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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第一章 魔王の力
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九話 vsゴーレム・vs ????

 ──怪物が棲むと謂われる洞窟。


 ピチャピチャと、水滴の垂れる音が響く洞窟内。洞窟は薄暗いが、お互いの顔や位置は分かる程度である。

 ライたちが洞窟に入ってから数分が経過していた。

 この洞窟でも幻獣が何匹か居るらしいが、襲ってくる様子も無い為そのまま歩いて突き進むライたち一行。

 しかし生物を襲う幻獣、魔物もいるのでしっかりと辺りを警戒する。

 ライが洞窟の様子を見て感想を述べる。


「しかし……特に何も起こらないな。この洞窟。生き物が隠れているのか分からないけど、姿を現さないし」


 とまあ、景色が変わらない同じような道を長々と歩き続けているので、流石のライも飽きていた。


「本当だね。この洞窟の距離がどれくらいかも分からないし……」


「ふむ。一理ある」


「確かに暇だねえ」


 四者四葉。ではなく、異口同音。

 ライたち四人は全員、同じ道が延々と続く洞窟に飽き飽きしていたのだ。


 ──しかしトラブルというものは、突然やって来るのである。

 洞窟内が揺れ、何かが此方に向かってくるような音が洞窟内に響き渡る。

 その振動でカラカラと小石が落ちた。何かが起こっていると察したライたちはその音の方を見、構える。


「通り過ぎるだけなら無視するけど……何はともあれ、ようやく暇潰しが出来そうだ……」


「だね」

「フフフ、楽しみだ」

「が、頑張れー!」


 ダーベルは近くの岩影に隠れ、応援するように岩から覗く。

 そんなダーベルを横に、ライ、レイ、エマは音が近付いてくるのを感じていた。


「……! こ、コイツは……!」


 そして、それを見たライたちは声を上げて言う。

 それは──


「「「"ゴーレム"!!」」」



 ──"ゴーレム"とは、魔術師が創る土人形である。

 造った主人には絶対服従で、会話なども交わさずただ命令されるがままに操られるのだ。

 その怪力は凄まじく、力仕事に使う魔術師もいる。

 しかし創り方には手順があり、それを間違えてしまえば暴走すると謂われている。


 通常、ゴーレムには製作者である魔術師が近くにいるのだが、ライたちが感じる限りでは人の気配は自分たちしか無い。

 恐らく、魔術師が死んだか、ゴーレムを捨てたのだろう。

 ゴーレムには"emeth"と書かれた金属片か羊皮紙が貼り付けてあり、それを使うことによって自由に動かすことが出来る。

 それを剥がせば動きが停止して、"emeth"の、"e"を消せば土に還ると謂われている。

 目の前のゴーレムが動いているということは、まだ金属片か羊皮紙が貼り付いているのだろう。


「……製作者が居ないんだね……」


「ああ、そうみたいだな。こうなるとゴーレムを砕くしかないか……」


「そうだな。そうしよう」


  製作者がいないので、このゴーレムは止まることが無い。その為、その身体が朽ち果るまで動き続けるということになる。

 ならば仕方無いだろう。ライは、土に還す為にこのゴーレムを破壊することを決意した。


【お、俺の出番か!】


(ああ、今回はお前を使う。魔族オレ自身の力でも倒せると思うけど、それじゃあ少し時間が掛かる。……けど、洞窟そのものを消さないように、指だけに纏う)


【オーケー! もう指だけでも力が使えりゃ良いや!】


 刹那、ライが漆黒の渦に包まれ、血が熱くなり、力が溢れる感覚が身体に広がる。


「さあ、行こうか……」


『…………』


 ザッ、とゴーレムに向き直るライ。剣を構えて向き直るレイ。身体に力を込めて向き直るエマ。

 そんな三人を前にしたゴーレムも戦闘体勢に入っている。


『…………』


 ズシン、ズシン、と重い足音を鳴らし、ゴーレムはゆっくりとライたちに近付き──


『…………!!』


 ──地面を蹴り、加速してその距離を一気に縮める。その速度は中々のモノで、その衝撃が此方こちらにまで伝わって来ていた。

 それを見たライはゴーレムに向けて片手を突き出し、


「ほいっ」


 ──『デコピンで腕を破壊した』。


 指を弾く衝撃によって、轟音と共に土煙が巻き起こり、ゴーレムの片手を砕いたのだ。

 これはデコピンと言うより、腕ピンとでも言った方が良いのだろうか。


『…………!』


 しかしゴーレムは痛みを感じないのか、腕の一本を失ったくらいでは動きが止まる気配が無い。

 しかし一瞬怯んだのは確かである。それを見、次にレイがゴーレムの足に向けて走り寄り、


「ハァ!」


 岩レベルの強度を誇るゴーレムの足を、剣で切断した。


『…………!!』


 ズズーン。という音を立て、片手と片足を失ったゴーレムはバランスを崩して倒れる。

 しかしゴーレムは止まらず、何とかして立ち上がろうと試みていた。


「今だ!」


 その隙を突き、疾風の如き速度でエマがゴーレムの背後を取り、書かれている"emeth"の、"e"の文字を爪で消した。


『………………』


 そして戦闘らしい戦闘は起こらず、サラサラと形が崩れ、ゴーレムは土に還ったのだった。


「ふう……終了」

「やっぱり強いなぁ。ライとエマは……」

「ふん。お前も中々やるではないか。誇って良いと思うぞ?」


 あっさりとゴーレムを片付けた三人はそんな風に、暢気のんきな会話をする。

 それを見たダーベルはパチパチと拍手をしながら三人へと近付く。


「いやー。スゴいじゃないか! ゴーレムをあんな簡単に倒すとは! 流石私が見込んだ人達だ!」


「見込んだ……って、お前は何なんだよ」


 それを見たライは呆れながら、ずっと隠れていたダーベルに視線を移す。

 ダーベルはケラケラと笑っている。

 やはり胡散臭い……。と、三人が思った。

 また暫く進むが敵も出て来ず、難なく洞窟の奥地へ辿り着いた。


「此処に怪物がいるのか……?」

「怪物どころか生き物の気配すらないが……」

「うん……」


 洞窟の奥はひらけており、とても広い場所だった。がしかし、周りにあるのは岩や石ころくらいで、目ぼしいものは何もなかった。

 それを見たライは考えながら言う。


「もしかして……此処がその怪物の巣で、怪物は今何処かに行っているんじゃないか?」


 それを聞いたレイとエマも、考える素振りを見せ、頷いて返す。


「うん、私も思った……。だって、こんなに広いのに生き物が棲み着いていないんだもん……。不自然過ぎるよ。洞窟内に水も流れていたのに……」


「私も同意見だ。この場所、洞窟にしては明るく、尚且つ空気も澄んでいる。恐らく、所々空いている穴の向こうには森か何かが広がっているのだろう」


 つまり、生き物に取っては空気が綺麗、水があり、敵も少ない。と、理想の三拍子が揃った場所なのである。

 それなのに生物が棲んでいないという事は、──『それらを寄せ付けない、絶対的強者が棲んでいる』という事になるのだ。


「……うん。やっぱり気配が無いな。一旦出直すか」

「そうだね……」

「仕方ないか」


 一通り見て回ったライたちは、何もなかった事から、後日出直すという意見で纏まった。

 そして入ってきた入り口に戻るとき、それが起こった。


 広場に耳をつんざく程に巨大な音が響き渡り──『天井が崩れた』のだ。


「「「な──!?」」」


 突然の落石にライたちの動きが止まる。

 そして落石はガラガラと落下し、そのまま出入口を防いでしまった。


「……天井が崩れる気配は無かった……けど崩れた……。何かおかしく無いか……?」


 ライは顎に手を当て、今の状況を整理する。

 無論、その気になれば洞窟程度、軽く破壊して脱出することも可能だ。

 しかし、『何者かによって閉じ込められた』となると、思い当たる人物。いや、生物は一匹しかいない──


「──……なあ、ダーベル。お前……何でさっきから黙っているんだ? まあ、パニックに陥って思考が回らないから黙るしかない……というのなら別だけど……お前って……そんなに『頭と身体が長くて毛深かったっけ』……?」


「「…………!」」


 ライの言葉にレイとエマは警戒を高め、ダーベル? から距離を取る。

 ダーベル? は、首と足が不自然に伸び、身体からはライオンのたてがみような体毛が生えていた。


「……ダーベル……! まさか……! アナタが……!!」


「………………』


 レイの言葉に、無言で笑って返すダーベル?

 そんなダーベル? を見、エマがレイに続く様に言う。


「成る程……。ライオンのたてがみのような体毛に、蛇を彷彿とさせる胴体……。お前──"ペルーダ"だな……?」


『………………』


 ニヤリと笑うダーベル? 不敵な笑みを浮かべる者のその身体は、どんどん巨大化した。



 ──"ペルーダ"とは、蛇のような頭と尾、そして亀のような甲羅を持ち、ライオンのたてがみと似た体毛が身体中から生えているドラゴンだ。


 背中には毒のある棘を持ち、口からは炎を吐くとされる。その棘と炎で戦闘をするドラゴン。

 生命力が高く、純粋な生き物が好きで子供や美しい女性が大好物なのである。

 その為、人里に来ては子供や女性を惨殺し、それを巣へ持ち帰り食すと謂われている。

 それだけで無く、家畜を襲ったり作物を枯らしたりと自分勝手に暴れまわる、迷惑極まりない龍なのだ。



 巨大化したダーベル、もといペルーダを見てライが言う。


「一般人に成り済まし、子供や女性を自分の巣であるこの洞窟に誘い込み、それを食うのか……。悪どい奴だ……!!」


「同感……!」


「ノーコメント……!」


 ペルーダを見上げて構える三人。

 ライは子供や女性を食すのみならず、純粋な生き物を虐殺するというペルーダに怒りが込み上げていた。


『ギャアアアァァァァァァァ!!!』


 次の瞬間、ペルーダは咆哮を上げ、鼓膜を揺らす轟音が洞窟全体に響き渡る。

 龍の姿になると、力を得る代わりに人の言葉を失うようだ。ペルーダの発するその音は騒がしいが、その程度で怯むライたちではない。


(魔王! またお前を使うぞ! 今度は腕と足だ! 洞窟が崩れないか心配だが、ペルーダは生命力が高いと聞くからな……!)


【おう、分かったぜ。俺の攻撃を受けても……──『一発では死なない奴』かも知れないからな! 久々だ! ヴァンパイアは不死性が高いからノーカンだがな】


「行くぞペルーダ……!」

「くっ……!」

「フフ……私を楽しませてもらおうか……」


 再び闇を纏うライ。レイも剣を構え、エマはヴァンパイアの力を解放する。

 今はペルーダを狩るつもりなのだ。なのでエマがヴァンパイアとバレたとしても、もう関係無い事なのである。


『ギャアアアァァァァァァァ!!!』


 再び吠えるペルーダ。先程の遠吠えが威嚇ならば、今の声は戦闘体勢に入ったという意味だろう。

 その声と同時に、ライ、レイ、エマの三人は一気にペルーダへと駆け寄る。


「喰らえ……!」


 まずはライが、大地を砕く勢いで跳躍し、ペルーダの頭に蹴りを食らわせる。


『ギャアアアァァァァァ!!』


 ペルーダは頭を下げてそれを避ける。

 今までの敵。といってもほんの数体だが、その敵らは、成す統べなく打ち砕かれた。

 なので、ライの攻撃を避ける敵は始めてだった。

 ライの蹴りが放つ風圧と衝撃で洞窟の壁に風穴が空き、外の光が洞窟を照らす。

しかし外は森だったので、光は殆ど入って来ない。

 無論ライは、洞窟全体とその先にある森を破壊してしまわないように、全く本気ではなかったが。


『ギャア!!』


 ペルーダは短く鳴き、空中に留まるライに向かって背中の毒棘を放つ。


「おっとぉ!」


 それを見たライは、空中で無理矢理方向を転換し、その時に生じる風圧で棘を全て吹き飛ばした。


「ハァ!」


 ペルーダがライに気を取られているうちに、距離を詰めたレイが、剣を振り下ろす。


『ギャアァァァ!!』


 ペルーダは、その巨躯から想像できないような速度でそれをかわした。


「くっ……! 速い……!」


「ならば私が居る!」


 レイはかわされたことを悔いるが、その後ろからエマが飛び出し、黒き疾風の如き速度でペルーダの後を追う。


『ギャアアアァァァァァァァ!!!』


 ペルーダは口から火炎を吐き、エマを迎え撃とうとするが、


「そんなものは俺が消す!」


 地に降りていたライが灼熱の火炎に向かって拳を放ち、その風圧で『炎を掻き消した』。


「ハァッ!」


 その風に乗り、エマがペルーダの眼前に躍り出て、ヴァンパイアの怪力でペルーダの頭を殴り付ける。


『ギャアアアァァァァ!?』


 予想以上に重い拳で殴られたペルーダは悲鳴のような声を上げた。それもその筈、ヴァンパイアの力は岩程度ならば軽く粉砕出来る。それが直撃したのだ、生命力の高いペルーダで無ければ即死だった事だろう。

 その隙を突いたライは、再びペルーダへと近寄り、


「オラァ!」


 ペルーダの、数十トン以上を誇る体重、数十メートル以上の巨躯。それを、洞窟の天井へ『殴り飛ばした』。

 先程崩れて、再び崩れかけていた天井を打ち抜き、ペルーダが天を舞う。

 空からは赤い夕日の光が射し込んでいた。夕日に照らされるペルーダは、やがて重力に伴い落下する。


『グ……ギャア……!』


 身体を思いっきり打ち付けられたペルーダは苦悶の表情を浮かべた。

 しかしまだ息がある。全くの本気ではなかったといっても、ライの攻撃を食らったのにだ。


「へえ、やるじゃん。……ヘンタイモンスター」


 まだ起き上がるペルーダに向けて、感心と侮蔑の意味を込めた言葉を言い放つライ。

 子供や女性しか狙わないことから、何処かで聞いた"ヘンタイ"という言葉を使う。


『グ……ギャ……』


 ノソリと起き上がるペルーダ。身体中は傷付き、至るところから出血している。

 しかしその怒りはペルーダを駆り立てた。

 何故ならば、『餌如きに殴られた屈辱』がペルーダにあったからだ。


『ギ……ギ……ギャアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』


 凄まじい雄叫びを上げるペルーダ。声によって洞窟は揺れ、カラカラと天井から小さな石ころが降り注ぐ。

 その怒りは頂点へ達していた。沸々と込み上げてくる怒り。

 ペルーダの持つその底力は如何程のモノだろうか。


「おっと……。キレたな……」

「みたいだね……! (やっぱり私は……)」

「フフフ、そうでなくては面白くない」


 本気となったペルーダを前にしても尚余裕を出す三人。

 しかしレイは、まだ自分が活躍できていないことを悔やんでいる様子だ。

 ライはもう一人にも確認する。


(……やっぱりお前的には嬉しいのか……?)


【ああ、勿論だ。本気じゃないといっても、俺の攻撃を数発耐えたんだからな。それが本気になったら益々楽しみじゃねえか!】


 魔王(元)も、本気を出せない制限があるといっても、伸び伸びと戦える環境が嬉しいらしい。

 ライ・レイ・エマvsペルーダの戦いが、終結に近付いていた。

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