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さくらファンタジー  作者: beo
3/3

2.遠野ひな。

もう少しだけ主要人物を。

やがて涙はやっと収まり、用意を済ませた頃には目の状態も安定してきていた。

終わらせようなんて思ってたことが嘘みたいな朝だけど、それが嘘ではないことは用意にかかった時間からも明白だった。

遺書、のような役割をするはずだったメッセージをビリビリに破って捨てる。

登校なんてするはずもなかったのだから、勿論制服も勉強道具もなにも用意されていなかった。

あくせくもと動き回る私をしり目に、サクラは自由気ままにフワフワしている。私が制服に着替え終わる頃にはなぜかサクラも制服姿になっていた。リンクでもしているのだろうか?羨ましくて仕方がない。


『さぁいこう、新しい戦いのはじまりだよ!』

「戦いだなんて大袈裟な…」

『昨日終わろうとしてた人間が何を言う!大袈裟どころじゃないぞ!』


返す言葉につまり、諦めた。

さすが理想の私、ハキハキとしてるしこういう争いでは間違いなく勝ち目がない。

やってみるだけ無駄だろう。


「行ってきます。」


既に寝息をたてているお母さんに一声かけて、家を出る。

いつもの夜勤とは違い、不安を抱えての一夜を過ごさせてしまったわけで…

きっとホッと一安心してくれたんだと思うから、時間の許す限りゆっくりしてほしい。洗い物も済ませてあるし。


ふと、家を出る前にひとつの疑問に気がつく。


「そう言えば、サクラはやっぱり私にしか見えないの?」

『その通り!…と言いたいところなんだけど、よくわかんないんだよねー…』

「はぁ?!」

『仕方ないじゃない、私だってまだ着いたばかりなんだから!』


サクラにもわからないとなると、それなりにリスクがあるのだけど。

例えばドラマやマンガだと、こういう時に普通は元である私くらいにしか見えないのだろうと思うのだけど、なんとなく受け入れているこの奇跡は既に普通なんかじゃなくて。


『でもさ、お母さんには見えてなかった訳だし。まぁもしもの時はまた考えればいいよねー』


難しく考えてる私がバカみたいだ。なんだか全身の力が抜けるような。

そう思いながらドアを開ける。

まぶしい日差しが目に染みる。もう見ると思ってなかった陽の光に、懐かしさを覚えた。

ただ何より視界に飛び込んできたのは…


「おはよう、さくら!17歳を迎えた気分はどう?」

「おはよう、ひなちゃん。うん、とても素敵な気分だよ。」


無二の親友、遠野ひな。

可愛らしい見た目と反して、芯の通った女の子。

初めての席が隣同士だったんだよね。不安で虚ろな目をしてた私に声をかけてくれて、それからずっと一緒。

高校に通いだしてから一年と少し、他の誰よりも学校生活を共にしている。

私はひなちゃんが大好きで、きっとひなちゃんも私のことが好きなんだと思う。

昨日まではそれすら疑いはじめていたけれど。

あのライン、そしてサクラの言葉。

ひなちゃんも私の変化に気づいていたんだね。


『ひなちゃんも、お母さんから連絡があるまでスマホを握りしめて待ってたみたいだね。ホントは一緒に待機したかったみたいだけど、お母さんが任せてって止めたみたい。何がどういけば最高の結果に行き着くのか、二人とも相当悩んだみたいだねー。』


私の知らないところで大切な人たちが苦しんでいた。

私がいなくなっていたらどれほどの感情と向かい合うことになっていたのか、想像も出来ない。

それなのに二人とも私に笑顔を向けてくれる、ありがたくて、そしてツラくて、上手く笑顔を返せないのがもどかしい。


『お母さんは敢えてお姉ちゃんには黙ってたみたい、さすがにその意図はまだわかんないけど。結果としてひなちゃんの存在はお母さんにとっても大きかったよね。』


サクラのおかげで、私が悩んだり考えたりすることもなく現実が羅列されていく。

私の気持ちの方がおっつかなくなりそうで怖いけど、とても助かる。

思い悩んでもわからないことの方が多いのに、間違いのない答えをすぐにくれるのだから。


「あ、そうそうこれ、はいプレゼント!」


綺麗に包装された小袋を渡される。


「ありがとう、ごめんねひなちゃん。」

「謝る理由がわかんない!ありがとうだけでよし!」


笑顔でたしなめられる。その笑顔もまた眩しくて、えへへって聞こえてきそうなそんな笑顔で。

まだ今の私じゃ応えられないけど、いつの日にか。


二人で学校へと向かう。いろんな事が一気に起きたせいで理解できてないことがまだまだあると思うけど、そのおかげで逆に現実を受け入れるしかないような状態でいられる。

昨夜あんなことをしようとしていたなんて自分でも思えないほどに、時間が流れてるような気がした。


痛みを知ってる人ほど、それに敏感で。

ひなちゃんが私の異変に気づいたのは、そういう意味では当然と言えるのかも知れない。

ひなちゃんが左手首に欠かさずつけているリストバンドは、大好きなバンドのもので彼女のトレードマーク。だけど実は、同時に傷を隠すためのものでもある。知っているのは私だけ。

仲良くなってすぐに、彼女の方から打ち明けてくれた。

突発性のものだったらしく、気づいたときには血だらけだったらしい。それ故に後悔とかそういう念は抱きにくい状況ではあったもののトラウマにはなったようだ。

すぐ打ち明けてくれたのは、知っていても友達でいてくれるのかという不安を持ち続けたまま一緒にいることがとてもツラかったから。

中学生のころはそれが原因で途中からずっと一人だったらしい。

そんな痛みを持つ彼女にとってその話をすることは一大決心で、後にも先にも震える彼女見たのはその時だけだった。

隠し続けることも出来なくはなかっただろうけど、ずっとそういつづけることはもっとツラかったのだと思う。

怯えているようにも見えるはなちゃんに、手をとって私は答えた。


「過去も傷跡も消してあげられないけど、私は今をひなちゃんといるから、ね?」


私を打ち明けるに値すると思ってくれたことが何より嬉しかった。勿論私にはひなちゃんを拒絶する理由なんてなにもなかったのだけど、それ以上にただただ嬉しかった。内容が内容なだけに少し不謹慎だったかも知れないけど。

ひなちゃんは少しうつむいて、それから今と同じ笑顔で頷いてくれた。お互いに強くは無いから、いつか別れの時が来るのかもしれないなんてくだらない不安を抱えながら、たくさんの時間を共有して過ごしてきた。

私にとってかけがえのない存在なのは間違いなかった、だから話せなかったっていうのは裏切りと言うべきなのかな。

ひなちゃんが変わらぬ笑顔でいてくれたのは、私にとって強い救いだった。


学校へ向かって二人で歩く。初夏の日差しは強く私たちを照らしつける。

学期の始めでも、ましてや連休明けでもない普通の日。

私だけが新しい気持ちで前を見ていた。

そんな私をサクラが、ひなちゃんが、嬉しそうに見つめていた。

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