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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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百話 老人の正体

(催眠状態だって? 一体どうしてレイたちはそんな事になったんだ……?)


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの様子を見た魔王(元)が言い、その言葉に聞き返すライ。

 ライの言葉を聞き、魔王(元)は言葉を続ける。


【……まあ、厳密に言や催眠状態とは少し違うが……。この状況を表す言葉は催眠ってのが一番適切だろうからな。……因みに、お前が無事なのは俺が居るからだ】


(……そうか。……なら、レイたちは催眠に掛かっているというていで聞く。何故レイたちは催眠に掛かっているのか分かるか?)


 そんな魔王(元)の言葉に内心で頷いて返すライ。

 魔王(元)は更に続けて話す。


【いや、分から無ェな。考えられる線と言やァ……普通に考えりゃあのジジイが何かしやがった……か】


(……まあ、そうだよな)


 ライの思考と魔王(元)の思考が一致し、二人は突然現れた謎の老人の仕業でレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテが催眠状態になったと推測した。


「……一体どうしたんだライ? さっきから急に黙り込んで……?」


 ライと魔王(元)が話している時、訝しげな表情でエマがライへ尋ねる。


「……いや、何でもない。……強いて言えば……これからどうするかを考えていた……かな?」


 そんなエマに対し、ライはフッと笑って返す。

 取り敢えず老人の術? に掛かっている状態であるエマたちには余計な事を言わない方が良いと考えたからである。


「……なあ、一つ疑問があるんだけど……良いか?」


 そして、その老人の正体を暴く為にライはある一つの事を提案する。


「……? 別に構わないがが?」

「ああ」

「「「うん」」」

「?」


 その言葉にエマ、フォンセ、レイとリヤンとキュリテが応え、老人は"?"を浮かべる。


(この老人は前から仲間だったかのように振る舞っている……けど、俺は名前を知らない……この方法ならレイたちに疑問を残しつつ、この老人の正体をさらせるかもしれない……!)


 ライはエマたちの意見だけ聞き、老人を無視して言葉を続けた。


「……俺たちで改めて自己紹介しようと思うんだ」


「「「「「……?」」」」」


「!?」


 ライが思い付いた事は自己紹介をすると言う事。

 そうすれば老人の名前が分かる。

 そしてライの予想通り、老人は大きな反応を示した。

 ライは更に畳み掛ける為、更に続けて自分の考えをレイたちに話す。


「……ほら、妖怪の中には他人へ化けられるモノも居ると聞くからな。答えるのはフルネームじゃなくても良い。全員が答えたあと、次はフルネームを尋ねる。……どうだろう?」


 ライは両手を広げ、レイたちを一瞥して言い終える。

 そして一瞥した時、ついで老人の姿を確認したが異形な頭と着物の腰に差した刀が特徴的だった。


「……ふむ」

「成る程」

「「確かに」」

「あり得ない話じゃないね……」


「う、うむ……」


 エマ、フォンセ、レイとリヤン、キュリテ──そして謎の老人がライの言葉に賛同する。


「じゃあ先ずは言い出しっぺの俺からだ。まあ、『敵の差し金じゃなければ知っての通り』俺はライ。次は……アンタだな……。名前を教えない為に、敢えてアンタと呼ばせて貰うよ」


 それを聞いたライは、先に謎の老人の方へ尋ねた。

 ほとんど無い事だが、名前を知られた事で何かしらの不利益が生じるかもしれない為、特殊な攻撃を全て無効化できるライだけが名乗ったのだ。


「ふむ……わしか……。わしは……『ヌーラ』……じゃ……」


「……ヌーラ……か……そうだな」


 それは偽名だと即座に理解したライ。

 確かに自分の名前をそうそう教える訳が無いだろう。

 それにしても少々無理のある名前だが、まあ良いだろう。


「じゃあ、次は私だな。私は……」


 そして順番的にエマが名乗りを上げようとする。


「いや、待て……」


「エ……ん?」


 次の瞬間、ライによってそれは止められた。

 突然止められた事へ困惑の表情を浮かべるエマ。


「もしかしたら名前を知っただけで何か起こすモノが敵かもしれない……。だから、キュ……の能力で……」


「あ、そっか……」


 そう簡単に仲間の名前を知られない為、ライはキュリテの超能力で思考を読もう。という事にする。

 謎の老人。もとい、ヌーラと名乗った者の名。それは偽名とはいえ、老人の名がヌーラと知れたのならもう他の者たちは名乗る必要が無い。

 なので、キュリテの超能力ならばヌーラの考えが読めるかも知れないのでライはキュリテに頼る。


「良し……じゃあ……」


「……ちょっと待て……」


「……え?」


 そして、次にヌーラがキュリテを止める。キュリテの行動を止めたヌーラは言葉を続けた。


「そんな事をしている暇では無い"じゃ"ろう……。あの妖怪の群れが何時この場所を見つけるか分からないからの……」


 突然老人らしく話始めたヌーラ。

 これを見る限り動揺しているのが分かるが、レイたちからすれば味方のような扱いの為、ライの意見が通ったのならヌーラの案は通るだろう。

 なのでライは、


「……そうか、それもそうだな。……なら……『何時も通り』戦闘へ備えてヌーラと俺で手合わせしようか……?」


「……?」


「「「「「…………!?」」」」」


 ヌーラの案に賛成しつつ、ヌーラに勝負を仕掛けた。

 ヌーラは疑問を浮かべるような表情をしており、レイたちは驚きの表情をしていた。


「……何時も通り……か……」


「ライ……何を……?」


 ヌーラがライの言葉を返し、エマが何かを言い掛けたがライに止められる。

 それを見たエマたちはライに何か考えがあると理解したのか、未だに訝しげな表情をしているが口をつぐんだ。

 そしてヌーラだが、ライたちは仲間同士で争い事を起こさない事を──


「……良し……良いだろう。何時もしていた事なら仕方無い」


 ──勿論『知らない』為、何時も戦闘していたと思い込んでライの考えに乗る。


「「「「「…………!」」」」」


 それを見たエマたちは、ライの提案にヌーラが何の反応も起こさない事を疑問に思っているような表情だった。



*****



「何時も通り……調整を兼ねてやり合おうか……」


「…………」


 ザッ……! ライとヌーラは構える。

 レイたちは依然として怪訝そうな表情を浮かべているがヌーラは何も疑問に思っていないような表情だ。


(取り敢えずまだ魔王おまえは使わないでおく……。コイツの強さが如何程のものか知らないからな……!)


【チッ……。……まあ、しゃーねェか。取り敢えず、何とかしておけよ。あと、一応言うべきか迷ったが……あのジジイ……見覚えがある……】


(見覚えがある……? ……まあ、分かった。言われなくても何とかするさ……)


 内心で魔王(元)と会話するライ。

 ライはヌーラの方を向き、魔王(元)との会話を終了する。

 魔王(元)が意味深長な事を言ったが、今はそれを気にしている場合では無い。


「行くぞ……!」


「…………」


 タンッ! ライは大地を踏み砕き、一瞬にして音速まで速度を上げてヌーラへ向けて加速した。


「オラァ!」


「……遅い……!」


 その刹那、ライの拳とヌーラのてのひらがぶつかり合い、周りの建物を大きく揺らして砂埃を巻き上げる。


(……音速をてのひらで……中々の実力者と見た……!)


 ヌーラの様子を見、その実力を推測するライ。

 音速を軽く受け止めたという事は、この程度の速さなら目視もくしできているという事。

 それを確認したライは自分の拳を動かし、それを反動にしてヌーラから距離を取る。


「中々の実力だ……。やはり油断出来ぬ……」


 ライの拳を受けたヌーラもライの実力を少し理解した様子だ。


「フッ……面白い……!」


「……!?」


 刹那、ライの後ろにヌーラが現れた。

 一瞬にしてライとの距離を詰め、ライの背後へと回り込んだのだ。


「……成る程……それがアンタの強さか……」


「……やはり、貴様は掛かっていないな……わしの術に……。だからわしの存在を暴こうという行為をしている」


 そして、ヌーラはライの背に刀を近付け、脅すような口振りで話す。

 ヌーラはライへ対して敵意を剥き出しにし、目をギラ付かせていた。


「……ああ……そして実を言うと……俺もアンタの正体も知りたいんだが……やっぱり無理か?」


 後ろに着くヌーラへ向け、ニッと笑って告げるライ。

 ライの背に刀を近付けながら、ヌーラは言葉を続けて話す。


「ああ、それは無理な話だ……。まあ、わしもそれなりにヒントっぽいものを出していたからな……。貴様は賢いようだ……推測すれば答えが出るんじゃないか?」


「随分と話し方が若くなったな……!」


 それだけ言い、ライは刀の刃では無い部分を蹴飛ばしてヌーラから距離を取る。


「……何か……二人とも異様に本気じゃないか? 何故練習程度で本気を……」


「……いや、ライは本気じゃない。そしてヌーラは分からな……ん? 何で私はヌーラの実力を知らないんだ? 確かヌーラはリヴァイアサンやベヒモスの戦って……いたか?」


 その様子を眺めているエマとフォンセが話し合い、二人の様子が異様だと気付く。

 そして、エマとフォンセの二人はヌーラと共に戦った記憶が無い事に疑問を浮かべていた。


「……そういえば……ヌーラって何時ライと会ったけ? 私とエマが最初で……その次がフォンセ、リヤン、キュリテ……あれ?」


「……私……ライたちはフェンやユニと会ったけど……ヌーラがフェンやユニと会わせた記憶が無い……」


「……えーと……。うーん……。私もヌーラとの記憶が無いな……記憶があったら"君"か"ちゃん"か"お姉様"か"お兄様"……って呼ぶつもりなのにヌーラはヌーラだもん……」


 エマとフォンセに続き、レイ、リヤン、キュリテにも疑問が浮かび上がる。

 そう、昔からいる筈のヌーラについて……記憶が全く無いのだ。


「……何っ……?」


 そんな五人の様子を見たヌーラは片眉をピクリと動かし、小さく反応を示す。


「ハハ、どうやら俺と少し手合わせした事でアンタの持つ能力? 術? ……が解け掛けているんじゃないか?」


 その様子を一瞥し、ライは軽薄な笑みを浮かべてヌーラへ話した。

 ライは自分との戦いに集中していたからヌーラが仕掛けた催眠のような術が消え掛けていると言う。


「……まさか、フン……たわけが……! 貴様程度の攻撃に集中しただけで我が術を防げる訳が無かろう!」


 ブンッ! ヌーラは刀を横に薙ぎ、斬撃を飛ばした。

 その斬撃は建物を切断しつつ加速し、一気にライへ向かう。

 そしてそんな斬撃をライは──


「その技……レイと言いザラームと言い、実力のある奴がよく使うもんなのか……なっとォ!!」


 ──『殴り付けて砕いた』。


「何ィッ……!?」


 その様子を目撃し、驚愕の表情を浮かべるヌーラ。

 当然だ。傍から見れば普通の子供であるライが斬撃を拳で砕いたのだから。

 無論、斬撃のような物理攻撃を砕けるのはライ自身の能力? である。


「驚いている暇なんか……(魔王……! 中々の実力者であるコイツにはお前を片腕だけ二割程使う……!!)無いんじゃないか?」


【おう! 任せとけ!】


 ライは斬撃を砕いたと同時に駆け出し、魔王(元)に言って魔王の力を纏う。

 漆黒の渦がライの腕を包み込み、ライの力を増量させる。


「……! 貴様……! まさか……その腕は……!?」


 ライの腕を見たヌーラは更に驚愕してライに尋ねる。


「能力強化みたいなモノだッ!!」


「ライ!? 何故味方にそれを使うんだ!?」


 それを見たエマは、催眠状態とはいえ味方だと思っているヌーラに向けて攻撃するライを止める為に言葉を発する。

 しかし、魔王(元)を纏ったライは腕だけとはいえ全体的な身体能力が大幅に強化され、動くだけで周りが砕け散る音速を越えた速度でヌーラへと向かっていた為、止める事は出来ない。


「チィッ……! これ程の攻撃ならばいたし方無い……!」


 ヌーラは急激に力を上げたライを見て警戒を高め、意識をライに集中する。


「……! 私は何故ヌーラという者を……?」


「……そう言えば……」


「あれ? ……私……」


「うん? 何でライ君と……?」


「……? …………」


 それと同時にエマ、フォンセ、レイ、キュリテ、リヤンが正気に戻る。

 それでも尚ライの動きは止まらず──


「オ──ラァ!!」


「…………!!!」



 ──ヌーラの刀と魔王を纏ったライの拳がぶつかり合い、周りに轟音と共に粉塵が舞い上がった。


 その衝撃は"シャハル・カラズ"全体に伝わり、川の水を溢れさせて木々を揺らす。

 上空に浮かぶ闇夜の雲は消え去り、赤い月と輝く星のみがそこへ残った。


「……"無効能力"にこの力……やはりそうか……。……少し弱い状態だが……ふふ、久し振りだな……──『エラトマ』よ……」


「…………?」


 その粉塵が消え去り、魔王ライの二割を受け止めたヌーラがフッと笑って聞いた事の無い名を告げる。

 そして次の瞬間、


「【……そうか……。思い出したぜ……クソジジイ……テメェ……ぬらりひょんだな?】……は?」


 魔王(元)がライの身体を勝手に使い、ぬらりひょんへ向けて話をする。

 ライは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「ふふふ……やはりエラトマか……何処ぞの馬の骨にほうむられたかと思えば……随分と居心地が良さそうな身体いばしょを見つけたものだな……」


 魔王(元)と会話を続けるヌーラ……もとい、ぬらりひょん。

 そしてそのぬらりひょんが言ったエラトマと言う言葉が気に掛かるライ。


「……アンタ……ぬらりひょん? 成る程な……確かにぬらりひょんなら催眠みたいな状態にするな……!」


「今度はライという少年か……ふふ……ふふふふ……まさかエラトマが気に入る身体があったとはな……驚きだよ」


 ライはぬらりひょんへ睨み付けて言い、ライの言葉を聞いたぬらりひょんは飄々とした態度で話す。

 そして、ライがぬらりひょんの正体が分かった瞬間に納得した理由は……。



 ──"ぬらりひょん"とは、知っての通り妖怪達の群れ、"百鬼夜行"を率いる総大将だ。


 その容姿は老人のような姿を持ち、腰に刀を差して異様に長い頭を持つ。


 あまり戦闘好きという訳では無く、他人の家に上がり込んではお茶や菓子を食べて帰ると言う威厳が無い妖怪である。

 そのお礼に米や野菜をその家の主に贈るとも謂われている。


 しかし、普通ならば見知らぬ者が家に上がり込めば誰でも警戒する筈だろう。

 なのにぬらりひょんは警戒されない。

 何故なら、『その家の者はぬらりひょんを我が家の主と思い込む』からだ。


 百鬼夜行の戦闘を歩き、飄々としながら他人の家に上がり込む妖怪、それがぬらりひょんである。



 ライが納得した理由はぬらりひょんの持つ、"自分を主と思い込ませる"能力。

 それがあるからレイたちは催眠状態のようなモノに掛かったのだ。


「エラトマってのが気になるが……今はアンタ優先だ……! 【おう! その意気だぜ!】だから俺の身体を使ってしゃべるな」


「「…………?」」


 ライがぬらりひょんに向けて話した時、独り言のように話すライに疑問を浮かべるリヤンとキュリテ。

 ライはそんな二人に気付く事が無かった。

 ぬらりひょんはライの言葉に返すよう話しを続ける。


「……いや、もう良い。……元々君達からこの街の事を聞こうとしていたんだが、正体がバレてしまった……どうやら君達はこの街の住人じゃなさそうだ。……エラトマが居るなら警戒するに越した事は無いけれどもな。……まあ、今回は私の負けという事にしよう。面白い者も見れたし、『負けた事実を作ればまた君達にリベンジ出来る』からな……」


「あ、オイ待て!!」


 ふふふふふ……と不気味な笑いを残し、ぬらりひょんはぬらりくらりと動きながらその場から姿を消し去った。


「……魔王の力……二割程度とはいえ、ぬらりひょんは軽く受け止めた……。……ハハ、これは確かに総大将だ……!」


 先程までぬらりひょんが居た場所を眺め、自分でも意図していない笑みが浮かぶライ。

 こうして、ぬらりひょんの証言から結果的には勝利したライだった。

 だが、百鬼夜行の群れはまだまだ歩いている。



 先ずはあの百鬼夜行の群れを何とかしようと考えるライ。

 そんなライは、百鬼夜行の群れに向けて動き出そうとするのだった。

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