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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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九十九話 百鬼夜行

 呉服屋ごふくやでの買い物が終わり、ライたちは呉服屋ごふくやの外に出ていた。

 表はもう既に暗くなっており、道行く魔族達も少なくなっている状態だ。


「うわーもう日が完全に落ちているなあ。……まあ、あんなに見て回ったら当然だけどな……」


 日が落ちた夜空を見上げ、フゥと一息吐くライ。

 今宵の月は何時もと色が違く、不気味な赤い月だった。

 その月は"シャハル・カラズ"を赤く照らし、まるで街全体が血に染まったような感覚だ。


「それにしても……何だか不穏な月だな……何かが起こりそうな……」


「えぇ……そう言うの止めてよ……」


 ライはその月を見上げ、怪訝そうな表情をしていた。

 今日の昼間に見世物小屋。もといお化け屋敷を見たレイはライの手を引っ張り、少し震えて返す。


「ああ、悪い悪い……。つか、レイってそういうの苦手だっけ?」


 レイに言われ、取り敢えず謝るライ。

 だがライはレイに何があったか知らない為、別の意味で怪訝そうな表情をする。


「……まあ、不気味なのには変わりないし、さっさとレイたちが見つけた宿に帰った方が吉だな」


 気を取り直し、ライたちはいざ歩き出そうとした。その時──



 "ベンベン、ベン"。"ヒュ~ロロロ~"。"ドンドン"。"ポン"。"タタンタン"。"カラン、カラン"、"シャンシャン"。"ベベン、ベベン"。



 ──と、三味線しゃみせん尺八しゃくはち和太鼓わだいこ小鼓こづつみ桶胴太鼓おけどうだいこ三坂さんば神楽鈴かぐらすず琵琶びわ。などという、異国に伝わる古い楽器の音が聞こえてきた。

 それと同時に道へ提灯ちょうちんの明かりがともり、先程までそこには無かった数十もの灯籠とうろうにも火がともる。

 おかしいのは、『誰も持っていない提灯ちょうちんが浮いている』事だ。


「……何だ……?」

「「「…………!」」」

「何かが……来るな……!」

「ああ……」


 それらの音を聞いたライ、レイとリヤンにキュリテ、エマとフォンセは音の方に視線をやり、何時でも動けるよう構えた。

 次の瞬間、ポクポクポクと木魚を叩く音と共にお経が聞こえてくる。

 一定のリズムで淡々とつづられるお経。

 それと同時に漆黒の霧が発生し、赤い月に照らされた"シャハル・カラズ"の街には不穏な風が流れる。


『…………』

『…………』

『…………』


 そしてその霧から現れたのは、踊るように歩いている人間や魔族とは全く異なった色や風貌をしたモノだった。


「何なんだ……アレは……? まさかアレもいつぞやの……」


「うむ……。大蜘蛛おおぐものような妖怪の一種かもしれないな……」


 建物の陰に身を潜めているライたちはそれを見、それが何なのかを推測する。そしてライとエマはそれらが妖怪と判断した。


「妖怪……でも、妖怪って遠くの国に縄張りを張っているって思っていたけど……何で魔族の国にまで……」


 その推測を聞いたレイは、一つの国に生息している妖怪が何故この街"シャハル・カラズ"に攻めて来たのかを理解できなかった。

 しかしそれも当たり前だろう、ライ一行で一番の頭脳と言えるエマですら分からないのだから。


「まあ、考えられる線は縄張りを広げる為に魔族の国へ来た……という事か……。違う理由の可能性もあるがな……」


「ああ。だが、違う可能性だとしたら……やっぱ自分達がこの街を支配する……か」


 エマの推測に頷いて返すライ。ライも推測し、その妖怪達を眺める。

 妖怪達が何故この街に来たのかも分からない程、この妖怪の群れは謎なのだ。

 ライとエマの二人は街を支配しに来たと推測する。


『……?』


 一匹の妖怪がこちらを見るが、ライたちは姿を隠していたので見付からない。

 見やった妖怪はそのまま立ち去り、ライたちは取り敢えず作戦を練る事にする。


「で、どうするか……。今はまだ、妖怪達アイツらはただ歩いているだけだが……突然現れた事が気に掛かる。……まあ、妖怪は夜に行動するって聞くからな……。自分達の故郷に近い雰囲気の街を観光するってのもおかしくは無い。ただ単にそれなら良いけど……本当に征服や支配のような事をしに来たって可能性もある。どう行動するのかは難しいな……。相手に動きが出るのを待つか……?」


 歩きながらレイたちへ向け、推測するように言葉をつづるライ。

 ライとエマは観光などと言う、そんな易しいものが妖怪達の目的とは思えなかった。


「……まあ、兎に角このまま宿に帰る……ってのはまだ出来そうにないな……」


「「ああ……」」

「「「そのようだね……」」」


 ザッと立ち止まるライたち。

 ライの言葉にエマとフォンセ、レイとリヤンとキュリテが答えた。

 ライたちの前には──


『ククク……人間が居たな……』

『いや、人間は一人だけだ。他にも居る……』

『まあ、関係無ェだろ……腹の中に入りゃ一緒だ……』

『そうだ。俺たち五人ならこんな細い奴ら……』

『一捻りよ……』


 ──赤、青、黄、緑、黒の色をした五匹の"鬼"が居た。

 鬼については別に説明しなくとも良いだろう。いつかに戦ったオーガと同義なのだから。


「ハハ、腹の中だってさ? 俺たちは餌として見られているのかねえ……」


「ふふ、だろうな。……まあ、私たちには関係の無い事だ。彼方あちらがその気なら答えてやれば良いだけよ……」


 そんな鬼を見て、ライとエマが気の抜けるような会話を広げる。

 ライとレイは鬼と一戦交えた事がある。その犯人は紛れもないエマだったのだから。


『ククク……良い気になっているのも……。……ガッ!!?』


 ──"今のうちだ"とは続かなかった。

 間髪入れずに一匹の鬼の腹部へライの拳が突き刺さったのだから当たり前だろう。


『『『『…………な!?』』』』


「あ、悪い。話を聞いてなかった。まあ、この鬼の腹を貫通していないし……許してくれよ」


 腕を引き抜き、それと同時に腹部を強打された鬼が倒れる。

 残り四匹の鬼は驚愕するが、ライはそんなものを気にせずに飄々とした態度で話していた。

 無論、魔王の力はこの程度の相手には使わない。


『テメェ……!!』

『俺たちとやる気か……!!』

『内蔵引き抜いて……!!』

『グチャグチャにしてやる……!!』


 気を取り直した四匹の鬼は怒り、


「ハァッ!!」

「ハッ!」

「"ウォーター"!!」

「そーれ!」


『『『『ギャアアアァァァァァ!!!』』』』


 レイの斬撃、エマの怪力、フォンセの魔術、キュリテの超能力によって倒れた。

 フォンセが水魔術を使ったのは一番静かに片付くからである。騒ぎを聞き付ければ他の妖怪が来るかもしれない。なので静けさのある水魔術を使ったのである。

 そして鬼達は瞬殺されたので、リヤンには出る幕が無かった。


「……うん。やっぱりコイツらは下っぱ的な鬼だな。一回りくらい小さい気がする。本来の鬼はもっと大きく、妖怪の中で地位が高い筈だ……。なのにあの群れから外れているって事は外の見張りでも頼まれたんだろうな」


 そしてあの群れが妖怪達の本隊だとする場合、この鬼達は雑用的な者だとライは推測する。鬼レベルの妖怪が群れから外れるなどあり得ないからだ。


「だが……普通に襲ってきたって事はやっぱりこの街に攻め込むつもりか……それともあの群れに何の関係も無い……本当にただの妖怪だったのか……」


 取り敢えず此処には他の妖怪もいなさそうであり、まだ来る気配も無いのでライたちは此処で話し合う事にした。


「さて……早速話し合いと行きたいところだが……レイたちはどう思う? さっきの妖怪達の群れ……。俺はやっぱり攻め込んで来たと思う」


 先ずはレイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテに妖怪達を見てどう思ったか尋ねる。

 ライもよく分かっていないが、良い事が目的とは思えない様子だ。

 そして、ライはふと一つの事を思い付いた。


「……そうだ。キュリテが"テレパシー"を使ってあの群れの妖怪達の思考を読めば良いんじゃないか?」


 それはキュリテの超能力を使い、敵の思惑を読むと言う事。

 妖怪にも思考というものはある筈なので、キュリテにならそれを寸分(たが)わず読める筈なのだ。


「そうか……確かにキュリテなら妖怪達の思考を読めるかも……!」


 ライの言葉を筆頭に、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの視線がキュリテを向く。


「うん。じゃあ、やってみるね……!」


 その反応を見た次の瞬間、キュリテは姿を消した。

 キュリテの持つ超能力"テレポート"だ。"テレポート"を使い、妖怪の群れに近付いたのだろう。

 "テレパシー"を使うにもこの場所ではライたちや妖怪達以外の雑念も多い為、妖怪達に近付いく事でより確実な思考を読み取るのだ。



*****


「ここら辺で良いかな……?」


 それから移動したキュリテは屋根の上に上がり、妖怪達の群れを眺めていた。

 依然として不確かな形の妖怪が歩み行く"シャハル・カラズ"の街並み。その景観から、何やら妖怪達が妙にしっくりと来ていた。


「じゃ……早速……」


 そして早速"テレパシー"を使い妖怪達の思考を読み取ろうとした──その刹那、


『何だ……? 突然現れたぞ……?』

『ケケケケケ……僕たちは上を任されて暇だったけど……少しは楽しめそうだね……』


 顔がある提灯ちょうちんと傘の妖怪が居た。


「えーと……アナタ達は……?」


『僕たちか? ケケケケケ……僕は"唐笠小僧からかさこぞう"ってんだ』


『そしてワシは"提灯ちょうちんお化け"だ』



 ──"唐笠小僧からかさこぞう"とは、傘に意志が芽生えた妖怪だ。


 その容姿は傘その物で、一つの目と長い舌がある。


 扱い的には"妖怪"という類いだが、一説では"付喪神つくもがみ"のような物にもなっていたりする。


 傘が妖怪となったモノ、それが唐笠小僧からかさこぞうだ。



 ──そして"提灯ちょうちんお化け"とは、提灯に意志が芽生えた妖怪である。


 その容姿は提灯ちょうちんに穴が開き、顔のようなモノが浮かび上がったもの。


 特に害は無いが、一説では人を襲う事もあるという。


提灯ちょうちんが妖怪となったモノ、それが提灯お化けだ。



『行くぞォ!』

『ケケケケケェ』


 そして遅い来る唐笠小僧と提灯お化け、それに対してキュリテは──


「ちょっと静かにして」


『『グワアアアァァァァァ!!』』


 ──意に介さずサイコキネシスで吹き飛ばした。

 その力によって飛ばされた唐笠小僧からかさこぞう提灯ちょうちんお化けはビリビリに破れ、何処かへ行ってしまう。


「さて……」


 そして、気を取り直したキュリテは改めて"テレパシー"に意識を集中する。


(我々の目的達成の為に……!)

(我が"百鬼夜行"の名の元に……!)

(今の怠惰な支配者に変わって……!)

(我々妖怪がこの国を……世界を……!)


「……ふーん……。成る程ねぇ……ふふ……」


 妖怪達の思考を読み取ったキュリテは不敵に笑い、その場から姿を消し去った。



*****



「……さて……まあ、キュリテなら数秒で戻ってくるだろ。それまで……」


 時を数秒だけさかのぼり、一方のライたち。キュリテを待っているライは話ながらゆっくりと建物の上を見やっており……。


『オイオイ……鬼どもが倒れているぜ……?』


『殺られたのか?』


『いや、どうやら生きているみたいだな』


 そこに座りながらライたちを眺めている三匹の妖怪を確認した。

 しかしその妖怪は不自然な影に隠れてその姿を見る事は出来なかい状態だ。


「……アンタらも群れ(あれ)の一部か……?」


 そしてその妖怪に尋ねるライ。聞かずとも分かる事だが、念の為に尋ねたのだろう。


『ああ……だが、俺たちはこの自由な鬼どもを連れ戻しに来ただけだ。……立場上、自由に行動できないんでね……。お前達と一戦交えるのも良いが……本来の目的はお前達じゃない』


 その妖怪達は屋根から飛び降り、倒れている鬼達の前に立って言う。


「……へえ? "立場上"って事はそれなりの地位に立っている……って事か……」


『まあ、そうだな……』


 そんな妖怪に向けて推測した事を尋ねるライ。

 妖怪はライに対してそれだけ言い、鬼を五匹連れた妖怪の幹部的な位置に値しているであろう妖怪達は闇に姿を紛れ、そのまま消えた。


「思考を読んできたよー……って、今何かが……」


 すると、妖怪が消えたのとすれ違いにキュリテが"テレポート"で飛んで来る。

 そしてその反応を見る限り、キュリテも何かを感じたらしい。


「……ああ、妖怪達の幹部的な立場の奴らが来ていたからな。本来の目的はお前達じゃない……って言っていたから……やっぱり何か目的があるみたいだ」


 そんなキュリテに返すライ。ライは妖怪達の口振りから何かの目的があるという事を理解した。


「……で、どうだったんだ? 妖怪達の目的は……?」


 そして、自分の推測を話したあと、ライは気を取り直してキュリテに尋ねる。

 妖怪達が何かを考えているのなら、"テレパシー"で情報を集めて来たキュリテに聞いた方が早いからだ。


「うん……実は──」


 キュリテはライたちに自分が読み取った思考を告げる。

 群れの名前は"百鬼夜行"。妖怪達の目的は怠惰な支配者に変わって世界を──


「──って事らしいよー」


 ──と、妖怪達の思考を淡々とつづった。


「……成る程。"百鬼夜行"という群れに世界征服みたいな目標……か」


 キュリテの話を聞き、キュリテから聞いた言葉を折り返すライ。妖怪達の目標も世界征服だったとは何か親近感を感じるがしかし、


「俺の世界征服とは少し違うみたいだな」


 そう、百鬼夜行の目標である世界征服はライたちが思い浮かべる世界征服とは違うものだった。


「まあ、それは良いか。……それより、相手の目的も世界征服に近い事だと分かったし……それが俺たちの障害になるかもしれない以上、俺たちも百鬼夜行を潰さなくちゃならないかもな……」


 ライがそう言った瞬間、一筋の風が吹き抜けた。

 まるでライの言葉に反応したかのように、そして──


「……ああそうだな。わしもそう思うよ……。なら、これからどうするんだ?」


 ──唐突に謎の老人がライたちへ向けて話し掛けた。


「……!(誰だ……この人? ……!)」


 突然現れたそんな老人へ向けて反応を示すライ。この老人はなんの前触れも無く現れたのだから当たり前だろう。

 何も無く、世間話のように話し掛けてきたのだ。気に掛かるのも無理は無い。


「そうだな……。やはり正面から突破するか……」

「それか……死角から攻め込むという手もある……」


 だが、エマとフォンセ。そしてレイ、リヤン、キュリテもその老人へ突っ込む事無く淡々と作戦を練り続けていた。


「……!?」


 そんな仲間たちを見たライは驚愕の表情を浮かべる。

 言葉には出さなかったが、この老人がまるで『前から居たかのような』、そんな感覚で話しているのだ。


(何なんだ……!? この老人は一体何者なんだ……!?)


「おや? どうかしたかね?」


 謎の老人は笑みを浮かべて驚いているライへ話し、ライの心に疑問が残る。

 しかしそれにもかかわらず、レイ、エマ、フォンセ、リヤン、キュリテの六人は作戦を立てている。

 それを見ているライの疑問はますます深まっていく。

 そんな光景を前に、魔王(元)が一言。


【……成る程……どうやら、コイツらは催眠状態になっているぜ?】


(……な!?)



 魔王(元)が言ったそんな言葉を横目に、レイたちとその老人との話は続いていた。

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