鬼夜行、幹部二人

 ──刹那、モバーレズの斬撃とザラームの斬撃が百鬼夜行の群れを直撃し、妖力や体躯の小さい妖怪とそこそこの妖力と体躯を誇る妖怪が切断された。


『な、何故こんなところに……これ程の力を持つ"侍"が!?』

『こ奴等、侍の中でも上位に入れる力を持っているぞ……!』

『馬鹿な!? 大した侍は居ないんじゃなかったのか!? 話が違う!!』


 その斬撃を目撃した妖怪達の列は乱れ、妖怪達は慌てふためく。これ程の強者はいないと考えていたのか、仲間が数匹切り捨てられた事へ驚愕しているのだろう。


「"サムライ"? 違うな。俺は俺が見たサムライのような気高い生き物じゃねェ……。言うなれば……何だろうな?」


 自分はかつて見た"侍"程では無いとそれだけ言い、モバーレズは再び刀を振るった。その斬撃によって背後にある建物ごと切断される妖怪達。


「あーあ……俺の街が俺の手で崩れていく……虚しいなァ……」


 その斬撃によって崩れ行く木の家。それを含めた街を残念そうに一瞥し、ため息を吐くモバーレズは──


「それもこれも、テメェらが突然仕掛けて来やがったからだよッ!!」


 ──ズパァンと今度は建物を切り崩さないよう、縦に刀を振るった。


『『『ギャアアアァァァァァ!!』』』


 縦なので横よりは範囲が狭い。が、モバーレズが繰り出す規格外の破壊力から範囲が狭くとも多くの妖怪を巻き込んでいく。

 気のせいか、上空に存在する雲さえ縦に割れた気がした。


「ハッ、流石兄貴だよ。……テメェには負けねェけどな……!!」


 モバーレズに続き、此方でも刀を振るうザラーム。

 その斬撃はモバーレズ程では無いにしろ、多くの範囲を巻き込みながら突き進む。


『グ……! コイツも強ェ!!』

『『グギャアアアァァァァァ!!』』


 そしてその衝撃によって吹き飛ばされる妖怪達。

 しかしどういう訳か、この場にいる妖怪はそこそこの力を秘めた者も居るとは言え、その殆どは小物ばかりである。


「おかしいな。……何故こんな雑魚しかいない……?」


 無論、それに気付いたザラームは辺りを見渡して兄のモバーレズへ聞くように話す。その言葉に耳を貸したモバーレズはクッと笑ってその言葉に返した。


「当然だろ。……まあ、ザラーム(お前)に教えるように言うとすれば……雑魚どもを俺たちのような強者に回し、俺の部下たちを先に落として俺らの戦力を減らそうという魂胆だろうよ。……あちらさンの戦力は大方俺たちと同じだろうな。ボスが一人に幹部が数人……そして大量の部下。……とまあ、大体こンなもンだろ」


 百鬼夜行の群れを眺め、淡々と推測するように言葉をつづるモバーレズ。

 つまり百鬼夜行はかなりの組織となっており、モバーレズの居る街"シャハル・カラズ"を弱いところから崩しているとの事。


「……ふーん。……え? それってヤベェんじゃねェの?」


 淡々とつづっていたモバーレズに返すザラームは、少し遅れてから反応した。

 モバーレズはザラームの反応を見、高らかに哄笑こうしょうを上げて言葉を発する。


「ハッハッハ! ヤベェも何もあるかよ。俺の部下だぜ? 中心街の方は111人の部下がいるし、勿論その中に俺の側近も居る。……まあ勝てない可能性もあるが、その時はその時だ。俺たちは戦いの邪魔にならないよう、此処にいる雑魚処理でもしていようぜ?」


 刹那、モバーレズの刀が再び妖怪達に猛威を振るう。


「俺たちゃ魔族だ! 戦いを楽しまなくて何になる!? 雑魚相手でも手加減せずに、この瞬間の血飛沫ちしぶきを華麗に浴びてやろうぜ!!」


 大地を踏み砕きながら加速し、一本の刀を振り回すモバーレズ。

 妖怪達はたまらず切り裂かれ、辺り一帯に真っ赤で真っ黒な血飛沫ちしぶきを散らせる。


「ホラホラ! テメェも戦ェ!」


 モバーレズはザラームに戦うよう促し、目にも止まらぬ速度で次々妖怪を切り裂いていく。

 妖怪側から見たらモバーレズこそ恐怖の対象その物だろう。

 それを見ていたザラームは──


「……ハッ! 言われなくてもなァ!!」


 ──魔族の血には抗えず、一瞬にして周りの妖怪を斬殺した。


「……今更だが、妖怪にも赤い血を持つ奴が居るんだな。全員が黒いかと思ってたぜ……」


 その返り血を浴びたザラームは狂喜に満ちた顔をし、満面の笑みを浮かべて戦闘を楽しんでいた。


「そうだ。それでこそ……魔族だ……!」


 小物妖怪数百匹の肉片の上に立ち、肩に刀を乗せているモバーレズ。

 百鬼夜行とは名ばかりに、妖怪達は五百匹近く居ることを知らないモバーレズとザラームだが、そんな事は気にしていない様子だった。


『……ふむ。やはり小物妖怪こやつらでは遊び相手にもならなかったな……。……それにしても、随分となまぐさい侍が居たモノだ……。貴様らが掲げている武士道はどうした?』


「「……?」」


 次の瞬間、屋根瓦の上から声が聞こえて来る。その声は高圧的で妖怪達がられている事を気にしていないような声音。

 モバーレズとザラームはそちらの方を向き、その顔を確認した。


「……テメェ……一体何者(なにもン)だ? 鬼の一種か? 化けもンってのは見りゃ分かるが……雑魚どもとはまた随分と違う雰囲気をかもし出していやがる……。俺ァ妖怪ってのにはあまり詳しく無ェンでね……テメェが何の妖怪か知らねェが。……るってンなら……容赦はしねェぞ?」


 その者を見上げ、軽薄な笑みを浮かべながら言葉をつづるモバーレズ。

 力の無い者と戦うより強者との戦いを望む、魔族の本質だろう。


『ふふ……容赦なんか要らないだろう……。我々はこの街を……この国を、この世界を治めるのが目的……。容赦してたらあっさりとこの街を奪われるぞ?』


 それを聞いた妖怪はフッと笑ってモバーレズへ言う。

 そして目的を説明する為か、その妖怪は街を征服することも話したが、そもそもこの状況だとそれ以外は考えられないだろう。


「ハッ! 面白ェ!! テメェは手ェ出すなよ!! これは俺の喧嘩だッ!!」


 妖怪の言葉を聞いたモバーレズは歯を剥き出しにして笑い、ザラームへ向けて手出し無用と告げる。

 今現在現れた妖怪はかなりの強者。だからこそモバーレズ自身が戦闘を行いたいのだろう。


「ケッ、楽しそうな事は毎回テメェが持っていきやがる。だったら俺を観客的な意味で楽しませてくれや」


 それだけ言い、ザラームは素直に邪魔にならない位置へ移動した。


「ああ、楽しませてやるよ……。まあ、俺があっさり勝たないように祈ってるこった……!」


 そんなザラームに返しつつ刀を取り出し、片手に構えるモバーレズ。


「ハッ、また一本だけかよ」


 そんなモバーレズへ向け、ザラームは座りながら苦笑を浮かべて告げる。

 モバーレズは本来二刀流。なので、相手が強者にも拘わらず一刀で向かおうとしている事が可笑しかったのだ。


「良いじゃねェか……。楽しみたいンだろ? 一応刀一本でもちゃんと戦うつもりだからな? そこンとこは安心してくれや」


 ザラームに返したモバーレズは改めて妖怪に向き直り、言葉を続ける。


「……っつー事だ。さっさとろうぜ? 俺の名はモバーレズ。魔族の国幹部にしてこの街の領主って奴だ」


 妖怪に名乗るモバーレズ。妖怪はそれを眺め、みずからも言葉を発する。


『ふむ……。戦う前に名乗るのは侍らしいな……ならば名乗るのが礼儀。我が名は"酒呑童子しゅてんどうじ"。我の国では三大妖怪などと呼ばれていたが……それはもう昔の話だ。久方振りの侍よ……我を楽しませてくれたまえ!』



 ──"酒呑童子しゅてんどうじ"とは、遠方の島国に棲む強大な力を持っている鬼神である。


 その国で三大妖怪と呼ばれ、多くの鬼を連れて悪行の限りを尽くしたという。

 人間の貴族を持ち帰っては自分の欲求を満たしたり、刀で切り裂いて血肉をしゃぶり尽くしたと謂われている。


 その力は凄まじく、酒呑童子しゅてんどうじ一人でも大抵の街は容易く制圧できる程だ。


 その力故、かつては封印されたりもした。

 生粋の酒好きで、封印された時は酒を飲まされ酔ったところで斬られたらしい。


 鬼の主にして強大な力を持つ妖怪、それが酒呑童子しゅてんどうじだ。



「モバーレズ。いざ、参る! ……ハッ、何てな?」


 モバーレズが刀を持ち、酒呑童子しゅてんどうじへ向けて駆け出す。

 今、"シャハル・カラズ"幹部モバーレズと百鬼夜行幹部酒呑童子(しゅてんどうじ)の戦いが始まろうとしていた。



*****



 "シャハル・カラズ"の街中にある崩れ落ちた建物には大量の血液が飛び散っており、あちらこちらに大きな切り傷があった。


「……。あらら……街が滅茶苦茶だ……。まあ、妖怪達じゃなくモバーレズ達の仕業……って可能性が高いけどな」


 街の惨状を眺めたライは、建物に入り込んだ斬られたような跡を一瞥し、モバーレズとザラームが暴れたと推測する。


「……まあ、これ程の惨状で……『妖怪の死骸が一つも無い』ってのが気になるけどな……」


 そして辺りに大量の血が飛び散っているのにもかかわらず、何故か妖怪の死骸が無い事が気になっていた。


『死骸は回収した。肉片が一欠片ひとかけらでも残っていれば修復可能だからな。我々妖怪は』


「「「…………!」」」

「「成る程な……」」

「……。そういう事か……」


 色々と原因を考えていた時、突如屋根の上から話しかけてくる者がおり、レイ、リヤン、キュリテが反応し、ライ、エマ、フォンセが納得する。


『そういう事だ。……だがしかし……確かお前達には偵察を送った筈だが……そいつらが見え無いって事は……まあ、お前達に倒されたって事だろうな』


 その者は辺りを見渡し偵察とやらの姿が無いのを確認した後に屋根から飛び降り、ライたちの前に出る。


「……アンタ……偵察を送ったって事は……さしずめ天狗達のボス……"大天狗"……って言ったところか」



 ──"大天狗"とは、天狗の中で最も神や仙人に近い存在の天狗である。


 酒呑童子しゅてんどうじのように三大妖怪と呼ばれ、通常の天狗を遥かに凌駕する剣術と神通力を持っている。


 その容姿はただの天狗のように山伏装束やまぶししょうぞくを纏い、一本下駄を穿いているが、それらの天狗と比べて遥かに鼻が高い。


 一説によると、その神通力から天上世界……つまり天界すらをも一瞬にして焼き尽くすと謂われている。


 凄まじい力を持ち神や仙人に最も近く、最強をうたえる大妖怪……それが大天狗だ。



『……ほう? 私の姿を見ただけで私の正体を暴いたか。クク……面白い。ぬらりひょん殿の名は知らずとも、私の名は分かるか。それは結構だ』


 ライの言葉を聞き、みずからを大天狗と見抜いたライに称賛の声を上げる大天狗。

 少しの言葉だけで名を推測し当てるという所業は困難なモノ。それを実行したライに感心したのだろう。


「ハッ、ぬらりひょんは滅多に人前へその姿を現さない。現したとしても洗脳? 催眠? 状態になるから逸話があまり伝わって無いんだよ。……アンタは神に近いってだけで有名だ。神といってもかつての神とは違うけどな。……まあ要するに、アンタの噂は本に書かれているレベルでは有名なんだよ」


 その称賛に対し軽薄な笑みを浮かべて返すライ。

 曰く、大天狗は知名度ならぬらりひょんよりも有名なので知っていたとの事。


『……ほう、そう来たか。ハッハッハ、私も有名になったものだ。光栄だな。……が、どうやらお前達の力は大きな障害になりそうだ。今此処で片付けるが、悪く思うなよ?』


 その言葉に返す大天狗は天を向いて呵々(かっか)一頻ひとしきり笑い、その視線をライたちにやって言葉をつづった。


「……ああ、俺もアンタを倒すつもりだ。俺たちの障害になりそうだからな……」


 それを聞いたライは相手の言葉と似たような事を言い、魔王の力をみずからに纏う。


「……アンタも此処で片付けてやるよ……! 大天狗!!」


 それと同時に大地を踏み砕き、その反動で加速して大天狗の元に向かうライ。

 その速度は音速を遥かに凌駕しており、第二宇宙速度から第三宇宙速度の間くらいだ。


『ほう……速いな。この若さにしてこの速さと強さ……いや、別の……邪悪な力も感じる。……だがしかし、それを差し置いても感覚で分かる程の凄い才能だ……』


 大天狗は宇宙速度で迫り来るライに対し、再び称賛の声を上げる。

 古来より天狗という者は素質のある子供を見ると歓喜し、その子供を自分好みの強さに育てたくなるのだ。

 ライの持つ、魔王以外の素質を見抜いた大天狗はライを育ててみたくなったのだろう。


「オラァ!!」


 そんな事を呟いている間に、ライは大天狗の眼前まで迫って来ていた。

 そして、


『……だが、まだまだあらいな』


「……! な……!」


 大天狗はライの攻撃を容易く避けた。

 ライの攻撃を避けつつ、大天狗はライに向かってれ違いながら言葉を続ける。


『……ふむ……お前は正面に拳をぶつけるだけで広範囲を破壊する事が出来る。その事からお前……いや、お主は戦略をあまり練らずに力任せで拳や脚を振るっているな。……主の攻撃が幾ら速く、重くとも……当たらなければ意味が無い。主はまだ戦闘を始めて間もないのだろう。それを鍛えれば本当に世界を取れるやも知れぬ』


 れ違い様とは思えない程の言量。恐らく自分の意思を伝える為に神通力を使ったのだろう。

 大天狗から聞こえる音と共にライの耳にその言葉が入る。

 魔王を宿しているライに効く筈の無い神通力が通ったという事は、大天狗はライでは無く自分自身に神通力を使ったという事だ。


「そうかい。随分と早口な饒舌じょうぜつだな。……だが、そんな事は俺自身が分かっている事だよ……!」


『……ぬ?』


 大天狗の言葉に返しつつ背後へ裏拳を放つライ。

 大天狗は紙一重でそれを避けたが、その拳が放つあまりの速度に避けきれず大天狗は頬をかすめる。


『……成る程。そのあらさをおぎなうのは主自身が出せる規格外の速度……という訳か』


「ああ、避けられるなら当たるまで攻撃すれば良い。魔王おれの速度を避けるにはそれなりに神経削るだろ?」


 大天狗は距離を取り、ライの動きからライの考えを読もうとする。それに対してライは飄々とした態度で応えた。

 それは、当たらないのなら当たるまで仕掛ければ良いという力任せな理論だ。

 しかし理にもかなっている理論で間違いは無いだろう。如何に敵を避けられたとしても、己の出せる速度以上の攻撃を避け続けるにはかなりの労力を消費するからだ。


『ふふ……そうか。……なら、私も主が倒れるまで攻撃を仕掛けるとするか……』


「ハッ、笑い方くらい統一したらどうだ?」



 ──刹那、地面に大きなクレーターが生み出された。



 それと同時に土煙が舞い上がり、ライと大天狗の移動によって土煙は直ぐに消し飛ばされる。


「オラァ!!」


『見せてやろう……神や仙人に近い大妖怪の力を……!』


 次の瞬間にライの拳と大天狗のおうぎがぶつかり合い、辺り一体に大きな振動を奔らせた。

 それによって生じた衝撃で周りの建物は軋み、音を上げて崩れ落ちる。

 今この瞬間にこの街"シャハル・カラズ"で、ライ一行(お客さん)vsモバーレズ達(街の住人)vs百鬼夜行(侵略者)の戦いが、開戦の音を上げた。

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