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さくらファンタジー  作者: beo
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1.誕生日の朝に

本編です。

構想と意欲の続く限りは早いペースを目指したい。

葉山さくら 17歳。

そう、私は17歳になった。まだ生きている。朝を迎えている。

なにが変わった訳ではないのだけど、特別な朝だ。

寝ぼけ眼をこすりつつベッドから起き上がる。


ふと横に目をやると、ニッコニコの私が、私を見つめていた。


寝ぼけ眼をこする、もっとこする。

いくらごしごしやっても、その姿は鮮明になるばかりだった。

そんな私を嘲笑うかのように、ニッコニコの私は宙を舞う。


『おはよう!よく眠れた?あ、返事はいいよ眠れてるよね!』


まだ混乱している私に畳み掛ける、もう一人の私。

とても嬉しそうでなんだか苛立つのは寝起きのせいなのだろうか。




整理してみる。

昨夜、私は全てを終わらせようと、そう思って一人お風呂場にいた。

最低限の道具、誰もいない空間、完璧なはずだった。

なのに17歳になったその瞬間にまさかの事態が私を襲った。

鏡の中にいた「もう一人の私」が、突然私の前に現実として現れたのだ。

ありえないことだけど、私はそれを受け入れた。最後の一瞬を一緒に迎えてくれたのだと思ったのだ。

彼女は言った、誕生日おめでとう、と。そして続けた。

『とりあえず話は明日!もう遅いから寝よう!』


満面の笑顔で話す「もう一人の私」に流されて、思わず笑ってしまった私はその言葉を受け入れた。

あっさりと諦めたのだ、あれだけ準備していたのに。

私の覚悟はその程度だったのかもしれない、それはもうわからないけど。

私は「もう一人の私」と決めた終わりを「もう一人の私」によって止められたのである。


今となるとわからないことだらけ。

なぜ「もう一人の私」は現実のものとなって舞い降りたのか?

なぜ「もう一人の私」は私を止めたのか?

ついでにあの幽体のような体には睡眠は必要なのか…?


『とにかくさ、面倒だからサクラって呼んでよ!』


頭に声が響く。このタイミングってことはもう…


『そういうこと、私はさくらの心が見えてるよ!』


凄いことをあっさりと。全て筒抜けなのは大変なことなのに。

私にプライバシーは…いや結局私だから変わらないのかな…?

でも、私にはサクラの心の声は見えない気がする。


「サクラ?イントネーションの違いみたいなものかな…あなたは私なの?」

『そう、さくらの分身みたいなものね。でも今までと決定的に違うことがある。』

「と、いうと?」

『私は17歳の奇跡に生まれた、あなたの理想像のサクラ。あなたが一緒にいたもう一人の私とは少し別のもの。だから、あなたが終わりに向かうことを止めたのよね。』


わかるような、わからないような。


「じゃああなたは私じゃないの?」

『いいえ、私はあなた。だけど、あなたの奥深くに閉じ込められていた、なりたかったあなたの写し身。』


確かに、私とは思えないほど輝いて見える。笑顔がまぶしい。

そうか私、ホントはこんな風に笑えるんだね、笑ってたかったんだね。心に突き刺さる。

それはすなわち、私にとってツラい事実だった。


『そういうこと、さくらは終わりを望んでなんかいなかった、心の奥底で。悲しみが呼び出したもう一人のさくらは、それを肯定するための存在に成り下がってしまったのね。だから私が現れることになったの、間に合ってよかった!』


とても非情な通告だった。

どうやらサクラは、伝えたいことをとてもストレートに伝えることが出来るみたいだ。そしてそれは私の理想像らしい。

私はうつむき、たくさんの感情に胸を痛めながら、必死に整理しようとする。


「…でも!でも私はもう…」

『あとね、さくら。さらにひとつ、あなたは大切なことに気がついてない。よほどのことがない限り、昨夜て終わらせることなんて出来なかったもうひとつの理由。』


私の言葉をサクラが遮る。

私の奥底にあった、終わりたくない、もっと笑顔でいたいという素直な気持ち。これだけでも私には悲しい事実なのにまだなにかがあるというの?


「さくらー!朝ごはん出来たわよー!」


その時、お母さんの声がした。色々と思うところはあったけど、サクラの目に促されてキッチンへと向かう。


「おはよう、お母さん。」

「おはようさくら、食べ終わったら洗い物は水につけておいてね、お母さんちょっと休憩するから。」


夜勤明けなのに朝食を用意してから休むお母さんに、後ろめたさが抑えきれない。どんな顔をしてたらいいのかわからなかった。真っ直ぐお母さんに向き合えなかった。

すると部屋をあとにしようとしたお母さんが急に足を止め、呟いた。


「あぁ…そうださくら。17歳おめでとう、ありがとうね。」


とても小さな声だった。無理矢理押し出したような。

だからこんな私にもわかった。ありがとうね、その言葉の意味するところ。その言葉に続くであろう台詞。


(生きて今日を迎えてくれて…)


もう、聞こえた気がした。


『さくらは自分しか見えてなかったからね、気づきようがなかった。お母さんが夜勤を休んで家にいたことに。全て気づいていて、最悪の事態に備えていたことに。さくらが眠りにつくまでずっと部屋の前にいたことに。あなたは、守られていたんだよ?』


我慢も限界だった。

いろんな事が見えてなかった私は、昨夜からの泣きっぱなしで涙が枯れないことも改めて実感した。

もう目の前すらろくに見えない。


「今夜はさくらの好きな焼き肉にするからね、寄り道せずに帰ってくるのよ?」

「はぁい…ごめんなさいお母さん…」


震える声で返事をする。最後の方は声になってなかったけど、きっと届いたと思う。たくさん言いたいことがぐるぐるして、でもその中で私が選んだ言葉はそれだった。


「いいのよ、もう。憧れの17歳、謳歌してらっしゃい。応援してるから。」


お母さんは笑っていた、でも頬につたうものがあったとサクラが教えてくれた。

私はもう、なにも答えることが出来ないまま、味もわからないごはんをゆっくり口に運んでいた。肩が震えてうまく食べられないけど、その朝食はきっと一生忘れられないと思った。


『あー、そうそう!いい忘れたけど、ひなちゃんもこの件に関係してるみたいだよ?』


泣き続ける私に、サクラがまたしてもサラッと爆弾発言を投下する。

まだ始まったばかりの17歳は、とんでもないものになりそうだった。

まだ説明回の匂いが取りきれず。

しばらくはこうなっても仕方ないけど、つまらないものは書きたくないからきをつけよう。

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